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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第一章 これからの姉弟
12/229

12 捜索スタート

 二時間後、時間ぴったりに現れたモモと合流した。


 旅装束にハーフプレート、そして煌びやかに輝いてる短槍を担ぐ様はまさに一端の戦士。

 しかしプレートアーマーは頑丈だが、それなりの重量があるはずだ。

 普通の槍兵なら問題ないが、なにせモモは小柄の女性だ、それに籠手を纏ってるから体術での戦闘も視野に入れているだろうが、そんなじゃ動けるのか。


「来て下さってありがとうございます。どうぞよろしくお願いします、モモ様」


 姉さんは一礼するが、モモに止められた。


「待って、これからは共に戦う間柄なんだから、お互い堅苦しいのは止しましょう」

「では、モモさんでいいですか?」

「敬語も要らないわ」

「判ったわ、では改めて。私は探索者のレンツィア・アーデル、よろしくねモモさん」

「ええ、よろしく、レンツィアさん」


 二人は握手した。

 真面目な人だな、どっかの裏切者たちに見習ってもらいたいぜ。


「フィレン・アーデルだ、俺もよろしくな、モモ」

「ええ、まだ未熟者だが、よろしくお願いするわ」


 モモと握手して、俺は疑問をぶつけた。


「なあ、モモ。その鎧じゃ動きの邪魔にならないか?」

「ううん、そんなことないわ。これは父から贈られた鎧で、軽くて丈夫なのよ」

「へぇー良い鎧だね」

「たぶん、それはミスリル製じゃないかな」


 姉さんは少しハーフプレートを触ると、小さく呟いた。

 私も見たことないんだけどね、とも付け加えた。


「ええ、たしかにそう聞いていたわ」

「な、なるほど、道理で軽いわけだ……凄いなクマモト家」


 ミスリルは鋼鉄と同じ硬度を持ちながら重量が半分以下しかない、さらに魔術との親和性も高い金属。

 硬度は同じだから武器にしてもメリットは少ないが、ミスリル防具となれば探索者達がは喉から手が出る程欲しいものだ。

 銀から精製できるみたいだが、その方法を知ってるのは一部のエルフだけだから中々お目に掛かれない代物だ。


 この一件でヴァイトの仲間の借金を軽くチャラにできるだろうな。

 一人娘の身を守る防具だから金に糸目を付けぬってことか、ガンダ氏恐るべし。


「では、まずはこれからの捜索プランを決めよう」


 姉さんの案は簡単に言うと、最初から森に入って、南東から反時計回りに南西まで森の外縁部を回るプランだ。

 それで見つからなかったら、そこからさらに深入りして、今度は時計回りで南東まで戻る、あとは繰り返し。

 可能性がある場所を全部虱潰しに行く、捜索する時よく使われる方法だ


「それでも見つからなかった場合は?」

「三日で見つからなかった場合は、アンデッドが消えたという北方から森の深部を探すわ」

「理由を聞いてもいい?」

「普通のアンデッドは縄張り意識などない、大体の場合は目的もなく彷徨ってるだけ、だからまずは手広く探す。でも時間は限られてるし、さすがに森全体は無理だわ、だからその場合は相手を知恵あるアンデッドと仮定して、拠点を探すのがセオリーだよ」

「知恵あるアンデッド……本当にいるの?」

「ええ、ハイグールなら動物並の狡猾さがあるし、ヴァンパイかリッチなら人間と変わらないわ」

「そんな化け物といつも戦ってるなんて、探索者はすごいわ……」


 何か誤解してるみたいで尊敬のまなざしを向けてくるモモ。


「いやそんなの滅多に出てこないから」

「そうだね、むしろモンスターと低級アンデッドが殆どだわ」

「それでも、皆の安全を守ってるのね」


 そうなんだが、どちらかというと金のためだけどね

 まあ、ここであえてモモの夢を潰す必要もないか。


「では問題がないならこのプランで行くわ、今日は日没直前まで探して、村で休む」

「あら、野宿はしないの?」

「今日はまだ村の近辺にいるから必要ないわ。では、そろそろ出発しよう」

「よし、いくぞ」

「ええ!」





 意気込んで捜索はじめたのはいいけど、あれから三日間、成果はゼロでした。

 驚くほどに平和な森にモンスターとの遭遇も少なく、巨人型のアンデッドの痕跡も見つからなかった。

 三日目の夜、森の中に僅か空いたスペースに、俺たちは焚き火を囲んでる。


「……」


 無言のまま姉さんの作ったスープを啜るモモ。

 俺と姉さんは最初からこの状況を予測していたから良いけど、モモはさすがに意気消沈してる。

 姉さんは今食事の後片付けをしてるからここは俺と彼女しかいない。

 気まずいほどじゃないが、何か話しかけづらい。


 思えばこの三日間、モモは実によく頑張った。

 団体戦の経験が少なく、連携なんてとてもじゃないが出来そうもないけど、それでも機を見てなんとか俺や姉さんの邪魔にならないように何度も攻撃入れた。

 初心者、それもお金持ちのお嬢様としては上出来と言えよう。

 少なくとも四年前の俺よりは使えるはずだ。


 問題はむしろ野宿のほうか。

 本人の申告通り、経験はあるようだが、どうやらそれは使用人付きのぷちキャンプみたいなものだ。

 探索者の野宿に風呂はないと聞いた時表情が引き攣ったし、食事はモンスターの肉と気付いた時など盛大にぶちまけてしまった。

 それでも文句一つ言わずについてこれた。

 一体何が彼女をここまで頑張らせたのだろう。


「あんまり気にするなよ、モモ」

「フィレンさん?」

「捜索がいきなり成功するのはむしろ稀だ、ここからが本番さ」

「そうなんでしょうか、でも今までの探索者の方たちも何度も捜索してるし、やはり無理かもしれないわね」

「まあ、それはそうかもしれんな」

「少し……自分が本当にアンデッドを見てたのか怪しくなって来たわ」


 焚き火を見つめて、小さく苦笑いするモモ。

 整ってる容姿のモモはたとえ落ち込んでも、それはそれで絵になるが。なんだかイライラさせる表情だ。

 なんとなくだが、この三日間一所懸命に頑張ってたモモとは別人のように見える。

 探索に段々慣れてきたから心に余裕が出てくるから、逆に余計な思考にハマったのか。


「らしくないじゃん」

「え?」

「いや知り合って三日の俺が言うのもなんだけど、モモは俺に一撃入れるくらいだから、相当頑張ったんだろ。俺はずっと姉さんに鍛えられてきたし、探索者としても数年やってきた、まさか特に努力もしないで俺に勝ったとは言わねぇよな?」


 泣くぞオラァ。


「そんな、あれはまぐれであって、フィレンさんの実力ではないはずだ」

「同じだっつーの、実戦じゃ最初に一撃入れたヤツが生き残る、死んだ奴に実力もくそもねぇだろうが」

「それは」

「だから頑張ってたお前が、たった三日で見つからなかったから落ち込んでんじゃねぇよ」

「だから、ワタクシらしくない、と……?」


 俺はモモに頷いて、肯定した。


「それに、俺はモモの話が本当だと思いたい」

「え?」


 モモは顔を上げて、驚いてるように俺を見つめてくる。


「だからたとえお前が諦めようか、俺は探すぞ」


 まあ、本当じゃなかったらこっちが困るだからな。

 たとえモモの見たヤツじゃなくても、アンデッドの一匹や二匹は持ち帰れねばならん。必ずだ。

 決意を込めた目つきでモモの視線を迎え撃つと、


「……ぷっ」


 なぜか笑われた。


「な、なんだ?」

「くすくす、フィレンさんって、たまに口悪くなるよね、あと目付きも」

「は?」


 何言ってんだこいつ。

 俺の決意を込めた視線をなんだと心得てやがる。


「格好つけたい年頃なんだからね、フィー君は」


 いつの間に側に来て腰を下ろした姉さん。


「ちげーよ! いや、違うぞ」

「はいはい、落ち着いて。それより二人とも何話したの?」

「いいえ、それが……ちょっと落ち込んだところにフィレンさんに慰めて貰った」

「へぇーやるじゃないフィー君」

「ふっ、それほどでもある」

「人のセリフパクらないでよ」


 俺と姉さんの会話を見て、なぜかくすくすと笑い声漏らすモモ。さっきの苦笑いよりはずっと気持ちいい笑顔だ。


「では明日の行動について一つ提案があるだけど、二人ともいい?」

「北方を探すじゃないの?」


 頭を傾けるモモ。


「ええ、それについては変更なしだけど、明日の捜索は正午になったら一旦休憩を取って、夜から再開しようと考えてるわ」

「夜から!?」


 さすがのモモも夜の危険性が分かるのか、凄い反応だ。


「ええ、アンデッドは夜のほうが活発してるし、この数日間、このあたりのモンスターの種類も摑めてきた、例え夜でも不意は突かれないはずよ」


 姉さんはさりげなく俺のほうを見た。

 たしかに、生者探索ディテクトリーヴィングを使えば、モンスターに先手取られることはほぼないだろう。

 しかし、


「それで、もし本当にアンデッドが出る場合はどうする?」

「簡単だよ、倒せるなら倒すもしくは体の一部を捥ぎ取る、でなければ逃げる」


 シンプルイズベスト。

 たしかに夜では姉さんのスペックも上がるし、まったくの不利でもないか。

 死の化粧(ヴェール)を使った俺と姉さんに対して、アンデッドは積極的に攻撃してこないはずだ。最悪の場合、俺たちが殿を務めてモモを逃がせばいい。


「でも、それはアンデッドを放置することになるではないの?」

「モモさんがギルドに証言してくれれば、討伐隊くらいは派遣してくれると思うよ」

「それなら……問題ないかな」

「そう、フィー君は何かあるの?」

「俺も特にないかな」

「じゃ明日はこのプランで行こう、正念場になるから今日は早めに休みましょう。――っと、その前に」

「なんだ?」


 姉さんは腰を上げて、モモの手を取った。


「風呂はないけど、お湯を沸かしておいたから、身体を拭くくらいはできるわ。私は先に済ましてたから、モモさんもどう?」

「え、本当!? ありがとう、是非お願いするわ!」


 それを聞いて、モモがまるで飛んでるように立ち上がって、背中に羽がついてもおかしくない位喜んでる。

 やはり女の子だから、そういうことは気にしてるだろ。


「じゃテントの中に入ろう。フィー君、暫く外をお願いね」

「りょーかい、俺も外で軽く拭いとくわ」

「そうして、私はいいけどモモさんはフィー君の体臭を気にするかもしれないわ」

「え、わ、ワタクシも気にしないわ」

「そう? 良かったねフィー君」

「体臭とか言うなよ……」


 繊細な年頃なんだから。


 とりあえず、いろいろありながらも俺たちは捜索から三日目の夜を過ごした。


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