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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第十二章 カウンターアタック
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188 前日

 有無を言わせない口調で言い残して、ヴァレリア閣下は颯爽と談話室を出た。


「はぁ……まだ頷いてもいないが……」

「リーリエ閣下は割とそういうところが多いのですから……」


 どうやらラカーンに戻っても、一息つく暇もなさそうだな。






 州長邸から出た俺たちは、そのままメインストリートに足を運んだ。出発する前と変わらない街並みに見えるが、心なしか住人達の顔に不安の色があるようだ。


「もう既に何かしら異変を感じ取った人がそれなりに居るかもしれないわね」


 俺と姉さんは往来する人々を見渡す。

《穢土》の出現とアンデッド軍の襲来、まだ一般人までちゃんとした情報が届いていないはずだが、メインストリートには既に不安な雰囲気が漂っている。


「一万の超大型アンデッド、か」


 超大型アンデッドの部隊、それと《銀星獅王》アテルイ。

 果たして俺たちは対抗できるのだろうか。


「そういえばアイナ、探索者が集まるのは明日なんだけど、その前にファタリテ君と合流できそう?」

「ええ、今はヴェルサイユしか載せていませんので、体勢制御など無視して全速で走らせていますから夜明けまでは着くかと」


 つまりヴェルサイユは今頃ファタリテ君の中で激しく揺らされているってわけか。

 大悪魔なのに割といつも大変だなあいつ。


「あ、そういえば。アイナ、一つ謝らなければいけない事があるんだ」


 俺はアイナに頭を下げた。


「え、どうしたのですかフィレンさん、そんな急に」

「実はアイナが作ってくれた《万象剣》だが……」


 俺は《輝光龍の封印領域》でリリウスに《万象剣》を壊された事を話した。

 勿論襲われかけたことは伏せておいたが。

 実際《万象剣》を取り出しアイナに見せると、彼女は深刻――というよりは複雑な表情で剣を手に取った。


「そうですか……私の気持ちに迷いがある、と」

「リリウスの戯言かもしれないから気にしなくてもいいと思うよ」

「ううん、心当たりと言いますか、言われて初めて気づいたのは情けないですが、確かに無意識に手を抜いていたかもしれません」

「マジか、こんな凄い剣だったのに」

「ふふ、そう言って貰えるのは嬉しいですよ。では《万象剣》は一旦私が預かります、今度こそ全力を尽くしますので期待していてください」


 自信ありげに言ったアイナだが、尖った耳がしゅんとなってどことなく落ち込んでいる様子だ。

 どうやって慰めばいいかと考えると、姉さんが後ろから首に手を回してきた。

 耳元で囁かれたのは、いつもより甘い声。


「あのねぇ、フィー君はぁ、そのリリウスっていうヴァンパイアに何されたのかなぁ?」


 俺の首をホールドしている姉さんは口調こそのんびりとしているが、その中に怒りが込められていることは明らかである。


「べ、別に何もないぞ」

「そういえば、ドラゴンの部屋でフィー君と再会した時嬉しすぎてよく気づいてなかったけど、確か他の女の人の匂いがしたわよね」

「そ、そうかな」

「私がダンジョンで三が月も戦わされた時に、フィー君は何をしてあんなに女の匂いがついてるなんて、お姉ちゃんとても気になるなぁ」

「ね、姉さんが心配するようなことは何もないぞ」


 思いっきり馬乗りされて色んなところに擦り付けられたからそりゃ匂いもつくわな。

 ていうかなんで俺が浮気した夫のような事を言っているんだ。

 だがあの時の事は隠しておかないと今すぐ《輝光龍の封印領域》に戻ってリリウスをぶっ倒しに行くと姉さんが言い出せかねない。

 いやこんな緊急時に流石にそれはないけど機嫌が損ねるのは間違いないからそれは避けたい。


「そ、そうだ、これからはリースと一緒に行動することになったし、その分の買い物を済ませよう!」


 俺は話題を強引に変えた。


「う、うん、お姉ちゃんも色々必要なものがあるの、ね!」

「そうですね。でも探索は不慣れですし、皆さんにアドバイス頂ければ嬉しいです」

「もう、分かったわ。じゃまずはソラリスさんの服や装備とかを買い揃えましょう」


 姉さんは仕方なく俺を解放して、手を腰に当てて言った。


「あ、そういえば皆さんにお願いしたい事があります。これからは私の事、ソラリスではなくリースと呼んでください」

「あら、いいの?」

「ええ、これからはパーティメンバーですし、ソラリスという名前はこの辺りでは少々有名すぎますから。リースという名前なら親しい人しか知らないから大丈夫だと思います」

「それもそうね」

「では私もそう呼んでいいですか?」

「勿論ですよアイナリンドさん」

「あ、私の事もアイナと呼んでください」

「分かりました、アイナさん」

「はいっ」


 いろいろ事情でいきなりパーティ参入となったリースだが、一緒に戦ったこともあって、何よりルナの姉でもあるから、姉さんもアイナも、それと街中だから表に出られないスーチンもすんなりと受け入れた。



 §



 メインストリートで必要な物を揃えている時、意外な人と出会った。


「おう、《フィレンツィア》じゃねぇか」


 振り返ると、そこには厳つい顔の探索者が居た。


「ノアさん?」


 約一年前、隊商の護衛としてルナとフォルミド王国を離れた時、一緒に護衛を務めたノアさんであった。

 ノアさんとは一緒にコーデリアの配下を助けたことがあり、顔は怖いが正義感が強い人だである。

 そしてプロイセンの一件が終わった後、俺たちはそのまま隊商を離れポーラン公国に向かったが、ノアさんは残りの隊商を護衛し、フォルミド王国へと帰った。


「久しぶりだな、いつ王国に帰った?」

「つい先日だ。お前らと別れた後はしばらく商人どもに雇われてプロイセンとこっちを行ったり来たりしてるからな」

「あれ、彼らは全部こっちに戻ったじゃなかった?」

「幸か不幸か、プロイセンのクーデターはかなり早い段階で終わったんだから、もう安全なんだから隊商を続けたいって一部の商人が言うからな。まったく強かなやつらだ」

「それであちこち回ったのか、じゃ今も隊商と一緒に帰ったのか?」

「それは違うんだがな。丁度いい、お前らに訊きたいことがあるんだ、少しいいか?」

「いいけど」


 ノアさんの後について、俺たちはメインストリートの角に店を構えた酒屋に来ていた。

 慣れた様子で注文した後、ノアさんは奥のテーブルに腰を下ろして、指を組んで話し出した。


「そうだな、どこから聞けばいいか……ん? そういえば、またメンバーを増やしたな」


 ノアさんは視線を目立たぬように隅に座っているリースに向けた。


 今のリースは眼鏡を付けず、《変装帽子(ディスガイズハット)》で髪と瞳の色を変え、それと目の下にあるホクロも隠したから雰囲気がまるっと変わっている。よほど親しい者じゃなければまず州長のソラリス・ラッケンだと思わない


 だがもちろん念のため、多く語らないほうが良い。


「ああ、神官のリースだ」

「……」


 リースは黙ったまま最小の動きで会釈した。

 それだけで何か得心したらしくノアさんは頷いた。


「なるほど、まあお前らの仲間なら問題ないだろう。これはパウロから聞いた話だが、プロイセンがそろそろやばいってな」

「やばい?」

「ああ、この前戦争を起こした皇帝――ペルリン二世が亡くなった後、姪のルドリーフ一世が即位したが、裏では宰相が操っているとの噂があった。しかしパウロが言うにはプロイセンの上層部、宰相の後ろには更なる黒幕……奪心魔(マインドフレイヤー)どもがいるかもしれない」

奪心魔(マインドフレイヤー)か……」

「ああ、お前らも何か噂を聞いたことがあるのか?」


 プロイセンの上層部に奪心魔(マインドフレイヤー)が潜んでいるということは前にリースから教わった。

 彼らはゲゼル教国と手を組んでプロイセンで戦争を引き起こし、その隙にペルリン二世を弑して国を乗っ取った。自由都市ハスタァでもジャイアント一族の神々の遺品(アーティファクト)を盗んでレプトリアンとの不和を煽った。

 あの時はなぜそのようなことをと思ったが、今なら推測できる、奴らはアンデッドの侵略を迎えるために各勢力の力を削ぎたいのだ。


 勿論奪心魔(マインドフレイヤー)とて生者だから、アンデッドに支配される世界など歓迎するはずがないが、恐らく教国に利用されていたのだろう。


奪心魔(マインドフレイヤー)が色々暗躍しているのを聞いたことがある、ただプロイセンの上層部と言っても、どこまで食い込んだかはよく分からない」

「まあ俺も似たようなものだ。しかしプロイセンから離れているここでもそんな噂が流れるってことは本格的にやばいかもしれんな。他の人から聞いた話だが、あのコーデリアが率いた軍隊が次々と暴徒と化すとか、動く肉の山が現れるとかの噂もあるしな」


 あ、それはたぶん《黒雲膏》を呑んだ軍人とニグレドの事だ。

 ニグレドは俺たちを追ってプロイセンからポーラン公国まで行ったんだから目撃されても仕方ないか。


「だからノアさんも王国に戻ったか? パウロさんは?」

「あいつもそのうちこっちに拠点移る予定だ。で、実はもう一つ話があるんだが、北のアンデッド大発生について何か知らないか?」

「アンデッドの、大発生?」

「ああ、俺は帰国ばかりでよく知らないが、何でも北のほうでアンデッドが大量発生して既にいくつかの町が滅んだと聞いている。だが詳しく聞こうともグールの大群とか大型アンデッドが暴れているとか噂が錯綜しているから、どれが本当かよく分からん」


 なるほど、《穢土》の出現はそんな風に噂されているのか。

 まだ数日だから仕方ないが、事態が正確に認識されていないのでは対策もできないから、ここはちゃんと現状を伝えるほうがいいじゃないか?


 リースに視線を向けると、彼女は小さく頷いた。

 どうやらこの場で《穢土》の情報を話しても大丈夫らしい。


「ノアさん、実は俺たちはあのアンデッドの大量発生に立ち会って、その実情を簡単にだが調べていたんだ」

「おお、そうなのか。じゃ一体グールなのか? それとも大型アンデッドなのか?」

「簡単に言うと、どれも本当なんだ」


 俺はかいつまんで《穢土》の出現とそこから溢れ出た戦力を説明した。

 いきなり千五百年前のアンデッド大戦を話しても信じられるかどうか分からないから、そこを省いて、ただグールや超大型アンデッドを含める大軍、それを率いる極めて危険な存在がいると伝えた。


 話している途中、ノアさんの顔が段々真っ青になり、口も開けっ放しだった。


「まさかそんな出鱈目な……いやしかしお前らが言う事だ、うむむ……」

「全部本当だと誓うよ。明日王国の偉い人からも説明されると思うが」

「そういや、さっきギルドからもそんな連絡受けてたな、まさかこんな大事だったとは」

「ギルドからの連絡?」

「ああ、俺を含めたこの一帯探索者全員に通信(メッセージ)が来てな、明日ギルドからの緊急召集があり、必ず赴くように、とな」

「そうか、どれくらい集まるんだろうな」

「さあな、このラカーンだけで千人、他の街も含めりゃ数千人になると思うが、お前が話した通りの相手だったら、数だけ集めても無駄かもしれん」

「たしかに」

「しかし、俺もいいタイミングで帰国したもんだな」

「いいタイミング?」

「俺は南部地域の出身だが、今回の件はここ中部だけじゃなく王国全体で対処しなければいけないことなんだろう? ならここで戦わなければどうする。この国を、俺の故郷をアンデッドどもに好き勝手にさせてたまるか」


 拳を握って決意を露にするノアさんを見て、俺も頷いた。


「ああ、当たり前だ」



 §



 その後、ノアさんと別れて今夜の宿を探しに行こうとした時、後ろからアイナに呼び止められた。


「フィレンさん、レンツィアさん。今夜、話がありますので付き合ってくれますか?」



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