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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第二章 ラッケン州長の依頼
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21 魔道具屋バラーグ

「いらっしゃいませー、あ、フィレンさん」

「こんにちはー」

「よっ、この前の触発治癒(リカバリートリガー)は助かったぞ」


 ギルドに行く前に、俺たちは一度魔道具屋に寄った。

 触発治癒(リカバリートリガー)を買った時に一度来たことあるから、その時に店員のアニラさんと知り合った。ピンクのポニテを揺らしながら動き回る活発な女の子だ。


「もう使っちゃいましたか、中々過酷な人生を送っていらっしゃいますね」

「ははは……まあそれほどでも」

「では今度もそれを買いに?」


 キラキラの目で近寄って来るアニラさん、触発治癒(リカバリートリガー)は便利だけど高価だから中々買い手がいないだろうな。


「それもあるんだが、すこし売りたいものがあるんで見てくれない?」

「分かりましたー、当店での買取は物によって定価の五割から九割で買わせて頂くことになりますので」

「大丈夫、それは知っている」


 俺はそう言って、便利袋(ハンディパック)からいくつの魔道具を取り出した。

 魔道具のぼったくりを防ぐために、魔術師ギルドから公表された定価がある、もちろん地域によって一割くらい変動することもあるけど、概ね安定している。しかし、売値の幅は結構広い。

 普通、魔道具は衣服などと違って、中古になっても価値が下がることはないはずだが、何かの弾みで魔力が摩耗する、もしくは故障する場合もあるから、売値はばらつく。

 そもそも探索者がダンジョンで魔道具を手に入れるのは、大体ダンジョンで死んだ人の遺品がドラゴンに回収されて、またダンジョンに適当に置いとかれたからだ。そんなものがある程度損壊するのも当然と言えるだろう。


「ではでは、鑑定しちゃいますねー」


 片っ端から鑑定の魔術を掛けていくアニラさん。


「おお、これは《甲殻のチョーカー》ですね、しかも状態がいい。フィレンさん若いのに中々やりますね、これだけで金貨三百枚は下らないですよ」

「運が良かっただけさ」

「《甲殻のチョーカー》の定価はたしか金貨六百枚ではないの? 状態はいいんだし、それとこの手の魔道具は買い手がつくし、もう少し上げてもいいじゃないかしら?」


 《甲殻のチョーカー》は体の一部を甲殻のように硬くにする魔道具。鎧ではカバーしきれないところを補強してくれるから探索者からは重宝されてる。


「うぐ、ちゃっかりしてますねレンツィアさん」

「ふふ、アニラさんもね」

「分かりましたよ、お二人は得意様ですからこっちもサービスしちゃいますから」

「ふふふ、ありがとうね」

「じゃアニラさん、俺は先に触発治癒(リカバリートリガー)を買いたいけど」

「あ、じゃ奥にどうぞ、案内いります?」

「大丈夫、前回で覚えた。じゃ姉さん、ここは任せていい?」

「ええ、いってらしゃい」


 触発治癒(リカバリートリガー)は厳密的に魔道具ではなく、ある状況下で自動的に発動する魔術だ。だから購入するにはカウンターではなく奥の工房で術師から施術されなければならない。

 ちなみに姉さんはアンデッドだから触発治癒(リカバリートリガー)が発動したら逆にトドメを刺すことになるから、購入するのは俺だけ。

 値段の交渉を姉さんに任せて、俺は奥への扉を潜った。


 帰ってきたら、交渉は終わったか姉さんは店内の商品を物色しながら知らない大男と話している。


「おかえりフィー君、こちらは店長のバラーグさんだよ」

「あ、初めまして、フィレン・アーデルです」

「初めましてフィレン君、俺がこの店の店長兼魔術鍛治師のバロワ・バラーグだ」


 ニメートル近い身長で筋骨隆々の大男と握手を交わした。

 そういやこの店の看板、バラーグ魔道具屋って書いたよな。


「で、姉さん何見てたの?」

「ほらこの子だよ、可愛くない?」

「どれどれ……」


 姉さんが手に乗せたのは、直径五センチくらいの丸い球だ。

 金属製みたいけど、なんの変哲もない……と思ったら急に変形して二十センチくらいの分厚い刃になった。


「なんだこれ?」

「これは、《斬り丸》という可変型のゴーレムだ」

「可変型のゴーレム?」


 バラーグさんが横から説明を入れた。

 ゴーレムというのは魔術で作った機械生物のことだ。意志のないただの機械同然のもいるし、知恵を持つ、人間に奉仕できるゴーレムメイドもいる。これはどうや前者らしい。


「ああ、普段はただの球だが、使用者の意志に応じて刃か衝角にもなる、ほら便利だろ?」

「確かに面白いけど、武器として小さい過ぎるじゃないですか? 取っ手もないし、暗器としてなら使えなくもないけどそれなら普通にダガー使うほうが」

「ズバズバ言うな君は……」

「もしかして、これはバラーグさんが」

「ああ、失われた技術を再現しようとしたが、このくらいのサイズしか作れんのだ」

「ねえ、それならソルレットか籠手につけるのはどうです?」


 ソルレットとは足の防具のこと。

 格闘士は蹴り技も使うから、ソルレットには何らかの武装をつけることが多い。しかしこのくらいの刃をつけたら歩きにくそうだから、衝撃の寸前だけ刃を突き出せるのなら便利だし、破壊力も段違いだろう。蹴り主体の姉さんの戦闘スタイルには持って来いだ。

 しかしバラーグさんバツが悪そうに髪を掻きながら首を振った。


「いやそれがな……可変型ゴーレムになると硬度が少しだが、落ちるのだ」

「駄目じゃないですか」


 俺は呆れて首を傾げた、なかなか使い道のない魔道具だ。


「それなら、これを使えばいいじゃないですか?」


 姉さんが取り出したのは、ロントの短剣だ。


「それだ」

「む、これは……なっ、もしかして!?」


 たしかにアダマンティウム製にすれば多少硬度が下がっても問題にならないだろう。なんせ普通の鋼鉄をバサバサと切り裂くような金属だ、姉さんの籠手もロントに結構刻まれたんだ。


「アダマンティウムか、よくもまあこんなものを……」

「ああ、それはあるヴァンパイアから奪った」

「は?」


 ヴァンパイアの件はもうギルドに報告してあるから別段隠すことでもない。ていうか昨日の件でたぶんもう噂になってるし。


「これを溶かして《斬り丸》に作り直すことはできる?」

「あ、ああ、自慢じゃないがうちはラカーンで唯一アダマンティウムを取り扱える工房なんだ」

「ではそれで作るだけのを頼める?」

「これで作れるのは二つくらいか、二つとなると……おい、アニラ、いくらになるんだ?」

「えっと、アダマンティウムの加工は……っと二つで金貨二千枚ですね!」


 加工だけで二千枚!? まさに世界が違うなあ。


「どれくらい掛かるの?」

「ふむ、一週間くらいかな」


 それじゃ州長家の依頼に間に合わないな。すぐに州長と事を構える気はないが、それでもいつチャンスが来るか分からないし万全で挑みたい。


「料金二割上乗せで二日以内で頼める? 残りのアダマンティウムはそっちで使っていいから」

「なんだと!? ……できなくもない」

「じゃそれで。はい、前金は半分でいい?」


 俺は前金の白金貨百二十枚を渡した。

 たしかに大金ではあったが、それで姉さんの戦力が上昇するのなら別に構わん。それにさっき換金した分はまだ半分以上も残ってるしね。

 アニラさんはキラキラしてる目で金を受け取り、バラーグさんにガッツポーズをした。


「承りましたー、やりましたね店長!」

「おお、久しぶりの大仕事だ、俺は暫く奥に籠るからここを頼んだぞ!」

「らじゃー」


 短剣を手に取り、意気揚々と奥の扉を潜ったバラーグさん。

 アニラさんはというと、元気溌剌として次々と商品を紹介してくるが、特にほしい物もないし、ソルレットと籠手を新調したいから鍛治屋を紹介してもらって店を出た。




 昼過ぎた頃、装備を一通り揃えた俺たちは探索者ギルドの前でモモと出くわした。

 今日のモモは探索者装束ではなく、ちゃんとしたお嬢様風の衣装で、後ろには護衛の人がついている。


「あ、レンツィアさん、フィレンさん」

「よっ、数日ぶりかな」

「こんにちはモモさん、ギルドに報告?」

「ええ、もう済んだわ、問題ないから依頼達成と認められるって」


 そう言ってモモはどこかほっとしたようだ。報告自体は短いとはいえ、ギルドに偽りの証言をするのは心苦しいだろう。

 こちらもモモには隠し事だらけだから、なんとなくわかる。


「今度は本当にありがとう、お蔭で助かったわ」


 俺と姉さんが一礼すると、モモも慌てて頭を下げた。


「いいえそんな、ワタクシこそ二人から本当に沢山、沢山学んだのだから」

「そうか、それは良かった」


 モモは何か目標があって努力しているのは見ればわかる。それが何かとは知らないが、そのまっすぐに頑張っている姿を見ると力になりたいと思うのが人情だろう。

 しかし正直一緒にいた時間があんまり長いとは言えないし、こちらの事情でしてやれることも少ないから、もしモモがこちらから何か学んできたのなら、それでよかった。


「それで、モモさん今日これからは?」

「今日はこの後、商会の人と会う予定で」

「そうなの、じゃ私たちはギルドに用事があるから――」

「あ、あの!」


 別れを告げようとした姉さんを遮って、モモが急に大声を出した。


「はい?」

「わ、ワタクシはいつか家から独り立ちして、探索者になりたいと思ってるの!」

「え、なんで?」

「それでもし二人のような凄腕の探索者になれたら、二人のパーティに入らせていただけないでしょうか!」

「……」


 俺も姉さんも暫く言葉も出ない状態だった。

 少し考えて、俺は最初から訊いた。


「……えっと、モモの家はお金持ちだし、なんで探索者になりたいの?」

「ワタクシは……家を継げることができないから、家に迷惑掛けたくないの」

「そうなのか……」


 何か事情ありそうだし、訊いていいのかな。


「じゃどうして私たちのパーティに入りたいの?」

「その、二人のような探索者になりたいから!」

「言っとくけど俺たちもまだまだ新米だ、別に大したことしてないぞ」

「それでも、二人はワタクシの目標なんだわ、それと」


 ん? なんだか姉さんにチラチラと見ているけど、どういう意味だ?


「兎に角、ワタクシは二人から感銘を受けて、探索者として頑張りたいと思ってるの、もし二人に認められるような実力を身につけた時、二人の側にいさせてください!」


 俺は姉さんと視線を交わした。

 モモには何の事情があるかは知らないけど、こっちにも事情があるから、モモをパーティに入らせるわけにはいかない。だがあえて今断るようことでもないか。

 モモが独り立ちして探索者としてやっていけるようになるまで、少なくともあと数年は要るだろう、たとえその時にまだ心変わりしていなくても、それはまだ考えればいい。


「そうか、その時に俺たちはまだここに留まっているか分からないけど、また会おう」

「はい、また会えるのを楽しみにしてるわ!」


 入らせるとは一言も言ってないけど、どこか自信満々にニコニコしてるモモと別れた後、俺たちはギルドに入った。


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