5話~痴女とメモ帳と~
「(――ハッ、ここは!?)」
俺の意識が覚めると、周囲は既にお弁当やパンを和やかに食べている。それと同時に今がお昼休みなんだと分かる。
「(ここは私のクラスですよ)」
「(そうか。紗智は?)」
辺りを見回しても紗智の居る気配は無かった。ついでに言うと親衛隊も居なかった。もっと言えば真宵ちゃんの周りに友人と思える人すら居なかった。ある意味流石と言える。さすまよ!
「(紗智は学校に居ませんよ)」
「(風邪か?)」
「(分かりません。いつもチャイムを鳴らしても追い返されるだけですから)」
ってことは家に引きこもっているという事か。いや、もしかしたらまだあの事を……?
「(なあ、今日もう一回俺と紗智の家に寄ってもいいか?)」
「(そう言うと思ってましたし、言われなくとも行くつもりでした)」
紗智が絡むと何故か真宵ちゃんと意気投合するな。仮に暴走したとしたら止まらなくなりそうだけど。
脳内会話をしていると、そこへ真宵ちゃんに向かってくる女の子が見えた。真宵ちゃん……紗智以外に友達居たんだね。
その女の子は小さい体に真宵ちゃんとは比べられないほど胸が大きく、制服を下から押し上げているほどだ。
髪は艶やかな黒髪の三つ編みを両サイドに垂らしており、銀縁のシャープな眼鏡と相まっていかにも委員長といった雰囲気だ。
「綾辻さん、どうしたの?」
真宵ちゃんが話し掛ける。ここは傍観している方がいいだろう。
綾辻さんと言われた委員長風の少女はポケットからメモ帳を取り出すと周囲を見渡し、胸の隙間からシャーペンを取り出す。
全く。けしからんおっぱいだな。
「(先輩は黙ってください)」
意識の中で真宵ちゃんがドスの効いた声で俺を脅す。ああ、怖い怖い。やり取りをしてる間に何か書いたようで、メモ帳を真宵ちゃんに見せてきた。そこに書かれていた文字は。
『どこ見てんのよ(笑)』
「(……お前かよー!?)」
目の前に居る委員長風の女の子は、なんと転生する時に2番目に出てきたあのガスマスクの女の子だった。
☆☆☆
『なるほど。事情は理解した』
場所を移動した真宵ちゃんは綾辻さんもとい、ガスマスクの変な女に紗智の事を説明した。
ついでに俺もある程度の状況を理解した。さっきまではなんで紗智が休んでいるのか分からなかったからな。
「綾辻さん。その、言いにくいんだけどさ。普通に話せない?」
『悪いがこれは平凡で凡庸な私のキャラを確定させるものなんだ。悪いがそれは出来ない(キリッ』
真宵ちゃんの問いかけにノータイムでメモ帳に言葉を書き綴り見せてくる。しかし、平凡で凡庸って意味が被っているぞ? いや本人はそれを分かって書いたようだが、それよりも気になるところがある。
「「((なんだ。キリッて……!))」」
紗智以外の事では真宵ちゃんと意識がシンクロすることはないだろうと思っていたが、まさかこんなタイミングでシンクロするとは。つくづく綾辻さんは俺達の感情を振り回してくる人である。
「そ、そうか……」
『うむ、そうなのだ( ´,_ゝ`)ドヤァ』
「「(顔文字!?)」」
またしても揃えてツッコんでしまう。真宵ちゃんに至っては声を荒げてまでいる。何ともキャラの濃い痴女だ。
しかもご丁寧にドヤァとまで書いてる始末。正直俺の手には負えないし、真宵ちゃんは疲れてきている。
『さて、おふざけはここら辺にして話を進めようか』
誰のせいで脱線したと思ってるんだろうねぇ!
とは流石に言えないので、仕方なく頷く。
真宵ちゃんは体力、と言うか精神力を回復するとか言って意識を俺の後ろに引っ込ませてくつろいでいる。どうやら綾辻さんの相手は俺に丸投げらしい。
『その紗智と言う子の家に行くんだろう? 私も着いていってもいいだろうか?』
「え、何で?」
『少し気になる事があってな。それを確かめたい』
「気になる事ってなに? 教えてくれないかな」
『ダメだ。君達に教えたら話がややこしくなるからな』
「(ねえ、今綾辻さん君達って書いてなかった?)」
ああ、そっか。真宵ちゃんは俺が転生時に綾辻さんに会った事を知らないんだっけ。俺もよく理解してない事は混乱させないように話さなかったし仕方ないか。
「(綾辻さんは俺が転生する時に俺と会ってるんだ)」
「(えっ、それって綾辻さんは死んでるみたいな言い方じゃないですか)」
「(そう思ってたんだけど、正直俺もよく分からなくなってきた)」
俺と真宵ちゃんで脳内会話をしていたらトントンと肩を叩いて来る。何かあったのかと思って見てみると綾辻さんがメモ帳を見せる。
『どうも。週末神様の綾辻 理々だ。4649』
無駄に面倒な書き方をしたメモ帳を読んで、真宵ちゃんはキャラ濃すぎでしょと項垂れた。