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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第一章 これからの姉弟
15/229

15 モモという人

※モモ視点です。

※同性愛描写があります。

※読み飛ばしOKです

 鮮烈な一目惚れと同時に、失恋を経験してしまった。

 後から見れば、それは大事な人たちとの出会いであり、これまでの価値観を揺らぐほどの出来事でもあった。

 しかし今のワタクシでは、大事な人たちの重荷にしかなれない、危険な目に合わせることしかできなかった。

 暗い地下で、ワタクシは自分の無力さを痛感した。






 母は元探索者であり、最愛な人でもあった。


 行商だった父と旅の中で知り合い、やがて恋に落ちる、婚後も護衛を兼ねて父と共にいろんなところに足を伸ばした。

 武芸だけじゃなく、カリスマ性も持ち合わせていた母は、父の事業が広く展開するに連れて裏に下がったけど、それでも従業員から慕われ続けていた

 幼いワタクシから見て、母はいつも凛々しくて、まるで輝いてるみたいだ。

 目指すべきは、母のような女性だと思った。


 しかし成長につれて、ワタクシは自分が母に対する思いが親への親愛ではなく、慕情だということを理解した。

 初めての失恋であった。

 母はすでに愛した人が居て、何より親でした。ワタクシが生まれた時点で、この気持ちが実るところが、伝えることすら叶わないのだ。

 とにかく何かに打ち込んで、母への思いを忘れたいと思った頃に、この槍と出会った。


 屋敷に居る護衛の人から武術の手ほどきを受けて、すぐ上達してしまい、母のように才能があると褒められた。

 母を遠ざけたいと思ってるのに、自分の中に母との確かな繋がりに喜びを感じる自分が居た。

 ワタクシはそれはもう両親が心配するほど武芸にめりこんでしまった。

 少しでも母に近づくために。


 15の時に、母が亡くなった。

 葬式が終わったら、父には母への気持ちを告白した。父は驚いたが、薄々気付いてたようで、特に何も言わなかった。まだ生まれたばかりの弟と一緒に、三人で母を偲んだ。


 その時初めて自分が女性を愛したことは珍しいだと知った。

 それまでは他人の恋に興味なかったし、自分の恋を誰かに喋ったこともないから気付かなかった。

 父が言うには、ワタクシのような人は珍しいから田舎や一部の地域では孤立されがちなのだが、少なくともこのラカーン一帯では特にそんなことはないようだ。


 しかし、それでは世継ぎを産むことも、後継ぎを迎えることもできない。母のように父の役に立つことはできない。

 父は家業を弟に継がせるから心配ないと言ってくれたが、その時からワタクシはいつか家を出て独り立ちすることを決めた。

 頼れるべきはこの槍と体だけ、母のような探索者になろうと思ってる。


 それからさらに腕を磨いて、経験を積むためにモンスター討伐や父の荷車隊の護衛の指揮も務めてきた。

 アンデッドを発見したのもその頃だ。


 自分の見たことを疑いたくない、しかし信じてくれる人はいない。

 この一帯はそもそもモンスターが少ないし、アンデッドもほぼ出ない、それに何回も捜索されて結局何も見つからなかったから無理もない。

 きっとアルテールさえ、明言はしないが、心の中では信じていないでしょう。

 それでも父は何度も依頼を出してくれた。

 嬉しいけど、いろんな人に迷惑掛かってる自覚もあった。

 今回が最後、もし今度も見つからなかったら自分の勘違いだと認めよう。


 そんな時、屋敷にやって来た二人の探索者。これはチャンスと思って談話室の扉を開いたら、そこには美しい赤髪の女性が居た。


 燃えるような赤髪を長めのポニテ―ルに束ねており、形の良い耳と首筋を現れにしている。灰色の瞳は冷たく冴えている、口元には愛嬌のある笑窪。意志が強いとも、柔らかい雰囲気の女性とも言えるでしょう。

 身体は長身で引き締まっている、すらりとした四肢は暴力性を含んでいるのに、全体のラインは女性らしさを醸し出している。獣の獰猛さと子猫の可愛さを併せ持っている人だ。

 そして立ち姿は一本の芯が入ってるようにまっすぐで隙がない。探索者としての実力はワタクシでは逆立ちでも届かないと一目でわかった。


 まるで母を見ているように、恋をした。


 そして二度目の失恋を経験した。その女性――レンツィアさんは弟のフィレンさんと両想いなのはすぐに分かった。

 当たり前のようにレンツィアさんと並び立っているフィレンさんに、ワタクシは激しく嫉妬してしまった。




 レンツィアさんが出した条件で、フィレンさんと手合わせしたけど、自分の今まで鍛えて来たものはなんなんのかって思うほど、手も足も出なかった。

 フィレンさんは最初から最後まで余裕でした、ワタクシの動きの総てを掌握して、その先の先を潰して来た。

 とにかく凄まじい観察眼を持っている人、レンツィアさんと同じの灰色の瞳に見つめられて、まるで自分が隙だらけになっているようで、踏み込むだけで億劫だ。

 もしこれが実戦だったら、おそらく最初の一合で殺されたのでしょう。


 最後はどうやって勝てたのかよく分からなかったが、あれはフィレンさんの実力じゃないと思う。

 フィレンさんは間違いなくワタクシの切り札を読んでいた、いくらでも反撃に出れるはずだ。


 そんなフィレンさんが、ワタクシの努力を誉めてくれた。

 母から授かったこの身体や才能ではなく、ワタクシが母のためにを重ねてきた努力を。

 ああ、この人もまた、自分の恋に努力を惜しまない人なのでしょう。

 彼は自分の姉に恋をして、それを叶うべく努力を積み、やがて勝ち取った。

 さすがにレンツィアさんが選んだ相手だ、ワタクシは彼に認められたことを光栄だと思っている。

 レンツィアさんは目指すべき目標なら、フィレンさんはそう、ライバル(こいがたき)だ。


 そうやって二人と森に入った。

 いろいろあって、中には二度と思い出したくない出来事もあったけど、それ以上二人から学んだことが多かった。

 探索者としての心得もそうだけど、それよりフィレンさんはレンツィアさんのようになろうとはしないことだ。

 彼は意志が強い、それを成し遂げる行動力をも持っている。そしてレンツィアさんは繊細でありながら物事の全体を見下ろす広い視野を持っている、常にフィレンさんを諫めながら彼がやりたいことを支えている。

 この二人はまったく似てないのに、深いところで繋がって、お互い執着し合っている。


 思えば、父も母とまったく似ていなかった。

 ああ、思い人と並び立つのは、同じ存在になるということじゃないのね。

 自分の今まではなんなんのかって再び思った。

 フィレンさんをライバルというより、人生の先達(こいがたき)と思うようになった。

 いつかフィレンさんのような探索者になりたい。


 しかし、今のワタクシは、二人の枷になってしまった。

 ラカーンと運命を共にする義理はないと言い切った二人は、ワタクシなんかのために死地へ赴いた。

 感動してる自分が情けなくも、恥じ入るもした。

 今は二人の無事を祈るしか、できることはない。



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