2.転校してきたあの子
「よし。行ってきます」
鞄を持ち玄関のドアをガチャリと開ける。
「気をつけてね〜」
母の言葉に返事をせずそのまま家の敷地を出て、学校へと向かう。
道路脇の木々は桜色で、よく見ればところどころ散っており、道路も散った桜で同様な色となっていいる。
「ふぁ〜」
綺麗な景色にもかかわらず僕は大きな欠伸をした。
それもそうだ。昨日まで春休み。朝に起きる必要などなかったのだから。
「よう春希!随分と眠そうじゃないか」
「おはよう琢磨。そっちは随分と元気がいいね」
「当たり前じゃないか。今日から学校。休み中は暇すぎて死にそうだったぜ」
「だったら、休み中話し相手位にならなってやったのに」
「休み中に話すのもいいが、学校もまた違う楽しさがあるってもんよ」
「・・・よくわかんないよ」
琢磨の自論に僕は理解することが出来なかった。
彼の名前は西尾琢磨。
中学2年の時から同じクラスでそのまま同じ高校へと進学し、1年の時も同じクラスだった。
なんだかんだでいつも隣におり、おそらく僕の親友である。うん。
体は僕よりも大きく容姿は良い方だと思う。おしゃべりなヤツで気も使える。
そのことからか、琢磨が告白されるところを何度か見たことがあるが全て断っているらしい。なぜだろう。
「新学期ってことはクラス替えか。一緒のクラスだといいな!」
「なんだよ。気持ち悪いな・・・」
「ははは。いいじゃん、別によー」
そういいながら琢磨が肩を組んできた。
「っちょ。なにすんだよ。いきなり」
「ははは」
全くコイツは。まあ、この気さくえ明るい性格が琢磨の良いところなのだろう。
そんなことを考えながら琢磨の腕を振りほどき学校の校門前までたどり着いた。
「そういえば昇降口に新しいクラス分けが張り出されてるらしいぜ。」
「ほんとに?見に行こうか」
琢磨の提案に賛同し、僕たちはクラス分け表のある場所へと足を進めた。
「うわ〜。またアイツと同じクラスかよ〜」
「別々のクラスだね〜。さみしいよ」
「こんな名前のヤツいたっけ?」
「ほらアイツだよ。1年のときC組の」
「ああ。アイツか。俺同じクラスだわ」
クラス分け表の前はとても込み合っており、皆それぞれいろんな感想を述べていた。
「俺は。っと」
B組か、、、。1年の時もB組だったしまあいいかな。
中学1年の時A組、2年でC組になった時よく間違えてA組と書いてたな。
新学期に誰もが間違えるあの面倒くさい感覚を味わなくて済むと思うと良かったと思う。
「おい春希。お前何組だ?」
「B組だよ。琢磨は?」
「でへへ。俺もBだ!まーた1年間よろしくなー」
「ああ。よろしくね」
内心またかと思ったが、親友が同じクラスでうれしい面もあった。
(また1年楽しくなるな。)
「さあ、B組にいこうぜ」
「そうだね」
そう言い僕らは昇降口、下駄箱を通り、2階のB組へと向かった。
B組はざわざわとざわついており、皆が皆1年の時の知り合いと話していた。
「なんだか知らない人ばっかりだな」
「そうか?俺は比較的知ってるヤツばっかりだけどな」
「そりゃあ、お前は社交性が高いからな」
「ははは。そうかもな」
「ったく」
そう。琢磨には友人が多い。人見知りなど全くしない琢磨は必ず誰かと一緒にいるが、なぜか必ず最後には僕のところへやってくる。
そんな琢磨つながりで知り合った友人もおり、僕も少ない方ではなかったが琢磨ほどではなかった。
「やや!?君たちは西尾君に船橋君ではないか」
そんなことを考えていると後ろから声が聞こえた。
その声を聞き僕と琢磨は後ろ向くとボーイッシュな女の子がおり、彼女の蒼い透き通った瞳と目が合った。
「やあ、塩原さん。同じクラスなんだね」
僕はすぐに答えた。
「ノンノン。船橋君。これからは同じクラスなんだから下の名前で呼びたまえ」
「えっ・・・。じゃあ、雪乃?」
「うん。よろしくね。船橋君!」
女の子を下の名前で呼んだことがないから少し緊張したな。顔赤くなってないかな。
「よう雪乃。お前もB組なのか」
「うん。そうだよ。まさか西尾君達と同じクラスとは」
「ああ。まったくだ」
「たのしくなりそうだよ〜」
わくわくしているのか。彼女に尻尾が見えていたらぶんぶん振り回していることだろう。
「じゃあ、またあとで」
そういうと彼女は他のところへと飛んでいった。
「おい琢磨。塩原、、、雪乃と知り合いだったの?」
「ん?あぁ。良く帰り一緒になってな。春希と帰れない時は基本雪乃と帰ってたかな」
(コイツ・・・。もしかしてタラシなのか?天然?天然はずるいでしょ)
「春希。顔にでてるから。気にするな雪乃はただの友達だよ」
「べつに・・・」
琢磨がどんなことしてようが勝手だがなんかずるいな。にしても雪乃はやはり普通にかわいいな。
そう。雪乃はソフトボール部に所属しアグレッシブな子である。とても気さくでテンションが高く何よりかわいい。
そのことから男子達からの人気は非常に高い。
「まあ。怒るなよ。お前も話せたんだからよ」
そんなやり取りをしていると担任が教室へと入ってきた。
「おら〜。席に着け〜」
その一声で皆席へと戻る。全員が席に着くと担任が告げた。
「えぇ〜。今日から新学期だが、その前に転校生を紹介する。入ってきてくれ」
「は、はい!」
ドアの向こう側から可愛らしい声が聞こえた。その後ドアが開き転校生が入ってきた。
特徴的な黒髪ロングが目につき、おっとりとした感じの子だ。
「か、川瀬あかりです。よろしくお願いします、、」
その一言のあと彼女と目が合った僕は胸がザワつき、息が止まった。