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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第一章 これからの姉弟
19/229

19 帰還

 書斎に戻ったら、そこには心配そうに見えるスーチンが佇んでいた。

 俺たちを見て、すこしほっとしたようなスーチンに、姉さんは暢気に挨拶をした。


「ただいま、スーチンちゃん」

『おか……えり?』

「ね、さっきの話だけど、私たちはスーチンちゃんの願いを叶えたいと思うの、一緒に来てくれない?」

『本当ですか、ありがとうございます……』

「うんうん、これからよろしくね。私はレンツィア、レンツィア・アーデル、こっちのは弟のフィレン」

「よろしくな」

『レンツィアさん、フィレンさん、よろしくお願いします』


 スーチンは空中に浮かんだまま、綺麗に一礼する。

 育ちがよさそうだし、やはりどこかのお嬢様か。


「あ、そうそう、スーちゃんって呼んでいい?」

『スーちゃん? ええ、勿論です』

「じゃスーちゃんの故郷はどこ?」

『あの頃はまだ小さかったですか、よくわかりません』


 スーチンは小さく首を振り、


『ただ、私が住んでいたところを、みんなが《おしろ》と呼んでいました』

「お城、ね。やっぱりどこかのお姫様かしら、これは手が掛かりそうかな」

『ごめんなさい……』

「ううん、いいのよ」

「姉さん」

「ええ、わかったわ。スーちゃん? 後で私たちの友達が来るかもしれないの、あの子は幽霊を怖がるから暫く私の中に居てくれない?」

『レンツィアさんの……中?』

「そう、こうやってね」


 姉さんは両手を広げ、抱きつくみたいにスーチンに近づくと、緑色の光が掌から溢れだす、やがて光が糸になって二人を包んでいく。


『なんだか、暖かい……』

「さあ、おいで」

『うん、お邪魔します……』

「これからよろしくね、スーちゃん」

『よろしく、お願いします……』


 緑色の光に包まれて、姉さんがゆっくりとスーチンの頭を撫でてた。触れるはずがないのに、まるで本当に撫でてるように見えた。

 スーチンも最初はすこし驚いて、やがて目を細めて受け入れた。


 どれくらい経ったか、本当にゆっくりと、まるで姉さんの体に溶け込むように、スーチンが姉さんの体に入っていく。

 普通の降霊術とは違うのようだが、何か特別な術かな。

 スーチンを取り込んだ後、姉さんは遺灰が入ってる壺も鞄に入れてた。


「で、お前らはどうする?」

『うむ、スーチン様がいる所に我らがあり、しばらく同行させて貰おう』

『これからよろしくね!』

「いやあのね、お前らをそのまま地上に連れ出すわけがないだろうが」

『む? 何か問題でも?』

「地上は人間が一杯だよ、人間はアンデッドを怖がるものなの」

『む? しかしお主もアンデッドなのでは?』

「少なくとも外見じゃ分からないわ」

『そうか、では隠せばいいのだな?』

「ええ、でも貴方たちの体型じゃ隠せないわよ?」

『心配ない、ソクラテ殿は便利袋(ハンディパック)を所持しておる』


 そう言って、二人(?)は書斎の棚から小さい灰色の鞄を取り出した。

 便利袋(ハンディパック)というのは空間魔術で作った魔道具、見た目は小さい鞄だが、術者の力によって馬車から一軒家まで入れると言われている。

 当然それなりに高価だから俺たちは持っていない、ここはありがたく拝借しよう。

 ガラガラと、二人が自分の骨を便利袋(ハンディパック)に入れてるその姿を奇妙な気持ちで眺めていた。


「ところで他のものも貰っていい?」

『ここの総てはスーチン様の所有物になっている』

『スーチン様が良いって言うならいいよ!』

『良い、と思います』


 っと、姉さんの中のスーチンが答えた。


「よしきた」


 さて、現家主の許しが出たしここは探索者らしく有用そうなものを貰っていこうか、今回はいろいろ出費が大きいからな。

 そうやって証拠隠蔽兼家捜しをあらかた終わっている頃、


「レンツィアさん? フィレンさん?」


 少しくぐもったが、回廊の先からここ数日聞き慣れた声が伝わってくる。

 俺たちは書斎を出て、回廊の先からモモの姿が見えた。


「フィレンさんなの? え、その怪我は……!?」


 モモが俺たちを目にするとすぐ走って近寄った。


「ああ、もう大丈夫だ」

「何が大丈夫なの! 手が焦げてるし胸も風穴空いてるわよ!」

「えっと、血はその内止まるよ、手はラカーンに戻って熟練の治癒術師捜さないとね」

「レンツィアさんは怪我とか大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫よ」

「なら良かった……でも少し声が変よ?」


 そりゃ口が裂けてるからね。


「それより、ガーリック村の人は?」

「ええ、それが……」


 どうやらロントの言う通り、ガーリック村の人たちは灰になったようだ。あいつらがこんな結末を望んでいたかどうかは知らないが、毎日殺す殺される日々よりはマシだろう。

 人間が目の前で灰になる光景を目にしながら、モモはなんとか拘束を脱し、装備を取り戻して俺たちを捜しに来た。

 研究室の入り口はわからなかったが、探してる内にある建物から蝙蝠の大群が出て行ったのを見ていた、と。


「そうか、一人でついてきたのか、危ないかもしれないのに」

「いいえそんな、お二人こそワタクシのために……」

「まあ、それも終わったからな」

「終わった? もしかして……」

「ああ、ソクラテはもう死んだ、ていうか俺たちが来ていた頃もう死んでいた」

「え、それならどうしてそのような怪我を――そういえば、あの仮面の男は、お二人と一緒のはずでは?」


 今になってロントの不在に気付いたモモがきょろきょろと見回る。


「あ、あいつ実はヴァンパイアなんだ」

「え、ヴァンパイアってあの?」

「うん、たぶんあのヴァンパイア」

「え、えええええええええええ――!」


 まあ驚くわな。ヴァンパイアなんて、普通は英雄譚くらいにしか出ない化け物だし。

 証拠としてぴちぴちな腕を見せたら青白い顔していた。


 それから、俺たちはスーチンのことを伏せて事情を説明した。

 魔術師ソクラテは村人に呪いかけた後自分も亡くなり、残した強力な魔道具《黒翡翠》が呪いを維持していた、それがロントに奪われて、俺たちも危うく殺されたけどなんとか撃退した、と。

 考えてみたれば、全部本当の話だなんだなあ。


「ヴァンパイアすら退くなんて、二人とも本当にすごいだわ」

「退いたというか、見逃されたというか……ね?」

「また会おうとも言ってるしねー」

「できればもう会いたくないけどな」

「ヴァンパイアなんて、もう数十年も目撃されてないのに、まさかこんなところに出てくるなんて、二人が居て本当に良かったわ」

「運が良かっただけさ」


 本当に、何度も運に救われただけだ。一つ間違いでもあれば俺も姉さんも死んでた、できればあんな戦いは二度とごめんだな。


「それより、ガーリック村のことはどうする? ギルドに報告する?」

「そうですね……やはり、信じて貰えないでしょうか?」

「姉さんはどう思う?」

「無理でしょうね、ソクラテの話はともかく、あんな出鱈目のアンデッドがいるなんて」

「そうだな、まあもう消えちゃったし」

「ええ、ではモモさんが見たっていうアンデッド実はヴァンパイアでしたーって方向に行きましょう」

「ええ、分かったわ」


 それから、俺たちはソクラテの死体を地上に運んで、しっかり弔った後丁重に燃やした。遺灰は託すべき家族がいないから俺たちが預かって、あとでスーチンと相談するつもり。

 モモは事情を知らないが、敬意を持って亡者を扱うのには特に反対してない。


 そして俺たちは一日を掛けて森を抜け、トメイト町に戻った、そこから俺とレンツィアだけさらに一日掛けてラカーンに帰還。ちなみにその途中で姉さんの体を治した。

 モモは父が丁度トメイト町に戻って来たから一度帰らなければならないと言ってトメイト町に残った。

 あとでギルドに報告しに行くとモモは言ったけど、彼女は肝心のヴァンパイアを見てなかったから、別に証言してくれなくてもいいけどね。


 ギルドに行く前に、ラカーンで腕のいい治癒術師に腕を再生させて、一昼夜ベッドに悶えてた。

 聞いたことあるけど、再生ってすっごく痒いなんだね……。

 そして依頼を受けてからの11日目、俺たちはギルドの門を再び潜った。





「…………」

「…………あの」


 ようやく戻った俺たちに、フェリさんはいつもの人懐っこい笑顔を浮かべて、受付の横にあるテーブルで事情聴取していた。

 報告し始めた頃はコクコクと頷いて、たまにノートに筆を走らせていたけど、途中から指をコメカミを押さえて沈黙している。

 報告が終ってからもう一分経ってるのに、呼びかけても反応しない。


「……あの?」

「はぁぁぁ」


 突如大きいな溜息をするフェリさん、そしてキリっとした表情になっや。


「では確認しますね、パーティ《フィレンツィア》は目撃者兼依頼者の娘、モモ・クマモトと一緒に夜の森にてヴァ、ヴァンパイアと遭遇、それを撃退した、ということで間違いないですね?」

「いや、ヴァンパイアと戦った時、モモとは別行動で、比較的に安全な村の周辺を捜索してもらってた」


 ということになっている。


「モモ・クマモトさんは単独行動できるほど腕が立つ人物なんですか?」

「はい、一度手合わせしたけど通常のモンスターでは問題ないと思う」

「それじゃ、問題はそのヴァン……」

「ヴァンパイアだな」

「本当に、ヴァンパイアなんですか?」

「一応証拠があるけど、見る?」

「ええ、見せてください」


 俺はロントの腕を取り出したて、包んだボロ布を解いた。

 縄で縛られて数日も経ったのに、相変わらず元気でぴくぴくしてる。


「ひぇぇえぇぇえぇぇ!」

「え、ちょ」


 フェリさんが悲鳴を上げながら席から飛び退って、顔面蒼白でそれを注視している。

 ここは探索者ギルドの受付、周りに探索者と職員がわんさかいる、それらがフェリさんの声に釣られて一斉にこっちに振り向いた。

 ロントの腕がまるで大勢に見られて興奮してるように盛大にぴくぴくしている。


(うわっなにあれ……)

(アンデッドかい、それにしても……)

(ぇぇ、動いてるし、キモイぃぃ)

(なんという禍々しさ……)

(あんなアンデッドいるのかよ)


 周りの人たちも一様に青白い表情で囁き合い始めたので、居たたまれない俺はそれを再びボロ布で包んだ。

 俺たちはロント本体で慣れてるが、どうやら一般人には刺激が強すぎるようだ。


「っん、げふん」


 フェリさんも自分の失態に気付いて、なんとか自分を落ち着かせて咳払いして席に戻った。


「た、たしかに大変危険な代物ですね」

「ああ、まあ、やばかったな」

「兎に角、それがヴァンパイアの腕かどうかはこちらの鑑定魔術師に任せるとして、アンデッドの腕であるのは間違いありません、あとでクマモトさんの話も確認して問題がなければ、お二人の依頼は達成されたと認めます」

「それじゃ」

「ええ、約束通りお二人のあの依頼への参加を認めますよ」

「よっしゃ」「やたー」


 俺たちは小さいなガッツポーズしてた。


「ふふ、では二人とも、クマモトさんは確か明日でこちらに来ますよね?」

「ああ、そう言ってた」

「その時鑑定の結果も出てるはずですから、明日の午後もう一度来てくださいね」

「わかった」

「ではその……あれを預からせていただきますね」

「ああ、頼むぜ」


 俺は腕をテーブルに置いたが、フェリさんは顔を引き攣らせて、取るかどうかで悩んでいるらしい。

 やがてついに諦めて、カウンターの奥から小木箱を取り出し、腕を入れて蓋をする、ようやく一安心のようだ。


「ふぅ、では二人とも、今度の依頼お疲れ様です」

「フェリさんもおつかれさん。あ、ところで」

「はい、なんでしょう?」

「ちょっと用事があって、《猛る者》の人たちに会いたいけど、伝言お願いできる?」


 探索者の間の連絡手段として、ギルドの伝言板を利用することができる。急ぎの場合は大体魔術を使うのだが、そうではない場合、また術者がない場合は伝言板のほうが便利。


「パーティ《猛る者》ですか? それは構いませんが、伝言はなんでしょう?」

「えっと、じゃヴァイトさんへ、金の問題について少々話をって」

「はい、承りました」


 金の問題とは何って聞いてこない、探索者同士の問題について訊かないし気にもしないのがギルドの方針なんだろう。

 やるべきことを済ませて、俺たちはギルドを出た。


これで一章が終わります。

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