表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/27

ⅩⅦ.土の刺客

「?」

 やっとこさ谷底がすぐそこまで見えてきた時だった。前方の柔らかそうな地面が何の前触れもなく盛り上がった。

 四つの水柱ならぬ土柱は一定の高さまで伸びると、次第に人の輪郭を形成していく。

「モンスターか」

 土の人形もどきは、最終的に泥で汚れた兜と鎧を装備した骸骨の剣士へと変貌を遂げる。


『インフォメーションログ』

 ドクロナントたち(×4)が 現れた


《ドクロナント》――やや身長の低い骸骨モンスター。一丁前に(曲がった)剣と((きず)だらけの)盾を手にしていた。肉のない眼窩には白い光が宿っている。

「アンデッドのようだな」

 素早く臨戦態勢へと移るわたし達に対して、ドクロナントたちは盾を正面に構えるだけで、攻撃を仕掛ける素振りを見せようとしなかった。

「今回はまともなモンスターみたいだね」

「そうだな。今まで(ろく)ではない敵ばかりだったからな」

 戦士はしみじみと語る。

 アンデッドモンスターといえば、嵐の塔にいたローリング移動する骸骨の騎士と、ピラミッドの地下にて大集団で襲ってきたミイラおとこたちと戦闘経験があるわけだ。両者とも実に厄介な敵であり、そんなモンスターと戦うことを強いられてきたわたし達にとって、今さら普通のアンデッドなど動く標的(マト)でしかない。

「骸骨やゾンビも見飽きたわね」

 数年前に流行ったゾンビノベルを思い出すな。当時読んでいたときは怖くてページをめくりづらかった覚えがある。でも今読んだら爆笑するだけになっているかも。

「まさか、これが試練なのでしょうか?」

「分からないが、少なくとも敵を倒さないことには先に進めないようだな」

 横一列に並ぶ四体のモンスターたち。まるでわたし達を意識して足止めしているかのようだった。

「敵を増やされるかもしれないからな、一気に倒すぞ!」

 そうだね。

 ドクロナントたちへと攻撃を仕掛けようとしたわたし達に、不気味な笑い声がどこからか聞こえてきた。

『フシュククク……、ついに現れたな』

 ! 誰だ?

 四体の骸骨剣士のさらに後方の土が盛り上がると、またしても人の形と成す。今度はフードの付いた土色のローブで全身を覆った者だった。

「変質者?」

「違ーう!!」

 おおっ、言葉を使うだけでなく、ちゃんとツッコミを入れてくれたよ。どうやら普通のモンスターではないようだ。

「何事も見た目だけで判断するとは、これだから人間は浅はかなのだ」

 出現そうそうブツブツと文句を垂れる不審者。でもそれってさ、自分の格好がそう見えるってことを自覚しているってことだよね?

「おっと、下らんことに時間を割いている場合などではなかった。フシュクク、せっかくこうしてお前達に出会えたというのに」

 いやー、こっちは別に会いたくなかったんですけど。

 しっかし足元まで届くローブで谷下りする人なんて見たことがないよ。どう考えても変質者か変体者にしか思えない。夜の一人歩き中には絶対にエンカウントしたくない。

「フシュクク。さあ、私のかわいい下僕達よ、奴らを生ける屍にするのだ!」

 変な笑い声を出すローブ男(?)が合図を送ると、ドクロナントたちがわさわさと動き始めた。

「モンスターを操っているのか?」

 アンデッドを操るとは、まさかエクソシストってやつか?

「みんな、さくっと片付けるよ!」

 その場に佇むローブ男に注意を払いつつ、わたしと戦士、それと僧侶ちゃんの法術で時間をかけずにドクロナントを一掃する。

 倒したドクロナントは目から光を失ってボロボロと土くれとなっていった。

 弱いな、今のわたし達の敵ではない。

「さて、貴様が何者か話してもらおうか」

 戦士は間合いを計りつつ、ローブ男へと接近する。剣は構えたまま、いつでも斬りかかれるように。

「フシュククク、さすがは勇者一行というところか」

 !!

 わたしを勇者だと知っている!? 本日二度目の衝撃!

 いや、そんなに驚くことじゃないか。ここは勇者に試練を与える場所だというし、人を寄せ付けないゆえ来訪者は限定される。事情を知っている者であれば、わたしを勇者だと推測できるはずだ。

 しかし、フードの中から見える怪しげな眼光は、わたしに光の試練を与えんとする人物とは思えない。何となくであるが、シンヨーク城で相対した魔王と似たような、邪悪な気配を感じ取れる。

「何者……なの?」

「フシュクククク、私は大魔王様の忠実なる(しもべ)の一人……」

 だ、大魔王!?

 …………て、もはや懐かしい響きだな。砂漠のピラミッドとかモブ狩りとか、刺激的なイベントが目白押しだったので、ついつい存在を忘れるところだった。

 しっかし、自分から「忠実なる僕」って名乗るのはどーなのよ? 威張って言えるセリフではないよね。

「大魔王の手先というわけか」

「本当に復活していたのですね」

「手下なんて面倒ね。どうせなら本人が来なさいよ」

 魔王の話では、大魔王は身動き取れない状態にあるって言っていたっけ。だからこうして僕ちゃんを送ってきたというわけか。

「? でも、わたし達がこの谷に訪れることをどうやって知ったの?」

 まさか、何者かに監視されているのか? 恐ろしいな、大魔王軍の偵察部隊――、

「フシュククク、簡単なことだ。ここは過去にも勇者が訪れた場所。ゆえに大魔王様の命により、この地でずっと待っていたのだ。風雨を忍んで一ヶ月半……ようやくにしてノコノコと姿を現してくれたものだ」

 うわぁ、ひたすらここで待機していただけかよ。

 どうやら大魔王軍に偵察や諜報部隊は存在していないらしい。そしてこの人は暇を持て余した窓際社員なのだろう。

「惨めだな」

「お勤めご苦労様です」

「ただのストーカーね」

 みんな遠慮ないな。

「それで、下っ端野郎がワタシたちに何の用なのよ?」

「下っ端……だと?」

 さすがに頭にきたのだろうか。ローブ男はドス黒いオーラを全身から放つ。周囲の草木が邪気に当てられ枯れてしまった。

「フシュクク、私は下っ端などでは決してない! 聞いて驚くがいい、私こそが『大魔王五天王』が一角、《呪土のドクロミニョーネ》だ!」

 諸手を上げ片足立ちするダサいポーズを取りながら宣言するローブ男、もとい――、

「ドクロミにゅーにょ?」

「ミニョーネだ!」

 ううむ、言いづらい名前だな。

「てかさ、五天王って何? 一人多くない?」

「きっとあれよ。最弱すぎて、有能な新人に席を奪われたのよ」

「なるほど、地位に未練のある堕落者か」

「かわいそうな方ですね」

「違うわー!!」

 ノリは悪くない性格だな。きっとそっちのジャンルで活躍できるよ。安月給そうな大魔王軍の配下なんて辞めて芸人を目指せば?

「私を愚弄するのもそこまでだ。この土の力を持って、貴様らを生ける屍に――」


『インフォメーションログ』

 勇者の 連続攻撃

 呪土のドクロミニョーネに 合計111のダメージ

 戦士の 斬り攻撃

 クリティカルヒット

 呪土のドクロ……に 187のダメージ

 マホツカの 《クリムゾン・カクテル》

 呪土の……に 629のダメージ

 土を ワンターンキルした


 瞬・殺!

「ぐおおっ! 肉体が朽ちていくううっ!!」

 出現した時の巻戻しを見ているかのように、土へと還っていく下っ端さん。やはり五天王最弱なんだな。来世では出世しろよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ