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ⅩⅡ.支部長の依頼

《ツヴァイハンダー》での買い物を終え、わたし達は昨日に引き続き、クラン支部へとやってきた。

 主目的はもちろん旅費を稼ぐことだ。明日から長い船旅となるので、今日中に片付けられる内容の依頼にしないとね。

 そして副目的として、『ランクアップ』がある。

 依頼の数はそこそこあるのだけど、如何せんEランクでは報酬が100ドルを越えない。塵も積もれば山となるとは言えど、やはり安い。移動時間やモンスターを探す手間を考えると、どの依頼も即決するのが難しい。

 わたし達は四人パーティーだし、実力を考慮すればCランクでも十分やっていけるとレッドさんからお墨付きをもらっている。早く昇級条件を満たして上のランクへとなりたい。まあ、結局は数をこなさいといけないんだけどね。

「やはり郊外での依頼が多いようだな」

「地下水路で幽霊退治……? 随分とミステリアスな内容ですね」

「どれもパッとしないわね」

 まるで求人広告を吟味するかのように依頼を探すわたし達。

 早朝のためか、クラン支部に人はまばらだった。依頼の取り合いになる心配はなさそうだけど、早く好条件のを見つけないとな。

「これは皆さん、またお会い出来ましたね」

「あっ、どうも。支部長さんじゃないですか」

 朗らかな笑顔で現れたのは、おいしそうな名前のドノエールさんだった。今日も素敵なお髭が曲線美を描いている。

「浮かない顔でおられますね。何かお困り事でも?」

「ええ、まあ。どの依頼を引き受けるか迷っていまして……」

「おおっ、依頼を探している! それはよかった」

 ?

 なぜかドノエールさんは嬉しそうにテンションを上げる。

「実は皆さんに頼み事があるのですが」

 え、わたし達にですか? レッドさんではなく?

「立ち話もなんですし、上の部屋までご足労願えませんでしょうか」

 ニコニコと笑顔を絶やさないドノエールさんに言われると、非常に断りづらいな。

「クラン支部長直々の依頼か」

「フフン、面白そうな話じゃない」

 みんなも乗り気のようだったので、快く承諾した。

「どうぞ、こちらです」

わたし達は促されるままに三階にある支部長室へとやってきた。

 支部長室は、実に落ち着いた雰囲気の部屋だった。学校の校長室って感じだね。壁には歴代の支部長らしき方々の写真が額に入って飾ってあった。

「それで、依頼とは?」

 わざわざ支部長室にまで案内されるとは、重大な任務だったりする?

「その前に、一つ確認したいことがあるのですが」

 急に表情を引き締めるドノエールさん。鋭くなった視線がわたしへと向けられる。

「皆さんは――その、『勇者様御一行』で間違いないですね」

「!」「!」「!」

 突然の確信を突く発言にわたし達(マホツカを除く)は言葉を失くす。

 なぜドノエールさんが知ってるの? まさかレッドさんが――それは考え難いな。

 わたし達の驚く反応に、ドノエールさんは犯人を言い当てた探偵のような満足顔となる。

 もしかして、わたしから溢れる勇者のオーラを感じ取られてしまったのか? それなら仕方がな――、

「いえ、理由は簡単なことです。シンヨーク王家の紋章を身分証明書代わりにした方がいたと聞きましてね。もしかしたらと思いまして」

 あぅ、そういうことですか。使いどころを間違えてしまったかな……。

「でも、それだけで分かるものなんでしょうか?」

「実は十年以上前にも、同じことがありましてね。あっ、皆さんのことは口外するつもりはまったくありませんので、ご心配なさらず」

 十年以上前というと、やっぱわたしの父であり前勇者か。この街に立ち寄ったんだね。

 しかし、わたしが勇者であることを確認して、何か意味があるのだろうか?

 まだ状況が呑み込めていないわたし達に、ドノエールさんは話を続ける。

「北の《マロンシティ》はご存知でしょうか。ゲートブリッジを渡った先にある街です」

「はい、知っていますけど」

「その街に《マロンバレー》――またの名を《試練の谷》という場所があるのですよ」

 試練(シレン)の……谷? 洞窟とか塔じゃなくって?

「その谷は、サウザンシスコのクラン支部長が代々管理を任される土地なのです」

「まさか、その谷へわたし達に行ってきてほしいと?」

「はい。試練の谷は、『勇者に光の試練を与える場所』だと先代の支部長から聞いております。実は前回勇者様が訪れたときに、入山許可を私の元に取りに来たのです」

 光の試練……何だかそれっぽい感じだな。しっかし、王様はそんなこと一言も教えてくれなかったな~。

「余計なお世話かもしれませんが、お時間がありましたら訪れてみてはいかがでしょうか」

 前の勇者が訪れたというのならば、行かない選択肢はない。受けてみようではないですか、その試練ってやつを!

 みんなを見ると、静かに頷いてくれた。

「分かりました、行ってみます」

「おおっ! 勇者様にそう言ってもらえると、支部長として嬉しい限りです」

 ただと、ドノエールさんの話はそこからが本題だった。

「ついでに……と言っては申し訳ないのですが、一つ、依頼を引き受けてほしいのです」

 話がようやく元に戻る。何となく事情が見えてきた。

「どんな依頼なんですか?」

「実は、試練の谷にモンスターが出現したとの報告がありまして。できれば勇者様に討伐のお願いをしたいのです」

 試練の谷は、神聖な土地とされており、地元の人でも足を踏み入れてはならない場所であるという。だから勇者であるわたしに依頼を任せたいのだと、ドノエールさんは事情を説明してくれた。

「わたしでよければ、全然いいですよ」

「おおっ、ありがとうございます」

「して、どんなモンスターが出現したんですか?」

「山の周辺管理を任せている者によると、どうやら《ボムキング》だとのことです」

 ボム?

「はい、Dランク指定のモンスターですね」

 それなら心配ないかな。

 依頼を達成できたら、メンバーランクをランクDへと昇格してもらえるという。

 てなわけで、二つ返事でわたし達は北のマロンシティへ向かうことになった。


 その時は、まさかあんなことになるとは思ってもみなかった。

 いつも通り、わたし達四人ならば何があっても大丈夫だと、わたしはピクニック気分でいたのだった。

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