9話~憤怒と魔棒少女と~
「(真宵ちゃん。何かいうことは?)」
「(えーと、てへっ)」
「(てへっじゃないんだよ!)」
何? 魔法少女なのに何でこんな物理に特化してんの? 魔法がダメなら物理でってか?
今はそんなもの求めてないんだよ! 魔法少女なんだからド派手な魔法をぶっぱなすのが本来あるべき姿だろう!
「(先輩。私達は魔法少女じゃありません)」
「(じゃあ何だって言うんだよ?)」
「(魔棒少女です)」
「(魔棒少女ってなんだそれ!?)」
頭の中で薄い胸を張ってドヤ顔をする真宵ちゃん。開き直りすぎてもうキャラ崩壊してるよ。俺がツッコむとか紗智以外に居ないもん。
「お兄ちゃん。やっぱりふざけてる……私の事なんてどうでもいいんだね」
「えっ。紗智?」
紗智の体に炎を体現したかのようなドレスを纏う。いや、実際に裾の部分は燃え盛っており、ドレスが炎で出来ている事が分かる。
「覚悟、してよね?」
その一言を切っ掛けに結界の中の世界は白から赤へと移り変わる。
あまりの熱気に思わず顔をしかめてしまう。だが、それがいけなかった。
「……お兄ちゃんは私にそんな顔を向けた事なんてなかった……」
どういう原理なのか。大量の包丁が紗智の周りに漂い始める。
それと呼応するかのように炎狼の毛はドンドンと燃え上がっていく。
「……そんな顔を、私に向けるお兄ちゃんなんか……お兄ちゃんじゃない!」
「紗智!」
「……お兄ちゃんの偽者なんか、消えちゃえ……!」
包丁の切っ先が全て俺に向く。
炎狼が遠吠えをあげる。と、同時に包丁の弾幕が俺目掛けて放たれた。
「(先輩。来ます)」
もう来てるっての! なんて事を思いつつ紗智に向かって上に大きくジャンプする。
包丁の大半が俺の居たところに向かって行くが、残りわずかの包丁は追尾してきた。それをバール(のようなもの)と釘バットで叩き落とす。
この避け方はある弾幕ゲームで自機を狙ってくる攻撃を誘導させる避け方なのだがゲームとリアルは違うものだと認識させられる。
だが紗智に肉薄する事が出来た。予想では後ろから炎狼が来るはず。
「(先輩。後ろから炎狼です)」
「ビンゴ!」
包丁の弾幕を避けられると思っていなかったのだろう。紗智は呆然とした様子で俺を見ていただけだったので紗智にそこまでの意識を集中させる事なく対処する。
思いきり横凪に払ったバール(のようなもの)は炎狼の牙に当たるとそのまま砕け散った。
「……グルルルルゥゥッ!」
炎狼が唸り声をあげて威嚇してくるが、牙は折り終わっているのでさほど脅威を感じない。
「私に背を向けたのは、命取りだよ……偽者!」
振り替えると紗智が先程までとは大きさが違う、鉈や斧のように大きい中華包丁を両手に持ち降り下ろしてきた。
すかさず両手のステッキで防ごうとするものの、それら2本が同時に叩ききられた。
「マジか……」
再びステッキをイメージしてバール(のようなもの)ともう1つ。今度はデッキブラシが形作られる。
流石にこれを紗智に向ける事は出来ないだろ。だって向けたらまた何か勘違いをするし。
「さてどうするか。攻略法が見つからねえ」
「私を攻略出来るのはお兄ちゃんだけ……偽者になんか靡かないから……!」
さっきまでの中華包丁はいつの間にか消えており、変わりに解体包丁が握り締められている。
日本刀のような長さのソレは刃渡りがギラギラと光輝いており、さっきのような中華包丁が力任せに振るうのであればこれはその対極。繊細な手捌きで使わないとすぐに壊れてしまう。
だが紗智は包丁の扱い方を一通り使えてしまう。おそらく今解体包丁を出したと言うことは、俺を切り刻むつもりなのだろう。
事実紗智が俺の懐まで走ってくると、手に持った包丁でそのまま切りかかるのではなく、引くようにして切りつけてくる。
だが解体包丁の使い方を知っていればこれを避けるのは容易い。
包丁を引く前に後ろにジャンプして切られるのを防ぐ。だが。
「(先輩、包丁から炎が!)」
紗智の持つ解体包丁の刃から炎が迸ると、その炎は俺に向けて飛んできた。
その衝撃に、ついに攻撃をくらってしまう。
炎で切れる事はなかったものの体の左下半身に直撃して火傷を負う。更にスカート部分も焼けて下着が軽く見える状態になってしまった。
「(ごめん真宵ちゃん。体に傷つけちゃった……)」
「(戦うならこんなことも覚悟してましたし、後で何かしてくれるならそれでいいです。だから先輩。この戦い、負けられませんね!)」
「(……うん。そうだな)」
真宵ちゃんの励ましに勇気が沸いてくる。そうだな。何も一人で戦ってるわけではないんだ。さっきまでのは確かに紗智の言うとおりふざけていたのかもしれない。
でも。
「「(こっから先は俺(私)達のターンだ!)」」