プロローグ〜思い出す冬〜
初投稿です
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ツイッター@milky8888m
人は誰しも懸命に生きる時間がある。
たとえ儚く、辛い未来であっても、懸命に生きた人の事を僕は知っている。
「・・・はぁ」
そんなことを考えながら冬の夜空を見上げ大きなため息を一つつく。
高校3年の僕はまたこの場所にいる。
「・・・またここか」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向かなくてもわかる。どうせアイツだ。
「来ちゃダメだって言うのかよ。琢磨」
不機嫌気味に答えた僕の返答に対し、琢磨は答える。
「ダメとは言ってないだろ。ただお前の家に行ったけど留守だったからここだと思っただけだよ。」
「・・・あっそ」
生返事に答える。なぜなら今は何も考えたくない。
「となりいいか?」
「・・・」
答えようにも口が動かない。琢磨が隣にいるのが嫌な訳ではない。ただ本当に何も考えたくないし、何も話したくない。そんな風にしていると「よっと」という声が聞こえ琢磨が隣に腰かけてきた。
「・・・」
互いに何も話さず夜空を見上げる。一刻の静寂が辺りを満たしていく。気まずさなどはなく琢磨もリラックスしている。
「もう、一年か・・・」
おもむろに琢磨が口を開いた。
(・・・あぁ)
と心の中で返事をする。聞こえてないはずだが、心を見越したような表情を見せる琢磨。
そう、あの時から一年が過ぎようとしている。懸命に生きた僕の大切な人。
最後に触れた大切な人の手はとても冷たかったが、その表情からはとても温かみが感じられた。
僕はあの表情を決して忘れることはないだろう。そして大切な人の最後の言葉を思い出す。
『・・・ありがとう・・』
小さく、声も掠れていたがハッキリと聞き取れた。おそらく最後の力を振り絞りどうしても伝えたかった言葉だろう。この言葉に僕は返事をすることができなかった。おそらく、生涯返事をすることはもうない。
「さ、もう寒いし帰ろうぜ!風邪ひいちまう。」
僕は難しい表情をしていたのか。見かねた琢磨が気を使い、立ち上がって言った。
「ん、あぁ。そうだね」
そういえば、僕も少しばかり冷えてきた。
琢磨を見れば少しばかり震えている。厚着をしているとは言え真冬の夜だ。寒くないわけない。
「うへー。さみぃよ。はやくはやく。」
もう本当に寒さの限界なのか、それとも僕に何も考えさせたくないのか、琢磨が帰宅を催促させる。
「はいはい。」
腕を組み、体を温めている琢磨を横目に僕も立ち上がる。
(サンキュー、琢磨)
心の中でそう思いながら僕と琢磨と歩きだし、冬の夜道を並びながら歩いた。