第1話 働きたくないは禁句でした
僕は東風谷 勇気今年で20才になったばかりの大学2年生だ。
今日大学で進路相談があり僕の希望の職種を選択しないといけない、働くなんて嫌で嫌でしょうがない。
周りは「就活だ、大学3年になったらはじめなきゃ」などと言っている。
僕は大学を出て死ぬまで会社のために働くなんてまっぴらごめんなのだ。
進路希望の用紙に希望の職種を書いて大学へ提出し、進路相談を就職課へすることになっている。
進路希望調査
第一希望:働きたくない
第二希望:働きたくない
第三希望:100歩譲って好きな時に好きなだけ働く仕事がいい
用紙にこんなことを書いたものだから就職課の人も絶句していた。
新卒のまだやる気にあふれている女性で、顔は地味系だがふわりといい香りがして担当している男の生徒達に人気がある。
だって働きたくないんだもん、しょうがないじゃなか。
「そんなに働きたくないんですか?」
就職課の職員も困って再確認してくるがその意志はかわらない。
「はい、嫌なものは嫌なので。100歩譲って好きな時に好きなだけ働く仕事がいいです」
「第三希望に書いてあることですね、しかしそんな仕事ないと思いますよ?再度自分のやりたいこととかないんですか?」
「ないです、働かなくても仕事する方法はないですか?」
「いってることがめちゃくちゃです」
わがまま言っても始まらないことはわかっているけど、もしかしたら好きな時好きなだけ仕事できる場所を紹介してもらえるかもしれない。
そんな時、僕と面接している就職課の人が上司であろう人に呼び出されていた。
「失礼します、少し席をはずします」
「ええ、構いませんよ」
僕のわがままに上司が業を煮やしたのだろうか?職員が席を外すとこちらをチラリと見てすぐ目をそらした。
しばらくすると僕の担当が戻ってきた。
「本当に働きたくないんですか?」
「はい、働きたくありません」
戻っていきなりこれである、やはり上司から何か言われたのか?
「働かなくてよい職場はありませんが、好きな時に働ける場所ならあります」
え、さっきないって言ってなかったか?まぁあるんならラッキーだ。
言うだけ言ってみるものだな。
「あるんですか、その会社を紹介してもらえませんか?」
釣りじゃないよな?即食いついてしまったが。
「ただし、今週の日曜日に説明会に参加してください。そこで説明を受けて契約することが必要になります」
「説明会ですか、わかりました今週の日曜日に参加してきます。場所はどこですか?」
「場所は××○○です、朝10:00に会場へ行ってください。説明会だけじゃなく契約まですることができますので頑張ってくださいね」
「わかりました、行ってきます」
---------- 日曜日 ----------
「ここが説明会の会場か」
都内某所の会場まで来たわけだが、やっぱり集まっている人数はかなり多いみたいだ。
1000人はいるんじゃないだろうか。
しかし、大学生だけじゃなく普通のおじさんや明らかに若い子がいる。
中学生や高校生もいるんじゃないだろうか?
人の事を言えた義理ではないが、1人で来ている人が大半のように見える。1000人くらいいるのに誰も会話していない。
会場は檀上があり、その下にパイプ椅子が均等に並べられていた。
少し早めに会場へ来ていたが人はかなり来ていた、席は真ん中くらいに1席空いていたのでそこに座ることにする。
実際全部の椅子が埋まったら1500人くらい入るんじゃないか?
しばらく椅子に座ってぼーっとしていると時間は朝10:00を回っていた。そろそろ説明会が始まってもよさそうだ。
「もうそろそろかな?」
つい待ちくたびれて独り言が出てしまった、恐らく檀上で誰かが会社の説明をしてくれるんだろう。
あくびをしながら更に待つこと10分、檀上にキッチリとスーツを着込んだ威厳のある雰囲気のおっさんが姿を表した、表情に笑顔などなく無表情。長年むすっとした表情をし続けたせいか無表情なはずなのに少し恐い。
会社の社長かな?かなり偉そうだ。
あの人が会社の説明するんだよな、なんかやだな。
檀上のマイクへ向かって行く、第1声は何を言うのか。いきなりキレたりはさすがにないと思う。いかん、顔が怖いから偏見の目で見てしまっている。
おっさんを黙って注目することにする。
「よく聞け!お前たちは腐ったみかんだ!!!」
は?今なんと言った?腐ったみかん?
いきなり第1声で『?』が量産された、あの人は何を言っているんだ?
会社説明会でそんなこと言って誰が入るというのだろうか、とんでもないブラック企業なのではないだろうか。
就職できなかった人がしょうがなく入社してすぐ辞めてしまうような会社としか思えない。
思えばやたらと説明会に人がいる、大学の就職課の人に騙された。
「いいか、お前たちが何でここに集められたか考えてみろ」
好きな時間に好きなだけ働ける自由な職場を求めてきたんだが、こいつにイヤこの会社にそれが通じるはずがない。
「答えは簡単だ『働きたくない』そんな思想を持っている奴や本当に『働いてない』奴だけを集めている」
確かに全員コミュ症っぽい奴らばっかだもんな、自分も含めだが。
そして僕自身働きたくないと大学へ進路希望調査を提出している。
ほいほい職員に言われて来てしまったがとんでもない所に来てしまった。
早く逃げよう!
「ちなみに逃げようとしても無駄だ、出口は完全に封鎖しているからな。最後まで話を聞いてもらう!」
先読みされていたか、来るんじゃなかった。少しでも仕事をしようとやる気を出したのが間違えだった。
逃げられないなら話を聞くしかない。周りを見渡してみるが皆不安そうな顔をしている。
「国はある国家プロジェクトを立ち上げた。それはニート異世界移転計画!!!」
今なんと?またもや『?』が量産された。突然のこと過ぎて理解が及ばないのだが、ニート異世界移転計画とはなんだ、異世界移転とかファンタジー過ぎるしそんなこと不可能だ、異世界へ転移なんて技術いつ開発されたんだよ。
もっと世間騒がすだろフツー!それに僕はニートじゃないし、まだ学生だ、異世界なんて飛ばされる義理はない。
それに人権無視にもほどがある、法律がそれを認めないはずだ。
「質問があります!」
説明会のに来ていた人が1人挙手をして質問しようとしている、どうせ聞いてくれないんだろうなぁ。
「質問には答えられない、お前達はただ私の言うことを聞くだけだ」
やっぱりね。こういう独裁者っぽい奴は他人の言うことを聞かないのが相場が決まっているのだ。
「まず、ニート異世界移転計画とはお前たちのような腐ったみかん達はこの世界から消えてもらうということだ。つまり異世界転移とはゴミをゴミ箱に捨てるに等しい行為でありお前たちに拒否権はない。次にニートでない者もこの中にいるだろう、しかし『働きたくない』と公言してしまっている者しかいないはずだ、そういった者もニート予備軍とみなし異世界転移ひいてはゴミ箱に捨てる対象となる」
つまり本当のニートはもちろんのことニート思想を持った人間も異世界へ送りだしてしまおうということか。
ニートがいなくなれば無駄飯食らいはいなくなり、国の悩みも減るということか。めちゃくちゃだ。
「人権に対する法律も本日変更が可決された、ニートないしニート思想を持った者は人にあらず。よって異世界へ転移させてもよいということになった、異世界転移はとある技術会社によって国家が秘密裏に完成させているため安易に転移もさせることができる」
そんな簡単に異世界に送り出せるの?
日本の技術すげぇえええええ!
確かにすごいけどそんなこと言っている場合者ないだろ、いきなり知らない土地に放り出されて生きて行けなんて不条理すぎる。
「なに、私たちも鬼ではない。異世界へ転移する者にはきちんとそれなりの能力をあたえることとする。異世界へ行けば異世界の力が使えるようになるのだから付加価値だと思ってもらっていい」
その話を聞いて『はい、そうですか』なんて言えるはずがない。
今の生活がどうなってしまうのか、すべて放り出したいほど人生に絶望してはいないのだ。
「まぁ選択の余地はないがね、ここにいる人間は例外なく今日異世界へ行くことになるだろう。だが聞いてほしい、異世界へ行けば好きな時に働いて好きな時に休む仕事があったりする。コツコツ稼ぐもよし、ドカンと危険な仕事をして稼ぐもよし。君たち次第でいくらでも道が開けるのだ!!!」
確かに間違ったことは言っていないが嫌だ、危険と隣り合わせの仕事なんて命がいくつあってもたりないし、現代の生活に慣れすぎている僕たちが異世界に行って生活なんて辛すぎる。
「異世界は大体中世くらいは発展している、魔法があったりモンスターがいたりのファンタジーな世界が大半だと聞く。きっと楽しい生活がまっているぞ」
今更江戸時代の生活に戻ることができない。中世も同じようなものだろう、中世の生活は楽しいなどと言ってくるあたり危険度外視した発言だ。
もはや他人事。
「さっそくで申し訳ないが順次異世界へ転移してもらうことにする」
申し訳ないとか思ってなさそうだな。
「とりあえず、お前たちの付加能力の書いた紙を配るのでちゃんと目を通しておくように」
事務処理的に紙が配られ受け取ることにする、前からプリントが順次係員らしき人から配られてくるのだが。
普通の紙だ、テキトーに印刷して配っているみたいに見える。
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あなたの能力
①鑑定(物の名前や人の能力を数値化し見ることができる)
②アイテム収納(異次元空間に色々な物を収納できるが生物は収納できない)
③負荷価値(負荷をかけることで通常より力を発揮させる)
能力は普通かそれ以下なのではないだろうか?
というか、異世界なんかに行かないぞ、ふざけんな。
大体なんだこの能力は鑑定やアイテム収納はわかるが負荷かけるとか意味がわからない。
単体で役に立つ能力じゃないし何の役にたつかもよくわからない。
こんなので異世界なんて行かされたら3日と持たずに死んでしまうかもしれない。
そんなこと考えていると檀上に違和感が……
あっ!なんだおっさんが檀上からそそくさと立ち去っていってるぞ?
嫌な予感がする。
「うわぁああああああああ」
なんだ?なんだ?叫び声が聞こえるぞ
会場を見ると前の方の席に座っていた奴の姿が消えている。
何が起こっているのか?決まっているだろう、異世界に強制的に移転させているのだ。
おっさんが檀上から消えたのは近くにいると巻き込まれるからに違いない。
この場所が危険地帯なのも間違えないと思う。
早く脱出しなくては、椅子から急いで駆け出し扉の前まで行くも開かない。
閉じ込められた。
後は異世界へ送られるのを待つのみである、檀上もシャッターが降りてきて上れそうにない。
周りの叫び声が聞こえる、半分以上は消えてしまっている、どどどうしよう。
わぁあああ僕の体も消えてるぅううう!
体だけじゃなく全身すべて消えた時に僕の意識はなくなった。