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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第十二章 カウンターアタック
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201 援軍

「あそこは……第二陣地か!」

「まずいのじゃ、あっちには一般兵士と攻城兵器しかおらん!」

「マル婆、グズる暇がねぇ、助けに行くぞ!」

「私達も行きましょう、フィー君。あの数じゃすぐに片付けないと被害が大きくなるわ」

「ああ!」


 俺達と《ライオンハート》は全速で第二陣地に向かった。








 六体の超大型アンデッドが第二陣地を蹂躙している。

 精強な騎士団と探索者で構成されてる第一陣地と違って、ここにいるのは輜重部隊と攻城兵器を操作する部隊がほとんどである。言うまでもなく彼らの戦闘能力は探索者より大きく劣っている。


 死骸蒐集者(カダヴァーコレクター)の腕の一振りだけで数人が吹っ飛ばされ、バラバラになって死んだ。

 首なし騎士(デュラハン)が《負ノ爆裂ネガティブ・エネルギー・バースト》を放って、数十人を一気に殺した。

 赤眼王蛇(ブリークボーン)は魔眼で近寄る兵士を即死または麻痺させ、尻尾で次々とカタパルトを打ち壊す。


 幸い、丁度近くにいたヴァレリア閣下が素早く兵士を下がらせ、直属の近衛と一緒にアンデッドどもを牽制しているが、それは即ち彼女自身を危険に晒すことでもある。


 俺たちが到着した時、近衛の衛士は既に何人も倒され、六体のアンデッドはヴァレリア閣下を包囲するようにじりじりと近づく。


「《斬神》!」


 後ろから首なし騎士(デュラハン)を両断する。


「《フィレンツィア》に《ライオンハート》か、助かった!」

「閣下、早く後ろに下がって!」

「うむ、貴様ら、傷者を連れて後退するぞ!」


 ヴァレリア閣下は自分で真っ先に倒れた兵士を背負い込んで、他の近衛と一緒に撤退した。


「フィー君、また来たわ!」


 何時の間にやってきたドレッドミストが更に三体のアンデッドを運んでくる。

 今回のはどれも見たことのない、炭のように真っ黒のアンデッドだ。


「アイナ、あいつらを落とせ!」

「秘めたる力を示せ、あらゆる存在に干渉するものよ、《武器付与(エンチャント)幽霊殺し(ゴーストタッチ)》!」


 三本の矢がファタリテ君から放たれ、ドレッドミストから伸びている帯を断ち切った。

 紫の霧から切り離れた黒炭のアンデッドは落下し、ドンっと重い音を立てて地に埋まった。

 見たこともないアンデッドだが、特にでデカくもないし動きもトロそうだからそこまでの脅威ではないらしい。


 それよりも、上にいるドレッドミストだ。

 そう思った時、上空へと疾走する影が一つ。


「――――《亢竜有悔(こうりょうゆうかい)》!」


 一刹那の間に二回の居合。

 飛行(フライ)で飛び上がったルナは紫の霧を更に切り裂いて、更に呪文を唱えた。


「流れを汲み取る者として命じる、灰燼と化せ、広域極大火の爆裂ファイアバースト・ワイド・マクシマム!」


 空を覆う猛火が不定形の霧を燃やす。

 思わぬ抵抗を受けたドレッドミストが上空へと逃げようとしたが、ルナは更に追撃し、広範囲の攻撃魔術を放ちながら霧を何度も切り刻む。

 ツクモガミの大妖刀――《滅紅塵》は容赦なく同じアンデッドであるドレッドミストを引き裂く。


「《奔雷》! からの――顕れよ雷霆、天に満ちる穢れを薙ぎ払え、《稲妻の連鎖(チェーンライトニング)》!」


 ルナは中級の魔術を短い詠唱で行使し、うまく攻撃の間に織り交ぜて多彩な戦い方を見せてくれる。


「ルナ、いつの間にそんな戦い方を……」

「ずっと練習していますよ、私と、それとファタリテ君とも。特にソラリスさん……リースさんがパーティに入ってからは殆ど不眠不休で訓練しています」

「そうなのか……」


 どうやら俺が知らないところで、ルナとアイナも頑張っているらしい。

 そのお陰で、ルナは一流の魔術戦士にも引けを取らない戦力になっている。


 そしてルナがドレッドミストを屠り地上に戻った時、俺たちも他のアンデッドを片付いた。

 二回目で運ばれてきた黒炭のようなアンデッドは特に強力なものでもなく、ただ図体がデカいだけで、頭と手足を斬り落としたら動かなくなった。


 それにしてもこんな黒炭のようなアンデッドがいるなんて聞いたことがないな、一体何のアンデッドだろう。


「救助に来てくれて助かった、礼を言う」


 戻ってきたヴァレリア閣下は俺たちに話しかけた。


「大丈夫ですか、閣下」

「私は無事だが、見ての通り犠牲は大きい、特に攻城兵器はかなりやられた……飛んでくるとはつくづく非常識な化け物だな。後方支援の火力が下がったら、前線の戦いは更に厳しくなるだろう」

「俺達も前線に出る、どれくらい力になるか分からないが」

「そうして貰うと助かるが、戦ったばかりで大丈夫か?」

「このくらいどうってことはない、なあレグルス?」

「おう! これしきのことでバテる筋肉はしてないぜ!」


 両手で力コブをつくってるレグルスに、ヴァレリア閣下は相好を崩す。


「ははは、頼もしいな。では前線を頼む、私はここの態勢を整えるのに尽力しよう」

「了解!」



 §



 穢土軍に突入して数十分くらい戦ったところ、姉さんは何かに気付いたように俺に話しかけた。


「フィー君、なんか敵が手を抜いてない?」

「言われてみれば……初日と比べて攻勢がだいぶ緩いな」


 昨日の穢土軍は何が何でも突破する勢いでぶつけてきた。

熾天使の玉座カテドラ・オブ・セラフィム》などの広範囲魔術を警戒してか一点集中こそしてなかったが、波状攻撃で防衛線に圧力をかけて、一息を入れる暇もなかった。

 内部に突入した探索者達に対しても容赦がなく、隙があれば包囲してくるから俺たちは常に他の探索者を意識して突出しすぎないようにしなければいけなかった。


 だが今日の穢土軍は俺たちの攻撃を往なしている感じだ。

 正面衝突せずに俺たちを外側に誘導しようとしている。

 お蔭で死傷者がそこまで出てはいないが、この状況はどうも不気味だ。


「手を抜いてくれるのは都合がいいが、どういう意図か分からないな……アイナ、どう思う?」

「そうですね、戦争を長引かせたいというのは侵略者であり戦力も優っている穢土軍では考えられません。……ですが、一つ可能性があります」

「どんな?」

「援軍が来るのを前提にして、それまでに消耗を抑えるためです」

「援軍? しかしヴァレリア閣下は三つに分かれた穢土軍の動向を捕捉しているはずだが……それともまだ隠れている部隊が存在しているのか?」

「あくまで可能性ですよ、別の意図があるかもしれません」

「そうだな、どっちにせよ援軍ならこっちにもあるんだ、バアルさんと教会の人が来れば勝つのは無理だろうが時間を稼ぎつつ撤退するのは可能だろう」

「ええ、あと一日半もあれば後方にいる人員もあらかた撤退できるから、ここでより多くの兵力を脱出させれば後の戦いが楽になります」


 その時、後ろの迎撃軍陣地から騒ぎが聞こえた。


「どうした?」

「援軍が来た、と言っているの」

「援軍ってもうついたのか!?」


 暫くしたら、地平線の向こうから幾つかの旗が見えてきた。

 真ん中にあるのは金色の旗。赤い鬣の獅子が描かれているそれはミーロ教会の太陽騎士団を表してる。

 その右にある八枚の葉っぱが描かれている紫の旗はマエステラ教会、そして左にある三本の剣が描かれているのはタイラノース教会の旗である。


 そして先頭に立っているのは黒髪の男――バアルさんだ。


「援軍が来たぞ! あれはミーロ騎士団だ!」

「ミーロ教会だ! マエステラとタイラノースもいる!」


 周りの探索者からも歓声が上がっている。

 ヴァレリア閣下の言う通りなら、ここに駆け付けたミーロ騎士団はおよそ二千人、タイラノースとマエステラ教会を合わせても三千人未満だろう。

 しかし彼らはいずれも並の探索者以上の実力を有しており、特にミーロの聖騎士は対アンデッドのエキスパートだ。

 これまで押さられたばかりの戦況が一転する――と、きっとこの場にいる誰もが思っているのだろう。


 だが俺の胸中がざわつく。

 これだけの人数だ、何故スーチンが何も言ってくれなかったんだ?


「スーチン、君にはあいつらが見えていたのか?」

『……ううん、何も、()()()()()()のです』


 数千の軍勢がスーチンに気づかれることもなく接近した、それはどういうことか。

 彼女の道術の索敵範囲は二キロにも及ぶ、勿論それを誤魔化す術なんていくらでもあるんだろうが、教会の援軍がわざわざそれをする理由が思い浮かばない。


 やがてバアルさんは援軍とともにやってきた。

 彼の後ろに居るのは、彼と同じ白い鎧の軍勢。

 その両側にはローブを身に纏う魔術師部隊と、筋骨隆々の戦士部隊。


 彼らの共通点は、バアルさんを除いて一様に()であることだ。


 騎士の兜の下にあるのは生気のない、蒼白の髑髏。

 魔術師の杖を握っているのは灰色の、砂のような腕。

 戦士の自慢の筋肉は蝕まれたように穴だらけで、蛆と粘液が止めどなく零れ出している。


 歓声が不穏などよめきに変わる。

 援軍だったはずの、はためく旗の下に並んでいる死者の部隊は沈黙を保つ。

 その異様すぎる軍勢を率いて、バアルさんは徐に戦場に近付く。


「待たせたな()()()()


 バアルさんは演説のように両手を広げ、その声を戦場全域に届かせる。


「よくぞこの時まで持ち堪えてくれた。だが見ての通り、貴様らの援軍は既に我が配下となった。そしてこの私がここにいる以上、貴様らに万に一つでも生還はありえない。大人しく平伏し慈悲を乞うならば苦痛の無い死を与え、我が軍勢の末席に加わろう。さもなくば神経の一本一本まで苦痛の極みを味わせ、魂の最後の一欠けらまですり潰してやろう」


 狂人の譫言だ、とこの場にいる誰一人も思っていなかった。

 何故ならバアルさんの後ろにある死者が掲げる旗も、身に纏う武具と鎧も本物であると一目でわかるし、何よりこの平野にいる数多くのアンデッドが一体の例外もなく粛々と頭を垂れて、まるで王の訓示を受けているようにバアルさんの声に聞き入っているのだ。


 ここで、俺はようやく事態を理解した。


「裏切ったのか、バアルさん……でも、一体何故……?」


 俺のつぶやきを拾ったのか、バアルさんは遠くから俺を見つめる。

 彼はいつものように暢気に――それこそ俺に《斬神》を教えた時のように親切に――笑いを零し、こう答えた。


「それは愚問というものだよフィレン殿。私は裏切りなどしていない。何故なら私が《災いの御子》だからさ」






 十二章はこれにて終わります。


《災いの御子》と名乗り出たバアル。

 頼みの綱である援軍をアンデッドにし、迎撃軍を鏖殺(おうさつ)と宣言する。

 苦境である戦況が一気に絶望と変わる最中、フィレン達、そして共に戦う者達はどのような道を辿るのでしょうか。


 次章、蔓延する絶望。

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