ⅩⅤ.ボマー、ボマー
小川のせせらぎ、木々のざわめき、小鳥のさえずり…………、
うん、実に平穏だ。
試練の谷というから、随所に設けられたチェックポイントごとに戦闘を強いられる展開を予想していたのだけど、ここまでそれっぽい敵は現れず、そもそもモンスターすら出現していない。
「ふー、だいたい五合目付近ってところかな?」
谷底は鬱蒼と茂る緑の生命によって未だ視界に捉えられないから、あくまでもわたしの予想に過ぎないけど。
まあ、山登りでは「頂上が見えてからが遠い」という格言があるのだ。谷下りにも当てはまるに違いないから、見られなくて正解かな。
「しかし、本当に何も現れないな」
「谷底まで行かないと、試練はないんでしょうか?」
嵐の塔があった島ではモンスターからお出迎えされたからね。訝しがるのも無理はない。
「詰まらない場所ね。気を利かせてサプライズでも用意しておきなさいよ」
かといって、いきなり人語を話す動物とか、三度目の死人とか現れても困るけどね。
わたし達はもくもくと、徐々に深くなる緑の道を下っていく。
景色はそんなに変わらないし、ちょっと退屈になってきたな。マホツカの言うとおり、何かしらの変化がほしいところである。
『インフォメーションログ』
ボムAが 現れた
ボムBが 現れた
ボムCが 現れた
そうそう、そんな感じの刺激がほしかったんだよ。どんなに美味しい食べ物でも、同じ味が続くと飽きてくるからね。
「って、モンスター!?」
わたし達の進路を三体のモンスターが阻んだ。
「支部長が話していたモンスターの仲間のようだな」
「身体が燃えているみたいですね」
《ボム》――エクササイズボールほどの大きさの、メラメラとその身を燃焼させているモンスター。空中に浮かんでいるのは気球と同じ原理なのかな。球状の体には鬼のような怒った顔が貼り付いており、足はなく両腕がにょきっと生えていた。少しキモい。
「ちゃちゃっと片付けるわよ」
ちょうど休憩場所となりそうな平坦な場所だったので戦闘するには都合が良い。単なる偶然なのか?
『インフォメーションログ』
マホツカは 魔法詠唱を開始した
勇者の 切り攻撃
ボムAに 23のダメージ
戦士の 斬り攻撃
ボムBに 112のダメージ
ボムBを 倒した
ボムCの 体当たり
勇者は 6のダメージを受けた
マホツカの 《氷の擲弾魔法》
ボムCに 67のダメージ
ボムCを 倒した
ボムAに 16の余波ダメージ
「ん!? ワタシとしたことが、何で普通の魔法を使ってんのよ!」
自分にツッコミを入れるマホツカ。いや、むしろそれでいいんじゃね?
おそらく昨日レッドさんと戦闘を共にした影響だろう。ずっとこのまま続いてほしい。
にしても、実に安定感のある戦いだな。わたし達のレベルが上がってきている証左だ。これで武器防具が充実すれば磐石となるに違いない。
さて、この調子で残りの一体も――、
「へ?」これはわたし。
「ん?」これは戦士。
「え?」これは僧侶ちゃん。
「きっとレッドのせいね」マホツカは気付いていない様子。
わたし達は眼前のモンスターの姿を見て驚きを露にした。
「ふ、膨らんだ……の?」
倒しきれなかったボムAが最初見たときよりも明らかに二回りほど大きくなっている。
ボムAが両腕で自分の身体を抱え込むと、徐々に全身の色に赤みが増していく。そして燃焼音が激しくなり、光が溢れ出す――、
『インフォメーションログ』
ボムAは 自爆した
勇者は 36のダメージを受けた
戦士は 24のダメージを受けた
前衛にいたわたしと戦士に爆発の衝撃破が直撃する。
「ちょ、何が起こったの!?」
「お二人とも大丈夫ですか!」
「いててて……」
「く、まさか自爆するとは……」
僧侶ちゃんが癒しの法術をかけてくれる。ふわー、いろんな意味で癒されるー♪
モンスターは自爆攻撃によって自ら消滅していた。なるほど、だから名前が『ボム』なのか。そのまんまだな。
幸いにも爆発による土砂崩れなどは発生しなかった。直接的なダメージよりも、そちらの方が心配である。
「まだいるのかな」
これで本日三度目の爆発だよ。もうこりごりだっての。
「討伐対象のモンスターでないことは確かだな。おそらく群れのリーダーがいるはずだ」
ドノエールさんは依頼のターゲットを《ボムキング》と言っていたけれど、確証があるわけではないとも説明した。そこで詳細をラクレームさんに聞いたところ、それぐらいの大きなボム系モンスターだったと補足があった。
しっかし、モンスター退治というよりかは爆弾処理って感じだな。今日のラッキーカラーは赤か青か確かめておけばよかった。でもそれは大きなミステイク!
と、しばしその場で休んでいたときだった。
『インフォメーションログ』
ファザーボムが 現れた
ファザーボムは 怒っている
なぬ? またボムかよ!
「しかも、ファザー……?」
子供が倒されたからであろうか、怒髪天を衝いたような顔(もともと?)をしている巨大なモンスターが崖の下からぬっと飛び出てきた。
《ファザーボム》――普通のボムと違い、こちらは頭・胴体・両腕とあり、体躯は雲のようにもくもく&ブクブクと膨らんでいた。例えるのならば、《幽霊退治屋》に出てくるマシュマロガイみたいだ。
「親玉のお出ましというわけか」
「支部長さんや管理人さんが仰っていたモンスターに違いないですね」
ファザーと付くだけあって、その大きさは五、六倍ある。何をエサにすればこんなに大きくなるんだろ。ボムだけにやっぱ天然ガスでも吸ってるのかな?
「たかが一匹でご苦労なことね。一撃で発破処理してあげるわ!」
不調を取り戻すかのように、マホツカは気合を入れて魔法を唱え始める。
「待て、まだ使うな!」
勝ち急ぐマホツカに対して、戦士はあくまでも冷静に魔法詠唱にストップをかける。
「何で邪魔するのよ?」
「さっきの自爆攻撃を見ただろ。こいつももし自爆するとなると、かなり危険だ」
「攻撃は回避することができても、谷が崩れるかもしれませんね」
「むむ……」
確かに、言われてみるとそうだな。
「おそらくは瀕死状態に陥ったから自爆したのだろう。だからこいつは自爆するぎりぎりまでは勇者と私だけで攻める。魔法を使用するのは、確実に仕留められる状態まで敵の体力を削ってからだ」
なるほど、そういうことか。
「だったら早くしなさいよ」
分かってますって――、
『インフォメーションログ』
勇者は 魔法を唱え始めた
勇者の 《雷の狂化魔法》
勇者の 連続攻撃
ファザーボムに 134のダメージ
戦士の 斬り攻撃
ファザーボムに 97のダメージ
ファザーボムの 怒りパーンチ
戦士は 16のダメージを受けた
ファザーボムの 怒りナッコー
勇者は 攻撃を回避した
ファザーボムは腕をブンブンと回すコミカルな動きで殴打攻撃をしてくる。昨日のドルガメといい、格闘系が続くな。
敵の大きさと場所の狭さから攻撃を避けるのは難しいが、それほど強力でもないし、僧侶ちゃんの回復支援があるから問題ナッシング。このまま堅実な戦い方をしていればわたしと戦士でも大丈夫だろう。そしてトドメはマホツカの魔法攻撃。
「! 来る……?」
しばしの攻防が経過した後、ファザーボムは今まで見せなかった動作を始める。
『インフォメーションログ』
ファザーボムは 自爆シーケンスに移行した
カウントダウン……3
ファザーボムの身体は大きくなっておらず、反対に圧縮するように肉体を縮めている。自爆するかどうかは見ただけで判断できなかったけど、わたしには勇者の便利スキルのおかげですぐに分かった。
「頼むよ、マホツカ」
「まっかせなさい! この日のために再考案した魔法を叩き込んであげるわ」
再考案……? なぜか嫌な予感がしてならない。
マホツカは右腕を真っ直ぐ伸ばすと照準を定めるかのようにファザーボムへと向けた。左手はそっと添えるだけ。
一度見たことがある構えだな。確か精霊の洞窟で……、
「進化せし紅蓮の意思よ、マシュマロみたいな爆弾モンスターを爆砕せよ!」
まさか、その魔法は――、
「存分に爆ぜろ! 《ギガントフレア・フルフラット》!!」
――ッ、
ファザーボムに強烈な炸裂魔法が叩き込まれる。
真っ白な光が谷を埋め尽くし、わたし達は耳を塞いで瞼を閉じた。
谷が震え、鳥が飛び立つ。
「……終わったの?」
もくもくと黒煙が上がる。多少の耳鳴りがするけど、気になる程度のものではなかった。
「これならモンスターが自爆した方がよかったのか……」
「そうかもしれませんね……」
ほんとだよ。そこまではわたしも頭が回らなかった。
「むむ、微妙ね……」
圧倒的な破壊力で敵を退けたのに、マホツカは冴えない様子だった。
「どうかしたの?」
「魔力の干渉のせいで、二発目以降の威力が半減したのよ」
冷静に効果の分析をしていらっしゃるよ。よく分かるよね半減したって。そもそもわたしには一発にしか見えなかった。
「何はともあれ、これで討伐完了かな?」
わたしは爆心地へ移動する。倒した証拠とか、特に必要ないよね?
と、その時だった。
『インフォメーションログ』
↑ファザーボムを 倒した
ファザーボムの 肉片が動き出す
ファザーボム・スクラップス(×3)が 現れた
ファザーボム・チップス(×3)が 現れた
な、何だって!?
計六体のボムモンスターがわたしを取り囲む布陣で出現したかと思うと、すぐさま自爆モードへと突入した。
「まさか、相打ちにする気か!?」
「勇者さん、逃げてください!」
「やっぱもうちょい改良を加えるべきね……(ブツブツ)」
ダメだ、間に合わな――、
カッ――と六体のボムが同時に爆発する。
わたしは逃げる暇なく熱と光に包み込まれた――……。




