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Ⅰ.二十三曲で分かる前回のあらすじ

『Keep The Force!』

 勇者とその仲間たち――その名を口にするだけで、得も言われぬ感情に胸が躍らされる。思わず音読してしまいたくなる感動詞(エクスクラメーション)、記憶に深く浸透する決め台詞(フレーズ)、闘争心をかき立てるテンプテーションなバトル・シーン。そして、ハンカチなしでは涙で文字が読めなくなるであろうインプレッシブなストーリー。我らが世界の英雄にして史上最強のガールズ・パーティー“勇戦僧魔”の2ndエピソード『Keep The Force!』が、遂に我々の前に姿を現した。

 はてさて。改めて“勇戦僧魔”について解説しておこう。今回の旅の主要メンバーは勇者、戦士、魔法使い、そして盗賊の四人である。そう、今作では、我々の唯一神であり、数多の癒しと慈しみを与えてくれた僧侶がいないのだ。その理由はここで明かすことはできない。是非とも読者自身の目で確かめてほしい。何はともあれ、僧侶の回復支援がないのは事実である。しかし“勇戦魔盗”になったところで、彼女たちは歩みを止めなかった。冒険の成否は、新しい四人の双肩に懸かっているのだ。

 そんな勇者と戦士と魔法使いと盗賊の作戦は、「ラッシュ&アサルト」である。勇者の未熟ながらも頼もしい連続攻撃、戦士の熟練された剣の技、トリッキーな特技が魅力な盗賊。そして一撃必殺である魔法使いの魔法攻撃は、「やられる前にやれ」をモットーにする彼女らの戦術が如実に体現されている。この圧倒的な火力こそ、彼女たちが凡庸な他のガールズ・チームとの決定的な相違点であることを象徴している。そのパワフルなバトル・シーンは、今作でも全編に渡って堪能できる。初戦である「Sand Worm Panic!」での疾走感かっ飛ぶ逃走劇、セカンドバトルである「Laughing Gargoyle Brothers」で初陣を汚い花火で飾った盗賊、「Terror of Ancient Machine」では魔法使いによる強力無比な雷槍魔法、「Emergency Escape!!」では無限に出現するミイラたちとの鬼気迫る展開、そして「Battle with Metal Mantis」でのユニティーな連係攻撃は、70年代初期から中期に巻き起こった「ガンガンいくぜ!」作戦に熱狂していたハード・バトルファンも魅せられるだろう。

 どの戦闘からも(すく)い切れないほど溢れ出す激しい熾烈さと猛るファイティング、そしていくら読んでも飽くことのないカルテットなタクティクスと力強いソウルが“勇戦魔盗”の魅力を強固なものにしている。セカンドエピソードの内容は、ファーストエピソードのセンセーショナルさを一ページ目にして凌駕していると言っても過言ではないだろう。このパーティーがこの先どのようなレベルアップをしていくのか、今から非常に楽しみである。

 とにかく、勇者と戦士と僧侶と魔法使いと盗賊の待望すべきセカンドエピソード『Keep The Force!』は、我々の手元に届けられた。読者の内的宇宙で燃え上がるすべての渇望を満たす、俺たち/私たちのための冒険ロマンを、今は穴が開くまで読み耽りたい。

 彼女たちに今後、どのような過酷な試練が待ち構えているかは、神でさえ分からない。しかし、今この瞬間、彼女たちが旅する世界の空気を感じながら、この先の冒険に刮目していこうと思う。そう、この『Keep The Force!』は大魔王を倒す旅の序章にしか過ぎないのだから。


 新暦二八〇年 勇者/YUSHA



「…………何なのよ、これは?」

「え、ダメ?」

「ダメとか以前の問題でしょ! ワタシは小説の『あらすじ』を書けっていったのよ! それがどーしてこんな意味不明な内容になってんのよ!!」

 揺れがほとんど伝わってこない快適な車内にて、マホツカが火山のごとく憤慨する。

 わたし達は西カリメア高速鉄道、通称《シン・ウッド・ライン》の指定席(グリーン車)に乗っていた。まあ、偶には贅沢もいいよね。

 目的地である西海岸の港街《サウザンシスコ》に到着するまでけっこう時間があった。そこで、マホツカの再提案で、《ラスゼガス》でのピラミッド攻略の経緯を小説として活字に起こすことにしてみたのだ――けど、いきなり長編小説を執筆するのは難しいと踏んで、まずは全体のあらすじを書くことにしたのだ。

 さっそくわたしが、デュラハンも首をくっ付けてブレイクダンスをしてしまいたくなるリリックでビートの効いた文章を書き上げた――のだけど、またしてもマホツカ編集長のお気に召さなかったようだ。いったいなぜだ?

「何なの、この新譜の解説みたいな文章は」

「まあ、こういうアプローチの仕方もいいんじゃないかなぁと」

《Girls Undead Monster》――二年ほど前に彗星のごとく現われ、わずか三ヶ月で忽然と姿を消してしまった伝説のガールズ・ロックバンド。そのファーストにしてラストアルバムの解説文をマネしてみたんだけど、ちょっと文章がロックすぎて伝わりづらかったかな?

「何でもかんでも『ロック』って言葉を付ければいいって思ってないでしょーね」

 むむむ、ロックを感じることができれば、それは立派なロックなんだよ! たぶん。

「それに何、『勇戦僧魔』って? ダサくて死にたくなるネーミングじゃない」

「えぇー!? これしかないって感じのパーティー名なのに」

「はぁ、勇者も案外チューニねぇ」

 そりゃまあ、一応『思春期の学生』ですから(ドヤッ!)。

「あの、お弁当食べないんですか? お二人とも」

 魂が浄化される聖なる声音が、《アルフォン》をにらめっこするわたしの駄耳に届いた。四人が向かい合える座席にて、わたしの前に座る僧侶ちゃんの御言だった。エッグとレタスのサンドイッチをはむはむと召し上がっている。むきょー小動物みたいでかわいいー! 僧侶ちゃんのかわゆさは、華氏7,800度であっても溶かされることのない普遍なロックだね!

「とりあえず、これはゴミ箱に捨てておくわ」

 ノー!!

 わたしがちょっと僧侶ちゃんに目を奪われていた隙に、マホツカ編集長はわたしの一時間の結晶をお弁当のバランのごとくポイッと捨ててしまった。鬼や!

 さて、朝からのん気に車内にてお弁当タイムを取っているわたし達なのだけど、昨日までは本当に忙しかったんですよ。

 盗賊の助けもあって、どうにかピラミッドを攻略して、無事僧侶ちゃんと合流を果たしたわたし達一行。それから《黄金の爪》を売却したまではよかったんだけど、生憎(あいにく)とサウザンシスコ行きの列車がなかったので、結局ゼガスでもう一泊することになったのだ。

 そんで翌日、始発の列車で出発したのである。早く金と欲望が渦巻く街から立ち去りたかったからね。そのため、ブレイクファーストをノンビリ食べている時間がなくなってしまったので、ゼガスの駅にて駅弁を買ったのだ。

 僧侶ちゃんの宣託ならぬ選択したお弁当は、小さくて可愛らしい竹製のバスケットに入ったサンドイッチセットだ。ハムやトマト、ツナといったオーソドックスなのが一通り揃っている。それを優雅に、車内販売で購入したダージリンと共に食している僧侶ちゃん。その御身を眺めているだけで、お腹がいっぱいになっちゃうよ。

「戦士も先に食べてていいって言ってたわね。ちょうど一区切り付いたことだし、ワタシも食べようかしら」

 アルフォンをスリープモードにするマホツカ。北部生まれ特有の薄っすらと青い瞳は、小説のことなど脇に退けて、完全に食事モードに入っていることを無言で告げていた。

 そんな切り替えだけは早いマホツカがチョイスしたお弁当は、サンドはサンドでも食パンではなくベーグルサンドだった。これまた小麦粉タイプの朝食である。マホツカもパン派なんだよね、箸の持ち方もすごかったし。

「何だ、まだ食べていなかったのか」

 と、朝の鍛錬に出かけていた戦士が、首にタオルを巻いた格好で戻ってきた。だからさ、狭い列車のどこに鍛錬する場所があるの? まさか屋根の上とかじゃないよね?

「まさかゼガスの駅でコレが買えるとはな」

 戦士は席に座ると、さっそく竹の皮に包まれた駅弁を開封した。中には三つの大きなオムスビとタクアンが入っている、純東国風タイプだ。

 黒髪黒瞳の戦士は、聞けば母親が東国出身とのこと。強さの秘訣はオコメにあり!っ感じですかね。

 それと、どーでもいい話だけど、沢庵仙人って実在する人物だったんだね。てっきり御伽噺(おとぎばなし)の登場人物かと思ってた。

 まあ、いっか。

「それじゃわたしも、いっただきまーす」

 ライス派なわたしが購入したのは、カマメシ弁当というレアなお弁当だ。売店のおばちゃん曰く、大人気のためすぐに売り切れてしまうとのこと。現にわたしが購入したのは始発の時間なのに、ラスト一個だったからね。このお弁当を食べたいがためにわざわざ駅まで購入しに来る人もいるという。まじかよ。

「うーん、おいしそー♪」

 お弁当の蓋を開けると、色鮮やかな食材がお出迎えしてきた。もみじカットのニンジンと、まん丸なうずらのタマゴ、それにインゲンと銀杏(ギンナン)が華やかさに色を添えている。他にも鶏肉とシイタケ、ゴボーや紅ショウガなどなどなど。食べるのがもったいなく思えてしまう。

 以前みんなで飲み会を開いたオリエンタルな飲み屋での一件依頼、わたしは東国料理にめっちゃハマリ気味なんですよ。

 やっぱ旅は食べ物にケチケチしたら駄目だね。これ絶対。

 賑やかなお弁当を揃えてみんなして楽しく食事をしていると、突如窓の外が碧くなった。

「うわぁお、水平線だ」

 曲がり道が続く状態から一直線な線路になって、いよいよサウザンシスコに近づいたと思うころ、太陽が海面を白く照らしながら、すさまじい絶景をわたしの目に飛び込ませてきた。

 どこまでも広がる澄み切ったオーシャン・ブルー! 列車が山道を抜けて海側へと出たのだった。踊り子でなくとも踊りたくなる。

「ウェミだー!」

 わたしは窓を開けて大声で叫んだ。車内にはわたし達以外の乗客はいなかったので、恥ずかしくはなかったけど、ちょっと子供っぽかったかな。

「何よ、ウェミって?」

「いや、どうしてかその言葉を口に出したい衝動に駆られたんだよね」

 なぜだろう……?

「《太東洋》は暖かそうな海ですね」

「そうだな。それに、実に美しい海岸線だ」

 サウザンシスコはカリメア大陸の西海岸における最大の都市であり港街だ。そこから船に乗って次の《精霊の洞窟》があるとされる、太東洋上の小さな島《ウィーハ島》まで行くことが当面の目標である。

 街に着いたらまた忙しくなるだろう。

 それまでのひと時を、わたし達は絶品と絶景を満喫しながら過ごした。

 まあ、偶には贅沢ってのも、いいよね。

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