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「許さない」
少女は草の上に横たわった幼馴染の少年の遺体を抱き、静かにつぶやく。
「ユウくんをこんな目に合せて、絶対に許さないんだから!」
少女の赤い目は怒りに燃え、黒く長い髪がさらりと揺れる。
抱きしめた少年の体を草の上に下し、ゆっくりと立ち上がる。
黒いセーラー服には少年の血がべっとりとつき、布地を伝い、スカートの裾から滴り落ちている。
「絶対に許さないんだから、邪神!」
少女の感情の揺らぎに反応し、周囲に強い風が渦巻く。
その瞬間、ガラスの割れるような音がして、周囲の景色が歪んだ。
少女の黒く長い髪が蛇のようにうねる。
『な、なに? お前、我が結界を破るとは、何者だ!』
周囲の景色が歪んでなくなると、その向こうから何物も通さない深い闇が現れる。
その向こうに姿は見えないが、何かの気配を感じる。
それが姿や心まで醜くなった邪神だと、少女は聞いている。
「見つけたわよ」
少女は赤い目で闇の彼方にいる邪神を見据える。
その闇に向かって一歩を踏み出す。
『こしゃくな、小娘!』
闇の中から邪神の声が響き、黒い刃が何本も現れる。
それが少女向かって飛んでくる。
『いい気になるなよ、小娘!』
少女は正面から飛んでくる黒い刃をかわす素振りも見せずに、右手を一閃する。
何本もの黒い刃は、少女の目前ですべて霞のように掻き消える。
「いい気になってるのは、そっちでしょ? ユウくんをあんな目に合せて、ただで済むと思ってんじゃないでしょうね」
少女の怒りを含んだ声は、その容姿の美しさと相まって、邪神でさえぞっとするような雰囲気だった。
「覚悟はいいんでしょうね?」
少女は闇に向かってもう一歩踏み出す。
邪神のいる闇に向かって一歩一歩近づいてくる。
『く、来るな! 来るな!!』
邪神は半狂乱になって、様々な障害物を作り出して少女を止めようとしたが、男女神の祝福を得た少女にはまったく効かなかった。
障害物を壊すたびに少女の艶やかな黒い髪がかすかに揺れるだけだった。
少女は闇の中で強い光をまとっている。
邪神のいる目の前までやって来ると、血のように赤い目で闇を見据える。
「ユウくんをあんな目に合わせた報いよ。消し飛びなさい」
右手を高く掲げ、無慈悲にも振り下ろした。