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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第二章 ラッケン州長の依頼
31/229

31 再会

 

 翌朝、姉さんは溜息つきながら俺にデコピン食らわせた。理由を訊いても教えて貰えなかった。

 その後まるで何もなかったように俺たちの朝食作って、それを食べた後俺たちは出発した。


 早めにフィリオさんたちと合流したいから、俺はリースがダンジョンに詳しくないのをいいことに、生者探索ディテクトリーヴィングを全開して、モンスターを回避しまくりながら階段へ目指す。

 かなり不自然なルートを辿っていたが、リースは特におかしいと思ってないようだ。

 運がよかったのもあって、ほとんど戦闘せずに丸一日を掛けて階段に辿り着けた。

 暗殺者たちもこの速さを予想できなかったか、道中にそれらしき人型生物はいなかった。


 しかし、


「まあ、やはりいるよなぁ」

「フィレンさん?」

「たぶんだけど、階段のところに奴らが待ち伏せしてる」


 まだ数百メートル先だが、階段の影に十数体の人型生物がいるのを探知できた。


「どうします?」

「うーん、この地形じゃ突破は無理だろうな」


 階段に隠す場所などないし、たとえ突破できても後ろから撃たれるのがオチだ。

 せっかくこっちが先に発見したから遠くから敵を減らしたいが、まだリースの神術の射程に入ってない、それに相手は暗殺のプロだ、あと少し近付けば気付かれるだろう。


「正面から全員を仕留めるしかないでしょうね」


 姉さんはやる気満々だ。


「まあ、それしかないか」

「私が先行する、フィー君はソラリスさんを守って」

「フィレンさん、無理しないでくださいね」

「了解」


 もう触発治癒(リカバリートリガー)がないしな。

 ちなみにあの後リースに訊いてみたら、彼女も触発治癒(リカバリートリガー)を受けているから、あの時はただの庇い損だった。

 リースは触発治癒(リカバリートリガー)の金を出してくれるって言ったけど、そんなカッコ悪いことするわけがない。





「我が誓う、三千の光威を射するものなり、灼熱の輪(シアリングライト)!」


 階段の前に眩しい光の爆発を起こして、俺たちは飛び出した。

 目晦ましの閃光塵(グリッターダスト)もいくつ使って、どれくらい効果があるかは知らないが、使わない手もない。


 姉さんは素早くを距離を詰め、蹴りで一人を短剣ごと両断した。

 しかし暗殺者たちに動揺する様子もなく、すぐ六人が姉さんを囲い込み、他はこっちに向かって来た。


「おらおら!」


 扇状に散開して襲いかかる暗殺者たちに、俺は《乱壊嵐》で時間を稼ぎ、リースが呪文を唱えた。


「我が誓う、迷える羊に安息の場所となりて、聖域(サンクチュアリ)!」


 眩い光がリースを包み込む、これで十数秒間身動き取れなくなるが、外からの干渉を防げるはずだ。


上級火の爆裂グレイター・ファイアバースト!」


 《闇夜のマント》の下から八骸の番人(デュアルガーディアン)を呼び出し、詠唱の振りをして、魔術を打ってもらった。

 猛る焔の竜巻が四方八方に暗殺者たちを飲み込む!


「魔術戦士か!?」

「まだまだ!」


 焔の竜巻の中心に、俺は一番近い二人へと走り、また閃光塵(グリッターダスト)を叩きつけ、スカルドラゴンを呼び出した。


「うわあああ」

「こいつ、変な技を!」


 巨大な顎と尻尾がそれぞれ一人の上半身を喰らい、もう一人の足を切り落とした。

 だが向こうはまだ五人もいる。

 姉さんを囲んでる六人は足止めを徹して、牽制しかしてこないからそう簡単に片付けることはなさそうだ。

 ならば、自分でなんとかするしか!


「我が誓う、光威を世に示すものとなりて、警世通言リサイテーション・リバース!」


 喩世明言(リサイテーション)の応用術、広範囲の敵の能力を抑える神術だ。

 それと同時に俺も奪霊領域ライフリーチフィールドを全開にして、聖域(サンクチュアリ)に守られてるリース以外の生き物の生命力を一気に刈り取る!

 敵から見れば、リースの神術によって一瞬で有り得ないほどに疲労困憊になったのだろう。

 一方俺はダンジョンを丸一日歩き回ったのに元気が溢れるばかりだ。

 これなら、いくらでも戦える!


「よし、まだまだこれからだぜ―――え?」


 生者探索ディテクトリーヴィングの反応に、俺は戦慄いた。

 暗殺者たちがそれでも襲いかかるが、そんなのどうでもいい!


「姉さん、リース、逃げろ!」


 叫んだ瞬間、


 GUAAARYYYAAAAAAAAAA―――!!!!


 暴力的に威圧感を撒き散らして、俺たちの頭上から、蛇龍(リンノルム)が飛び降りた。


 全長が二十メートルもあるの巨体が膨大な質量を持って地面と激突

 数人の暗殺者が逃げ遅れ、そのまま下敷きになった。

 辛うじて直撃を避けた俺たちも余波で吹き飛ばされる。


 忘れもしない、これが俺たちが遭遇した蛇龍(リンノルム)――餓龍だ。

 翼もないのに二層から飛び降りて、百メートル以上の高さから落下してデカいクレーター作ったのに灰色の龍鱗に傷一つもない。

 餓龍は赤い目で不運にもこの場に居合わせてる生贄を選定して、嬉しげに喉から鳴き音を上げてる。


 しかし、幸運にも俺たちが今いるのは、餓龍から見れば階段の上だ。

 しかも餓龍はどうやら暗殺者たちのほうに関心を持っているようだ、すでに何人も嬲り殺してる。

 つまりこのまま逃げ切れば二層に辿り着ける。逃げ切れば、だがな。


「姉さん、リースは任せる!」

「まったくいつも無茶するだから」

「きゃっ」


 姉さんはリースを脇に抱えて、全力で階段を上る。

 俺はというと、やはり逃げ出す獲物はすでに死に体の暗殺者たちより魅力的に見えるか、こっちに向き返った餓龍と対峙している。


 GURRRRAAAAAAAAAーーーー!!!


 酸液のブレスを避けて、視界の端に姉さんたちがすでに見えなくなったのを確認して、俺は数体のスカルドラゴンとファントム、そして八骸の番人(デュアルガーディアン)も呼び出した。


「シーちゃん、リアちゃん、足止めお願い!」

蛇龍(リンノルム)か、相手にとって不足はない!』

『やるぞやるぞあたしはやるぞー』


 しかし蛇龍(リンノルム)は尻尾でスカルドラゴンを一掃し、ファントムの魔眼も全然効かない。

 八骸の番人(デュアルガーディアン)の魔術に対してもまったく堪える様子がない。

 まあ、これでどうにかするわけないよな。


「第二陣、ボンバーチルドレン!」


 俺は続いて多数上級不死召喚サモン・グレイター・アンデッド・マスを唱え、十数体の子供型のアンデッドが影から飛び出した。

 見た目はぬいぐるみを抱えている子供だが、命令一つで魔力と身体が全部爆発エネルギーに変わる立派のアンデッドだ。

 ソクラテ研究室謹製、悪趣味この上ないのシロモノだ。


 GRUUUUUUUーーーー!


 ファントムのサイコキネシスでボンバーチルドレンを運び、餓龍の頭上から投下する。

 さながら絨毯爆撃だ。

 ついでに餓龍の足元に居る負傷してるはずの暗殺者にもトドメを刺した。

 餓龍は怒り狂うが、爆発の衝撃で上手く動きとれないようだ。


「足止めはこのくらい、か」


 俺はこの場をアンデッドたちに任せて、八骸の番人(デュアルガーディアン)を回収して背を向けて全力で階段を上る。

 餓龍は追いかけてくるが、足場が次々と爆発してるのせいで上手く走れず、どんどん引き離されてゆく。

 よし、これなら逃げ切れる、と思った時、


 GRRRRRRRUUUUーーーー


「な、なんだこれ!?」


 周りから黒い触手が現れ、俺の全身を縛り上げた。

 これは、黒い触手(ブラック・テンタクル)か!

 餓龍って魔術も使えるのかよ!


 餓龍は尻尾の一振りでボンバーチルドレンを全部爆発させて、ブレスでファントムを散らした。

 そして怒り狂ってる目付きで身動き取れなくなった俺に近づく。


「くっそ、こんなもの……!」


 冗談じゃねぇ、まだ姉さんとしたいことが一杯あるんだぞ!

 剣を振るえないから俺は口で触手を食い千切る、だがすぐさま他の触手が生えてきて俺を縛りつける。

 それでも引き裂いて、食い千切って、全身全霊で足掻く。


 GRRRUUU……


 俺をどうやって楽しむか考えてるように、醜い大口から牙が覗かせる、できればその蜥蜴顔にパンチ一発ぶちこみたい。

 この姿が嗜虐性を刺激したか、餓龍は目を細めて、嘲笑うように口を裂いた。


 しかし、その笑みを歪ませる人が居た。


「フィー君から――――離れなさい!」


 ドガッと餓龍の鼻先に全身を乗せたキックと共に現れた我が姉。


「姉さん!?」

「ぶい」


 不敵な笑みを浮かべる姉さんは俺にピースをした。


「ぶい、じゃねぇよ!」

「大丈夫、ソラリスさんはちゃんと隠した」

「違う、俺を――」

「置いていけとか言ったら蹴るからね?」

「――」


 GURRRRAAAAAAAAAーーーー!!!


 姉さんのキックは餓龍の鼻先に傷つけたが、それは身体全体から見れば蚊に刺さったにも等しい。

 しかし餓龍にとっては傷つく自体が耐え難いことなのか、とにかく怒り狂って姉さんを執拗に攻撃を仕掛ける。

 そのいずれもぎりぎりのところで避けたが、それもいつまで持つか。


 GURRRRAAーーーーー!


 ブレスが避けられ、怒り心頭の餓龍がようやく俺を思い出したように振り返った。

 姉さんが距離を詰めようとするが、尻尾の一振りで後退せずにはいられなかった。

 餓龍が俺に疾走る、


 そこに、



「汝、儚く散りぬる幻想の如くと知れ、魔術解除(ディスペル・マジック)!」

「《守れ》!」


 一陣の疾風と共に、黒い触手が粉塵のように散らされた。

 遅れてフォックスさんが花弁の盾を展開して餓龍の大口にぶっちこんだ。


「フィレンさん!」

「リース!フィリオさん!」

「ずらかるぞ坊主!」


 地面に放り出された俺を引っ張て立たせるフォックスさん、俺はすぐ姉さんと一緒に後ろにいるフィリオさんのところへ走る。

 無粋の乱入者に驚かせて、顔に一発食らわせた餓龍はすぐさまフォックスさんに襲い掛かるが


「――――力の壁(フォースウォール)!」


 フィリオさんはリースの白い杖を手にして、無詠唱で魔術を放った。

 餓龍はすごい勢いで見えない壁にぶつかった。


 GAAAAAAAAA!


 物理的な攻撃を遮る防壁はブレスさえ通さない、魔術も扱える餓龍ならそのうち破壊できるが、逃げるには十分だ。

 俺たちは壁の向こうで狂ってるような吼える餓龍を背にして、階段の上へ走った。

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