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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第一章 これからの姉弟
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5 骨さんのお願い

「――そうか、俺は姉さんを動く死体(レヴェナント)にしたんだ」

「ええ、死ぬかと思ってたのに起きたら死んでないしフィー君倒れているし、もうびっくりだよー」


 あれ、もう死んでるとも言えるよね、と首を傾げた姉さんをスルーして、俺は骸骨に振り向いた。


「で、話ってのはなんだ?」

「そうだな……っと、その前にまず一つ勘違いを解こう」

「勘違い?」

「うむ。君はどうやら彼女をアンデッドにしたと思ってるようだが、実際は少々違う」

「どういうことだ?魔術は成功したはずだろ?」

「その通りだ、君は死霊魔術の源となる《死霊秘法(アル・アジフ)》の力によって彼女の肉体を動く死体(レヴェナント)にした、そこまではいい。だが問題は死者創造(アニメイト・デッド)はあくまで死体を支配下にする魔術であり、人格まで生前のままにするのは無理だ」

「はぁ……?」


 骸骨の話を纏めると。死者創造(アニメイト・デッド)は生物の死体をアンデッドにする魔術であり、そこに死んだ本人の意志を宿すのは通常あり得ない。それに、ドラゴンの死体ならともかく、只人である姉さんから作られたアンデッドは動く死体(レヴェナント)が限界だ、喋るどころか、知恵すら持つことはない。


「じゃ今ここにいるのは?まさか偽物?」

「馬鹿ね、お姉ちゃんが偽物なわけないでしょう?」

「それは、彼女の力だ」

「そうだよ、よく分からないけどお姉ちゃんの力なんだよ、えっへん」

「無駄に明るいんだね姉さん……」

「せっかくフィーくんのおかげで生きているんだから当然だよ」


 骸骨によると、あの時、力を授けられたのは俺だけではない。レンツィアも、降霊術の源である《魂の酷使(ホノリウス)》という能力を得た。

 それは死者の魂を召喚して、物質に固定する力。それでレンツィアは死んだばかりの、魂だけの状態で自分の魂を蘇った死体に固定していたようだ。


 死者創造(アニメイト・デッド)からできたものはただの動く死体(レヴェナント)だが、それに魂がついてるなら話は別だ。もちろんそれで生物となることはないが、魂を持つ物体は一般的にリビングゴーレムかツクモガミかに分類されている。

 つまり姉さんの今の状態は、体はアンデッドのゴーレムみたいなものらしい。


「まさか魂だけの状態で降霊を成功するとは、いやはや大したものだな君の姉は」

「うふふ、それほどでもある」

「待て、その口ぶりだと姉さんが成功するとは思ってなかったの?」

「ああ、そもそもあの時、彼女がまだ意識があるとは知らなかったし、力与えるつもりもなかった」

「じゃなに? お前は俺に姉さんをただの動く死体(レヴェナント)にさせるつもりだったの? 意志もない肉人形に?」

「やだ、その言い方だと少し嫌らしいわね」

「姉さんは黙ってて」


 俺は非難めいた視線を骸骨に向けた。もちろんこいつが居なかったら、姉さんはあの時で死ぬ運命だった。だから俺も姉さんもこいつを責める資格など何一つない。

 ただ、騙されたようで不愉快な気持ちはあった。


「ああ、その通りだ」


 骸骨が頷いた、表情なんてないはずの顔が心なし笑っているように見える。いや、嘲っているというべきか。


「姉だった智慧無きアンデッドを前にして君の反応を見たかったが、なに、気まぐれの結果も悪くなかろう。かかか」

「お前……っ!」

「君たちは非常に幸運だった。あの時彼女が意識を取り戻し、《魂の酷使》を得て、そして魂での能力行使に成功した。どれ一つ欠けても今の彼女はいなかったであろう」

「そうだよフィー君、だから感謝しなきゃ」

「感謝……?」

「ええ、私たちの幸運に、それと骨さんにも、ね?」


 虚を突かれたように、姉さんのほうを見た。その顔には喜びに輝いてて。本当にただ自分のこの状態を喜んで、そしてそれに至るまでの総てに感謝の意を送っているようだ。

 しばし彼女の潤んでいる瞳を見つめていた、そこには自分のどこか戸惑って、後ろめたさを感じる顔が映っていた。

 そして俺は気付いた。

 俺は姉さんをアンデッドにした罪悪感から逃げるため、無理矢理に怒っているだけだ。

 理不尽な状況に追い詰められて、選べる余地など何もなく罪を犯した遣る瀬無さ、悔しさをただ目の前の骸骨に八つ当たりしただけ。そのせいで姉さんがここにいることを素直に嬉しく感じることをできずに居た。


「……ああ、お前……あなたに怒鳴ってごめんなさい。姉さんを救ってくれて、本当に……ありがとうございます」


 俺は骸骨に深々と頭を下げた。

 足元に水滴が一つ、二つ。

 姉さんは死んだけど、まだここにいる二人まだ一緒にいられる。やっと、それを実感することができた。

 でも姉さん、人前で頭をなでるのはやめて欲しい。


「ふむ、実によい姉弟だ。して君、名は?」

「レンツィア・アーデル。骨さん、あなたの名前も教えて?」

「ふむ、名はないと言ったはずだが?」

「でも名前がないといろいろ不便でしょう?それとも骨さんでいい?」

「ではフォー=モサと呼ぶがいい、この世界の名前だ」

「え、この世界の名前?」


 世界の名前なんて、聞いたこともない。都市の名前か、国の名前はいろいろあるけど、世界なんて一つしかないし、大陸だってただ大陸と呼ぶだけで、特別な呼称はしないはずだ。

 伝説では海の向こうにある大陸をエベローン大陸と呼んでいるが、この大陸をわざわざ固有名をつけて呼ぶ人はいない。


「そうだ、我が世界を作った時にそう名付けた。まあ、知っているのはミーロとソーロン、あとマエステラくらいか」

『え、えええええええ――!!!???』


 俺と姉さんが目を張って驚愕の声をあげた。

 世界を作ったって、創造神なの!? それにミーロ、ソーロン、マエステラって、太陽神、月神、魔法と神秘の神の御名じゃないか!?


「驚くことはあるまい、世界を作ったのだ、君たちが崇める神々も当然、我の作品である」


 どんだけスケールでかいんだよ、教会の人たちに聞かれたら首が飛ぶぞ。

 普通なら鼻で笑うようなうさん臭さだが、さきほどその力の一部だけを感じ取れたため、少し真実味を帯びる話ではある。

 しかし創造神が骸骨ってどうなってんだ? 恐ろしいというか、みすぼらしいというか。


「なるほど、創造神様ですねえ」

「姉さん、信じるの?」

「そりゃあんな凄い力与えるような人がわざわざそんな下らない嘘つくわけないでしょう?」

「はあ……それもそうだが」


 こっちはまだ驚きから回復できないのに、姉さんはどうやらすっかり受け入れていた。さすが我が姉、適応力半端ない。


「ではその、創造神様? 話というのは一体?」

「フォー=モサと呼べ」

「はい、フォー=モサ様」

「うむ、では話を続けるぞ。まあ、長くなるから座り給え」


 骸骨――フォー=モサが軽く手を振った。そしてまるで最初からそこにあるような、三つの椅子とテーブルが出現した。どうやら床と同じジェイド作りのようだが、腰を下ろすと温かみを感じる、良い座り心地だ。


「さて、我はこの世界の創造神であると同時に、奇跡の大元でもある。我はこの世界の誕生する時から地上を歩き、様々な能力を生き物たちに授けていた。力を与える時に、我の身体のほんの一部だけだが、その者に宿した。君たちの時のようにな。それで少しずつだが、我の身体は減り続けて、結局この姿になったのだ。まあ、奇跡をばら撒くのは趣味みたいなものだし、そもそも姿に拘りもなかったから、別にそれでもよかったのだ。しかし、気が変わった」


 フォー=モサがもう一度手を振り、後ろに大きいな水晶の塊が現れた。高さ三メートル弱、直径一メートルくらいの円柱体だ。その中には一人の女性――耳が尖ってるからエルフだろうか――がいる。


「我の世話役として、大昔にエルフの王から贈られた人たちが居てな、マーズはその一人だ」


 マーズという名のエルフが水晶の中で静かに眠っている。水晶の輝きと相まって静謐せいひつなる高貴さをかもし出している。エルフは皆顔が整ってると聞いたことがある、マーズも噂に違わぬそれなりの美人と言える。もちろん、姉さんとほどじゃないが。


「どうしたのフィー君、私を見て」

「いやなんでもない」

「簡単に言うと、我はマーズに恋をした」

「へ?」


 思わず変な声を上げた。


「驚くのも無理はあるまい。我自身も、まさか我が生き物に近い感性を持ってることに大いに驚いた。普通の生き物のように恋をして、その相手に愛を乞う、実に素晴らしいことだ。しかし見ての通り我は骸骨だ、この姿に求められて喜ぶ女はいまい。もちろん幻覚でいくらでも誤魔化せるが、我は本当の姿で求愛をしたいのだ。故に、君たちに一つ、願いがある」

「?」


 俺たちは揃ってはてなを浮かぶ顔をしている。今の話からどうやって俺たちにお願いとやらに繋がるんだ?


「奇跡を、我の欠片を取り戻せ」


「我の与える欠片は、その人たちの血に宿している、持ち主が死んだらその血脈に潜んでいて、適合者が現れたら再び顕現する。そして子孫を残すことなく死んだ場合、その力は我の元に返る、君たちの《死霊秘法》と《魂の酷使》もそうであった。まあ、そういう例は滅多にないが」


 前の所有者、生涯独身だったのか……。


「じゃどうやって奇跡を取り戻すの?」

「簡単だ、我が適合者の前に行って身体から取り出せばいい。」

「え、じゃ行けば?」

「面倒だ」

「はあ?」


 この骸骨、何言ってるの?


「力を与えるのは趣味だが、一々回収するのは興に乗らん。故に君たちに代理を頼む、我の欠片を回収してくれ」

「えっと、欠片を取り出したら、その人の力は消えます?」

「勿論だ」

「はあ……それは難しそうですね。まあ、別に構いませんが、どうやって取り出すのですか?」

「剣を出せ」

「あ、はい」


 言われた通り、バスターソードをテーブルの上に置いた。

 俺が使った剣は一メートル長で片刃しかなく、反対側、所謂峰のほうはかなり厚い、そして先端には抉るための突起も付いている。ぶっちゃけごつい鉈のような武器だ。ちなみに銘はナタボウ、名付け親は姉さんだ。


 フォー=モサが手を振り、そして紫の光がナタボウお包んで、一瞬で消えた。


「何した、いえ、しましたか?」

「これで適合者を殺せば、欠片は我に返る」

「はああああ!?」


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