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Ⅳ.初めてのモブ狩り

《ジャーギ平原》――街の南方に広がる乾いた大地は、サウザンシスコと隣接しているのに気候が全然違うらしい。どうやら雨季と乾季が交互に訪れるサバーナ気候であり、ジモティーの話によると二つの季節の周期が不規則であるとのこと。

 ちなみに今は乾季らしく、生命の力が余り感じられない静かな様相だった。

 だが、ここは今回のモブ狩りのターゲットを初め、確かデンジャーモブに指定されている凶悪なモンスターまで棲みついているらしいではないですか。警戒は怠らないでいこう。

「なぜわたしまで……」

「アンタがOKって言ったんでしょ。文句は無しよ」

 初めてのモブ狩りに張り切るわたし達とは正反対に、モチベーションが著しく低いのはゲストメンバーであるレッドさんだ。レアアイテム入手の嬉しさで生じた隙をマホツカに付け込まれてしまい、こうして同行してもらうこととなったのだ。レベル45の猛者、実に頼もしい助っ人である。

 とはいえ、クランに加入したばかりのわたしが引き受けた依頼などレッドさんにとっては至極簡単な仕事であろう。まあ、それを言ったら戦士もそうなんだけど。でも戦士は意気衝天なオーラを放っていた。平原には罠なんてまずないからね。

 そんで、わたし達が肩慣らしの意味を含めて選んだ依頼なのだが、もちろんランクはEだ。ターゲットとなるモンスターは《はぐれキウイ》という。


 討伐依頼No.N2800317E001

 はぐれキウイ(????)

 ランク/E 状況/引受中

 依頼人/バン(サウザンシスコ・ダウンタウン地区)

 ミゲールさんのお遣い仕事に飽きたんで、友人の頼みでモンスター退治に出かけたんだ。

 軽い気持ちで挑んでみたら返り討ちにあってしまった。

 誰かあのモンスターを退治してくれ。でないと冒険がいつまで経っても始まらない。


 選んだ理由は一番楽そうな内容だったからである。目的地もすぐ近くだからね。ただモンスターの情報がもっとほしかった。依頼書には役に立たない依頼人の事情しか書かれていない。

 詳細な情報に関しては依頼者本人に聞いてくれとクランのお姉さんに説明された。だけどさ、そもそもどこにいるのかが分からないんですけど。個人情報だからといって住所も教えてくれないし。かといって治安の悪いダウンタウン地区をうろつくのも避けたい。

 まあ、ランクEの仕事だ。初見のモンスターであっても、戦士に加えてレッドさんもいるから大丈夫だろう。

「それにしても、なーんにもない場所だね」

 砂漠の次が平原とは、運命をなぜか感じる。

「この広い平原からターゲットを探すのか」

「思っていたより、大変な仕事ですね」

「ほっついていたら、そのうち見つかるわよ」

 わたし達ってすごく行き当たりばったりだな。嵐の塔とかピラミッドとか、過去を振り返るとそんな調子で挑んだのばっかりだった気がする。でもどーにかなっちゃうから不思議だよね。

 とにかく、ターゲットを発見するまで時間がかかりそうだ。それにモンスターの容姿も実は分からなかったりする。はぐれキウイは「はぐれ」と名に付くだけあって、この地方には棲息していないモンスターらしく情報が乏しいのだ。

 唯一の情報といえば依頼書に添付された依頼人が描いたモンスターの絵だけだ。しかし、お世辞にも上手いとは言えず、正直当てにならない。てゆーか子供の落書きレベルだった。

「?」

 文句を言っていても限がないので、とりあえずブラブラと探そうかと思ったとき、前方から二本足で立つ人型のモンスターが出現した。

「見たことないモンスターだな……」

 薄茶色で、タマゴのような丸い頭にうぶ毛がびっしり生えていた。それとなぜか柑橘系の甘くてほんのりと酸っぱい香りが漂ってくる…………あれ? これってもしかすると――、

「キウイ?」

「キウイだな」

「キウイですね」

「キウイみたいね」

「キウイのようだな」

 どう見ても頭がキウイだった。かろうじて依頼人の落書きと見た目が同じだと判断できる。これがターゲットのはぐれキウイに違いない。

《はぐれキウイ》――わたしの腰ぐらいまでの身長で、頭が大きく三頭身。顔となる部分には目や鼻はなくニタッと笑う裂けた口がついていた。ハロウィンでお化けに扮したイタズラ小僧にしか見えない。

 本当に人を襲うモンスターなのだろうか。ちょっと様子を窺ってみよう……ん?

 モンスターがこちらに気付いた瞬間、その頭頂部から赤い線がうにょ~んと伸びるとわたしに刺さった(痛みとかはない)。何だこれ?


『インフォメーションログ』

 はぐれキウイAが 現れた

 はぐれキウイAは 頭突きを構えた

 はぐれキウイAの 頭突き攻撃

 勇者は 15のダメージを受けた


「いって」

 はぐれキウイはちょこちょこと小走りで近寄ってくると、いきなりわたしに頭突きをかましてきた。衝撃は弱かったけど、うぶ毛がチクチクと刺さって痛い。

 イタズラが成功して「キキキ」とわたしをあざ笑うモンスター。ちょっとむかつく。

 いやまて、それよりも気になることがある。いつもの戦闘と何かが違くないか?

「何ボーっとしてんのよ。らしくないわね」

「え、いや、だってさ――」

「小さいからといっても油断は禁物だ。いくぞ!」

「仕方がない。引き受けた以上は手を貸さないとな」

 戦士とレッドさんが素早く剣を抜く。すると二人の胸の辺りから今度は水色の線が伸びると、モンスターの頭に刺さった。どうやら攻撃対象にした相手が誰なのか分かるよう視覚化された線のようだ。


『インフォメーションログ』

 ↑はぐれキウイAの 頭突き攻撃

 ↑勇者は 15のダメージを受けた

 戦士は 武器を構えた

 レッドは 武器を構えた

 レッドの 突き攻撃

 はぐれキウイAに 168のダメージ

 僧侶は 法術の詠唱を開始した

 はぐれキウイAは 《緑炎》の準備を開始した

 戦士の 斬り攻撃

 はぐれキウイAに 129のダメージ

 はぐれキウイAを 倒した

 はぐれキウイAは アイテムをドロップした

 マホツカは ドロップアイテムを拾った

 マホツカは 《キウイの種》を手に入れた

 僧侶の 《光の治癒術》

 勇者は 15回復した

 マホツカは 《キウイの種》を捨てた


 わたしがポンポン出てくるメッセージに呆気を取られているうちに、戦闘は終了した。

 な、何だ? このこと細かく情報を伝えてくる新イメージは? インフォメーションログだと??

 いつものなら一人の行動ごとにクリアされてしまうのに、こちらは一定量分ストックされていくようだ。しかも情報量が無駄に多い。とてもじゃないけど捌き切れん。あとマホツカ、アイテム捨てないでよ。


 勇者は 意地汚く《キウイの種》を拾った


 ウザさは変わってないのかよ!!

「どうかしましたか勇者さん?」

「う、ううん。何でもない」

 随分と未来チックな戦闘になった気分だ。イメージが変更した理由って、わたしのレベルが上がってきたからなのだろうか、はたまた戦闘する地域によって変化するのか。

「はぐれキウイか……もう少し骨のあるモンスターを期待していたのだが」

「ランクEでも、このモンスターは最低クラスだな」

「デンジャーモブはどうなんだ?」

「ずば抜けて強い、という訳ではない。デンジャー指定のモンスターは比較的知能が高く、特殊な攻撃手段を使用してくるのが特徴だ。正面からの力勝負では苦戦を強いられるだろう」

「ふむ、なるほど」

 高レベル者同士で戦闘談議を始めてしまった。わたしの入る余地はないな。

 で、これで討・伐・完・了なの? 呆気ないにも程がある。戦闘時間よりもジャーギ平原に来るまでの時間の方が長かったよ。まあ、ランクEだからね。

 と、一息つこうとしたときだった。


『インフォメーションログ』

 ↑はぐれキウイBが 現れた

 ↑はぐれキウイCが 現れた

 ↑はぐれキウイDが 現れた


 え?


 はぐれキウイXが 現れた

 はぐれキウイZが 現れた

 はぐれキウイAAが 現れた

 はぐれキウイABが 現れた

 はぐれキウイBは …………笑っている

 はぐれキウイCは …………(やべ、どこにいるのかどれなのか分からない)


 おい、ちゃんと覚えておけ。

 ずらーっと一斉に出現したキウイモンスターの群れ。ログが表示し切れずにスクロール(て言うんだよね?)する。

「二十七体もか……」

「よく一瞬で分かりましたね、勇者さん」

 まあ、ご丁寧にアルファベットが振られているからね。てか、こいつら全然「はぐれ」てないじゃん!

 囲まれはしなかったけど、雁首並べたキウイ頭の群れが奏でる笑い声が非常に不気味である。しばらくキウイは食べられそうにない。

「またこの手のパターンか。ふふ、いい加減慣れてきたな」

 いやいやいや、全然慣れないって。

 しかし、今までどこに潜んでいたんだよ。この平原やっぱり危険すぎる。

「マホツカ!」

「ふふん、まっかせなさい」

 敵が大量に湧く方程式が存在するのなら、その解の公式であるマホツカの魔法で答えを導き出してみせよう。恨むのなら板書がフェロマーも解くのに頭を抱えるであろうカオスな宇宙となっている数学教師を恨んでくれ。

「炎禍の根源よ、巨塊となりて、すっぱい連中を根絶やしにしなさい!」

 キウイってたまにすっぱいのがヒットするよね。収穫直後は食べるのにはまだ早い。ちょいと熟させないと甘くならないからね。

「焼き潰せ! ブレイズ・メテ――」

「やめろ」

「あいたっ」

 レッドさんのチョップがマホツカのとんがり帽子にヒットした。発動寸前のところで魔法はキャンセルされる。

「何で邪魔すんのよー!」

「その魔法は危険だ。お前は穏やかな平原を焼け野原にするつもりか」

 さすがはご学友、よく分かってらっしゃる。

「ちぇー、だったらアンタが片付けなさいよね」

 口を尖らせてすねるマホツカに、レッドさんはやれやれと肩をすくめた。

「相変わらず、力を抜いて戦うことを覚えろ」

 そうマホツカを諭すと、レッドさんは一人モンスターの群れと視線で対峙している戦士を手で制止させて、前へと出た。

「ここはまかせろ」

 いくらレッドさんでもこの数は厳しいのでは? と見守っていたが、その瞳は恐れなど微塵も映すことなく冷静な色のままであった。

 そして手で刺突剣の刀身をそっとなでる。何が始まるんだ?

「炎の魔法剣、《フレイム・ヴァイパー》!」

 剣に纏われた魔力の光が朱に染まる。レッドさんの言葉がトリガーとなって剣から炎が発生すると、蛇のようにうねりながらその刀身をどこまでも伸ばしていく。これが魔法剣なのか!?

「は!!」

 剣ではなくまるで鞭。しなる炎の斬撃が「キキーイ」と叫ぶはぐれキウイたちを一匹残さずその腹に収めていった。


『インフォメーションログ』

 ↑レッドは マホツカを叩いた

 ↑クリティカルチョップ!

 ↑マホツカは 1のダメージを受けた

 ↑はぐれキウイ(たぶん)AAは 苦笑している

 ↑はぐれキウイ(きっと)Dは 枝毛を切っている

 レッドは 魔法剣を使用した

 レッドの 《フレイム・ヴァイパー》

 はぐれキウイの群れに 平均224のダメージ

 はぐれキウイの群れを 殲滅した

 はぐれキウイの群れは アイテムをドロップした

 レッドは ドロップアイテムを拾った

 レッドは 《キウイの種》×10を手に入れた

 レッドは 《キウイの種》×10を燃やした


 つ、つえー! かっこよすぎでしょ魔法剣!

 しかし、レッドさんどうしてアイテム燃やしちゃったの!? 緑がお嫌いとか?

「数は多くとも、所詮はランクE。カカシ同然だな」

 カチャンと剣を鞘に納める動作も様になっていた。レッドさん、女子にモてるでしょ。

「す、すごい技だな」

「これが魔法剣ですか。直に見るのは初めてです」

「ふん、威力はまだまだね」

 モンスターだけをきれに燃やす洗練された剣技、レベル45はダテじゃないな。

 んで、これで討伐完了だよね。報酬はすぐもらえるの?

「まずはクランに戻って討伐が完了したことを告げる。そうしたらクランを通して依頼人に連絡がいき、確認が取れ次第報酬が支払われる流れになっている」

 ですよねー。倒したら即OKってなわけないよね。

「場合によってはひと月以上掛かることもある。依頼人が支払いを拒むケースもあるが、前金として支払われていた半額分は受け取れるはずだ」

 報酬はクラン管轄の銀行に振り込まれ、どの支部からでもお金は下ろせるらしい。

「何かあっという間に終わっちゃったね」

「そうだな。宿に行くにもまだ早すぎる」

「レッド、アンタも何か依頼を引き受けてないの?」

「ん? ああ、一応あるにはあるが……」

 レッドさんは胸ポケットからアルフォン(カラーは煌くクリムゾンレッド)を取り出すと、依頼書を確認し始める。横から眺めていると、討伐済みのランクAとかBがたくさん見えた。

「手頃なのはこれだけか。少し荷が重いかもしれないが」

「へーきへーき」

「どんなモンスターなんですか?」

「ランクCの依頼だ。ここから東に位置する洞窟で目撃されたモンスターの調査・討伐が依頼内容だ。ターゲットの個体名は《ドルガメ》」

 ドル……ガメ? ドル!? 何という甘美な名前!

「是非行きましょう!」

「ランクCか、腕が鳴るな」

「だ、大丈夫でしょうか……?」

「分け前は半分ずつね」

「分かった分かった、もうお前の好きにしろ」

 よっしゃ! 行くぜ、ドルガメ討伐!!

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