8話~魔法少女とハジメテと~
「「(マジカル、シニカル、カルマカル!)」」
俺と真宵ちゃんの叫びによって真宵ちゃんの衣服が弾けていく。
そして――
「(えっ、えええっ!?)」
――叫び声をあげる真宵ちゃんをよそに、体のコントロールが俺に移る。
まずは両腕。銀色に鈍く粒子が手首にブレスレットのように巻かれていく。
続いて両足。そこまで高くなく安定感のあるヒールを履き、生足状態だ。
服はワンピースやドレスといった魔法少女らしい格好。それでもまとわりつく感じは無く、中々に動きやすい格好だ。
そして極めつけは髪がウルフカットからポニーテールとなり、シュシュで纏めてある。そこに黒いバラがあしらわれたキャスケット帽を深く被りボーイッシュながらも可愛らしい様相になった。
「妹会いたさに出戻り転生。邪魔する輩は薙ぎ倒す。魔法少女ブラックローズ参上!」
よし、決まった!
「(何が『よし、決まった!』ですか。何ですかさっきの変身シーン。何ですかこの衣装。何ですか今の口上!)」
頭の中では真宵ちゃんがギャーギャー騒いでいる。いや何ですかと聞かれても頭の中でこれだと思った事を言っただけだから特にそこまで深い理由はない。
「お兄ちゃん……そんなに私の事を思っていてくれたんだね」
ポツリと言葉を出す。
「お兄ちゃん。私はお兄ちゃんの味方だよ」
ゆっくりと包丁を下ろしながら歩いてくる。
「ずっと味方なんだよ。……それでもその女を庇うの……?」
紗智の言葉に狂気を孕んでくる。見ると顔は酷くツラそうな顔をして俺を見ている。否、俺だけを見つめている。
「紗智、俺はお前に誰かを傷つけてもらいたくないんだ」
「……そう、お兄ちゃんは私だけを見てくれないんだね?」
「違う。そうじゃない! 俺は紗智の事を思って……」
「私はお兄ちゃんのために生きてきたの! でもお兄ちゃんが私を拒絶するなら……お兄ちゃんをもう一回、殺して、私だけのモノニスル!」
狼が雄叫びをあげて炎を纏うやいなや俺を目掛けて飛び掛かってくる。
バックジャンプで避けると炎狼の陰から紗智が包丁を俺目掛けて投げてくる。
「(先輩。避けて!)」
紗智が本気で俺を殺しにかかっている事に驚き体が動かなかったところを、真宵ちゃんの檄でかろうじて避ける事に成功する。
『どうやら私を後にして君たちを殺しにかかっているようだな』
綾辻さんはこんなときにも関わらずスケッチブックに書いて見せてくる。
魔法少女となって動体視力も強化されているのか一瞬見るだけで全て読み取れるのはありがたいが、同時に少しイラッとするところもある。
「仕方ない。とりあえずあの炎狼を先に倒して、それから紗智の動きを止めるぞ」
「(了解です先輩。サポートは任せてください)」
炎狼に狙いを絞って魔法を行使しようとする。するのだが――
「(どうやって魔法を使えばいいんだ?)」
「(先輩それ本気で言ってるんですか!?)」
残念ながら今回は真宵ちゃんも俺に対して罵倒を浴びせる事なく素直に驚いている。
……いやちょっと待って。おかしい。何真宵ちゃんの罵倒がなくて残念がってんの俺?
むしろ罵倒されないのが普通だろ!
「(先輩やっぱり気持ち悪いですね)」
「(別に欲しがってた訳じゃないよ!?)」
「(そんな事はどうでもいいです。紗智がまた包丁を投げてきてるので避けてください)」
俺の叫びを冷静に対処され、更には指示も出された。俺に先輩としての威厳はもう無くなってきてるんじゃないかと思う。
『君たちが魔法少女として戦うべきものをイメージしろ!』
綾辻さんからのアドバイスが文字通り飛んできた。
そして次の瞬間にはその紙は灰となって燃え尽き炎狼が凶悪なまでに長いツメで俺を襲う。
「避けられないなら……こうだ!」
瞬時に魔法少女として戦うべき武器。ステッキを思い浮かべて形作り、ツメを弾く。
「よし、出来た!」
「(出来てますけど、ある意味出来てないです。それ)」
真宵ちゃんの声によって俺のステッキを見てみる。
長さは真宵ちゃんの肩から指先ぐらいの長さで赤と青の2色。先端には鋭い刃。もう片方の先端にはL字型をしており、引っ掻く事が出来るような2つのツメ。
よく解体中に見るような、バールのようなものが俺の右手に収まっていた。
「Oh……」
何でバール? 俺としてはもっと魔法少女らしい可愛いげのあるステッキを思い浮かべたんだよ?
「(すみません先輩。殴りやすくて防御にも使いやすいものを考えたらついそれが)」
「(つい、で済む問題じゃないよ!)」
『大丈夫だ。なんてったって武器は何回だって変えられるからな!』
たまには良いアドバイスをしてくれるな。そしてそのアドバイスはありがたい。
「(今度こそステッキを頼むぞ)」
真宵ちゃんに一言添えて左手にステッキを思い浮かべる。
二刀流ではないが右手のバール(のようなもの)で守り、左手のステッキで魔法を使うのもありかもしれないな。
左手に変身時に表れた光の粒子が持ち手の部分から形作られていく。
そうして完全に形作らた時には簡素の太い棒に不規則に打ち付けられた釘……所謂釘バットがあった。