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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第一章 これからの姉弟
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7 レーザとホワイトレイヴン

「じゃ、これからどうする?」

「そうね……」


 フォー=モサと話した後、外への出口を教えてもらった。どうやらあそこは大昔にどこかの王様に贈られた隠し家みたいなものだ。

 ついでにラカーンとの相対位置も教えてくれたから、地理勘のない俺たちには有り難い。

 ここはラカーンから一日ほど離れてるところなので、俺と姉さんは歩きながらこれからのことを相談している。


 ちなみに姉さんは革鎧を捨て、ローブで腹の傷を隠している、アンデッドだとバレたら洒落になれないから。顔と肌の色が前と少し変わったが、近づいてよく見なければ気づけないレベルだし、なんともでもなるだろう。


「私としては適合者の情報を集めたいけど、フィー君は違うよね?」

「ああ、それが……」

「やっぱり、レーザのこと?」


 レーザ。探索者パーティ《ホワイトレイヴン》のリーダー、俺たちを嵌めた元凶。

 姉さんを死なせたのはあくまで俺の未熟だ。だがあの時、俺と姉さんだけじゃなく、一緒に前の町からラカーンに移動してきた二人のベテラン探索者も誘われて、運悪く最初の包囲の時に死んだ。

 旅の途中何回話した仲だけで、仇を取りたいとまではいかないけど、レーザたちに報いを受けさせるべきだと思ってる。


「姉さんは怒らないの?」

「ううん、もし会ったら首の二、三本は取りたいよ? でもどうせもう高飛びしちゃってたし、態々探し出したいとは思ってないかな」


 首何本も取れないよ姉さん。


「でもフィー君が復讐したいなら賛成するよ? 弟を苦しめた相手を放っておけないもの」

「どちらかと言うと苦しめられたのは姉さんのほうじゃ……」

「あれ? そうだっけ」

「まあ、俺も別に復讐とまでは言わないけど、せめて彼らの行いを皆に知らしめたいかな」

「そうだね、じゃまずギルドに行こうか。でもね、あんまり期待しちゃだめだよ」

「ああ、それは判ってるさ」


 ギルドとは探索者ギルドのことだ。探索者を纏めて、依頼の受理と発注を行うところ。探索者のことならまずギルドに行けって言われるくらい俺たち探索者に馴染み深い場所でもある。

 しかし今回の事件に関してはギルドの介入を望むのは難しい。


 まず探索者の間のいざこざには不干渉なのがギルドのスタンスだ。ギルドはあくまで管理組織であって、司法組織でも仲裁組織でもない。

 なら司法組織か官憲に行けばって思うけれど、それも難しい、なぜなら今回の事はダンジョンの中に起こったのだ。

 法律的に、ダンジョンも領主の管理下になる。つまり領地と同じで、治安管理する義務があるはずだが、そんなことできるわけもない。領主の方針にもよるが、ダンジョンの中の出来事については知らぬ存ぜぬのが普通だ。そのため、ダンジョンはある種の無法地帯とも言える。


 さらに言うと、レーザというのは本名であるかも怪しい。あの時は名前とパーティ名を記入されたギルドカードを見せて貰ったが、偽物の可能性もあるし、死んだ探索者から漁った物もありえる。

 そしてたとえ本名であっても、俺たちに証拠がない。


「考えれば考えるほど、難しいよなぁ。」

「そうだねー、結局自己責任で済まされそう。前の町も騙されて素材ブン取られた人居るわよね?」

「ああ、グーフのおっさんか……」


 明言されるわけじゃないけど、探索者の中では騙されるほうが悪いっていう雰囲気がある。

 ロクに生産も商売もしないくせに力だけは持ってる探索者たちは、一般人や支配層からだと厄介者や面倒の種に見られやすい。そのせいでいざという時は協力を望めないし、今回のような事を事前に防ぐのは難しい。


 だから皆、騙されるほうが悪いと思い込んで、その裏には自分は慎重だから安全だと思っているのだ。

 実際前の町のグーフさんは相当なやり手だし、今回命を落とした二人も十年以上のベテランだ。俺たちが騙されずに済んで今回も生き残ったのはただの運。

 運という神の気まぐれに自分の生死を決められてたかるかって受けられない人たちは、そういう事(騙されるほうが悪い)に逃げ込むしかなかったのかもしれない。

 そうやっていつの間にか、レーザのような人たちに有利な空気が出来上がった。難しい話だ。







「じゃ、やっぱりホワイトレイヴンはもうここにいないよね?」

「ええ、昨日ここを発ったと聞いています」


 ギルドの受付にレーザたちのことを聞いた。意外なことに本名だったが、姉さんの予測通りすでに高飛びしたらしい。

 パーティの移動についてはギルドに報告する義務はあったが、ホワイトレイヴンは特に連絡もなくここは離れた。ただ受付係の人は彼らが大荷物を纏めて街の南門から出たと知り合いから聞いていたみたい。


「それと、ダンジョンでのことについてですが……」

「ああ、不干渉なのは分かってる。たださ、他の探索者への注意喚起をしてもらって良いのか?」

「それも、何分証拠がありませんので、それに……」


 受付の人が口籠もる。

 ここへ来るまでは軽く情報を集めたので予め分かったが、ホワイトレイヴンはここではそれなりに凄腕な探索者らしい。

 新参で外来者の俺たちとは信用が違うと言いたいのだろう。


「はぁ、もういい。とりあえず――」

「すみませーん、昨日預かったお金を下ろしたいのでお願いできる?」


 これ以上喋っても無駄だと思って話し切り上げようと、姉さんが割り込んだ。

 ていうか、人が集まるような所でお金とか言わないって姉さん言ってなかったっけ。


「姉さん? 依頼をチェックしてるじゃ」

「もう終わったよ。それより、最近依頼溜まってるのよね、どうしたの?」

「近頃は北方の伝染病騒動でどんなところも人手不足なんですよー。はい、預かったものです、どうぞチェックしてください。それにしても、二人ともまだ若いのに凄いですねぇ」

「ふふふ、それほどでもあるかな」


 姉さんが若干ドヤ顔で手に取ったのはこの四年間俺たちが稼いだ金だ。

 姉さんが探索者の中でも相当腕が立つらしい、そのお蔭で俺たちは経歴の割にそれなりに稼いだが、まだまだ足りない。

 いずれ探索者から足を洗ってどこかでのんびり過ごすためには少なくとも一軒家を構えるくらいになれないと。

 ちなみに食堂を開くのは夢であるとレンツィアが言ったことあるが、どこまで本気なのは不明である。


「それと、二人とも今少しお時間頂けますか?」

「なんだ?」

「ダンジョンでモンスターの大群に遭ったと仰ってるので、できれば種類と情報、それと出現場所を教えてください」

「そこは信用するのか」


 ニコっと笑う受付。なかなかいい面の皮してやがる。思わずため息が出る。


「はぁ、わかった。でも今は疲れてるから、一度宿に戻って食事してから来る、それでいい?」

「判りました、お待ちしております」

「ではまたね」





「やはりというか、付けられたね」


 若い男女がそれなりの金を持って、それも新参者となれば、当然と言えば当然か。


「釣れたねぇ」


 不穏な言葉を聞いて眉を寄せて姉さんの方を見ると、不敵に笑っている。確信犯か。


「姉さん……」

「ごめんね、少し確かめたかったの」

「やはり、どこか具合が悪いのか?」

「うーん、たぶん暫く戦技は使わない方がいいかも、実戦では危ないし」

「どういうこと?」


 答えずに自分の鼻を指さす姉さん。いつものように形が綺麗な鼻だが……


「あ、そうか」

「そういうこと」


 戦技とは魔力をエネルギーに転換する技。そして呼吸に合わせて戦技を行使するのが一般的なやり方だ。別に呼吸しなくてもできるが、戦闘する際そのほうが効率が高いし隙も作らない。

 姉さんは常人より膨大な魔力を抱えてる、そして魂が変わらない以上、それはアンデッド化された今でも変わらない。

 しかしアンデッドは呼吸しないのだ。つまり姉さんは戦技の使い方を一から覚え直さなければならない。たぶんそのうち慣れると思うが、実戦で使うのは控えるほうがいいだろう。


 そうか、だから実戦では使えないために、小悪党を釣って慣らそうとするのか。


「あんまり危ないことするなっていつも言ってるじゃないか」

「あら、危なくなったら守ってくれるでしょう、前みたいに」

「前?」

「前の町で暴漢に襲われそうな時に守ってくれたじゃない、ほら、フィー君の財布が取られた時」

「あー……って全然違うよ、なに思い出美化してんの!?」


 今俺が使ってる財布は姉さんの手作りである。

 前の町でその財布がスられた時、逸早く気付いた姉さんの目がマジだったので、死人が出る前に少々やり過ぎ気味でスリの野郎をぶっ飛ばしちゃっただけだ!

 暴漢じゃないし襲われそうもないよ!


「どっちかというと俺が守ったのはあの野郎だったな」

「えーそんなことないよー」

「いや姉さんたまにやり過ぎなんだよ、前の前の時だって……」


 呑気に会話してるように見えるが、姉さんも俺も周りに気を配ってる。

 尾行してるヤツはどうやら複数人いて、露骨に俺たちをどこかに誘導してるようだ。

 ここの地理はよく判らないし、宿も知られたくないので、俺たちは喋りながら素直に誘導に従った。


 やがて人気がない路地裏に足を踏み込んだところ、声を掛けられた。


新しい能力に実戦テストは付き物ですね。

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