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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第三章 死に至る病
50/229

50 再戦(三)

※途中までレンツィア視点です

 十つ首のアンデッドが叫ぶ瞬間、私は屍霊(ナズグル)となって地を蹴った。

 このアンデッドが何なのか知らないけど、こっちにとって一番の脅威はソーエン。

 そして向こうから見れば、一番の脅威はソーエンと相性が最悪の私のはず。

 つまりこの場において最善の状況は私がソーエンを倒すこと。それができなくとも、ソーエンを含め相手の戦力を引き付けて、フィー君とソラリスさんが全力で戦えるのなら次善と言えるのでしょう。


 十数メートルの距離を一歩で踏み越え、貫手を放つ――

 の前に、十つ首のアンデッドの叫喚が石タイルをも潰しそうな勢いで私に降り注ぐ。

 まるで滝を遡るような圧力だ、さすがに足を止めせざるを得ないと思った瞬間、無数の岩の槍と巨石が一斉に襲って来た。


 もうソーエンを仕留める機を逃したと思いつつ、黒い霧――屍霊(ナズグル)化したら何故か出て来た――を解放して岩の槍を一掃、拳で巨石を砕く。

 ソーエンは浮遊(レビテート)で距離を取り、第二陣の岩の槍を雨のように降らせる。

 それと連携して、十つ首のアンデッドは音波の砲撃で牽制しつつ、炎のブレスを吐く。

 まずこいつ(十つ首)から仕留める!と、天井まで飛び上がって仕掛けようと、蛇のような素早さで這い回って、接近戦を避けていた。

 さすがに首が十つもあるというのか、なかなか知恵が回るアンデッドだね、と感心した。


「ねえ、いつまでそうやって逃げ回るの?」


 十つ首の牽制を避けつつソーエンを追いながら、岩の槍を掴んで投げ返す。

 追いかけっこを繰り返している内に、何かの儀式を進んでいた三人のローブの男がいつの間に林立した巨石の下敷になっている。

 ルナはこっち側にいなくてよかったと思った。


「喋らないで頂戴、化け物が!」


 癇に障ったか、口汚く罵るソーエン。


「あらら、テロリストに嫌われちゃったわ」

「貴方たちだって似たような者でしょう、ネクロマンサーの犬!」

「ゲゼル教国と比べればそんなに人殺してないつもりだけどなぁ、どうせブラックデスとやらも貴方達の仕業でしょう?そんなに人を殺して何がしたいの?本当に教国なんて再建できると思ってるの?」


 声が硬く、怒りを含んでいるのを自覚している

 ミステラの近郊であのゾンビの大群と遭遇した時、否応なく昔のアーデル村を思い出させた。

 平和だった村が一日で滅び、両親が食われ、親しかった村人がゾンビとなって襲ってくる、悪夢のような、実際何度も夢に出た光景だ。

 あの時、フィー君は何も言わなかったけど、きっと同じこと思ってるのでしょう。


「ふん、私たちをあんな狂信者たちと一緒にしないでくれないかしら?」

「あら、ずいぶん不信心な教徒もいるものね」


 飛来する巨岩を砕け、その欠片を黒い霧で天井にいるアンデッドへ弾き飛ばす。

 そろそろこの身体にも慣れて来た、原理がわからないけど、この黒い霧は身体の一部のように意のままに形を変えらせる、そして強靭だ。


「私たちは……ただあの土地へと帰りたいだけだわ……!」

「へ?」

「我が命じる、大地に潜む星を動かす力よ、その姿を示せ、焦熱岩漿(ラヴァーストリーム)


 ソーエンの詠唱と共に、石作りの床が崩れ落ち、火山口のようにマグマが足元から噴き上がる。

 さすがに高温のマグマでは防ぎようがないと空へ跳ぶ。

 すると、マグマがまるで生物の様に追いかけてくる、それと同時に、十つ首の叫喚とソーエンの岩の槍が届く!


「墜ちろ!」


 ソーエンが声を上げた。

 でも残念、マグナも岩の雨も私には届かなかった。


「そんな、アンデッドが死霊魔術を使うなんて」

「さすがにフィー君ほど上手くはないけれどねー」


 指を鳴らすと、マグマの直撃を食らって、無残に焼け落ちた二体のサンドミイラが消えた。

 《死配者の指輪》を通じて、フィー君の魔術を使うことができるけど、所詮自分の力ではないから、上級不死召喚サモン・グレイター・アンデッドも自分のすぐ近くにしか呼び出せないし、出てきたアンデッドもフィー君の命令しか聞けない。

 あくまで魔術の使い手はフィー君で、私はそのスイッチを預かってるだけということかな。


 丁度この時、ソラリスさんの対音防壁エネルギーレジスト・ソニックの力が伝わってきた。


「これで邪魔が入らなくなったね」


 もう叫喚に邪魔されることはない、私はソーエンに向かって走り出す。しかし、十つ首がそれでも邪魔しにくる。


「まだだわ!狂喚大蛇(スクリーミングナーガ)よ、主命を預かる者として、《咲け》!」


 ソーエンが命令を下した瞬間、十つ首が狂ったように叫びながら、ドーンっと、重厚な振動音と共に、その巨体が天井から落ちた。

 さっきまでと打って変わって、蛇のような身体を使って私に絡めてくる。

 手で千切ろうとしても、《斬り丸》で斬り裂こうとしても、断面から小さな蛇が湧いてきて、十つ首が見る見るうちに分裂してしまって、数十数百の蛇の牢獄と化していく。

 《破山砲》で弾き飛ばし、黒い霧で押し潰しても、恐ろしい速さで再生してソーエンまでの道を立ち塞がる。

 蛇の渦に纏わりつかれる私は、さながら石に縛られた川の神に捧げる生贄みたいかな、と下らないこと考えると、ソーエンの嘲笑う声が聞こえた。


「ふふふ、やはり化け物の相手は化け物に限るわ、エンマもたまに良いモノ作ってくれるのね」

「エンマってお仲間の死霊術師?」

「そう、生きる人より死人の相手をするのが好きの変人よ」

「ふーん、でも貴方たちにとっては死ぬのが安息でしょう?」

「言ったでしょう、あんな狂信者たちと一緒にしないでって」

「ゲゼル教国も一枚岩ではないってことかな」

「詮索しすぎると早死にしちゃうわよ」

「あら、ならこの場で殺されないってことかな」

「冗談」


 ソーエンは両手を上げて、詠唱を始めた。


「我が命じる、大地に潜む星を動かす力よ、その姿を示せ、焦熱岩漿(ラヴァーストリーム)並びに極大岩の槍ストーンランス・フルパワー


 マグマがソーエンの足元から現れ、蛇のようにくねり、今までと比べられないような大きさの岩の槍に纏わりつく、燃え上がるようにマグナを帯びる岩の槍が凄い勢いで回転し始める。

 さすがにこれを食らったらただで済まされないかな、と思った。


「さて、この一撃を耐えられるのかしら――――なっ!?」


 次の瞬間、私とソーエン、蛇の渦までもが光の奔流に呑まれた。

 そして私は、この世にもっとも聞き親しんだ、一番大切な人の呼び声を聞こえた。


 考えるまでもなく、私は蛇の群れを引き裂け、フィー君の元へと走り出す。

 たとえ目が灼けられて何も見えなくとも、たとえ全身を灼けるような強光に身を投じるとも、足が自然にフィー君の居る場所へと私を導く、心が自然とフィー君の考えたことを教えてくれる。

 手を伸ばす、フィー君の手を握る。

 なんだか一番最初に《翡翠龍の迷宮》に潜った時、フィー君を蛇龍(リンノルム)のブレスから助けるために引っ張った時を思い出す。

 ただ今回はフィー君が私を助ける番だね、そう信じて、私はフィー君と入れ違いの形で思いっきり引っ張って、蛇の渦に投げ飛ばした。








 光の波が引いていく。

 靄がかかってるが視界が戻ってくるのを感じる。

 姉さんに投げ飛ばされ、砲弾のように凄まじいスピードでソーエンへと飛んでいく俺は、視界が回復するのと同時に、ボンバーチルドレンで周りの蛇を一掃して着地、ぐるりと転んでそのまま《突進》で走り出した。

 ていうか何してたらあのアンデッドがこんなになってんだ、すごく気になるんだけど。


「なっ、どうして貴方が」


 ソーエンも突如飛んできた俺に驚いたのようだが、すぐさまその紫の視線を向けてくる。

 姉さんと違って俺はフルプレートを着込んでいるし、力も人並み、重力魔術に抵抗できるはずもないが。


「《解放》!」


 魔力を流して、一瞬で《龍装鎧》を身体からパージした。

 《乱壊鎧》に属しているこの鎧は、キーワード一つで無数の刃の暴風と化して、竜巻を巻き起こすはずなのだが、数十倍にも膨れ上がった自重に引っ張られて、全部の龍鱗が地に刺さった。

 おかげで、俺は自分の鎧に押し潰されこともなく、逆に身軽になってソーエンに向かってさらに加速!


「うおおおおおおおお!」


 再生する蛇を爆殺、その勢いで跳躍。

 ソーエンに手を伸ばす、まだ届かない。


「ッ、岩の槍(ストーンランス)!」


 もう遅い。

 腹と肩が岩の槍に貫通されるのを感じて、《闇夜のマント》からビャクヤを呼び出した。

 満身創痍の巨獣がソーエンを押し倒し、その下半身を食い千切った。

 ソーエンの悲鳴が響き渡る。

 魔術師相手だとまず口を封じる、ソーエンなら目を奪う必要もあるが、ボロボロのビャクヤがそんな細かいことできるわけもないから、とりあえず痛みで詠唱できなくなるようにしておいた。

 俺は夥しい血液を垂れ流しながら、ナタボウを握ってソーエンの側まで来ていた。

 人を殺せるような目で――実際その目でいっぱい殺しただろうな――俺を睨みつけるソーエン。


「残念だったな」

「よくもッッッ!呪ってやる、呪ってやるわ……ッ!」

「ああ、存分に呪え」


 振り下ろす。

 紫の光がしばらく宙に彷徨い、やがてナタボウに吸い込まれた。





 一方、姉さんとジューオンの戦闘は膠着状態に入る。

 速度も力も姉さんが上だが、ジューオンの神がかってる魔力制御と剣捌きに手を焼いているようだ。

 精霊(サラマンダー)形態のジューオンに有効打を与えないのも大きい。


「ちっ、やっとお前さんとやれるのによぉ」


 ソーエンの断末魔を聞き取り、ジューオンは不快そうに舌を打った。


「逃げるのなら止めないわよ?」

「それはありがたいが、そっちはいいのか?」

「これ以上戦っても意味がないしね」


 姉さんは俺の方を見る。

 ソーエンが亡くなった後、あの十つ首のアンデッドが数百の蛇に分裂してどこかに逃げた。

 残った敵はジューオン一人だけだし、勿論ここで欠片の適合者且つゲゼル教国の重要戦力を仕留めたいが、正直俺の傷はそれどころではない。

 今もリースに治癒術を掛けて貰ったが、動けるまではそれなりに時間がかかる、その間にジューオンの相手を姉さん一人任せるのは不安だ。


「そうか、じゃそうさせてもらうぞ、お前さんたちとはまた会う予感がする、できればその時に存分に斬り合いたいさ」


 そう言い残して、ジューオンは一陣の爆炎と化して、通路の大穴から去った。

 しかしこいつ、仲間が死んだのに淡泊というかなんというか……

 そえいえばガラハドが死んだ時、ソーエンも特にショック受けてなかったな、ゲゼル教国の人はみんなそうなのか。

 まあ、今はいなくなった敵のことより、


「さて、ルナは……?」

「気を失ったようですね」


 俺たちが戦ってた間、隅に縮まっているルナがいつの間に気を失ってるようだ。まあ無理もない。

 リースは俺に治療術を掛けた後、ルナを抱え上げて戻ってきた。


「お疲れ様、スーチン、そしておかえり」

『……ただいまレン姉ちゃん……』


 ルナの懐から遺灰の壺を回収して、《神降ろし》でスーチンを自分に戻した姉さん。


「あら、そんなに疲れてたの? ごめんね」

『ううん……いっぱい喋っただけですから……』

「ルナちゃんと友達になった?」

『……そうかもしれません……』


 姉さんの喋りながら、暖かい緑色の光とともに姉さんに溶け込むスーチン。


「今のは......」


 面食らうリース。そういえばスーチンとは初対面だったな。


「今のがスーチンだ、ソクラテの研究室に出会った女の子」

「ソクラテの研究室……トメイト町の依頼ですね、報告にはそのようなことがありませんが」


 やはり俺たちがこなしてた依頼を調べたか。


「ああ、あの時はギルドに説明のしようがないからな」


 俺は簡単に事情を説明した。


「そうなんですか、ではルナを助けたのも彼女のお蔭ですね」


 意外にすんなりとスーチンのことを受け入れたリース、俺たちのことでもう慣れたのかもしれない。


「ああ、一番の功労者だな」

「ありがとうございます、スーチンさん、そして勿論フィレンさん、レンツィアさんも」


 俺たちに向かって真摯な表情で礼を言ったリース。


「まあ、それより、そろそろ地上に出るか?」

「そうですね……」

「フィー君の傷はまだ治し切ってないし、私たちも疲れてるから、ここで休みましょう?」


 リースが思索を巡ってる内に、姉さんが押し止めた。


「え、ここで?」

「そう、ここは広いし、モンスターも入ってこないから安全だと思うよ?」

「それはそうだが……」


 俺は周りを見る、戦いの痕があちこちに残っている、奥にはソーエンと三人のローブ男の死体、そして謎の魔術陣。

 こんなところに一夜明かすのか、ていうかちゃんと休めるのか。


「そうですね、この状態で強力なモンスターと遭遇したら危険です、レンツィアさんの力も無闇に人目に晒されるものじゃありませんし」


 意外なことに、リースは賛成してるようだ。

 まあ俺も絶対嫌というわけじゃないから、別にいいか。


「そうか、じゃ簡単に片付こうか」

「フィレンさんはもう少し休んでてください、キャンプの準備は私たちに任せてください」

「そうね、フィー君はここでルナちゃんのことを見ててね、起きたら混乱するでしょうし」

「うーん、じゃ言葉に甘えよう」


 俺たちは死体を燃やし、テントを張って一夜を明かした。

 翌日、俺たちは《マエステラの大機関》を出た。



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