2 ここに至るまで(一)
俺と姉さんは、ダンジョンを潜る探索者だ。
世界中に数多く存在しているダンジョン、それを作ったのはドラゴンだが、何故ドラゴンがダンジョンを作ったかは未だ不明である。
伝説では、遥か昔に神に作られた最強の種族ドラゴンにとって、満足な死によって神の元に戻るのが至上の喜びらしい。
だから繁殖を終えたドラゴンはダンジョンを作り上げて、金銀財宝で人々を釣り上げ、一方で魔力で作ったモンスターと罠で篩に掛けて、ダンジョンの奥で試練を越えた猛者を待っているという。
わけのわからん話だ。所詮伝説で真偽は定かでないし、信じる人もそんなにいないだろう。
だが、どんなに過酷で意地悪なダンジョンでも、その道はちゃんと宝物庫、そしてダンジョンマスターであるドラゴンの居所に通ずるのも事実だ。
そしてダンジョンを一定期間放置すると、中からモンスターが溢れだして、果てはドラゴン自ら出てきて街を襲ってくる。噂では、街を襲ったドラゴンは財宝を集めながら、俺を止めたければもっと強い者をよこせと、煽りのようなセリフを言い残した。実に身勝手な話だ。
ドラゴンの脅威から逃れるため、ダンジョンの攻略は国に推奨されている。
そして中の宝もモンスターから出る素材も人々の垂涎の的である。
だから探索者と称されるダンジョン潜りを生業にする腕自慢、もしくはそれ以外じゃ生きられない人たちが存在する。俺と姉さんのように。
そして探索者のもう一つ大事な仕事は、アンデッドを倒すことだ。
モンスターと違って素材も食料にもならないし、ダンジョンのように宝物があるわけでもないが、それでもアンデッドは倒さなければいけないのだ。
何故ならアンデッドは一言で言うと、天災だ。
いつどこかで爆発的に蔓延して人々を襲う、撲滅したら暫くは沈静するけど、いつかまた出てくるかは判らない。
こういう場合出てくるのは大体ゾンビとか意志を持たない低級アンデッドだが、その牙と爪の毒素で仲間を増やせるから質が悪い。
一匹いたら三十匹は確実にいると思えるくらいの勢いで急増して、対策を固めた都市はともかく、人口の少ない寒村は最悪の場合全滅もありえる。
組織的な行動を見受けられないので街を占領することも、無人の建物を壊すこともないが、それでも人的被害は大きい。まさに天災。
俺たち姉弟も探索者としてダンジョンを潜りながら、時にアンデッド狩りもこなして、なんとか四年間生きてこられてそろそろこの稼業にも慣れてきたと思っている。
しかし元居た町がまたもやゾンビに襲われて、復興のため暫くダンジョンの素材を買い取りしてもらえなくなった。
それを切っ掛けに、俺たちはすこし遠いが、人が多くてアンデッド対策も充実な都市、ラッケン州の州都――ラカーンに活動拠点を移した。
ラカーンの近郊にはかの有名なダンジョン、《翡翠龍の迷宮》があるから、そこで一稼ぎするつもりでいた。
だが、新しい都市とダンジョンの情報に疎いのが仇になった。
親切そうなベテラン探索者たちに話しかけられて、ホイホイと後をついてダンジョンに潜ったまではいいが、まさかその親切そうな人たちが装備と宝を強奪した上で俺らをモンスターの大群に放り込ませたとは。
さすがベテラン、用意周到と言ったところか。
できれば、あの時の呑気な自分を噛み殺したい、あの屑共とまとめて。