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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第十二章 カウンターアタック
199/229

190 緊急招集

「これからは私のすべてをフィレンさんとレンツィアさんの血脈に捧げますので、その証として自分の魂を差し上げることにしました。この《万象剣》なら、きっと永久にこの証を後世に残すことができるのでしょう」


 頬に手を当てて、嬉しそうに微笑むアイナを見て、俺はリリウスの言葉を思い出した。

 エルフはとてつもなく情が重い、と。







 翌日、沢山の探索者が広場に集まり、緊急招集の説明を待っていた。

 その数はざっと二千人ほど。



 緊急招集とは、緊急事態に対してギルドが通信(メッセージ)で探索者に召集を掛けることである。

 強制力こそないが大体の場合は報酬が美味くて、そして上を目指す人ほどギルドとの関係を重んじるから断る者が少ない。

 それでも僅か数日間でこれだけの人数を揃えたのは、今回の報酬が緊急招集としても破格であるからだろう。


「さっきギルドの人に聞いたけど、一人あたり最低金貨250枚、討伐対象に応じて別途報酬もあるらしいわ」

「大盤振る舞いだな、そりゃ」

『人が……多いです……』

「皆、探索者なの?」

「そうだな、それもある程度の腕を持つ者ばかりだ」


 俺は広場を見渡す。身のこなしや装備から見るに、ここにいる全員がそれなりの練達者だと見える。

 まあ、敵は超大型アンデッドの群れだから、せめてパーティで大型アンデッドを倒したこおとがある者じゃないと物の数にも入らないだろう。


 むしろ、一番場違いなのは俺たちかもしれない。

 俺や姉さんはともかく、アイナとリースはどう見ても探索者には見えないし、ルナに至っては子供に見える。

 その上で姉さんとアイナそれぞれ違うタイプだが優れる容姿をしているし、リースはフードで顔を隠しているが体型から女性だと一目で分かるからさっきから視線を感じるのも仕方がない。


 暫くしたら、ヴァレリア閣下とギルドの役人が広場に来た。

 それと閣下の後ろにいるのは……バアルさん?

 どうやら閣下の護衛をしているらしい、バアルさんは後ろに控えている。


 ヴァレリア閣下が事前に用意された木台に上がり、探索者たちに向けて話しだした。



「集まってくれてありがとう、探索者諸君。……私はヴァレリア・リーリエである」


 その一言で、探索者達がざわついた。

 元ミーロ聖騎士団長で教会からの信頼が篤く、しかもフォルミドの軍事、国政上の最高機関に名を連ねる一人であるヴァレリア閣下の名を知らない者はほぼいない。

 彼女が関連しているということは今回の招集はそれだけ大事おおごとであると、全員が否応なく理解させられた。


「マジか、大物中の大物じゃねぇか」

「軍部のトップが何故ここに……」

「やはり噂のアンデッド大量発生か?」

「なるほど、道理で《アンデッドスレイヤー》がここにいるわけだ」

「大量発生だとしても侯爵がわざわざ出向くほどの問題か……?」


 憶測と議論が飛び交う中で、ヴァレリア閣下が言葉を継いだ。


「既に知っている者がいるかもしれないが、先日ミステラにてアンデッドの大量発生が起きた。その中の一部――推定、一万の超大型アンデッドがこのラカーンに向かって進軍している、このままだと凡そ十日後、このラカーンは奴らの餌場になるだろう」


 瞬間、沈黙がこの場を支配した。


 アンデッドもモンスターも同じ、体格が強さと比例している――わけではないが、総じて体格の大きいアンデッドはどれも手強く、脅威度も高い。

 大型――つまり体格が2~5メートルのアンデッド、例えばサンドミイラやスカルドラゴンの戦力は十人の兵士、もしくは並の探索者パーティに匹敵する。

 そして5メートル以上の超大型アンデッド、たとえ比較的に与しやすい死骸蒐集者(カダヴァーコレクター)でも事前準備が十分な一個小隊、もしくは練達者ぞろいの探索者パーティでなければ討伐は困難である。


 僅か十日後に一万体の超大型アンデッド。

 今のラカーンは間違いなく存亡の機に立たされているのだ。


「勿論、アンデッド共の好きにはさせん。よって我々は打って出る、このラカーンの北にある平野にてアンデッドの軍勢を迎撃し、食い止める」


「閣下、質問いいんでしょうか?」


 周りが静まっているところに、手を上げたのは一人の青年だ。


 線が細く、まるで女性のような容姿をしているが、身体と不釣り合いほど巨大な戦鎚を背負っている。

 物静かな雰囲気を身に纏う男はヴァレリア閣下が頷いたのを見て、口を開いた。


「先程から閣下はアンデッドを『軍勢』、『進軍している』と仰いましたが、それはアンデッドが組織的な行動を取っている、という認識で相違ありませんか?」

「その通りだ。我々の常識を覆すような事だが、今回の敵――便宜上《穢土軍》と呼ばれているが――は極めて合理的に、そして組織的な行動を取っているのだ」

「いささか信じ難い話ですが、その証拠はおありで?」

「今までの情報を鑑みるに、一万の超大型アンデッドは常にこのラカーンを目指している。道中、近くの町を恣意に襲うこともあるが、決して長居をせず、避難者を深追いこともなく、一体の脱落者も出さずにある程度の進軍速度を維持している。並の軍隊でもできることではなかろう」

「……納得しました。返答感謝します」


 細い青年は腕を組んで口を閉ざした。


「さて、これだけでも厳しい状況なんだが、更に悪い事に、どうやら敵に指揮官がいるようだ。そいつの外見は銀髪のハーフジャイアントであるが、どういうアンデッドかは未だ不明。しかし少なくとも上位ヴァンパイアかそれ以上の戦力を有すると推測されている」


 ヴァレリア閣下は淡々と、残酷なまでの事実を探索者達に突きつける。


「上位ヴァンパイア以上だと……」

「馬鹿な、勝てるわけがない!」


「――だが! 幸いなことに、我々には援軍の当てがある!」


 ヴァレリア閣下が視線を向けると、バアルさんが一歩前に出た。

 いつもの違って派手なマントと鎧を纏って、宝石で飾った剣を下げているバアルさんはまるで御伽噺から出てきた騎士のような装束をしている。


「探索者諸君、私はミーロ教会第三騎士団団長、バアルだ。今回のアンデッド騒動に教会は非常に重要視しており、ラッケン州に駐屯している第五、第六騎士団だけじゃなく、私の第三騎士団を含めて、他にも幾つかの騎士団の増援を派遣するつもりだ。その数はざっと五千は下らないだろう。我々ミーロの騎士は常日頃から対アンデッドの戦いを想定して訓練を積んできた。たとえ超大型アンデッドだろうと我々の敵ではない!」


 華美なる出で立ちと毅然とした態度、何よりミーロの騎士団長という肩書きが功を奏して、群衆の動揺が静まった。

 なるほど、わざわざバアルさんを呼んだのはこのためか。

 機を逃さず、ヴァレリア閣下は更に追い打ちをかけた。


「ミーロ教会以外にも幾つかの教会、例えばマエステラ教会とタイラノース教会も援軍を約束してくれた。彼らの勇名を、諸君も聞いたことがあるのだろう」

「おおお、あの八葉会(エイト・サークル)のマエステラ教会か」

「それと闘士団(グラディエーター)がいれば心強いな」


 魔法と神秘を司るマエステラ教会は魔術師に大きな影響力を持っている。

 その中でも一部の名だたる魔術師しか入れない、八葉会(エイト・サークル)と呼ばれる学会は国からも重視されている。

 一方、戦と勇気を司るタイラノース教会は闘士団(グラディエーター)という、ミーロ教会の騎士団に類する武力を保有しており、多くの凄腕戦士を保有している。


 この二つに加え、アンデッド退治のエキスパート、ミーロ教会の参戦は探索者達に大きな安心感をもたらした。


「更にこの緊急事態に応じて、南部地域の貴族からも援軍を呼び寄せている。よって、我々はこの地で穢土軍を数日間食い止めれば、奴らを殲滅するも決して不可能ではない。そしてそれを成し遂げるには、探索者諸君の協力は必要不可欠だと私は考えている。


「諸君らは探索者の中でもとりわけ優れた猛者たちである。我々が諸君らに期待しているのは、概ね三つのことだ。一つは避難する住人の護衛、一つは超大型アンデッドを狩る遊軍、そして最後の一つは敵の指揮官――銀髪のハーフジャイアントを抑える精鋭部隊である。これら三つの部署はそれぞれ一人あたり金貨250、1000、2000枚の報酬が出される。更に遊軍と精鋭部隊は討伐対象に応じて別途に賞金が支給される。これらは王の名の元に保証されているのだ」


 おおぉぉぉ……。


 広場にどよめきが起こる。


「私からの話は以上だ。何か質問があるか?」


 ヴァレリア閣下はそう言って口を閉ざし、全員を見渡す。


「……良い説明だったな」

「ええ、流石閣下だわ」

「そうなの?」

「ええ、あくまで探索者向けだけど、かなり効果的じゃないかしら?」


 まずは知らなければいけない厳しい現実を伝え、危機感を持たせる。

 その後勝算という名の希望を与え、最後は探索者にとって最も大事な報酬を提示する。


 ヴァレリア閣下が提示した報酬は大盤振る舞いとは言えるが、決して破格とは言えない。そこが良い意味で現実感をもたらした。

 ここであり得ない程の値段を提示したら、逆に国が追い詰められているじゃないかと、探索者に不信感を持たれることになりかねない。そうしたら探索者は自然に遠ざかっていく。目に見えて傾く寸前の建物に居座りたい人などいないのだ。


 つまり、閣下が言いたいのは国を助けてくれ、ではなく、一緒に勝ち馬に乗りたくないか、いうことだ。


 勿論、現実は彼女の話より数倍も厳しいであるが、それを馬鹿正直に伝える必要はない。

 アンデッドの群れは雪だるまのように時間とともに増大する、今全力を挙げて掃滅しなければそれこそ人類全体をも巻きこむ危機になりかねない。軍隊相手ならまたしも、探索者の助力を求むものとして、今の説明はかなり上手いと言えよう。


 しかしそれでも。


「おいどうする?」

「どうって言われてもな、やばすぎるぜ、一旦ここを離れようか?」

「迎撃に参加するのは危険だな、せめて籠城なら……」

「俺は参加するぜ、出世のチャンスを逃す馬鹿が居るか」

「そろそろ他の街に行くべきか……」


 広場を見渡せば乗り気になっている人はざっと三分の一。三分の一の人は躊躇う、あと三分の一は中途半端に危険な匂いを嗅ぎ取れて尻込みしてしまっているってところか。


「あと一押しが欲しいかな」

「ああ」


 だから俺は手を挙げた。


「閣下、発言許可を求めます」

「認めよう」


 俺は小さく咳払いして、広場に居る探索者たちに向けて話し出した。

 演説するのは初めてだし緊張も半端ないが、姉さんが側にいるんだ、みっともない真似はできない。


「俺たちは《フィレンツィア》、聞いたことがある人がいるかどうか分からないが、《アンデッドスレイヤー》とも呼ばれている」


 それを聞いて、明らかに興味を示し出した探索者が何組も居た。

 こそばゆい二つ名だが、今はその知名度を利用させてもらおう。


「ラカーンに迫るアンデッドの軍勢――《穢土軍》がミステラで発生した時、俺たちもその場に居合わせた。それで一つ言わせてもらいたい、奴らはアンデッドでありながら軍隊でもある、軍隊でありながらアンデッドでもあるのだ。


「穢土軍は確かに軍隊のような行動を取っているが、その本質は生者を憎むアンデッド。つまり奴らが望んでいるのは支配ではなく破壊、人間の営みなんて奴らにとってなんの価値もない。穢土軍が通った後は荒土でしかありえない。通常の戦争のように一時避難してどうにかなるものじゃない。


「そして、奴らはアンデッドではあるが、決しておつむが弱いゾンビやグールの群れではない。一つの意思の元に集まる軍隊なのだ。補給なんて気にする必要のない軍隊はわざわざラカーンを落とす必要なんてない。だからもし籠城でもすれば、奴らは俺たちを素通りして、この一帯そして南方の人々を地獄に落とすのだろう。そしたら我々だって生き残れない。だから籠城はただ被害を増やすだけだ。ここで止めねば王国はかなりの被害を受けることになる。


「そして王国が傾けば周辺国だって無事には済まない。そうなればろくな依頼が見つかるわけがない。だからこれは王国のためだけではない、俺たち探索者のためでもあるんだ。だから俺たちはこの戦いに参加する、俺たちと同じ考えを持っている人、アンデッドの好き勝手を許せない人、守るべき者がいる人、理由は何だっていい、一緒に戦ってくれ」


 一気に言い切って、俺は長い息を吐いた。

 俺の話を聞いて眉を顰める人も、頷く人も、哂う人も居た。

 だが参加するにせよなんにせよ、ここにいる人たちには正しく現状を認識してほしかった。


「フィー君、カッコよかったよ」

「ありがとう姉さん。これで参加者が増えてくれればいいが……」

「勿論よ、だってフィー君の言葉だもの」

「それは理由になってないぞ」


 姉さんと会話を交わすと、とある聞き覚えた声がした。


「あたしはフィレンさんの話を賛成しますよ」


 青髪の女の子が人込みを掻き分けて、ヴァレリア閣下がいる台上に登った。

 レキシントン先生だ。


「あたしはミステラ学院の死霊学院の正教授、グレイ・レキシントンといいます。穢土軍が現れたその時、あたしもそこの《フィレンツィア》と一緒にその場に居ました。その後あたしは附近の街を回して避難勧告をしていましたから、かなり近い距離で穢土軍を観察することができました。そして原因は不明ですが奴らは増えています。通常では滅多に発生しない超大型アンデッドが、です。恐らくですが、犠牲者を使って超大型アンデッドを作っているネクロマンサーが背後にいるのでしょう。つまり時間が経てば経つほど穢土軍の力が増し、そうしたら我々の詰みです」


 レキシントン先生の話が終わると、もう一つの声がした。


「そんなやばい状況なら、逃げるわけにもいかねぇな」

「パウロさん?」


 声を上げたのは、魔術師のローブを纏う筋肉質の大男。

 それは約一年前、隊商の護衛としてルナとフォルミド王国を離れた時、隊商の指揮者を務めたパウロさんであった。


「俺はフォルミド王国の人じゃないが、ここの宿やギルドには何度も世話になったし、友達もそれなりにいる、見捨てるわけにはいかねぇな。なあノア、お前もだろう?」

「ああ、俺は東部の人だが、今回ばかりは看過できん」

「それに俺は王国に拠点を移そうと考えていたんだ、ここで一発名を上げたい。王国の偉い人がいりゃ好都合ってもんだぜ」


 パウロさんは不敵に笑った。

 二人の発言が呼び水になって、乗り気になった探索者どんどん出てきた。


「そうだな、俺も長くここにいたんだ、今更逃げたくねぇ」

「ちっ、どうせ今回不参加したら王国のギルドが今後依頼回してくれなさそうだしな」

「これだけの大事だ、他の国も暫くは穢土軍を防ぐの精一杯で碌な依頼がなくなるかもな……」

「軍部の大物が見ているんだ、運が良ければ軍の上層部、いや中央にいけるかもしれんぞ」


 理由も反応も様々だが、この空気はまるで伝染するように、前向きに参加を検討している探索者が段々増えてくる。


『凄い影響力……まるで魔術ですね……』

「ほら、言ったでしょう?」

「なるほど、これが閣下が俺たちに『やってもらいたいこと』か……」


 この光景を、ヴァレリア閣下は計算通りとでも言わんばかりに満足げに見ている。


「感謝する、《フィレンツィア》、そして探索者諸君。志願者は後にギルドの役人に志望する配属先を伝えたまえ。諸君の活躍を期待している」





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