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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第三章 死に至る病
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49 再戦(二)

 光の鎖に縛られて、脅威の機動力が奪われたジューオンに、俺は切りかかる!

 その瞬間、俺が見たのは、嗤ってるジューオンだった。




 烈火が猛る。

 さっきまで人型だったジューオンが一陣の真っ赤な爆炎と化して、二体のサンドミイラを飲み込んだ。

 燃え上がる火柱を縛れるわけもなく、光の鎖は力なく地に落ちた。

 白い光を爆ぜて、サンドミイラの身体を熔かしながら、ジューオンだった烈火が舌を見せ、地を舐めるようにリースへ一直線に伸びる!


「リース!」


 俺は《突進》でリースを退けて、焔の進路に立ち塞がる。すると、猛焔の中には、一本の赤い凶刃が現れた。それを防ごうとした時、


『《朧》』


 一瞬、切っ先がぶれて、そして屍霊(ナズグル)の姉さんをも破れた最速の剣筋が一点となって心臓へ奔る!


「ビャクヤ!」


 ビャクヤが吼える。

 不可視の赤い剣先が、《闇夜のマント》から飛び出すヤギとトカゲの首を紙のように貫通して、獅子の牙にてようやく喰い止められた。信じられない威力だ。


「仕留め損ねたか」


 剣身を炎にして獅子の口から引き出す、ビャクヤのブレスを避けて、ジューオンは再び距離を取った。


「フィレンさん、大丈夫ですか!」

「大丈夫、それより、用意してたあれを」

「え?しかし今となってあれは……」

「大丈夫だ、俺を信じろ」


 話してる間に燃え上がる炎が再び人型を取って、剣を持つジューオンに戻った。

 火と同化する、半霊体……いや、精霊(サラマンダー)化、それがジューオンの欠片の能力か。

 離れ業の魔力制御が欠片の恩恵かと思ったら自前かよ。

 その剣とコートも焔と同化してたところを見ると、恐らく能力に合わせたの特注品だろう。


「まったくしぶとい小僧だな、こっちはお前さんなんかよりあっちの女とやり合いたいのにさ」

「はっ、残念ながらうちの姉さんを見ず知らずの男に合わせるわけにはいかねぇよ」

「おいおい、そっちにはもう別嬪さんが一人いるだろう、こっちにも一人くらい分けてくれよ」

「姉さんはやらん!」

「何マジ切れしてんだ親かよ……」


 くいっと、後ろにいるりーすがマントの裾を引っ張って、俺は微かに頷いた。


「おいお前ら、あちこちに人攫いしてたみたいんだけど、何が目的だ?」

「さあな、考えるのは俺の仕事じゃないさ、ただ仲間が人を集めたいって言ったからやった、それだけだ」

「ルナを攫うのもか?」

「あのガキか? ヴァンパイアだから別にいいだろう、それともなんだ、ネクロマンサーだからヴァンパイアのサンプルが欲しいとか?」

「ふざけんなよてめえ、ルナを攫う目的を聞いてるんだ」

「たとえ知ったとしてもお前さんに教える義理があるとは思わんがな……まあいっか、別に口止めされてないし。こいつの父親?が偉い人だったから攫って来いって言われただけさ」


 ジューオンが剣柄で隅に身体を縮まっているルナを指して言った。

 父親?アイン・ラッケンのこと?それとも生みの親?


「父親?誰だそいつ?」

「さあ、これ以上の事は知らん、知りたければうちの大将にでも聞け、ここにいないがな」

「じゃブラックデスをばら撒いたのもお前らか?」

「そっちは俺の担当じゃないからな、まあ一応肯定しておこう」


 やはりブラックデスの裏にはゲゼル教国がいるのか。

 しかし何のためだ、ただ国を弱らせるためか、それとも何か別の目的?


「なあ、そんなことより、そっちの別嬪さんも準備が整えているのだろう?そろそろおっぱじめようか」

「ちっ」


 さっきから後ろのリースが神術の準備をしているのがバレたみたい。

 どうせもうバレたからと、リースは小さい壺を振って、輝く粉のようなものを周りに撒いて呪文唱えようとした。


「我が誓う――――」


 《電光石火の杖》を用いても無詠唱まで短縮できなかった大規模の神術、その渦巻く神力が輝く粉を巻き上がって、白い力の竜巻を作り始めた。その膨大な神力にさすがのジューオンも舌を巻いたようだ。


「――太陽の名の元に、生を受けるモノに告げる――」

「へっ、これは終るまで待つわけにはいかねぇな!」


 詠唱を紡ぎ続けるリースに、轟ッと、一陣の爆炎と化したジューオンが襲い掛かる!


 俺はサンドミイラとボンバーチルドレンを召喚して待ち構える。

 炎状態のジューオンは火の精霊(サラマンダー)と同じ、普通の物理攻撃では効かない、魔術に強化(エンチャント)された武器でしか傷つけない。

 しかし火の精霊(サラマンダー)は色んな意味で炎そのものであり、環境の影響を受けやすい、だからボンバーチルドレンの爆風で吹き飛ばせると思う。精霊(サラマンダー)化はやっかいだが対応できないこともない、と思ってたが、そう簡単にはいかないようだ。


 ジューオンは身体の一部だけを炎に変化してサンドミイラを焼き殺し、そして巧みな動きでボンバーチルドレンの爆発を避ける、俺の一瞬の隙を捉えて、《瞬歩》で死角から一気にリースに迫る!


 「ちょこまかと……!」


 ジューオンの剣をなんとか防いだ、しかし続け様の斬撃に段々ついていけなくなる。

 剣腕の差もあるが、赤い長剣から発する衝撃がナタボウを思わぬ方向へ弾いて、そのせいでどうしても防御に戻るのが遅くなる、まるで自分の武器がジューオンに操られたようだ。

 対してジューオンは容赦なく俺の隙に斬り込んでくる、自立で行動するビャクヤの尻尾が牽制の刺突を仕掛けるけど、ジューオンは《黒棘》の切っ先を見極め、体の一部を精霊(サラマンダー)にして、避けるまでもなくビャクヤの攻撃をすり抜けさせた。

 もともと近接戦ではジューオンに何段も劣る俺がリースを守りながら相手にするのは無理がある、まして今のジューオンは精霊(サラマンダー)化という変則な動きもしてくるようになった。俺は一方的に攻められて、《龍装鎧》の傷が増えてばかりだ。


「ほら、隙ありだぞ!」


 俺の横から抜き去ろうとしたジューオン。

 その顔面に横薙ぎ。しかし、信じられないことに、ジューオンがその場から消えちまった。


「なっ」


 次の瞬間、ジューオンがなんとナタボウの上に立っていた。


 俺が剣を振り抜く一瞬の間、ジューオンの速度が爆発的に膨れ上がった。ギリギリで斬撃を避けて、宙転して俺の剣速に追いつき、そのまま剣に乗った。

 流水のような一連の動きがまるで舞踏のような、そして瞬くにも満たしてない間に完成された。

 一方向に全身を飛ばす《突進》と違って、全身のあらゆる動きに違う方向のブーストを掛けた、魔力制御とバランス感を問う、難易度も段違いの戦技《絶影》。聞いたことこそあるが、俺に戦技を教えた探索者も物に出来なかった極めて難しい戦技だ。


「しゃあああ!」


 それをいとも簡単にやりのけたジューオンが、上から落雷のような一撃を放つ!

 咄嗟の判断でナタボウを手放し、後ろへ飛びずさる。

 しかしジューオンはすぐさま斬撃を刺突に変え、まるで重さなんてないように空中から跳躍、文字通り空を駆けて追ってくる!


 《絶影》だけじゃなく、空を歩く戦技《閃空》も使えるのか!


「ビャクヤ!」

「逃がすか!」


 俺は仕方なくビャクヤの翼を羽ばたけ、後ろへ更に大きく飛びずさる、毒蛇のように追尾するジューオンだが、さすがに空中では動きが鈍いか、剣先が俺の喉を捉えきれず、首の横を切り裂いた。水が飛び散るように血が噴き出した。


「ごめん、リース!」


 着地するジューオンと少しでも距離を開けたくて、俺は傷に気使う余裕もなく、そのまま後ろに飛んで、リースにぶつけた。そしてリースを脇に挟んで距離を取った。ジューオンはすぐ追撃してくるが、何体もののサンドミイラを壁のように立てて、ボンバーチルドレンで絨毯爆撃を行った。


 「ちっ、デタラメな」


 地面にすれすれな体勢で爆風を避け続けてるジューオンは数体のサンドミイラをいとも簡単にすり抜け、執拗に追ってくる。


 「満遍なく生の喜びを与えてくれる大いなる力の源よ、我が手にその力の断片を――」


 ファントムのサイコキネシスでナタボウを取り戻し、リースの詠唱もいよいよ終わりが見えてくる。

 だがジューオンもまた、これ以上ないの殺気をぶつけてくる!


 「これを――避けてみろ小僧!」


 喉に迫る赤い剣先を切り上げ、また有らぬ方向へと弾かされると思ったが、刃を交じる瞬間、さっきより数倍も強いエネルギーが剣を弾くのではなく、ジューオンのほうへ引き寄せるのだ。


「馬鹿なッ!」


 まさか、魔力を俺の剣にまで流して、そこから運動エネルギーに変換してたのか、どこまで化け物かこいつは!


 自分の剣に引っ張られて、思わずバランスを崩した俺に、ジューオンは二メートルの長剣を構え直す様子もなく、《絶影》でほぼノーモーションで最速の刺突を放つ。しかもサラマンダーの炎を帯びている剣身が、周りの空気を歪め、切っ先を、いや剣身ごと一瞬陽炎の様に消失させている。


「《一の剣・倚天》!」

上級不死召喚サモン・グレイター・アンデッド


 もはや殺意の奔流となり、命を刈り取る不可視の赤い長剣がしかし俺の心臓に辿り着く前に、ボンバーチルドレンの爆発によって炎とともに吹き飛ばされた。

 勿論至近距離で爆発の威力を受けた俺も、いくら《龍装鎧》があってもただでは済まさないが、心臓が貫かれるよりはマシだ。触発治癒(リカバリートリガー)が発動したのを感じながら、俺は何とか立っていた。

 そしてリースの詠唱が終わった。


 「――我々の道に輝く光があらんことを、烈陽天墜(サンバースト)!」

 

 まるで小型の太陽が降臨したように、周りが強烈な光で溢れ返している。


 烈陽天墜(サンバースト)とは最上級神術の一つ、太陽神ミーロのフェイバードソウルであるリースが念入りに事前準備してようやく使える神術。これが生物であればダメージ自体は大したことなく、生身で食らっても多少火傷程度だが、あまりにも強烈な光に、敵味方問わず数秒間視界が奪われること必至。

 元々はソーエンの目を奪う手段として用意して、初っ端からぶっ放すつもりだったが、味方にも効果が及ぶし、それに俺たちとの相性が最悪だから結局使わなかった。

 烈陽天墜(サンバースト)はアンデッドの天敵である、グール、サンドミイラが食らったら蒸発、ビャクヤすら危ういから《闇夜のマント》に引っ込ませた。姉さんならある程度大丈夫とは思ってるけど冒険はしたくない。

 それに俺のアンデッドが一掃されたら、たとえ数秒の時間を稼げてもジューオンに斬り殺されるのがオチだ。

 だが今は違う、光溢れる白い世界に、俺は動き出した。


「姉さん!」


 たとえ目が見えなくとも分かる姉さんのところへ走り出す、右手を前に伸ばし、姉さんが俺の思いを汲んでくれると信じて。

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