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Ⅸ.クリスタル・ゲート・ブリッヂの私闘

 全長約三キロ、水面から主塔までの高さが二百メートルを越える巨大な吊り橋が、ここサウザンシスコのシンボルである《クリスタル・ゲート・ブリッジ》だ。

 その偉容な景観は、まさにカリメア大陸の西海岸における玄関口(ゲート)に相応しい。世界的にも有名らしく、その名はマージャンのローカル役の一つになっているほどなのだ。

 地図上、橋は南のサウザンシスコと北のマロンシティを結んでいる。路面列車の線路は敷かれていないけど、物資を運搬するため、馬車や自動馬車、オートサイクルが引っ切りなしに走っているとのことだ。

 しかし、今ばかりは橋の上は閑散としていた。港のストライキが一因と考えられるかもしれないけれど、他に大きな理由があった。

 路面列車を降りて橋へと足を踏み入れる。入り口にて警察の人が封鎖しているところを、クランのエンブレムを見せることで通してもらう。おほっ、刑事小説みたいだ。

 成り行きではあるが、こうしてみんなでゲートブリッジに来ることができて嬉しいな。残すはここから東の海上に小さく見える監獄島だね。明日時間があれば行ってみたい。

 ちなみに橋の名前の由来は、技術の粋を集め、それが結晶のように一つとなって橋を完成させるに至ったからとか何とからしい。やっぱガイドさんがほしいところである。

「ぐわっ」

 観光気分にどっぷり浸っているわたしの耳に突然叫び声が聞こえてきたのは、橋を四分の一ほど進んだときだった。徐々にはっきりと見えてくるレッドさんの後ろ姿のさらに前方から発せられたみたいだ。

「あっ」

 何かが宙に飛ばされると、橋の欄干を越える。それが人だと分かったときには、既に橋下へと落下が始まってしまっていた。

「うわああああぁぁぁ」

 声の主はレザー系の防具一式を装備した若い男性だった。状況から見て自分から飛び降りたわけではなさそうだ。

 急いで欄干へと駆け寄る。しかし、わたし達のいる場所からはまだかなり距離があった。

「(ここからじゃ――)」

 まずい、いくら下は海だからといって、高さは百メートル以上ある。海面に叩きつけられたら、場合によっては――。

「くっ、風の飛翔――」

「《風の召喚魔法(サモン・ガルーダ)》」

 人命救助のためすぐさま魔法を唱えるレッドさんを追い越して、低い声で魔法詠唱を行う者がいた。

「――鳥?」

 突如橋の上空に魔法陣が描かれると、黄金色に輝く大きな鷲が陣の中心から飛び出した。

 鷲は赤い翼を折りたたむと急降下を開始する。空気を突き破る速さで落下する人に追いつくと、両足で男性の両肩をがっしりと掴んだ。危機一髪セーフ!

 そのまま大鷲は高度をゆっくり下げると、海面付近でポイッと、なぜか男性を捨ててしまった。バシャンと飛沫が上がる。ええ? そこは最後まで助けて上げようよ。

「あれは……召喚魔法の一種ね」

 マホツカは空中を自由に飛び回る魔法の鳥を目で追いかけていた。

 召喚魔法か……わたしにとっては未知の魔法だな。

 為すべき事をやり遂げたようで、大鷲は上空へ舞い上がると、光の粒子となりながら空へと溶けていった。

「いったい何が……」

 ノーロープバンジーをする男性に、それを助ける(?)召喚獣。状況把握が難しいな。

「これで九百九十九本目だな」

 レッドさんの傍までたどり着くと、そいつはいた。

 二メートルを優に超える長身に、黒い全身甲冑を身に付けた騎士然とした人物。橋の上には海風が吹いていたが、羽織るマントは不思議と静かにはためいていた。

 謎の甲冑騎士は地面に転がっていた剣を拾い上げると、じっくりと検分し始めた。

「ヌウ、やはり街で売られている安物の剣であったか」

 兜のスリットの奥は黒く染まっており、表情などは一切窺い知れない。口も兜の内側にこもっているはずなのに、なぜか声は明瞭に耳へ届いた。声の雰囲気から男性だと判断できる。

「これでこの剣は百十二本目か……。最近の若造は武具に金を掛けないようだな」

 切ない調子で締めくくると、甲冑男は剣をマントの内側へと隠す。すると、まるで手品でも見たかのように剣はマントの中に消えてしまった。《ふくろ》と同じ原理か。

「ヌヌ? 知らず知らずの間にギャラリーが増えてしまったようだな」

 甲冑男はわたし達に気付くと、ジッと鳥瞰(ちょうかん)してきた。

 ギャラリーといってもわたし達とレッドさんとで合わせて五人しかいない。警察によって橋が封鎖されているため野次馬の姿はなかった。

「フームム、しかも全員がうら若き乙女とは、さすがは西海岸の街だけはある」

 なんつったこの人?

 出で立ちこそ魔界の騎士のような不気味さが纏わり付いていたけれど、発せられる言葉の軽さから必要以上に警戒心は覚えない。

 かといって、積極的に関わりを持ちたいとは思わないけど。

「貴様が噂に聞く『謎の男』だな」

 謎の男?

 まるで詰問するかのような調子で、レッドさんが男に話しかけた。

「ヌ、『謎の男』とは随分と無粋な呼び名だな。我が名は闇の…………」

 マントをふわさっと靡かせる格好良いポーズを決める甲冑男であったが、なぜか途中で口をつぐむと、腕を組んで黙り込んでしまった。

「我が名は……フム、今は『ダーク・フリード』とでも名乗っておこうか」

 なんじゃいそりゃ。

「名などどうだっていい。どうせ呼ぶことはないのだからな」

 敵意を剥き出しにするレッドさん。甲冑男の戯れ言を切り捨てると、腰に帯剣していたレイピアを引き抜く。そして尖端を真っ直ぐ甲冑男へと向けた。

「レッドさん、あの人をご存知なんです、か?」

 後ろ姿から伝わってくる気迫に声を掛けるのが躊躇(ためら)われたが、かろうじて興味本位が上回った。

 レッドさんはわたし達が追いかけてきたことに気付いていたようだった。甲冑男から眼を離さずに事情を簡潔に説明をしてくれた。

「ここ最近、この街に出没するようになった謎の甲冑騎士だ。新聞社がこぞってゴシップ記事として取り上げている。被害者の話では、いきなり勝負を挑まれ、勝利の証として敗者の武器を奪うという下衆な行為をしているらしい」

 武器を奪うって、ただの泥棒じゃないですか。

「人の武器を奪うとは、命を奪うことよりも許されない行為だ」

 まじっすか。わたしの剣も、ある意味で盗品に近いんですけど。

 しかし、敗者の武器を奪う、か。新手の道場破りのつもりなのだろうか?

 サウザンシスコは要所の街だけあって旅人が多い。それにクラン支部もあるので(つわもの)を探すのには困らないはずだ。まさに格好の狩場と言える。

「でも、どうして武器なんて奪うんでしょうか?」

 ソロバン片手に洞窟探検をする商人一家にでも売りさばくのかな? お弁当目当てで。

「売却した金を共同募金へ寄付でもするのだろう」

 ………………え?

 い、今のはジョーク……だよね?

 レッドさんみたいな真面目な性格の人がボケるとツッコミを入れるのが難しいよ。

「貴様の悪事も今日までだ」

 おおっ、実にカッコイイセリフ!

「オオッ、まさか逆ナンされるとは!」

 いや、絶対違うから。

「しかし、せっかくの誘い申し訳ないのだが辞退させてもらう。生憎とレディーと剣を交える趣味は持ち合わせていなくてな」

 ダンスならいつでも誘ってくれと、こちらは色ボケた事をサラリと口に出す。

「こちらは貴様が現れるのを待っていたんだ。逃がすつもりは毛頭ない」

 神出鬼没な武器泥棒、確かにチャンスはそうそうないだろう。

「腕に自信があるみたいだが、威勢だけでは私の相手は務まらないぞ。エスコートとて限度があるからな。せめてあと二……三年は我慢してくれ」

「威勢だけかどうかは、その身で知るのだな!」

 よく会話が進むな。全然噛み合っていないのに。

 レッドさんの左手が刀身をなでる。青白い雷光が剣に纏われると、猛烈な勢いからなる刺突を繰り出した。

「ヌヌ、魔法剣とは珍しい」

 悠長に感想を漏らす甲冑男へと一瞬で距離を詰めるレッドさん。

 二者が接触した瞬間、虚空に火花が咲く。レッドさんの刺突攻撃を、甲冑男は正面から受け止めたのだ。

「――円盾魔法(バックラー)?」

 甲冑男の右手には黒く渦巻く半透明の盾が構えられていた。その盾がレッドさんの魔法剣を完全に防いだのだ。確か精霊王も同じ魔法を使用していたっけ。

「詠唱破棄でこの防御力……。先程の召喚魔法といい、かなり魔法の扱いは長けているようだな。さすがは百戦錬磨と耳にするだけはある」

 それはこの街で挑んだ相手全てに勝利を収めているということか。そうでなくては今頃ブタ箱で臭い飯を食べているはずだからね。

「フフ、この街では九百九十九錬磨だ」

 変な訂正入れないでいいのに。

「余り気の乗らない戦いではあるが、レディーの頼みとあれば仕方あるまい」

 まるでどっかの国で語り継がれる架空紳士かのような振る舞いを見せる甲冑男。きっと推理小説のファンなのだろう。

「いつまでも戯れ言を……!」

 レッドさんはいちいち女扱いされるのが気に入らないのか、表情を険しくさせている。

「だがしかし、どのような時でも、勝負とならば本気で相手を務めるのが男の(さが)

 甲冑男はマントの中に手を突っ込むと、ヘンテコな形状の物を引っ張り出した。

「!? そ、その武器はまさか――」

 レッドさんは驚きの余り目を見開く。

 武器……なのか? 例えるのならば柄の長いハンドベルを逆さまにした形。とても武器とは思えない。

「フム、この《巨人殺し》の異名を持つ槌を知っているのか。中々の博識」

 相当な重量がありそうであったが、甲冑男は片手で軽々と槌を持ち上げていた。

「何を隠そう、この武器こそが、かの暗銀の騎士の宝具の一つ、《ブブゼラムド》だ!」

「ブブゼラ……ムド?」

 レッドさんの頭上には見えない疑問符(はてな)が浮かんでいる。どうやら想定していた武器とは名称が異なっていたようだ。

「呆けている暇などないぞ!」

 巨大な槌を片手に持ち、さらに金属の甲冑を装備しているのにもかかわらず、男は素早い動きでレッドさんへと迫ると、大槌を片手のまま豪快に振り下ろした。

「ヌン!」

 レッドさんは咄嗟に後ろへと飛び退る。豪快な一撃が地面を砕いた。

 と、

『ブー』

 ? どこからか不快な音が鳴った。何の音だ?

「ヌヌン!!」

「くっ」

 振り下ろしからの息つく暇を与えない振り上げ攻撃。レッドさんはレイピアで受け流す。

『ブーブー』

 ? まただ、いったいどこから……。

「ヌーハー!!!」

 甲冑男は両手持ちに切り替えると、渾身の力で大槌を叩き込んだ。地面が砕け、破片が飛び散る。発生した風圧によって海風が跳ね飛ばされた。なんつー破壊力だ。

『ブーブーブー』

 超重量からなる一撃は、一発でもくらえば地面に叩き潰されるか、先程の男性のように橋の外側へと吹っ飛ばされるかだろう。

 レッドさんは攻撃を冷静に回避し続けている。

 荒れ狂う巨漢と欄干の上に飛び乗っては敵を翻弄させるレッドさんの構図は、新暦におけるゴジョー大橋の戦いのようだった。

 しかし、そんな美しい戦闘にあってはならないノイズが紛れ込んでいた。

「さっきから『ブーブー』うるせー!」

 思わず口に出しちゃったよ。だってマジでうるさいんだもん!

 音の発生源が分かった。甲冑男が担いでいる大槌からだ。槌を振るたびにブーブーと耳障りな騒音が鼓膜に嫌悪感を運んでくる。相手の集中力を乱す特殊効果なのか?

「ヌ、こういう武器なのだ。外野は静かにしていてくれ」

 お前が外野(サポーター)だよ!

「手にしている自分が一番うるさいでしょ……」

 わたしの野次に対して甲冑男は一旦攻撃の手を止めた。

「フム、それは事実だ。だがこの武器は、かの《臭れ谷》で発掘したウルトラレア級な武器なのだぞ。こびりついた腐乱臭を落とすのに何ヶ月もかかり、ようやくにして気にならない状態になったのだ。どうして使わずにいられようか、いや、使わずにはいられない!」

 芝居がかったように捲くし立てる甲冑男。そこまで強調しなくても。てか、そんな臭う武器を拾うなよ。

「戦闘中に他愛ごとを……随分と舐められたようだな」

 怒気を孕んだレッドさんの声。レイピアには怒りを具現したかのような灼光の炎が纏わり付いていた。

「炎の魔法剣、《フレイム・ヴァイパー》!」

 睨みを利かせた炎の蛇が甲冑男へと文字通り牙を剥く。

「ヌ、面白い技だな」

 約千戦練磨というだけあって、甲冑男も実力者だった。大きな口を開けて呑み込まんとする蛇に怯むことなく簡単に避けて見せた。

「甘い!」

 レッドさんの右手が捻られる。すると蛇は軌道を変え死角から甲冑男へと再度襲い掛かった。

「ヌオ?」

 変則的な蛇の動きに甲冑男は翻弄される。考える時間を与えない蛇の連続攻撃に、遂には対応し切れず、頭上から迫った蛇に食べられてしまった。

 はぐれキウイたちを一撃で葬った技だ。無傷では済まないだろう。

「フム、この街で勝負を挑んだ者の中で、一番の強さだな」

「!?」

 閉じようとした蛇のあぎとが途中で止まった。

 次の瞬間、炎の蛇が口から凍り始める。胴体を瞬く間に侵蝕し、操り手に迫った。

「くっ」

 氷が刀身まで及びそうになったところで、レッドさんは魔法剣を解除した。効果が切れたためか、蛇は(もろ)くも砕け散る。

 氷の破片が夕日を乱反射させる中、甲冑男は悠然と立っていた。

「さすがはカリメアの女性だ。これだから近年のレディーは怖い恐い」

「……褒め言葉として受け取っておこう」

 お互いが実力を認め合ったところで、戦闘は緊張感を増していく。見ているこちらも手に汗をかき、喉が渇く。

「生半可な気持ちではいかんな、ならば、とっておきの武器を見せてやろう」

 せっかく引き締まった空気が、一瞬にして瓦解してしまった、まるでラジオショッピングのようなノリで、甲冑男は再びマントの中から武器らしき物を取り出そうとする。

 この人はあれか、武器マニアなのか?

「遥か東国の地で入手した伝説の刀――」

「カタナ……だと? まさか――」

「ヌヌ? 長くて取り出しづらい」

《ブブゼラムド》をマントの中に片付け、代わりに取り出しのは、やたらと長~い棒だった。あれ? 『刀』って刀身が沿っている剣だよね? どうみても長棍にしか見えない。

「フフ、かのガンリュー島の戦いにおける英雄の片割れが所持していたとされる伝説の刀だ。その名も《備前長長船》!」

 備前……長長船?

「…………」

「フフ、声も出ないか。《物干し竿》の異名を持つこの武器を前にして」

 レッドさんは言葉を失くして固まっている。お気持ちお察しできます。だってどう見ても甲冑男が握るのは刀じゃなくって洗濯道具だよね。物干し竿の異名を持つじゃなくって、まんま物干し竿じゃないか! あんなものは貧乏な我が家にだって三本あるよ!

「……貴様、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのだ?」

 言葉のトーンが低い。コメカミ辺りの血管が浮き出ており、そろそろプッツンしてしまってもおかしくない様子だった。

「ヌ? この私がレディーの前で冗談を言うような顔に見えるかな」

 顔なんて見えないでしょーが!

「それに――」

 甲冑男は物干し竿を両手で、槍を持つように構える。自分も刀って思ってないだろ。

「冗談かどうかは、その眼で確かめるといい!」

「!?」

 甲冑男は弧を描くように物干し竿を横に薙ぐと、地を這う衝撃破が発生した。ええっ!?

「《魔力装甲(マジックアーマー)》!!」

 空気を跳ね除けながら直進する衝撃破に、レッドさんは避けられないと判断したのか、防御術で対抗する。

 どうにか受け切れたようであったが、その間隙に甲冑男はレッドさんへと肉迫していた。

「ヌン!!」

「ぐっ――」

 両手持ちが繰り出す薙ぎ払いをレイピアで受け止めようとしたが、長物から生まれる遠心力に耐え切れず、レッドさんは吹っ飛ばされてしまい、欄干へと叩きつけられてしまった。

「どうした、やはり威勢だけか?」

 甲冑男は再び衝撃破を繰り出す。レッドさんはどうにか体勢を立て直すと攻撃を回避した。強烈な衝撃破が欄干を吹っ飛ばし、残骸が海へと落下していく。

「フフン、どうだこの威力。最上の業物であろう」

確かに凄まじい破壊力だ。だけどさ、どう考えても武器の攻撃力じゃなくって使用者の腕力によるものだよね? まあ、乱暴な扱いをされながらも壊れない武器も武器ですごいのは間違いないんだけど。

「ふっ、世の中にはまだまだ強い者がいるのだな」

 レッドさんはチラリと私たちへと眼を向ける。髪と同じく赤みがかった瞳は……マホツカを見ていた。

「どうだ、素直にその剣を置いていけば手を引こう」

「笑わせるな。この剣はわたしの伴侶のようなものだ。誰が貴様などに」

 レッドさんの眼は戦意を失っていなかった。むしろ燃え上がっている。

「こちらもとっておきを見せてやろう」

 レッドさんは天高く剣をかざした。まるで太陽の光を浴びせるようにして。

「太陽の魔法剣、《エクス・ブレイズ》!」

 うわっ、まぶし!?

 レッドさんの剣に炎が生まれ――暴走しているかのように熱が増し――終には臨界点を突破し、空気を破壊する黄色の雷へと変化した。

「ヌ、太陽の属性だと? それは守護騎士の…………。なるほど、そういうことか」

 ん? 守護なんだって?

「はあっ!!」

 空間を断つような()電一閃――、

「ヌオ!?」

 物干し竿で攻撃をガードした甲冑男であったが、自慢の武器は真っ二つに切断されてしまった。

「ヌオオオオオ!? 伝説の武器がー!」

 いや、だから、それただの物干し竿だって。

「ナマクラを集めるのが貴様の趣味のようだな」

「ヌッ、やってくれるではないか。ならば、これでどうだ!」

 半々になった物干し竿を二刀流に構える。なにやってんだか。

 ジリジリと攻めるタイミングを見計らう両者。そして二人が一斉に飛び出そうとした瞬間――、

『チャララチャーラーチャッチャラー♪』

 場違いなメロディーがどこからか流れてきた。思わずずっこけたくなる。レッドさんも同じだったようで、派手につんのめってしまった。

「何だ、急に!」

「ヌ、少し待ってくれ」

 甲冑男は懐からブラックカラーの比較的平らな物体を取り出すと、パカッとコンパクトのように開く。そして兜はそのままに耳へと押し当てた。

「ガ、ガラケー……」

 マホツカがまるで絶滅危惧種を見たかのような反応をする。ガラケーって何だ?

「ハローハロー? 何だベルか。今面白くなってきたところなのだ、邪魔をする――ン? どこにいるかだと? カリメア大陸のサウザンシスコだ。そう西海岸の港街だ。さすがは噂に聞く西海岸だ、歩けばぶつかるほど美女を見かけるぞ――ム、冗談? 冗談ではないぞ、私はいつでも真剣だといつも言っているだろう。そうだ、土産もあるぞ。何、いらない? せっかく砂漠のピラミッドまで出向いたというのに。ヌ? ピラミッドはカリメアにないだと? いやカジノの近くにもあったのだ。宝箱の中にレアな武器が入っていたからな、嬉しさの余り貼り紙まで残してきてやった。何? そっちではそんな事件が起きたのか。フーム、それはベルの手に余る内容だな」

 ピッと、長々と会話をしたあと通話を切った。

「と、いうわけだ」

「? どういうわけだ」

「フム、急用が出来てしまった。この勝負はお預けにしておいてくれ」

「な!? ま、待て――」

 グッドラック! と言い残して、甲冑男は逃げた。

 レッドさんは逃がすまいと追いかけようとしたが、甲冑男はとんでもない速度で橋の反対側へと走り去ってしまった。白煙が上がっている。

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