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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第四章 スロウリ峡谷の異変
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58 大尉の依頼

 俺たちは二体の死骸蒐集者(カダヴァーコレクター)の左耳を切り落として、軍人らしき死体を燃やした後、隊商(キャラバン)のところに戻った。





「パウロさん、倒してきたぞ」


 パウロさんの所に来てみたら、ちょうど幾人の盗賊を尋問してるところだ。やはり姉さんの予想通り山賊に襲われたらしい。

 俺たちの持っている、文字通り刺々しいの左耳を見て、パウロさんがポカーンと口を開いてた。

 周りの探索者たちもドッと騒めく、本当に倒せるとは思ってなかったようだ。


「デケェ音がしたと思ったら、マジで獲ったか……どうやって勝ったんだ?」

「普通に転ばせて首を切っただけだよ」

「ああ、俺たちは横で見ていただけだが、その通りだ」


 パウロさんは俺とノアさんを見て、呆れてるような溜息をした。


「あのデカブツを転ばせるとは……いやいい、兎に角あんた達の腕は分かった、さすが《魔女殺し》ということか。これまでの非礼を詫びよう、どうか許してくれないか」


 そう言って深々と頭を下げたパウロさん。こういう切り替えの早さはさすが海千山千のベテラン探索者ということか。


「いいえ、こちらこそ、これからも頼りにしているよ」


 俺はパウロさんを止めて、握手を交わした。


「ところで、そっちも大丈夫なの?」

「ああ、あんたの言った通り盗賊どもが出やがったが、事前に探知できたから被害はない」

「それは良かったね、じゃもう出発していいかしら?」

「そうだな、再開するか。ルクルス、念のためもう一度使い魔を出せ」


 パウロさんは指示を飛ばし、商人たちにもう進んでいいって告げた。

 隊列がぞろぞろとまた動き出すのと共に、探索者たちもそれぞれの持ち場に戻り始めた。




「なあなあ、どうやってあのデカブツを倒したんだ?」


 持ち場に戻ったら、同じ所に配置された探索者に話を掛けてくる者が居た。どうやって死骸蒐集者(カダヴァーコレクター)を倒したのを聞きたいのようだ。

 ノアさんと手合わせをした以来、相変わらずこっちを睨む探索者もいるけど、こうやって興味津々に話を掛けてくる人も増えてきた。

 この隊商(キャラバン)の探索者は俺たちのような途中参加の人も結構いるから、色んな国から来た人が居る。お蔭でいろいろ話聞けるし、時々練習の相手にもさせて貰ってる。何より俺たちでは分からない魔術師の心得というものを訊けて、ルナの助けにもなる。


「どうって言われても……見てみる?」

「マジで?見せてくれよ!」


 ビャクヤを呼び出して、姉さんも《焔螺子》を実演して見せた。

 美人の成せる業か、ビャクヤより姉さんの動きが凄く受けが良いらしい、それでどんどん見物人が集まって、商人たちも見に来てるようだ。

 最後は中々行列が進まないと訝しんだパウロさんが駆けつけて皆を蹴散らしてた。

 ちなみに《斬り丸》と《霹靂銃》に興味を示した探索者がかなりいたが、材料がアダマンティウムと黒姫の《龍晶石》だと聞いたら全員渋い顔してた。





 そして四日後、スロウリ峡谷を越えて、ルイボンド国境にも大分近づいた。


 その後ノアさんから聞いたが、どうやら死骸蒐集者(カダヴァーコレクター)が集めた死体が着ているのはルイボンド軍の鎧らしい。

 なぜこんなところにルイボンド軍がいると聞いたら、どうやらここはフォルミドとルイボンドの間にある自由都市群、所謂一つの緩衝地帯なのだが、大体どの都市も両国のどちらの庇護下にあるし、軍事協定も結んでいる。

 つまりそれなりの理由があれば、ルイボンド軍があのあたりに駐屯しても可笑しくないということだ。実際スロウリ峡谷にはルイボンドの砦もあるらしい。

 ではどのような理由でこの軍人たちがここに来て、そして命を喪ったのかというと、さすがにノアさんも推測できないようだ。

 結局俺たちは疑問を抱いたままスロウリ峡谷を越えた。




 そして、ルイボンド国境に一番近い自由都市に辿り着く矢先に、俺たちは思わぬ形でその疑問を解けた。





「ダンジョンが出来てしまっただと!?ふざけんな!!」


 あまりにも信じられない情報に思わず怒鳴ったパウロさん。

 隊商宿(キャラバンサライ)についたばかりの隊商(キャラバン)の中に、パウロさんの声が響き渡る。恐らく通信(メッセージ)で何か知らされたようだが、それが何なのか分からない。


「バカな……これじゃ帰りは白紙に戻ったじゃねぇか!くそ!」

「一体どうした、パウロ?」


 見るからに荒れているパウロさんに、隣の探索者が声を掛けた。

 パウロさんは我に返して、なんとか自分を落ち着かせた後、俺たちに事情を教えた。


 どうやら俺たちがさっき通ったスロウリ峡谷がダンジョンになったみたい。

 それはつまり、何処かからドラゴンが訪れ、そこをダンジョンに造り替えたということだ。


 ダンジョンは何も地下型だけじゃなく、山か森、川さえもダンジョンに成り得るのだ。それらは地上型ダンジョンという、ビャクヤの出身地《紅玉髄龍の火山》も山のダンジョンである。

 地上型ダンジョンの場合、元の地形が大体ある程度に弄られて、より複雑になる。そして当然ながら、モンスターも大量に発生する。地形もモンスターも意のままに操れる、それが人知を超えるドラゴンの力だ。

 スロウリ峡谷がダンジョンとなった以上、帰り道にそこを通るわけにはいかない。遠回りして他の道を利用しなければならないから、時間も経費も大幅に見直す必要がある。指揮者のパウロさんが荒れるのも仕方ない。


「おいおい、なんつーことしてくれたんだドラゴンの野郎が」

「ねえ、ドラゴンがダンジョンを作り出すってよくあることなの?」

「そんなわけあるか、ここ三十年は聞いたことないぞ」


 隣の経験豊富な探索者によると、ドラゴンがダンジョンを作るのは常識だが、ダンジョンは滅多に増えない。実際ここ百年間、新しいドラゴンは確認されていないし、新しいダンジョンもない。さらに、一度ダンジョンを作り上げたドラゴンはそれを巣にして、そこから動かないのが一般的なのだ。

 しかしそれはあくまで人間の常識だ、人を凌駕する存在を測るには、人間という種はあまりにも無知。

 実際、極めて珍しいことなのだが、巣を変えたドラゴンもなくはないと、探索者の中に誰かが言った。

 つまり、俺たちは運悪くもそういう事例に遭遇してしまったということか。


 そして、どうやら厄介事はそれだけではないようだ。


「プロイセン第二軍大尉、コーデリア・チェルニーである。この隊商(キャラバン)の指揮者に面会を願おう!」


 一人の女性の声が、隊商宿(キャラバンサライ)に伝わってきた。

 




 コーデリア・チェルニー大尉は筋骨隆々とした女丈夫だ。

 二メートル近い身長で、鍛え抜いた粗鋼のような黒くたくましい体、そして短く刈り上げた銀髪に獰猛な顔つき、もし胸元の膨らみがなかったら男と間違われるのもおかしくない。

 抜き身の刃のような気迫を発しながら、彼女は意志の強い瞳を輝かせて、取り巻いてる探索者たちを環視する。

 やがて、パウロさんが前に出た。


「チェルニー大尉だな、俺がこの隊商(キャラバン)の指揮者、パウロだ」

「コーデリアでいい、まだこの姓に慣れなくてな」

「ではコーデリア大尉、用件を聞こう」

「この隊商(キャラバン)の探索者に協力を求む、我々と一緒にスロウリ山道のダンジョンに閉じ込められた同胞の救助を向かう」


 これ以上ないほどに、パウロさんが渋面を作る。


「どういうことだ?」

「三日前から、スロウリ峡谷の一部がダンジョン化されて、我が第十四大隊がモンスターの大群に襲われ、なんとかダンジョンを脱し態勢を立て直したが、一個小隊がダンジョンに閉じ込められたままだ」

「おいおい、そんな軍の内情を喋ってくれていいのかい?」


 いくら原因がドラゴンだろうと、兵を失うことが自分の落ち度になるかもしれないのだ、普通ならば民間人に軽々しく教えることじゃない。

 だがコーデリア大尉をきっぱりと言い放った。


「構わん、今は一刻も早く救助に向かいたい」

「しかし、それは軍に救援を頼むのがいいんだろう?」

「軍は腰が重い、それでは遅すぎる」

「……恐れながら、もう亡くなったのでは?」

「二日前までは、恐らくドラゴンの魔力がまだ薄かったお蔭で、通信(メッセージ)が通じていたから生存を確認された、しかし峡谷の地形がかなり変わったから場所を突き止めなかった」


 コーデリア大尉が悔しそうに歯噛みする。

 三日前のことなら、それはつまり死骸蒐集者(カダヴァーコレクター)の出現と関係がある可能性が高い。もしあれがコーデリア大尉の部下であれば、大尉は相当の配下を失ったのだろう。

 一人でも多くの部下を助けるため、ちょうど近くにいる探索者の集団を頼み込むのは発想として悪くない、実際軍隊より探索者の方がダンジョンに詳しいのだから。

 しかし、


「……事情は分かった、だが俺らも任務のある身だ」

「緊急依頼として報酬を出す、上にも掛け合っているから額は期待していい」

「いや報酬の問題じゃなく――」

「どうしたのですか、パウロさん?」

「――ラシードさん?」


 っと、その時、この騒ぎを聞きつけたのか、数人の商人が近づいた。

 パウロさんに声をかけたもじゃ髭の男は商人側のまとめ役、ガンダ・クマモトと一緒にトルコ商会の支配人を務めているラシードさん。

 ラシードさんはパウロさんから話を聞きながら、時にコーデリア大尉を見て、しげしげと頷いている。


「よく分かりましたよ、コーデリア大尉、勿論探索者の方々に志願者が居ればの話だが、こちらは構いませんよ」

「ラシードさん!?」

「ただし、条件を提示させていただきますが、宜しいのですか?」

「聞かせてくれ」

「まず期限は一週間だ、それ以上だと支障が出ますし、配下の者達もそれ以上生き延びるのが厳しいですからね」


 ダンジョンに不慣れの一般兵士が、補給もなく一週間も耐え続けるのは無理だから、それ以上の搜索は無駄になると、ラシードさんが言った。無情に聴こえるが、コーデリア大尉もそれを承知しているようだ。


「ああ、それは分かっている、他は?」

「我々がルイボンド国内での貿易に、ルイボンド軍のできる限りの支援をお願いします」

「……それは無理だ、城門と関門の審査を最優先で行うようにと言っておこう、それでいいか?」

「はい、大尉が話が分かるお方で幸いです」


 どうやら話が決まったようだ。

 スロウリ峡谷がダンジョン化したせいで帰りが遅れるのが必至。普通に考えれば、ここに一週間も留まる場合じゃないのだが、隊商(キャラバン)の中にはルイボンド人もいるし、これから入国することを考えると、軍の要請を突っ撥ねるのは些かまずい。それなら便宜を図ることを約束して貰って、移動時間を縮めるほうがお得だということか、商人が考えそうなことだ。

 まあ、どの道、隊商(キャラバン)と一緒に帰るつもりがない俺たちには関係のないことだ。


「感謝する、ラシード殿」


 コーデリアは軍人風に――と言ってもルイボンドの軍人の作法なんて分からないが――一礼をして、俺たちに振り返る。


「ここにいる探索者に頼みを申しあげよう!どうか私と一緒に救助に向かってくれ!一人当たり金貨七十枚を約束しよう!」

「……」


 コーデリア大尉の良く通る声がキャラバンサイトに響き渡るが、それに答える人は居ない。

 一週間につき金貨七十枚と考えれば破格だが、スロウリ峡谷は元々戦闘には不向きだし、何より情報がまったくないのダンジョンだ、トラップも出現モンスターも分からないから、危険性が跳ね上がる。

 あちこちに探索者たちがひそひそと話し合うが、首を振ってる人が多い。


「頼む、一人当たりに百枚を約束する!」

「……」


 貫禄のある巨躯を折れるように頭を下げてるコーデリア大尉を見て、俺は溜息を吐いた。

 正直に言って、助けに行きたい。

 コーデリア大尉のためではなく、そもそも知らない国の軍人のためでもない。ただ、ガーリック村でモモがロントに攫われた時のように、目の前に助けるかもしれない人が居たら、最終的に諦めるかもしれないけど、やる前に諦めたらもう姉さんと釣り合うような男じゃなくなる気がする。


(フィー君は行きたいでしょう?)


 シーンとなる隊商宿(キャラバンサライ)の中に、姉さんが耳打ちしてきた。


(うん、そうだけど……)

(大丈夫だよ、ルナは私が守るから)


 姉さんは俺の心配を見抜いたようだ。

 その時、マントの裾が掴まれて、俺はルナの方を見た。


「ルナ?」

「フィレンさん……あの……」

「どうしたの?」

「あの人を……助けてほしいなって」


 俺は姉さんと顔を見合わせて笑う。


「そうだな、しかしダンジョンは危ないぞ、なんならルナが――」

「一緒に行く!」


 意志を強く表してるように、ルナのマントを摑んでる小さいな手に力が入ってる。

 その手を握って、俺は前に出た。


「コーデリア大尉、その依頼――」

「――《ノアズアーク》が受けよう!」

「え?」

「お?」


 俺は同時に出て来たノアさんと顔を合わせて、向こうも意外そうな表情している。

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