親は強し
頭の中にあるのになかなか進んでいなかった、、、。
少しずつですが物語を書いて行きます。
予定では今回で文化祭後編に行くつもりやったのになぁ笑
次回こそ後編です!よろしけば読んでいただけますと幸いです!
手の震えがおさまらない。体中が痛くて仕方ない。宏明は家に帰るやいなや自室のベッドにダイブした。
暗くなるまで頭を冷やそうと走り続けたせいか、ところどころの筋肉がピシリピシリと響いている。こんな風になる予定はなかったのに、途中までは他校の文化祭を見に行っただけのはずだったのに、…色々ありすぎた。
と、とりあえず頭を落ち着かせるためにひとつひとつ思い出そう。まず浮かんだのは男装していた奏子、次に一緒に来てくれた沢音、突然連れ出した八嶋という少女、そして久しぶりに会った真琴…。頭の中から最後の演奏がなかなか離れない。印象に残っている理由は真琴のキーボード演奏の技術と曲のクオリティの高さだろう。パンフレットに演奏曲の作詞作曲は真琴によるものだと書かれてあった。留学している間にか、それとも第一高校に通ってからか、どちらにせよ技術はあのライブの中でも抜きんでていたのではないか。何度反芻しても彼女達のライブが一番濃く感じられた。そして帰り際の…。
自分にも非があるとは思っているが思わず顔に血が上り、宏明はそばに転がっていたクッションを顔面に押し付け、
「何しやがんだ!あのバカ女ぁ!!」
「ヒロうるさい!ご近所さんに迷惑でしょ」
母が叫びかえした。
…元はと言えばもっと早くに真琴が帰ってきていることを教えてくれれば!
宏明は怒りの矛先を母に変えて階段を駆け下りた。
ダイニングに出ると、母と姉の由美はテーブルについていた。父は今日も遅いらしい。
とりあえず、
「なんで真琴が帰ってるって教えなかったんだ!」
「先にご飯食べるわよ!」
「ヒロ五月蝿い。さっさと座って」
あぁ、はい。
反論を許さない二人の声に大人しく席に着く。
「「いただきます」」
「…ます」
思わず質問のタイミングを失ってしまい、無言でハンバーグを口に詰め込んだ。
すると、
「で?ヒロがさっき吠えてたけど真琴帰ってきたの?」
三輪学園の大学部に進学している由美が母に話しかけた。
「そうよー!もう聡明で可愛らしいお嬢さんになってね!」
「マジで?会いたい!ヒロ今度連れてきなさいよ!」
「そうねー、またみんなでご飯でも行きましょ!」
由美と母ののん気な会話に宏明は思わず顔を歪めた。誤魔化すために味噌汁をすする。…今日の味噌汁は少し味が濃いようだ。
「そういえばあの時の真琴、あんたが初恋って言ってたわね」
「あらそうなの!?なら美代と親戚になれたのにぃ♡」
げぶふぉ。
思わず味噌汁を吹き出した。
「ちょっ!何すんのよ!バカヒロ!」
「う!うるさい!味噌汁飲んでる最中に変な事言ってきた姉貴が悪い!」
「ははぁん!さては照れてるのね!かぁわいー」
「人の気も知らないで…、黙れよ!」
宏明と由美が睨み合っていると、二人の頭を衝撃が走った。
「喧嘩してないで由美は台拭き!宏明はティッシュ持ってきなさい!」
「「…ご、ごめんなさい」」
母強し。幸い被害は料理まで及んでおらず、片付けが終わると無言で食事を再会した。
「ごちそうさま」
席を立つと母が声をかけてきた。
「ヒロ、冷蔵庫の中のタッパーを柊さんのところに届けてちょうだい」
「え?」
とりあえず言われた通りに冷蔵庫からタッパーを取り出すと中にはハンバーグが2つ入っていた。
「多く作り過ぎちゃったのよ。最近奏子ちゃん学祭の練習で忙しいって言ってたじゃない?きっとお夕飯作るの大変でしょう?」
「あぁ、柊さんも忙しいって言ってたからいいかもね」
宏明がタッパーを手近な袋に入れると、
「あー奏ちゃんかぁ、元気?」
由美がニヤニヤしながら問いかけた。なんだろ、このバカにされてる感…。そこでちょっとした報復を思いついた。
「あぁ、元気だったよ」
一呼吸入れて、
「シュークリーム投げつけてくるぐらいにね」
ニッとわざとらしげに口角を上げてみる。
「「あんた何したの!?」」
「何もしてねーよ。いってきます!」
由美と母の両方から疑いの目を向けられて、宏明は飛び出すように家を後にした。
☆☆☆☆☆
「あいつってなんで女の子にモテてるって気がつかないのかしら」
由美は宏明が出て行った扉を見てため息をついた。我が弟ながら将来が心配になってしまう。
「ふふふ、私に似たのかしらね。由美もモテてるんでしょ?大学生なんだからいい男見つけておきなさいよ」
「はいはい」
「私とお父さんは高校からの仲でね…周囲も羨むベストカップルだったらしいのぉ」
またか…。母が両手で顔を抑えて恥ずかしそうに話し出した。馴れ初め話を聞くのはこれで50回を超えたぐらいだろうか。
由美は思わず苦笑した。
高校生で恋…、結婚…ね。
宏明、あんたにそんな日は来るのかしら。
真琴と奏子はあんたの友達のままでいられるのかしら、ね?
由美はつり上がる口元を抑えようと味噌汁に口をつけた。
そして気づく。
「お母さん、今日の味噌汁味濃いよ」
☆☆☆☆☆
「寒っ」
パーカーのジッパーを引き上げる。
昼は暑くてたまらなかったのに夜は全ての熱を太陽が持って帰ってしまったように冷え込んだ。
逃げるように家を出たせいで防寒対策を忘れたのは失敗だった。パーカー一枚ではさすがに限度がある。
とりあえずタッパーの入った袋に気をつけながら両手をポケットにつっこんで寒さをしのごう。
『あの時の真琴、あんたが初恋って言ってたわね』
そんなのしるか。
夕食の際に由美が話していた言葉のおかげでまた今日の出来事が走馬灯のように頭を駆け巡った。
『裏切り者』
そうだ。『待ってる』って言ったのに、俺は高みを目指せてないよ…。
『ざまぁみろ』
その通りだな。しっかりやられた。
体といっしょに頭の芯も冷えたようだ。先ほどよりも冷静に考えられている。まず深呼吸。ひとつずつ解いていこう。感情と思考を切り離して、自分が見てこなかったものも、認めたくなかったものも…全て。
「あと一年と…、半分」
いや、受験もあるから決めるのは早くしないといけない。生まれてきてからたった17年でどうしてこの先数十年の未来を決めないといけないのだろう。ルールを決めたやつを恨みたいが、その選択肢の締め切りギリギリまで引き伸ばしていた自分が悪いことに変わりはない。宏明は苛立ちを歯ぎしりに変えた。
自分はどこに向かうんだろう。
ここ数日の自分への質問。沢音に背中を押され、奏子に叱咤され、真琴に一泡吹かされた。なのに届きそうで届かない答え。もがいて、走って、カラカラになって、でもまだそこにたどり着けない。理由を尋ねても答えてくれるやつはいない。
いっそ由美にでも相談しようか…。第三高校から大学部に進学してヴァイオリンを専攻している。何か頼りにはなるかもしれない…。
しかし、
「いや、それはダメだ!」
宏明は首を大きく振り、自分の考えをかき消した。
由美は我儘で横暴でそのくせに聡い…天敵だ。
だが…、そんな事に駄々をこねていられる時間は少ない。
今日改めて思い知らされた、才を芽吹かんとする彼らを見て。
「俺は…どう思ってるんだ?」
中等部に入ってから約束があったにも関わらず、奏子や沢音のような本物の天才達を前にして怖気付いてしまっていた自分がいた。
『そこには立てない』と。
なのに、今日初めて知った感情。
「俺は…悔しい、のか?」
もしも大学部に行かなければ、彼らと一緒に歩いては行けなくなる。それは好意があるから離れたくないという子供のような理由なのか。それとも違う感情故の理由なのか。後者が今必要なピースだ。その重さが道を分けることになるだろう。
「俺は…」
「俺は?」
…。
…。
…。
「うわぁ!」
思わず三歩飛び退いた。気がつかない間に隣で歩かれていたらしい。全く気がつかなかった。
「お、お疲れ様です。こんばんは!」
「そんなに驚かなくてもいいのに」
声の主、柊秀二はいつも通り優しく微笑んだ。
「こんばんは、また奏子の我儘かい?」
秀二が眉を寄せながら尋ねてきたので思わず吹き出した。
そんな印象を与えていたとは…。
「そんな毎度毎度パシられてませんよ。今日は母さんのおつかいです。ハンバーグ作りすぎたって」
そう言って宏明がタッパーの袋を差し出すと、
「公子さんといい、宏明君といい、昔から助けられてばかりだね」
「母さんも俺も好きにやってるだけなんで気にしなくていいと思います」
「ははは、じゃあまたお言葉に甘えさせてもらうよ」
大事そうにゆっくりと受け取った。
そして、
「で、何か悩んでいるのかい?」
「え?」
秀二が宏明の顔をのぞき込んだ。流石は親子。奏子と同じだ。何かを見透かすような真っ直ぐとした目をしている。
「だって宏明くん、『俺は…』って言ってただろ?勝手な想像ならごめんね」
「え、あ…」
そうだ、さっきつい漏らした言葉を聞かれてしまっていた。
思わず口ごもる宏明に対して秀二が漏らしたのは、
「青春だね」
だった。
意味がわからない。『青春』という言葉が宏明達の年代を表しているという事は国語の授業で習ったが…、今は関係ないだろう。なのに『青春』という曖昧な言葉でまとめられるとは…、なぜか苛立ちを覚えた。
それに気づいているのかいないのか、秀二は話し出した。
「宏明くんが何に悩んでいるかはわからないが、君が悩むぐらいなんだからとても大切なことなんだろうね。悩むのは良いことだよ。人間悩んで苦しんで前に進む生き物なんだから」
「そんなの…、悩みのない人の同情にしか聞こえないんですが」
無意識で苛立ちを含んだ宏明の反論に対し、秀二はうーんと唸ってから人差し指をピンと伸ばした。
「確かに今の私には君ほどの悩みはないかもしれないな」
言いきった、だと。思わず空いた口が塞がらない。普通こういう時って『俺にもあるし、みんなあるから頑張れ』みたいな事を言うんじゃないのか?
そんな宏明を無視するように秀二は言葉を続ける。
「なんてったって悩み苦しむのは若者の特権さ。大きくなって、『あの時ああしておけば!』とか考えたって遅い事が多いからね。それを未然に防ぐ為に君達は考えさせられているんだ」
「…そんな、特権いらねーよ」
思わず漏れた本音に宏明は口を抑えた。もうガキじゃないのに…、話し相手への適切な口調ではない。
しかし、
「仕方ないよ。今若いんだから」
なんでもないように秀二は微笑んだ。
「若いからこそ苦しむ。君たちが今苦しんでいるように私や君のお父さん達も苦しんだ、きっとその前の人達も。これは義務に近い。たとえ拒んでも抗えない」
抗えない…。それはここ数日宏明が考えてきた事だ。言われた事は分かっているし、それをもとに考えている。でも答えが出ないから苛立っている。そして今に至っている。
真正面から同じ事を言われて宏明は思わず頭を抑えた。口では『わかってるよ!そんなの!』と叫びたい気分だ。
でもできないのは…、
「きっとできないんだろうね、わかってはいるのに」
頭をそっと撫でられた。縺れていた緊張の糸が解けるように、頭の中を何かが満ちるように、昂ぶっていた感情が緩む。
それと同時に緊張の糸で縛られていた色んな声が宏明の頭の中を駆け巡った。
将来が才能が足りないから
「お前にも来てほしい」
ダメなんだ
どうして?
隣に立てない悔しい
なんでだ?
強くなりたい
「約束を忘れたっていうヒロに対して」
最低だ
「裏切り者」
嘘つきだ
約束をこれからも一緒には…
嫌だ、置いていかれたくない
なら
「どっち選んでもそれはヒロの道」
わかってる
「責任はヒロにあるんだよ」
わかってる!
「自分で決めな」
なんで!
なんでこんなに悔しいんだ!?
「君によく似ている人を知ってるよ」
それは独り言のようで宏明に対してというわけではなかったようだった。
「君も賢い子だから、様々な可能性を考慮して苦しんでしまうんだろうね。君も優しい子だから、たくさん悩んで苦しんでしまうんだろうね」
秀二は微笑んでいた、少し寂しげに。
「宏明くん、その選択を悩む理由のもとを改めて見つめ直してみよう。周りは関係ない。君の本心が大事だよ。周りがどうとかじゃない。今ある悩みの主体は自分なんだから、自分としっかり相談しないとね。そうしたら意外とすぐ答えは見つかるかもしれないよ」
そう言うと秀二は宏明に笑いかけた。先ほどとは違う、いつもの穏やかで優しい笑顔。
そして、突然吹き出した。
え、このタイミングで!?
「ゴメンゴメン、君を見てると兄貴を思い出してしまってね」
そう言えば離れたところに暮らす兄がいると前に話していたな。じゃあ似ているというのはその兄の事か。
でも…、吹き出すほどではないじゃないか。宏明は思わず頰を膨らませた。
「ごめんって…。悪気はないんだがつい懐かしくて」
口で謝られてもまだ笑いが収まっていないようなので納得できません。
やがてひき笑いが収まると、
「いやぁ、ごめんね。本当にそっくりで。君は大切な仲間がいるだろ?兄貴もそうだった。だからみんなを考えてよく動いてた。でも、だからってみんなとの兼ね合いを考えて動き続けるといつかね…、自分を殺してしまうんだよ」
穏やかな秀二から物騒な言葉が出たことに驚いた。
「考えてしまう子は、優しい子は自分を二の次にしがちだからね、ずっと続けてしまうと『自分』の価値を殺してしまうんだよ」
「お、兄さんもそうだったんですか?」
思わず聞いてしまった。
「ぶん殴られたらしい」
「は?」
文脈が合わないぞ。
「気づいた時にいろいろあったらしくてね」
「はぁ」
「仲間も大事だが、依存していいわけじゃない。守ろうとして、支えようとして、気がついたら仲間に依存してそれに必死になってた。だからぶん殴られたって」
なるほど。
「あ、女の子にね」
まじか…。
「仲間は常に支えて、支えられる立場がいい。そして時に背中を蹴り飛ばすぐらいじゃないと」
「蹴り飛ばすのはヤバくないですか?」
思わず顔が引きつるが、
「でも優しく背中押すよりも力が来るだろ?」
納得。
「宏明くん。君にはどれぐらい殴ってくれそうな仲間がいるかい?蹴り飛ばしてくれそうな仲間はいるかい?そういう仲間は考えられ続けるときっと君を怒るだろう。自分の事は『自分でしろ』って」
…。
「これから先はお前のもんだし、お前が何をやるのもお前の自由だが、俺みたいに『ヒロはコッチがいい』って思ってるやつもいるって覚えといてくれよ」
沢音はふざけてるけどいつも背中を押してくれる。
「どっち選んでもそれはヒロの道だよ。責任はヒロにあるんだよ。自分で決めな」
奏子にはシュークリーム投げつけられたな。不器用だから仕方ないか。
「あの曲はねヤッシーの脱退のために作った曲なんだけど、私との約束を忘れたっていうヒロに対してでもあったんだよ」
あの演奏は顔面ビンタものだったな。まぁ悪いのは自分だ。
これが秀二の言う『蹴り飛ばしてくれそうな仲間』なのか。考えたら、みんな『自分』を考えるようにそれぞれのやり方で不器用なりに激励してくれてたのかもしれない。
どうやったら答えられるだろうか…。
「さっきよりもいい顔になったね」
秀二が笑った。確かに先ほどよりも頭に力が入っていない気がする。なんというか風が詰め込んでいた脳を洗い流したような感じだ。
「まぁ、それでも悩みは解けないだろうね。でも、それはそれでその悩みを持って色んな物事に触れる機会がまだあるという事だ。違う方向、違う刺激を受けて君はまたたくさん考える事になるだろう。でもそれを悲観したり、憎悪したりしてはダメだ。その感情を生かして接してみると答えにまた一つ近づくかもしれないよ」
そして、また人差し指を立てる。
「高校二年生の真っただ中は進路を絞る時期だからね、しっかり悩んで自分の思う道を選べるといいね」
何に悩んでいるのか知らないと思っていたが、がっつりバレていたらしい…。
「はい、ありがとうございます」
宏明は敬意を込めて深々と頭を下げた。
「というわけで」
秀二が突然両の手の平を打って微笑んだ。この顔は、見覚えがある。悪戯に成功した子どものような笑み、やはり親子は似るらしい。ただ違うのは目元の皺。
「この間奏子がシュークリームを投げつけたらしいね!許してやってくれ。あの子なりの激励だから」
…こっちもバレてたか。宏明は思わず吹き出した。
現在書いているのは
『夢の始まり』
私の中で昔からあった物語は大学編です。言ってしまえば今はプロローグ編のような感じです。大学編まで書き切ることはできるのかな。たぶん同時並行で数作あるから今の高校編が終わったらしばらくそっちも書かないと、、、
そんなこんなで物語はあるのに全然投稿していない状態です!(T . T)
日本語も、下手やし、こんな私の作品ですがどうかこれからも暖かな目で見ていただけますと幸いです。
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m