100 思わぬ再会
姉さんの言った通り、城の中は小さいな町みたいだ。
真ん中には一本の広い道があり、その左右から道が枝分かれて、無数とも言える建物がシンメトリーに林立している。
道は白いタイルで綺麗に舗装され、赤漆に染められた柱と金色に輝く屋根の建物が荘厳さを漂う。
城壁一枚に隔てられた城下町とは別世界のようだ。
特に、
「くそ、わらわらと湧き出して!」
「ルナちゃん、前に出過ぎよ!」
剣と、槍と、戟と、刀と、ありとあらゆる武器が俺たちを囲んでいる。
いずれもツクモガミと化したそれらは、ゴーストである持ち主を操り、次から次へと襲ってくる。
「《破山砲》!」
衝撃波がツクモガミの本体である武器を吹き飛ばす。
武器に引っ張られて兵士達も転んだが、しかし純然たる物理的な衝撃は仕手であるゴーストに効きにくいため、奴等はすぐさま立ち直って俺たちへと斬りかかる。
「汝、焚焼を受ける苦痛を知れ、火の球!」
ルナが呪文を唱え、俺は猛火に焼かれたゴーストを片っ端から斬り倒していく。
ツクモガミの兵士が横から回り込んで、唸りながら斬りかかってくる。
《夜闇のマント》からビャクヤの《黒棘》が一閃、ツクモガミ兵士の喉を貫き、霧散させた。
ブレイダー君とアサシン君も奮戦しているけど、ゴーストたちに有効打を与えない。
いくら魔術親和性の高いイシルディンでもそう何種類の強化を施すことはできない、だからアイナさんは基本となる幾つかの強化以外は敢えて手を掛けていない。
その代わり、
「秘めたる力を示せ、あらゆる存在に干渉するものよ!多数武器付与・幽霊殺し!」
多数武器付与とは、対象となる全ての武器に一時だけ特定な強化を付与できるゴーレム魔術。
アイナさんの魔術が光となって俺たちの武器に纏いつく。
「はあああああ!」
強化されたブレイダー君とアサシン君は、俺と姉さんと一緒に前に出てツクモガミの兵士を片っ端から切り倒していく。光に纏われる武器は半透明の身体を次から次へと切り裂く。
だが後ろからまたぞろぞろと増援に来ている。
奴等一体一体に大した力はないが、連携がうまい上に軍隊じみた動きをしている、今も遠くから幾つかの中隊が整然と俺たちへと進軍してきている。
これではジリ貧だ。
「ここは広すぎる!前の一団を突破して、左手の建物に入るぞ!姉さん、先行!」
「了解!」
花弁のように咲き乱れる黒い霧をばら撒いて、姉さんは走り出した。
俺たちもツクモガミの群れを蹴散らしながら、その後に続く。
赤漆に染め上げられ、精巧な彫刻に飾られた扉を蹴り飛ばし、建物に突入する俺たち。
姉さんに続いてルナ、アイナさんとゴーレム達、そして俺が殿だが、姉さんが建物に入った途端、ツクモガミ達の動きが止まった。
わらわらと集まってきたゴーストがまるで建物を壊すのを恐れているように周りを囲んで、しかしそれ以上迫ってこなかった。
「ふぅ、とりあえず一安心、かな?」
あのまま広い場所で囲まれて、向こうの人海戦術に隊列が崩されたらやばかったかもしれない。
一息ついて室内を見渡すと、どうやらここは使用人の控え室らしい。テーブルと椅子が雑然として置かれた。
ここで一時休憩するのはいいが、敵がこれだけ多くなるとロクに探索できるはずがない、どうしたものか……。
と思った時。
「フィー君、あれは?」
「ん?」
姉さんの視線に沿って見ると、この室内とこれ以上ないほど似つかわしくないものがあった。
それは、床の中央部に空いたデカい「穴」だ。
断言してもいい、俺たちが入った時にそんな穴はなかった。
俺たちが一息をついて、これからのことを考え始めた頃、それが出てきてしまった。
警戒しながら近づき、下を覗いてみたら、そこはどうやら他の洞窟と繋がってるみたい。
考えてみればここは元々地下の坑道、他の地下空間と繋がってしまうのも不思議じゃない。
しかし、この洞窟には見覚えがある。
「姉さん、これはもしかして……」
「やっぱり、そう思う?」
「フィレンさん? レンツィアさん?」
アイナさんは俺と姉さんのやり取りに首を傾げた。
「ちょっと入ってみる」
「え、大丈夫なんですか?」
「まあ大丈夫……たぶん」
バスターソードを背中に収め、穴に飛び込んだ。
すると、やはりというか、そこは白い回廊であった。
白い石を組み上げて作られた回廊、横は馬車が通れるほど広くて、両側の壁には照明の魔道具が掛かっている。
半透明に輝いてる壁は石ではない、ジェイド。この回廊、いやこの建物自体が一つのジェイドから彫り出されたみたいだ。
俺は上に待機している姉さんに大丈夫だと伝える。
やがてルナ、アイナさん、姉さんと次々と降りて来た。
少し見渡して、姉さんは予想通りと言わんばかりに頷いた、しかしどこか納得してない表情だ。きっと俺も同じ表情だろう。
「フィレンさん、ここは一体どこなんですか?」
「俺の予想が正しければ、ここは……」
入った場所が違うか、俺は前と比べてさほど時間を掛からず回廊の奥に辿り着いた
両開きの門を押し開けたら、そこには――
「来たか、少年」
身体の左半分が骸骨の、創造神だった。
読書に興じていたらしい、創造神――フォー=モサは椅子に深く座っており、膝には重厚な本が置かれている。
その右半身は普通の人間のように肉があり骨もある。黒髪に黒い皮膚の手足はすらっとして、容姿も整えているが、左半身が骸骨のままだから、むしろ前よりおぞましい姿に見える。
フォー=モサは墨のような指で本を閉じ、紫の右目がぐるっと俺を見つめる。
「さて、久しいと言えばいいかな、少年?」
「ああ、数が月ぶり、かな」
「ふむ、そのくらいか、どうもこの世界の時間の流れに慣れんな」
「フィレンさん、もしやこの方が」
アイナさんが後ろから耳打ちしてきた。
ルナは俺の後ろに隠れて、人見知りの癖が出たみたい。
俺は頷き、
「ああ、俺と姉さんを……助けてくれた、この世界の創造神、フォー=モサ様だ」
「この方が、創造神……確かに、アンデッドのような感じはありませんが……」
その気持ち、分かるぜ。
「で、なんでおま……貴方はここにいるの?前はラカーン市の近くじゃなかったっけ?」
幾らなんでも遠すぎるだろう。
しかしフォー=モサは俺の質問に対して、下らなさそうに哂った。
表情があるぶんますますムカつくだなこいつッ。
「ここはエルフの王が贈ったって言ったはずだ、普通の洞窟のはずがなかろう?」
「あーハイハイ凄い。で、さっき来たかって言ったけど、俺達を呼んだのは貴方でいいのか?」
「我はミーロに伝えただけがな、奴がどうやって君たちを呼び寄せたのは知らん」
「やはり貴方か……」
つまりドルディン様が俺たちを指名したのは、単にこいつがここにいるだけか?
いや解決に導けって言ったし、何か俺たちができることがあるはずだ。
「それより」
やる気なさげに頬杖をして、フォー=モサは俺たちを一人一人見やった。
「レヴェナント、ヴァンパイア、リッチ、ゴースト……なんだ。アンデッドばっかりではないか、どうやら種を残す気はないな。まあ、それも君の選択か」
フォーモサは視線を俺に戻した。
最初は、何を言ってるのか分からなかった。
「種を? ……なっ」
俺は一瞬フォー=モサの言葉に首を傾げ、そして悟った瞬間、首から上が熱くなったのを感じた。
そしてどうやら彼女たちも同じのようだ。
「あらら」
「そ、そんな、私なんて……はぅぅぅ」
『……しゅ?酒?』
「はわわ、スーちゃんダメ、これ聞いちゃ駄目のやつぅぅ」
三者三様の反応のお蔭で、俺は動揺を見せずに冷静を取り戻せた。
「くっ……いつの間に冗談言えるようになったな、創造神様」
「ふふっ」
俺が精いっぱい取り乱せないようにする姿が面白いのか、姉さんは小さく吹き出した。
「何、君が種を残さないといずれ欠片は我に戻る、それでは困る、という話だ」
嘘つけ、目が思いっきり笑ってるぞ!
力を込めて紫の目を睨み返すと、その目がぐるっと俺の横を見た。
「……そういえば蘇りを願う者が居たな、なるほど」
「納得してんじゃねぇ!」
ついに我慢しきれず突っ込んだ。
「てか欠片が戻るのはお前にとっても都合がいいじゃないかっ」
「それは、君一代で我の願いを叶える気かね?」
「そりゃ、当然だろう?」
「ふむ、我はもっと長いスパンで待つ気だがね。我は気が長い故な」
「そもそも、もう半分まで戻ってるじゃないか」
「そう、それだ」
フォー=モサは俺に指差した。
「何やらおかしいな集め方していたみたいだな、その《黒雲膏》とやらで」
「あれは……やはり食べた奴が適合者になるのか?」
「そんなわけがなかろう」
自分でもありえないと思ってる推測を、フォーモサに一蹴された。
「元々、すべての世界は我が作り出した、つまりあらゆる存在、それこそ砂の一粒にも我の力が宿っている。欠片は言わば我の力の結晶、指向性を持つ力の塊、その密度は他の存在の比べではない。君に授ける加護は、一定の密度を持つ力を回収するものだ。しかしその《黒雲膏》とやらは、強引に力の密度を上げることができる」
「それはやはり、殺した者の力を吸収する感じ?」
俺は《共喰い》の奴等を思い出した。
それとブライデン町の探索者達も、国境兵は人を殺すのに連れて強くなったと。
しかしフォー=モサは首を振った。
「違う」
「へ?」
「負のエネルギーの大元は何だと思う?」
「それは、負の世界から?」
「では負の世界のエネルギーはどこから?」
「さあ」
フォルミドを離れる前に、レキシントン先生との問答を思い出す。
あの時、先生は自然発生のアンデッドの原因は負の世界から流れ込んだ負のエネルギーだと説明してくれたけど、そのエネルギーの大元については言及してなかった。
「答えは、死に逝く者が生者への憎悪と怨嗟だ。《黒雲膏》を飲んだ者が、殺した者の憎悪を受け、さらなる憎悪を作り出す。それが彼らの存在の密度を上げ、指向性を持たせた。そして彼らが死んだ後、貯め込んだ憎悪が一気に負のエネルギーになる」
「そんなものが……一体誰が作り出した!」
「それを知って、どうする?」
「勿論止めるんだよ!」
「ふふふ……まあ、本題に戻ろう」
「おい!」
「我は施すのが好きだが、求められるのを嫌う。忘れたかね?」
「……りょーかい。早く本題に入ろ」
「要するにだ、君が大量に集めた力は欠片ではなく、人々の存在の力だ。そんなものが集めすぎると、いずれこの世界から人が減る、それでは面白くない。故に、またそのような者と会ったら、集めるな」
「それだけのためにわざわざ俺たちをここに呼んだのかよ……」
「我は君たちに伝え事があると言っただけだ、ミーロのヤツがどう判断したのかは我の知ることではない」
「ミーロ様……」
なんでこいつが伝え事があるって言っただけで、最後は俺たちに鉱山の事件を解決せよになったのだ、伝言ゲームかよ。
神々の意思疎通ってどうなってんだ……。
何かが俺の中で音を上げて崩れ落ちてゆくのを感じながら、俺はファー=モサに言った。
「それじゃ、もう用はないのか?」
「ふむ。ところで、我が加護を施した武器が折れたようだな、見せてくれ」
言われた通りナタボウを差し出す。
半ばから折れたナタボウを少し弄んだ後、フォー=モサはそれを両手の間に置いて、ポンっと手のひらを合わせた。
そして手を開いたら、ナタボウが小さいな石礫になった。
「ほれ、身に着けるといい」
フォー=モサから投げ返されたナタボウだった物を受け取った。
よく見てみたら、それは極限まで圧縮され、小さい正八面体になったナタボウだ。
これならペンダントとかにできそう、重いけど。
「お、おう……ありがと、う?」
「さて、君たちにはもう用はない、帰るがいい」
鬱陶しそう手を振って俺達を追い出そうとしてるフォー=モサ。
「なあ、フォー=モサ……様、あとどれくらいで貴方は元に戻るんだ?」
「さあな、ただ先も言った通り、我は長いスパンで待つつもりだ、それこそ定めを持つ者では想像できないような時間をな。故に、無理をする必要はないぞ?」
「――!」
紫の目がまるで俺の心を見抜いたように、怪しく煌いてる。
「随分と優しいじゃないか」
「何を言う、創造神だぞ、我は全ての存在を慈しんでいるのだ」
「はは、言ってろ」
俺たちはフォー=モサの隠れ家を離れた。
記念すべき100話を飾るのは、懐かしいアイツでした!




