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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第三章 死に至る病
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42 ジューダスの町

「ハーフヴァンパイア?」


聞きなれない単語を思わず繰り返したリース。


「はい、これは極めて珍しい事例ですが……」


 レキシントン先生の説明によると、ハーフヴァンパイアとはヴァンパイアに血を吸われた妊婦から生まれた子供のことだ。普通、ヴァンパイアに吸血された人は死ぬが、かなりの異例として、ヴァンパイアが気まぐれに下僕や仲間を増やしたいと思ってる時に、吸血と共に自分の血を与えれば、その人は死んだ後ヴァンパイアとして生まれ変わる。


 そして妊婦がヴァンパイアになる場合、やはり死産になるのがほとんどだが、稀に子供が生まれるらしい。それがハーフヴァンパイアだ。

 あまりにも珍しいから、何故今になって急にヴァンパイアの特徴が出て来たのかは分からないが、考えうる可能性はそれだけだと、レキシントン先生が言った。


「……話は分かりました、つまり、ルナにヴァンパイアの特徴が現れて、そのせいで学院から迫害され、学院を去りました、と」

「い、いいえ、我々は決してそのような、しかし、生徒の中には心の無い言葉を投げる者もないとは限らず……」

「それを放任したということなんですね」

「勿論、その講義の教授には厳重な注意をするつもりで……」

「必要ありません、そもそも生徒一人が消えたというのに無作為のままでは自治権を与えられた方としては怠慢としか言えません、我が州民のためにも、これからは州衛兵をミステラに駐在させるようと進言します」


 ミステラは学院と共存してる町、そして学院は国に直属し、ある程度の自治権を与えられた、その中には治安権も含まれてる、それを維持できなければ、面子が丸つぶしと言っても過言ではない。

 案の定、学院長の顔がこわばる。


「それは……」

「ソラリス様、こう考えてはいかがですか?」


 学院長が言葉に窮すると、横にいる男がまた話し始めた。


「勿論我々はこれから総力を上げて妹君の搜索に当たりますが、妹君の身に起こる異変は既に学院中知らされてます、ですから妹君がこれからも円滑に学院生活を送れますようにと、我々も尽力しなければいけないので、出来ればソラリス様とは良好な関係を築けたくと存じます故……」

「あなたは……ッ!」


 つまり、ルナがハーフヴァンパイアだと知らされたら、一番困るのがルナとリース、そして学院の中にそれを隠し通せるのは学院長の協力がなくてはいけない。

 つまり、協力してやるから今回の件は黙って貰おう、というわけだ。


 憤るリース、しかしルナのことを考えて逆らうわけにもいかない。

 その時、また扉を叩く音が響いた。


「ん、誰かね?」


 どうやら学院長の客ではないようだが、レキシントン先生が代わりに扉を開いた。

 入ってきたのは、レキシントン先生の生徒のエルタさんと、赤髪の育ちの良さそうな少女だ。


「こちらはルナさんのルームメイトのアリーザさん、ルナさんとは親しい友人である故、何か知ってるのではと思って勝手ながら呼ばせて貰いました」

「おお、ではアリーザさん、ルナさんのことについて何か知ってるのかね?」


 学院長はすぐにレキシントン先生の話に乗って少女に訊いた。

 アリーザという名の少女は、いきなり知らない人たちに囲まれて、すこし萎縮してるようだが、ゆっくりと喋り出す。


「ルナさんとは親友なんです。あの日、ルナさんの身体に変な事が起こった時に側には居られませんでしたが、その後話を聞いて、講義中に何かされたようで腕には傷が少し残ってました」

「傷ですかっ」


 一瞬また切れかけてるリースは、さすがに妹の親友に当たることではないと自分を抑えた。


「はい、ルナさんは何も言ってくれなかったのですが、恐らく縄でキツく縛られたのかと……」

「縄で……」


 やりすぎ……でもないか。

 いきなりヴァンパイアの特徴を現わす相手を怖いと思う気持ちは理解できる、パニック状態になった集団が脅威を取り除くのもある意味自然と言えるかもしれない。

 しかし、よく知り合っている少女にそんなことするのは、お互いの心に大きな傷を残してしまう。

 ルナから見ても、親しかった人たちのいきなりの変貌ぶりには戸惑いを感じずにはいられないだろう。


「このままではいつか殺されますと、ルナさんは学院を出るとお仰いました」

「どこか行くとかは?」

「お姉さんのところに戻りますって」

「しかし、ここへ来る途中は会っていませんわ……」


 四日前に学院を出て、ラカーンへと向かったのなら、俺たちと鉢合わせるはずだ。

 リースが眉を顰めて、すり違いかどうかは分からないけど、せっかくの手掛かりも役に立たないと知った途端がっかりしたようだ。


「あ、護衛になる探索者を雇いたいとも言ってましたから、それならギルドに行って依頼を出すのがいいと私が教えましたわ」

「ギルドか、なるほど」

「フィレンさん、どうしました?」

「いや当日の依頼ではなかなか受け手が見つからないのでな、もしかしてそれで近くの街のギルドに行くのかもしれない」


 そういう場合は、ギルドから最寄りの街へと紹介することもある。


「近くの街……?」

「ここから馬で半日ほどにジューダスの町があります、たしかに探索者ギルドもあります」

「その町はどこにありますか、レキシントン先生!?」

「案内しますよ、君たちには恩がありますし、あたしも気になっていますから」

「ありがとうございます!」


 すぐに立ち上がって、扉へと歩き出すリースは何か思い出したように足を止め、わずか振り返って、


「……学院長、貴方達の協力には感謝しています、妹が無事に帰って来ました後も、どうかよろしくお願いします」

「おおぅ、勿論ですとも」


 学院長の気の抜けた笑顔を背にして、俺たちはリースに続いて学院長室を出た。



 ジューダスの町に行く前に、ミステラのギルドに確認を取った。四日前に、確かにラカーンへの護衛依頼があった、依頼人はローブで全身を覆っていたから印象に残ってると受付の人が言った。

 当日依頼なのでなかなか人が集まらず、それならためしにジューダスの町に行くのはどうですかって勧めたのも覚えてるようだ。


 それを聞いて、俺たちとレキシントン先生は最速でジューダスの町に赴いた。


 リースの話によると、ルナは馬に乗れるらしい。つまり、ルナがジューダスに行くには一日も掛からないはず、そこからラカーンに向かえば、やはり俺たちと鉢合わせるはずだ。


 つまり何らかの理由で出発を遅れた、もしくはトラブルに巻き込まれたということになる。

 奴隷攫いの事が頭をよぎって、俺はまだ見ぬリースの妹の無事を祈った。




 ジューダスの町につくと、そこは騒動の渦中である。


 それなりに大きな町だが、鼎の沸くような狂騒に支配されている、町人は皆家には居られないように、道という道に人が溢れ返している。目につく人々がざわつき、男がいきり立て、女子供は不安におびえてる。町全体が一つの生物のように唸りを上げてる。息苦しい空気が町全体を瀰漫していて、何かよくないことが起きていると、予感がひしひしと言っている。


「人が多すぎて動きにくい、私たちはギルドに行く、フィレンさんとレンツィアさんは――」

「わかった、騒動の中心にいく!」

「先生は私たちとはぐれないでね!」


 ギルドに行けば恐らくルナの手掛かりがあるだろうが、この状況だから、もしルナがこの町に居て、何かのトラブルに巻き込まれたらじゃ遅いから時間重視で二手に分かれるのがベスト。

 そしてロザミアさん的に、リースを守るのが最優先だから、レキシントン先生はこちらが預かるのが良いだろう。


 町人は一見無秩序に見えるが、みんなある方向に向かうか、その方向を眺めている。何か期待していて、何かを恐れている表情で。

 俺たちは人だかりの隙間を縫うように進む、すり違う人々は俺たちに気にする余裕もなく、ただ何かに気取られてるように、興奮してるように彷徨っている。


 沸き上がる坩堝の中心は町外れの広場にあった。

 そこにはうず高く積み上げられた薪、木で作られた枠には萱が積み込まれ、そこには油がまき散らしていた。中央には一本の丸太が立ち、鉄の鎖でもって一人の少女を縛り付けた。少女は口が塞がれて、銀髪が風で乱れ、絶望に震えてる紅い瞳から涙が溢れだす。


 火刑だ。

 火刑が行われようとしている。


 広場には観衆が沸き上がっている、男も女も、老人から赤ん坊まで、誰もがまるでそうせずにはいられないように吼えている。狂気が広場に渦巻いて、人々を支配している。


「ジュゥゥゥゥーダァァスゥゥゥの人々よおおおおおお、我々はぁぁもうブラックゥゥゥデスに脅える必要はないのだああああああ」


 火刑場の前に、一人の太った中年が、これでもかという大音量と、身振り手振りで喚いている。


「彼の厄病の源、死をもたらすブラックデスの元凶、ヴァンパイアを、我々はついに捕まえたのだぁああああ」


 汗と唾を飛び散らし、目が血走って、取りつかれるように町の熱気にさらに油を注いている。


「今からぁぁぁ浄化の火をもってえええええ、極悪なヴァンパイアに裁きをぉぉぉぉ病に倒れた我が同胞の仇を取るのだああああ」

「えい」

「ぐぶっ」


 姉さんはぴょんぴょんと人ごみを飛び越え、太った中年を突き飛ばし、一発で沈黙させた。

 急劇な出来事についていけず、大半の町人がぽかーんと口を開いたまま動けずにいた中、数人の男が駆け寄って誰何している。それをまったく意に介さず、姉さんはまだ人ごみをかき分けていく俺に、


「しっかり受け止めてね」


 言い放って、一蹴りで丸太を切断した。


「ええええええええええ――――!」


 二メートル超の丸太が蹴りの勢いに乗せて、俺目掛けて倒れてくる!

 周りの人々が蜘蛛の子のように四方へ逃げ散るが、俺だけ逃げずにいた、いや、逃げるわけにはいかなかった。


「おらああああぁ!!!!」


 両腕が千切れそうになりながらも、俺は丸太ごと少女を受け止めた。赤い両目を見張って見上げる少女の口からボロ布を取り出し、


「ルナ・ラッケンだな?」


 少女は一瞬躊躇って、こくこくと頷いた。


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