表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

深呼吸する六日目・エピローグ

今日は仕事が休みで、朝から外に出てみる。穏やかな秋晴れに心すら晴れやかで、これも昨日の、キヨのおかげかなと考える。


あんなに涙を流したのはどれくらいぶりだろう。人前で泣いた記憶はもっと古いように思う。感情が振り切れる事なんか今までほとんどなかったのに。

泣き続ける私はきっとうんざりする程だっただろう。それでもただ黙って傍にいてくれた。

やっとの事で泣き止んで申し訳ないなと思っていた私に、笑ってまた頭を撫でて、またねと帰っていった。そんな小さな気遣いが私の手には有り余る程で、一人の部屋でまた少し泣いた。


キヨがどんな環境にいるのかは分からない。抱えている気持ちも分からない。でもそこに踏み込むのは、今の私じゃない。いつかの私であればと心の奥でそう願うけれど、キヨが話さないなら私は聞かない。キヨはきっと聞かない私だからああやって話してくれたのだと思うから。ただいつでも、キヨがそうしてくれたように、私もキヨの気持ちに寄り添える日が来たなら、それはすごく素敵だと思った。


またね。また会える約束は、私の心にストンと落ちた。



初めて入る隣の敷地は草が伸び放題で、キヨの言う階段がすごく見にくかった。足に纏わり付く草を掻き分けて進むと、五段程の階段を見つける。近付いてよく見ると、木箱のようなものが重なっているだけだった。

―キヨ、これお手製じゃない?

いないあの人に言葉を落とす。本人には言わない方が良いかな。


踏み締めた木箱は思ったより頑丈で、上がりきると塀の頂点が腰の辺りまで下がってアパートが難なく見渡せた。

ブロック塀は触れるとひんやりとしていて心地良い。腕に力を入れて塀に足を掛ける。


塀の上に立つと景色はがらっと変わって、住んでいるアパートでさえ小さなものに思えてくる。キヨの見ている景色よりずっと上。きっとそこにキヨがいたなら、うんと小さく見えるのだろう。


立ったまま、顔を空に向ける。見上げた空は何にも遮られる事なく、私を覆うように広がっている。いつからかな、俯くばかりになったのは。こんなに空を綺麗だと思ったのは、すごく久しぶり。


目を閉じて深呼吸をしてみる。キヨがそうしていたように。



地上から約3m50cmの酸素は、柔らかで、麗らかで。

深く体を駆け巡って、私を満たしてくれる。



本当だね。息苦しくないね。

そう思える場所が、私にもできたんだね。

ここにいたいと思ってもいいかな。


キヨのいる場所に、いたいと思ってもいいのかな。



「立っていないで、座ったらいいのに。」


―……だってここはキヨの場所でしょ。

 一緒に座らなきゃ意味がないから。



今の私を、愛してあげてもいいかな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ