魔女8聯
魔女
かつて
望みをもって
神に祈った時期があった
体をふるわして
娘の手を取って
二つの影は揺れて
何度も泣いて
一緒の夢を見て
それでも
神を信じてた
守れると信じていた
ずっと
ずっと
やがて
望みは絶たれて
きれいなまなこは濁って
目蓋も腫れて
溢れていく黒い涙
ヒトを憎み過ぎて
穢れたたましいは
その内在に
罪と地獄を孕んで
毒を放ち始めた
蝶に呪いを
色彩に呪いを
巡る季節に呪いを
捏ねて世に離した
毎日
闇のように暮らしていた
千年も
ごめんね
と呟いて
這いつくばって
夜ごと
その姿を探している
小鳥たちが避けても
血の馨りを纏いながら
その姿を探し続けている
処女喪失
あるロックンローラーを
好きだった
一人の少女は
ヴァージンを散らさないまま
死んだ
まだ幼さを残して
あどけなさを感じさせる
その体はバラバラにはじけ飛んだ
一度も告白しなかったことを
後悔して息を絶えた
死ぬ瞬間に
母の顔を思い浮かんで
その顔は
優しさに溢れていた
イブの妊娠
概念だけの国で
生きていられれば
哀しくもないのにね
異端の神々に
祈って
願って
陰りも持たず
抑えきれず
溢れだす
何を孕んで
何を破水して
何を産みだした?
勃起
陰茎を勃起させて
おれはきみをけがすつもりだ
おまえの中身を
ぐちゃぐちゃに
混ぜるのだ
そうして
ふたつの思想が
あわさったとき
生まれるのは
いっぴきの
おわりある生命
いとおしい
おわりある生命
憎悪の国
私に毒を飲ませて
私にナイフを突き刺して
嫌われたくないから
生温かい中身をぶちまけて
死んでしまいたい
子宮のなかの
彼女とともに
ころしてください
不整脈
おれが23のころ
まっくろな何かが
はいってきた
それはおれを
しはいして
息苦しくて
だれか
おれの脈をみてくれ
お願いだから
だれか
おれの脈をみてくれないか!
理想論
無情な理念を抱えて
死んでいった
一人のテロリストがいた
彼女は
何千人も巻き添えにして
自爆した
その姿を見て
美しいと叫んだ人もいれば
なんて馬鹿な事をしたと
怒り狂う人もいた
罪のない少女は
その事件で
死んだ
彼女の遺族は
憎しみの業を
背負った
たったひとつの命だから
たったひとつの命だから
生きることは辛くても
錆ついた心を
凍りついた心を
もとに戻すのは難しいけど
あなたがいてくれて
それだけが
わたしの
わたしたちの
宝