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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第四章 スロウリ峡谷の異変
53/229

53 隊商

 国を出る前に、色々準備しなくちゃいけないことがある。

 特にルナも旅に加わることになってから、リースと一緒に色々準備してた。

 まずは姉さんが《霊装鎧》を渡した、これで最低限の攻撃から身を守れる。

 そして俺も保身用のマインゴーシュをプレゼントした。

 マインゴーシュとは柄に籠状のガードがついている短剣で、刺すより相手の攻撃を受け流すための武器である。


 リースから贈ったのは魔道の衣(アークメイジローブ)変装帽子(ディスガイズハット)の二つ。

 魔道の衣(アークメイジローブ)はローブの魔道具で、魔術の威力を上げるのと、ある程度のエネルギーから装着者を守る能力を持っている。そして勿論ローブとして、フードを被ると陽光を遮断できる。

 変装帽子(ディスガイズハット)はその名の通り帽子の魔道具だけど、装着者は一日三回変装(ディスガイズ・セルフ)を唱えて、衣装を含めて自分の外見を変えることができる、一回についての持続時間は二十四時間である。

 変装(ディスガイズ・セルフ)は幻術系魔術だから、腕の立つ人、幻術に耐性を持つ人と接触すると見破れる可能性があるけど、距離を保ってればよほどの凄腕じゃなきゃ大丈夫だ。

 外見を変える魔道具の売買は国によって制限されてるはずなんだけど、さすが州長ということか。


 ルナの装備とは他に、俺たちも最近の戦いを省み、精霊(サラマンダー)化ジューオンみたいな実体を持たない敵と戦う手段を増やすべきという考えに至った。

 幸いミステラはそういう職人に事欠かないから、姉さんの籠手と《黒棘》に幽霊殺し(ゴーストベイン)強化(エンチャント)をして貰った、名前的にスーチンには大不評だったけど、これで実体のない敵にも有効打を与えるようになった。

 《斬り丸》とナタボウにも施させたいが、アダマンティウムへの強化(エンチャント)は無理だったらしい、そしてナタボウはすでに用途不明な強化(エンチャント)を受けているからこれ以上の強化(エンチャント)も無理だと言われた。


 それからもいろいろ買い込んで、何せ初めて国を離れるんだ、準備に越したことはない。

 そしてついに旅立つ当日、リースはルナと俺たちを見送るために、ミステラの郊外に駐留してる隊商(キャラバン)のところまで来ていた。


「またね、ルナ」

「うん、リースお姉ちゃん、またね」


 優しくルナの頭を撫でてるリース。

 もう心の中に整理がついてるのか、ルナはぎゅっとリースに抱きついて、それからとてとてと俺の前まで歩いてくる。


「よろしくな、ルナ」

「よろしくお願いします、フィレンさん、レンツィアさん」


 小さな頭を下げて一礼するルナ。

 姉さんはそんなルナに優しく話しかけた。


「ルナちゃん、お姉ちゃんと話してるみたいに喋っていいんだよ?」

「あ、はい、えっと、うん、分かったの、レンツィアさん」


 まだ少したどたどしいルナの頭を撫でながら、俺はリースに言った。


「それじゃ、行ってくるよ」

「どうかお気をつけて、フィレンさん、レンツィアさん、それとルナをよろしくお願いします」

「ああ、リースも気を付けてな」


 リースは俺たちに一礼して


「ルナ、お姉ちゃんはこっちで頑張りますから、ルナが戻ってくる時また一緒に暮らしましょう」

「うん、お姉ちゃん、ルナも頑張るから!」

「そうだな、また会う時を楽しみにしてるよリース」


 瞳を潤わせても健気に笑ってるルナとリースに、俺もあえて軽い気分で言った。

 すると、ルナは俺のマントの裾を引いた。


「フィレンさん」

「うん?」

「リースお姉ちゃんのこと好きなの?」

「ぶっ」

「ルナ!?」


 思わず噴き出した俺と、慌て出したリース。

 キョトンとした様子で俺たちを見ているルナは、まさに年頃の女の子だということを知らされた。


「ははは、そうだな、大切な人だと思ってるよ」

「フィレンさん……」

「よかったねお姉ちゃん!」

「ルナ!」

「あぅ!」


 なぜか得意げにガツポーズしてるルナに、リースは頬を染めながら軽くデコピンをかました。やはりデコピンは姉なるもの皆修得してる技なのか。

 額を摩ってるルナを、リースは優しく抱きしめて、おデコにキスした。


「じゃそろそろ行くよ」

「ええ、いってらっしゃい」

「お姉ちゃーん、まーたーねー」


 見えなくなるまでリースと手を振り合って、ルナが俺たちと一緒に隊商(キャラバン)の行列に入った。





 そして俺たちは隊商(キャラバン)の護衛としてミステラを発った。

 この隊商(キャラバン)には、国の大商会――トルコ商会の人が多く関わっている。

 トルコ商会とはトメイト町のガンダ・クマモト氏が支配人を務まる商会。

 護衛を募集中の隊商(キャラバン)を捜している時、ちょうどトルコ商会が参加している隊商(キャラバン)がミステラの近くに逗留しているから、ギルドを通じて連絡したら、向こうの心象が良かったのかすんなりと雇ってもらった。


 隊商(キャラバン)とは盗賊やモンスターの脅威から商品を守るため、複数の商会が共同出資して組織された大規模の輸送隊。

 規模が規模だから、勿論主に行われるのが国家間の貿易だけど、途中で経由する都市、とくに辺境都市にとっては大事な商売相手で、無くてはならない存在である。

 そして勿論、数百から数千のラクダ、ラバ、荷車に乗っている商品はどの国にとっても金の蔓で、その安全もかなり重要視されている。


 大規模の隊商(キャラバン)は護衛の数も相当膨れ上がるから、いつでも飛び込み参加可能なので、報酬も割と良い方だが、探索者からすればあまり人気の依頼ではない。

 一番の原因は拘束期間が長すぎるからだ。俺たちは途中参加だけど、それでもルイボンド邦連につくまでは一ヵ月掛かる、さらに東のポーランまではその倍、往復となれば更に倍、勿論それ相応の報酬は貰えるけど、自由気ままに生きてる探索者には受けが悪いのも頷ける。

 それと、隊商(キャラバン)に同行してる期間はモンスターを好きに狩ることができないし、勿論ダンジョンにも潜れないから、その分収入が減る。

 だがその代わりに、道中に倒したモンスターの素材はすぐに売り捌けるから嵩張らないというメリットもあるから、俺たちのような旅人には持って来いの依頼だ。


 それに、隊商(キャラバン)は色んなところから来た人たちの集まり場所だから情報を集めやすい、今回は特に急ぐ必要もないし、情報収集しながらゆっくりと旅するのも悪くないだろう。




 パカラパカラっと、俺たちは隊商(キャラバン)の行列の中に馬上の人となっている。

 馬上とは言っても馬ではなく、今回の旅のために購入した騾馬(ラバ)だ。

 普通、馬は運搬には向いてないから、隊商(キャラバン)のよく使う駄獣はラクダやラバである、勿論俺たちには便利袋(ハンディパック)があるから荷物なんてないに等しいだけど、ルイボンドまでは山道など起伏が激しい所が多いから、馬よりラバのほうが適してる。

 ルナはまだ姉さんに近づくと少し強張るから、今は俺の後ろに乗っていて、フードを深く被ってうつらうつらと舟を漕いでいる。



「なんだかワクワクするよな」

「そうねー」

「そういえば、外国なんて行ったことないよな」

「そうかな?」

「いやそうだろ、あったら驚きだよ」


 生まれた時からずっと一緒だったのに、姉さんだけ外国行ったことがあったら驚くわ。


「でも施設のララ姉はルイボンド人だから、よく話聞かされてたわよ」

「え、そうなの?」


 ララ姉ことクラーラは施設に居た頃、俺たち子どもの世話をしているおばさんだ。たしか金髪碧眼、色白で五官がくっきりしてる人だったな。そうか、ルイボンド人なのか。


「うん、プロイセンっていう(くに)の人らしい、羊とイノシシの料理が美味しいだと聞いているわ」

「あれ、ルイボンド国の人じゃないの?」

「ルイボンドは邦連だから、色んな(くに)があるらしいよ」

「へぇ、しかし羊か、楽しみだな」

「この前ラカーンで食べた羊肉のパン美味しかったわね」

「ああ、俺もそれ思い出した」



 ミステラから発った五日、そろそろ国境を越える所まで来ていた、でもルイボンドにいくにはここからが長い。フォルミド王国からルイボンド邦連までの間はいくつの自由都市があり、隊商(キャラバン)はそれらに一々立ち寄るから結構時間がかかる。


「お、休憩か」


 隊列がゆっくりと減速して、やがて前方から休憩の知らせが来た。今日は一つ目の自由都市につくから予定だから、日中は一回だけ休憩して、あとはできるだけ距離を稼ぎ、夕暮れに近い頃に都市に着くはず。

 俺たちはラバから下りて、適当な場所で腰を下ろした。探索者たちと商人たちも三々五々と群れをつくり、雑談や食事を取るか、ストレッチする人もいる。


「ルナ、今の内にも少し練習しよう」

「はい、わかった!」


 旅が始まってから、俺と姉さんは毎日の空いた時間を見つけて、ルナの魔術の練習を見ている。

 勿論俺と姉さんはどっちも魔術が使えないし、隊商(キャラバン)のすぐ隣に攻撃魔術を使うにもいかないけど、ルナが知ってる魔術を把握して、もしくは使うタイミングを教えるのも大事なことだ。


「えっと、接敵前にフィレンさんが合図したら加速(アクセラレータ)を、なかったら対能防壁(エネルギーレジスト)を準備して待機、だよね?」

「うん、加速(アクセラレータ)は中級魔術の中でも難しいですから、できるだけ温存しないと」


 俺は頷いた、それを見てルナは言葉をつづけた。


「そして攻撃魔術は火の球(ファイアボール)が一番早いから基本はそれで、あとは岩の槍(ストーンランス)氷の弾(アイスミサイル)

『あと酸の矢(アシッドアロー)ですよルナちゃん……』

「そうそう、ありがとうねスーちゃん」


 ルナが魔術と戦闘の勉強をしてる時、スーチンもずっと付き添ってるから、今やスーチンもこうやってルナが忘れたことを教える、もしくは落ち込んでる時に励ましてやっている。ルナちゃんさすがに成績優秀だけあって、その歳でもう中級魔術が使えるのだが、実戦経験がからっきしで、そのうち簡単な戦闘を経験させたいところだ。


「じゃ今日は加速(アクセラレータ)から練習するか」

「はい!」

『……今日は舌噛まないでくださいね……くすくす』

「あーそれ言わないでって言ったのに!」

『くすくす……』

「もう!すーはー……流れを汲み取る者の名の元に命じる、汝、大地を吹き撫でるかじぇっ、あうぅぅ……」

『ルナちゃん、大丈夫ですか!?』

「ううん、噛んだだけ、ううう……どうしてあたしはこんなことばかり……」

『……気にしないでくださいねルナちゃん、少し噛んでもいいですよ、ちゃんと最後まで唱えれば効果が出るってレンツィアさんが言ってたじゃありませんか』

「う、うん、じゃもう一回やるよ!」

『頑張ってくださいね』


 二人の練習風景を眺めて、今日はそろそろ一つ目の隊商宿(キャラバンサライ)につく予定だから、風呂入りたいなとくだらない事を考えた。


 その時、一匹のラバが前方から近づいた。

※《霊装鎧》については《20 いろいろ整理》に参照してください。

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