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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第一章 これからの姉弟
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6 フィレンの決意

 何を仰ってやがりますかこの神は!?ただでさえ力ある者から欠片を取り上げるのは一悶着間違いなしなのに、殺すって?


「あの、フォー=モサ様、もっと穏便に済ませる方法はありませんか?」

「ない」

「ですよね……」


 どうしよう、いくら恩人だといっても、フォー=モサのために人を殺すのは抵抗がある。しかしここで彼の機嫌を悪くするのを避けたい。うまいこと断らねば……

 眉を顰めて悩んでる俺をよそに、姉さんは訊いた。


「フォー=モサ様ご自身が欠片を取り上げる場合も、やはり死なせることになりますか?」

「そうだ。欠片は魂と共にある、死亡した際に身体を離れて次の適合者を探すが、その時に我が近くに居れば戻ってくる。その剣は言わば我の末端になっている、それを通じて欠片を集めることができる」

「つまり適合者が死亡した時にこの剣が近くにあればいい、というわけですね?」

「そうなるな」

「近くと言うと、有効距離はどれくらいでしょうか?」

「さあな、我は使ったことないゆえ、なんとも言えぬ」


 姉さんのお蔭で直接殺す必要はなくなったが、それでも死なせることは避けられないからさっきの状況とあんまり変わらない。

 どっちにしても力ある適合者を殺すなんて探索者二人がやれるわけがない、そもそもやる必要もない。恩知らずと言われようがここは早めに脱出する方が……


「フォー=モサ様、大恩を頂いた身として非常に図々しいことになりますが、このような大任を任されては私たち姉弟では些か役者不足ではないかと愚考いたしますので……」


 うんうん、断っちゃえ姉さん!


「もしよろしければ、一つ、お願いを聞いていただければ、より一層フォー=モサ様の頼みに精進することを約束します」


 え?


「――ほう、我に条件を出す、と?」


 フォー=モサの様子が一変した。

 座ったままで、髑髏の顔に表情など元からないが、全身から虹色のオーロラを周囲に纏わせ、その体から放ったプレッシャーは、周囲の空間をも歪め、荒々しい魔力風を生んでいた。

 物理的に押し潰されそうになって俺は喚きを上げることすらできなかった、肺が息をすることを放棄した。精神はすでに恐怖一色に染まれてる、精神がゴリゴリと悲鳴を上げて削り取られていく、あと数秒もすれば廃人になるだろう。


 だが姉さんは平然としていた。

 いや弟の俺だからわかるが、あれは必死に我慢しているのだ。

 だが逆に言えば、並の生物が一瞬潰されるの重圧の中心に、姉さんは我慢だけでなんとか耐えていた。


 実際はどれだけ経ったか、体感時間で言えば丸一日にも渡る酷刑が去る時は一瞬で消え去った。


「ふむ、潰すつもりであったが、少しは使えるのようだな」

「……お褒めに預かり、有難うございます」


 何事もなかったかのように姉さんは応対しているが、重圧から解放された今になって体中に汗が噴出していた。

 もちろんフォー=モサもそれを分かってるはずだが、特に言及してなかった。


「では、君たちの優秀さを見込んで、願いとやらを聞こうか。我の予想では、君の復活であろう?」

「さすがフォー=モサ様、その通りでございます」


 姉さんの復活、それは即ちアンデッドから人間に戻ることだ。

 人間として至極自然な願いだが、俺には分かる、姉さんの願いは自分のためではなく、俺のためだ。

 そもそも罠に嵌められたのは俺たちの油断だが、姉さんを死なせたのは俺の未熟だ。

 あの時、俺を助けなければ姉さんが死ぬことはなかった、そして姉さんの犠牲がなければダンジョンから脱出することもなかった。姉を死なせた俺は、姉の死によって助かった。


 その上で、俺は姉さんをアンデッドにした。アンデッドにしちまった。ただ姉さんと別れたくないという身勝手の願いだけで。

 いろいろ運がよかったこともあって、今も姉さんが側に居るけど、俺がやったことはただ死体への冒涜だ。死体をアンデッドにするなんて、この世にもっとも忌避されることだ。もし姉さんの降霊が成功しなかったら、俺はそれこそ壊れてたと思う。考えるだけでぞっとする。


 姉さんはそんなこと気にしないと一笑に付すだろう。しかし俺はきっとそれを背負って一生悔やんでも悔やみきれないだろう。

 だからそんな俺のために、姉さんは復活を願った。


「生者の根源を司る《黄泉がえり(ペレト・エム・ヘルゥ)》の力を持ってすれば、君を蘇らせることなど容易い……と、言いたいが、生憎今は我の元にはない。」

「つまり、与えたのですね?」

「それなら、適合者を見つけて、姉さんを復活してくれと頼めば……!」


 それを聞いて、フォー=モサが嬉しそうに笑った。


「かかか、それもよかろう。だがその前に一つ問おう、今まで蘇った者など聞いたことあるか?」


 ない。蘇った人間も、そんな力持ってる人も、聞いたことない。


「たしかに聞いたことありませんね。そんな力を持つ人物なら、聖人とされても可笑しくないのはずなのに」

「そういうことだ。つまり」


 話を中断して、目玉が存在しない眼窩で俺たちを見るフォー=モサ。試すつもりか。

 俺と姉さんは目を合わせて、考えを述べた。


「可能性としては、適合者が極端に少ないか」

「もしくは、何か制限があって、軽々しく使える能力ではない、ということですか?」

「そうだ。《黄泉がえり(ペレト・エム・ヘルゥ)》は一度使っては、使い手の魂を最後の一片まで消耗するからだ」

「魂を消耗する能力……なるほど、それなら噂にならないのも頷けますね」

「それはつまり、死ぬってことか?」

「それだけではないわ、魂が消滅すれば、私のような降霊術でモノに固定されることもできないのよ」


 つまり、正真正銘この世から消えるのか。

 じゃたとえ適合者を見つかっても、協力は望めないだろう。


「もちろん、欠片がフォー=モサ様に戻れたら、問題なく使えますよね?」

「無論だ。だが」


 姿勢を変えて、深く椅子に腰を掛けたフォー=モサは、眼窩の奥に怪しげに煌きながらゆっくりと喋り出した。


「我は施すのを好むが、交渉を嫌う。君たちの頼みを聞くのはこれが最初で最後だ。そして交渉である以上、君たちの有用性をしかと証明しろ。心にしておくといい」

「……肝に銘じます。」


 つまりこういうことか。適合者を何人も見つけ出しては殺す、《黄泉がえり(ペレト・エム・ヘルゥ)》の適合者も殺す。そうしたらフォー=モサは姉さんを蘇らせてくれる。


 実にシンプルな話だ。でもこんなことでいいのか?


 この話を聞いて、乗り気である自分を実感している。見ず知らずの人たちを殺すことへの抵抗感は薄まっていく。そんな自分に恐ろしくも感じる。本当にいいのか?

 姉さんを追っかけて探索者になって四年間、この手が綺麗なままではとても言えなかった。それでも、こっちから人に害を為すことはないと言える。己の欲せざる所は人に施すこと勿れ、というのは施設に入った時、姉さんから教わったことだ。それをずっと守ってきたつもりだ。


 だが姉さんをこのままにしていいわけがない、たった二人の姉弟だからこそ、俺が姉さんの幸せを奪ってはいけないのだ。それを取り戻せるというのなら、なんだってやってやるさ!


 思考が渦を巻いてると、姉さんが手を取ってくれた。アンデッドの冷たいの掌だが、なぜかいつもの姉さんの暖かさを感じる。


「フィー君は、姉さんのお願いを聞いてくれるよね?」


 あくまで自分の意志で復活を願うと言ってくれてる姉さんに、俺は一つ一つ、噛み締めるように言い直した。


「――ああ、俺たちのために、たとえ誰であろうと俺は殺すよ」

「――バカね」


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