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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第一章 これからの姉弟
10/229

10 トメイト町のクマモト家

10/24 ×アンデッドは北西方面へと移動 → 北方面へと移動

 旅の準備をした後、そろそろ日が落ちる頃に俺たちは町を離れた。


 一般的に、地上では夜での行動を避けるのがセオリーだ。

 人と違ってモンスターは夜目が効くタイプが多いし、そういうタイプに限って隠密能力に長けている。

 あの密踪虎(ストーカータイガー)のように。


 そして一番の脅威はアンデッドだ。

 生きとし生けるものを憎悪するアンデッドの殆どは五感に頼らずとも、ただ本能的に生物を探知できる。

 一番弱いと言われるゾンビでも数メートル、ハイグールなら数十メートル内の生き物を探り出せる。


 さらに、夜に出没するアンデッドのスペックは高い。

 ヴァンパイアなど日光を浴びるだけで死ぬなのに、夜では無限に近い回復能力を持っている。

 ゾンビやスケルトンも個体差があるが、大体の場合は昼の時より筋力と速度がすこし上がるらしい。

 兎に角、夜の野外を移動することは自殺行為に等しいのは探索者の常識だ。


 だが今、夜の草原を高速で横断している二人がいる。


「ひゃっはー」

「フィー君と風になるうううう」


 無人の荒野を駆け巡ることにテンション上がりまくりの俺たち。

 星の見える晴れた夜は地平線の先まで見通すくらい澄み渡る。

 人間を拒絶してるはずの夜の幕の下には俺たち姉弟しかいない。


 ここの所ずっとアンデッドだとバレないかとビクビクして、塞がった気分の俺たちだが、、今ようやく人の目から解放され、二人っきりになった。

 こんな広い地平線の中に、誰の目も気にすることなく、しかも後ろから姉さんに抱きつかれてる。

 テンション上がらずにはいられないッ!


 屍僕強化イヴォルブドアンデッドの魔術が掛かってるゾンビ馬は並のモンスターでは追いつけないし、疲れもしない、二人乗りでも常にフルギア。

 死の化粧(ヴェール)の魔術が掛かってる俺はアンデッドから見ればアンデッドそのもの。

 姉さんの身体はアンデッド。

 もう何も怖くない。

 俺が、俺たちが夜の支配者だッ!


「そういえば、フィー君と初めて依頼を受けた時もこうやって二人乗りしてたね」


 後ろから腰に手を回してる姉さんが懐かしそうに囁いた。


「ああ、そうだったな」

「フィー君が自分で乗りたいって言ったけど、馬に慣れなくて何度も落ちたんだよね」

「ぐっ……そこは美化してくれてもいいぞ」

「ふふふ、大丈夫、今はちゃんと恰好よくなったよ」

「よっしゃー、もっとスピード出すぜ、お前はやればできるのだウマオおおおおお」

「いやっふー」


 夜が長いのをいいことに、そのまま八時間爆進しちまった。

 勿論姉さんはともかく俺は疲れるから、昼は休憩を取ってから普通に歩いた。

 そして夜は厚手のローブを纏って、生者探索ディテクトリーヴィングを使いながら再び爆進。

 そうやって一日ちょっとで俺たちはトメイト町までの道を踏破した。




 二日目の朝、俺たちはトメイト町長――ガンダ・クマモト家の豪奢な扉を叩いた。

 トメイト町はそれなりの規模があるけど、一介の町長がこんなデカい屋敷に暮らせるのは間違いなくクマモト氏の個人資産の成せる業だろう。

 ほどなくして、中老の男が俺たちを迎え入れた、服装からして執事かな。


「はあ、では依頼を受けて下さった探索者の方なんですねぇ」

「はい、ギルドから先に町長から話を聞いて欲しいとのことですので」


 どうやら町長本人は多忙につき、町には滅多に戻れないので、公務はこの執事のアルテールさんに一任している。

 アルテールさんに談話室まで案内されて、ふかふかの椅子を勧められた。

 俺たちはアルテールさんに依頼の詳細を尋ねた。

 俺たち、と言っても喋るのは専ら姉さんのほうだ、こういうのが得意だから。

 尤も、最近は交渉事を俺に任される事は多い、姉さん曰く、経験を積まさせたいとのことらしい。


「では、アンデッドの目撃情報についてお伺いしても?」

「あれは三ヵ月前のことです、お嬢様――ガンダ様の娘さんモモ様です――が運輸隊を率いてラカーンへと出発しまして、されど町から発ったすぐ、南東の方にアンデッドらしき巨大な人影を見かけました。

 お嬢様は即刻護衛達を連れて追跡しましたけど、アンデッドは北方面へと移動、そのまま森に入りましたので、これ以上の追跡は危険と判断しましたと、お嬢様が仰られてました」

「森に、か。そういえばこの町は南以外は森に囲まれてますね」

「はい、元々は伐採者達が開拓した村ですから、今は森から結構離れてますけど、昔はもっと近かったです」


 森は視界が悪く、モンスターが潜んでる可能性もあるから、こういうところは大体定期的に伐採して森との距離をキープしてる。

 アンデッドがそのまま襲ってこなかったのは気になるけど、森に入ったら追跡を断念するのは正しい判断だ。

 しかし、


「あの、そのお嬢様が人を連れて追跡しましたって、危なくないですか?」

「私もそう思っておりましたけど、お嬢様は勇ましい方で、昔、森のモンスター討伐の指揮も取っておりました」

「へぇ、それは優秀なんですね」


 コメントしづらいだけど、とにかく普通のお嬢様ではないだろう。


「ちなみにアンデッドを発見したのは護衛の方ですか?」

「いいえ、お嬢様がまずアンデッドを発見しまして、その後護衛の人たちも巨大な人影を確認しました」

「ではお嬢様がアンデッドだと確信なさるのは何故でしょう?」

「全身がドロドロで腐った死体のようだと、お嬢様が」

「護衛たちもそれを確認したのですか?」

「いいえ、ちょうど夜明けですし、人間離れした大きさなのは言っておりましたけど、それ以外は」

「どれくらいの大きさなんですか?」

「大体4メートルのようです」


 つまり実質的にアンデッドを見たのはお嬢様だけか。

 なるほど、発見者が身内なら、強引にも依頼を出すのも頷ける。

 しかし護衛の人たち、お嬢様より索敵が遅くてどうすんだ……。


 っと、その時、パタパタと外から足音が近づいてきて、

 そしてバンッと談話室の扉が開かれた。


「話は聞かせてもらったわ!」


 芝居っぽく登場したのは、紫の乗馬服と黒のズボンを身に着けて、パーマが掛かってるセミロング金髪の女の子。


「お嬢様、お帰りなさいませ」


 突入の登場にも関わらず、アルテールさんが実に洗練された動きで一礼する。

 ということは、こちらが噂のモモお嬢様か。なるほど、たしかに勇ましそうだ。

 ていうか話聞かせて貰ったって、あんたさっき戻ったばかりだろうが。


「ただいま、アルテール。それで、貴方達がアンデッド捜索をしてくれる探索者なの?」

「あ、はい」

「ただのしがない探索者ですので、何か粗相があったらご容赦をくださいね」


 俺たちもアルテールに倣って一礼する。

 姉さんはともかく、俺はこういうの苦手だからなあ。


 それにしても、このお嬢様は随分と小柄だな。

 年は俺と同じくらいだろうけど、身長は姉さんより首一つくらい低い。

 それでもまっすぐな視線は強い意志を表しており、小さいな身体から溢れんばかりの生命力を感じる。

 顔も整っており、育ちの良さも相まってどこか姉さんとは違ったタイプの凛々しさを感じる。

 これはモンスター討伐の指揮を執るのも頷ける。まあ、本人の実力は未知数だが。


「気にしないで、それよりもう話は済んだ?」


 聞いてたんじゃなかったのかよ。


「はい、もう総て伝えました」

「ええ、これより捜索に取り掛かろうと思いまして」

「なら丁度いいわ、一つお願いしたいことがある」

「なんでしょう?」

「ワタクシもつれ――『駄目です』――てって貰いたい、足手まといにはならないと保証するわ」


 凄い、即座に反応するっていうかもうお嬢様が何を言い出すか予測していただろうアルテールさんもだが、それでも言い切るお嬢様も半端ない。

 俺は姉さんと視線を交わした。


「申し訳ありませんが、お嬢様の身を危険に晒すわけには」

「自分の身は自分で守るわ、心配はいらないわ」

「そういうわけにもいかないのですが……」


 姉さんが助けを求めるような視線をアルテールに向けた。


「お嬢様、いけません。探索者の仕事に手を出すなと旦那様から言い付けられたじゃありませんか」

「それは父さんの勝手でしょう、ここに居ない人間に決める資格などないわ。それに、この件の始まりはワタクシにある。何度もギルドに依頼出したのに結果が出ないままだとワタクシの沽券に掛かるわ」


 そこはクマモト家の沽券じゃないのか。

 しかしこれは参ったね、こいつの心配はもちろん、何より俺たちは脛に傷がありすぎてとてもじゃないが他人と同行する、ましては戦闘を行うのはまずい。

 しかしなまじ依頼人の娘であるので、突っ張ることもできない。


「勿論それは判っております、ですから私たちも精一杯頑張りますので、どうか朗報をご期待ください」

「それでは駄目だわ、自分の名誉は自分で守る、探索者もそうでしょう?」


 生憎だが探索者は名誉もクソもないけどね。

 まずいな、美少女なのに段々腹立ってきた。

 深呼吸だ、落ち着け。


「それに捜索の途中に野宿は避けられませんし、森に入ったら色々不便なところもありましょう、そういう生活をお嬢様に強いるわけには」

「大丈夫、野宿は何度も経験したもの、それくらい我慢するわ」

「はぁ……」

「ワタクシはこの件を最後まで見届ける義務があるの。もう沢山の人に迷惑を掛けているし、町の人たちを不安にさせているのは知っている、もし今回見つからなかったらもう依頼は出さないわ、だからお願い、ワタクシに最後まで見届けさせて」

「……」


 さすがの姉さんもお嬢様の強情さについに沈黙した。

 アルテールさんも、お嬢様の性格を良く分かってるのか、もう諦めてるようだ。

 姉さんは少し考える素振りをして、こっちに視線を向いたら、ゆっくりと喋り始めた。

 あ、なんか悪い予感がひしひしと。


「……判りました。しかし、一つ条件があります」

「聞かせて」

「ここにいる私の弟――フィレンと手合わせして貰います、もし一本取れたら、お嬢様の参加を認めます」


 姉さん……恨むぞ……。


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