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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第五章 プロイセンの夢
69/229

68 三枚の札

※三人称視点です。

※次の更新は明日(29日)の17時、詳しくは活動報告にて。

 今、ルイボンド邦連は一つになろうとしている。

 

 元々ルイボンド邦連とは、フォルミド王国とポーラン公国に挟まれ、生き延びるために団結は必要だが、お互い従属国になりたくないから妥協に妥協を重ねたの結果。

 邦連という名を持ちながらも、実際は各自の盟友と敵がおり、邦の間にあるのは緩い結束しかなかった。邦連の中にはフォルミドやポーランの息を仰ぐ邦もいる。

 それでも一つの政体としてやっていけるのは、ルイボンドの人口の九割以上を一つの人種が占めているから。

 それが金髪碧眼のルイボンド人である。

 つまり、彼らを束ねるのは両国の脅威と、お互い同じ人種であることだけだった。


 しかしこの十年間、軍事国家として急速に膨れ上がる邦――プロイセンは謀略と武力によってルイボンドの中に勢力を広げ、今やルイボンドの六割の人口と七割の領土を持っている

 ルイボンドの統一まで、そう遠くはない。

 だがそれを成し遂げるには幾つかの「壁」を乗り越えねばならない。


 一つは西の強国、フォルミド王国。

 一つは東の強国、ポーラン公国。

 最後は邦連の中に潜む、両国の息が掛かる勢力。

 彼らは統一を望んでいない、合併した最後、プロイセンが主導権を握るのは火より明らかである、それなら領土が小さいだろうが君主でいられる邦連のほうが良いに決まっている。

 これまでのプロイセンの皇帝達が志半ばにして倒れる統一の悲願が、今や若き女王セルリン二世の双肩に掛かっている。


 そして、数々の「壁」を貫く手札が今まさに彼女の手元に揃っている。





 ルイボンド邦連・プロイセン邦首都セルリン。セルリン城・謁見の間――



「《第一の札》は成ったな、ビスマルク」

「はっ」


 無骨なデザインの謁見の間には、一人の若い女性と、初老に差し掛かった男、そして平凡な外見の男性。

 金髪碧眼の女性は真紅の鎧を着込んで、玉座に端然と座っている。

 鋭い目つきに玉座に寄り掛かっている長剣、かなりの使い手だと思われる風格だ。

 若い女性――セルリン二世の言葉に、初老の男が恭しく腰を折り、丁寧にお辞儀をした。

 彼こそプロイセンをここまで強大に導く功臣、宰相ビスマルク。

 セルリン二世の父、セルリン一世からプロイセンに尽くし、ルイボンドの一統は彼の悲願でもある。


「予定通り、《常闇龍シュヴァルツ》はスロウリ峡谷を占拠し、ダンジョンにしました。これでフォルミドからの軍は南に遠回りをせねばなりません、いざ開戦しても大幅な時間を稼げます」

「ドラゴンさえ操れるそなたの手腕は、真に恐ろしいな」

「恐縮です、これは事前にドラゴンの動向察知して利用にしたに過ぎません、天をも味方にする陛下こそ賞賛すべきでありましょう」

「ふむ」


 特に喜ぶ様子もない女性は、その突き刺さるような眼光を平凡な男性に向けた。

 この男――ヴァンは、ある日セルリン二世の前に、ビスマルクに連られてきた。

 過去は不明、どこの国の出身も不明、家族も不明、胡散臭い男だが、頭が切れるし舌がもっと回る、色々役に立つ、斬るのは惜しい男だ。

 そしてプロイセン統一へ至る《三つの札》というプロジェクトを提案して、その二枚目を用意してくれる人でもある。


「して、そなたの《第二の札》とは?」

「間もなく、フォルミドには内乱が起こります」


 頭を垂れて、男性は答えた。


「ほう、間者か?」

「はい、しかしただの間者ではありません。彼らは各州の中枢に食い込んでいまして、いざ反旗を翻させれば、フォルミドは直ちに混乱に陷るのでしょう」

「二ヵ月ほど稼げるとの予想です、陛下」


 ビスマルクが横から言い添えた。


「その間にポーランを落とせ、と」

「はっ」


 自信満々に胸を張るビスマルクを横目に、セルリン二世は慣れた手つきで剣を掴み、立ち上がった。

 窓側まで歩き、険しい目つきで外の風景を眺める。

 窓の下にいるのは、鍛錬に励んでいる親衛隊だ。


「我がプロイセン軍は強大だ、如何なる敵も突き破ってくれるのだろう、三人のポーラン兵も一人のプロイセン兵に叶うまいと、ポーランの将も認めているのだからな。が、二ヵ月の間にポーランを落とせると、本気か?」

「それでは《第三の札》を、ご覧になりましょう」

「ほう?」


 ヴァンが手を打つと、謁見の間に一人の女性が入ってきた。

 金髪碧眼、整えてる顔に吊り目で勝気な雰囲気を持つ、美人というより麗人と呼ぶべきだろう。

 若い女性は一片の隙もない綺麗な作法で片膝を地につく。


「お初にお目にかかります、メデューサ・フォンティーヌと申します。陛下におかれましては、ご健勝のこととお喜び申し上げます」

「そなたは?」

「フォンティーヌ女史は、ルイボンドとフォルミドの物流を支える商人でございます」

「つまり、行商人か」

「その通りでございます」

「行商人が、朕に何か用か?」

「フォンティーヌ女史には、あるものを用意して頂きました。その原料はフォルミドのとある町にしか取れません。幸い町長は商会の知り合いで、こっち側に引き込んでなんとか利権の掌握に成功しましたけど、採集には大変骨が折りまして、フォンティーヌ女史の協力なくしてはとても無理なことでした」

「回りくどいのはそなたの悪癖だ、疾くと申せ」

「はっ、フォンティーヌ女史、あれを」


 メデューサ・フォンティーヌという女性は付き人に命じて、謁見の間に一つの檻を運ばせた。

 檻の中には三人の人間――人間にしか見えないが、辛うじて人間と言えるモノ達がいる。

 五官が抉られ、手足が切られ、首輪と鎖に縛られ、家畜のようにただ生かされているモノ達だ。

 それを見て、不快そうに眉を顰めるセルリン二世。


「悪趣味だな貴様」

「これが《第三の札》の生贄でございます」

「生贄、と?」

「私は古の文献にある《黒玉膏》という薬物の再現に成功しました。この薬は、殺したモノの力を吸い取る能力を人に与えることができます」

「つまりその薬とやらを食せば、人を殺せば殺すほど強くなる、と?」

「はっ」

「……俄かに信じがたい話だな」

「勿論すぐには信じられませんでしょう、ですからフォンティーヌ女史には《黒玉膏》と生贄を用意して頂いた。陛下の信用に置ける方に試させて頂ければ分かります」


 メデューサは懐の中から一つの箱を取り出し、皇帝側近の兵士に渡した。

 兵士は箱を開け、トラップがないか確認した後セルリン二世に渡した。

 箱の中には幾つかの黒い丸薬、つーんとした涼しそうな匂いを漂させている。

 セルリン二世はそれを躊躇もなく手に取り、飲み干した。


「陛下!?」


 目を見張ったビスマルク。


「ふん、こんな胡散臭いもの、大事な配下に食わせてたまるか。どれ、試させて貰おう」


 剣を抜き、いとも容易く檻の錠前を両断し、檻の中には入ったセルリン二世は、傍人には聞こえぬ声で小さくなにかを呟き、瞬く間に三人の息の根を止めた。

 その剣閃は鮮やかの一言、剣捌きは勿論だが、命を奪うことに対して一片の躊躇いもなく姿は並の武人ですら慄くほどだ。


「こんなところか、何も変わりはせぬが……むぅ!?」

「陛下、どうなさいました!?」

「ぬうううううあああああ―――!!!」


 傍から見れば何も起こってないが、どうやらセルリン二世にしか分からない異状が起こっているようだ。

 滝のようにダラダラ流れる汗、血走った目、そして低く唸り上げる声。

 約十秒後、ようやく落ち着きを取り戻したセルリン二世は、剣を持って肩で息をして、俯いて茫然としている。


「さすが陛下、たったの十秒でそれを制御なさったのですね」

「十秒、か。丸一日のように感じたぞ」

「陛下、今の気分はどうなさいます?」

「中々、悪くない」


 そう言って、一閃。

 数人でようやく運べる檻が目も留まらぬ速さで真っ二つにされ、剣閃による衝撃は檻の上半部を数歩先にまで吹き飛ばした。


「なるほど、これがあれば、我が軍はさらに強くになれるのか」

「その通りでございます、これがあればもはやポーラン軍など恐るるに足らず!」

「だが、効果が出るには時間が掛かりすぎる、いきなり戦場で使うには不向きだ」

「それなら、まずは一般人で肩慣らせるのはどうですか?」

「ほう?」

「ポーランの南境には幾つかの村があります、南山道から急進すれば、ポーラン軍に邪魔されずに辿り着けますのでしょう」

「くっくっく。宜しい、これでようやく手札が揃ったな」


 ヴァンの言葉を聞いて、セルリン二世は嬉しそうにも泣けるようにも聞こえる声で笑っている。

 ビスマルク宰相もすぐ出兵の準備を致そうと意気揚々としているようだ。


「では直ちに出兵の命を、将は如何なさいます?」

「あれがおるじゃないか、チェルニー家の」

「コーデリア・チェルニーですか、しかし彼女はブライデン人で、しかも左遷中でございます、万が一――」

「くくくっ、ビスマルクよ、そなたはあれの本質を見抜いておらぬ。あれはプロイセンの意志を貫く剣、何があっても忠義に徹するのがあれの心骨だ。左遷はむしろヤツの忠義心をさらに点火したにすぎない。それと、いきなり虐殺せよと申しても兵は混乱する、あれは元大佐であり、兵士にとって一種のカリスマだ、むしろあれじゃないと兵は従わん」

「しかし他の将が異議を申し立てては……」


 尚も渋る宰相に、セルリン二世は酷薄に口の元を吊り上げた。


「汚れ仕事はブライデン人にさせようってのはそなたの口癖ではないか?自分の兵に胡散臭い薬を飲ませ、虐殺に加担するヤツもそうはおるまい。こんな仕事はブライデン人にこそ相応しいと思わんか?」

「……はっ、その通りでございます」

「ふむ、ではコーデリア・チェルニー大尉を大佐に引き上げ、二千の兵を与えよう」

「かしこまりました」


 ビスマルクが退席した後、謁見の間にセルリン二世、ヴァン、メデューサだけが残っている。

 しかしセルリン二世にとって、この二人など眼中にないようで、特に命を下すこともなく、静かに遠方を眺めている。


「ようやくだ……ようやく解放される……」


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