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とある王国のとある騎士団  作者: 柘榴石
深き森の幽霊館
9/22

「最近暑いですね」

 にっこりと、柔らかく微笑みながらラレンヌは言った。



 ある日の午後、いつものように朝の修行を終えた面々は、昼食を兼ねた会議を開いていた。

 報告するのはいつも同じ、国内や他国の様子等である。アンヴィーから集めた情報を元に、アズサがまとめて報告するのだ。

 その報告が終わり、会議も終盤に差し掛かった頃――それまで何も言わなかったラレンヌが口を開き、初めの言葉に戻る。


 ルリ以外の団員は知っている。あの笑顔は危険である、と。


 以前あの笑みを見せたのは、確かアキハの誕生日に無理矢理フリルとレースをふんだんにあしらった純白のドレスを着せた時だ。彼女は半ばトラウマとなっているが、ラレンヌはとても楽しそうだった。

 逆らうな、問答無用で従え。そんな台詞が団員の脳内で自動再生され、僅かに顔がひきつる。

 唯一何も知らないルリは、ラレンヌに同調するように「そうですわね」と笑っている。笑っていられるのも今のうちだぞ、とミルは密かに思った。

 ラレンヌがまた口を開く。

「冷房に頼りすぎると、日々の仕事に影響をもたらしますよね。ねえ、ノア」

「うぇっ!? えーと、うん、そうだね」

 急に話を振られたノアは、しどろもどろになりつつも答える。満足そうに頷くラレンヌを見、これは本気でヤバいとアラームが鳴り響いた。

 そして、爆弾投下。


「肝試しでもして、冷房を使わずに涼んでみませんか?」


 一部に大ダメージ。



 肝試し――最早説明する必要もないだろう、夏の風物詩とでも言おうか。フィオーレではあまり広まっていないが、近年ジパングとの交流により増えているらしい。

 ラレンヌ曰く、雰囲気のある洋館を見つけたので、そこで肝試しをするというのだ。

 更に、国民にも参加権を与える。こうやって皆でイベントをすることにより、結束を固めているのだ。

「……で、その洋館は何処に?」

 笑みを浮かべたリレイズが聞く。それにしてもこのリレイズ、ノリノリである。

「モスワナの森です」

 モスワナの森とは、ケルト共和国との国境にある南東の森のことだ。城を守るように広がっており、古代フィオーレの言葉で『守護霊』という意味をもつ『モスワナ』と名付けられたのだ。

 神秘の森と、幽霊屋敷。ミスマッチだ。

「ルールは洋館を一通り回り、ポイントにある物の写真を撮ってくるだけです。ね、簡単でしょう?」

「ちなみに、洋館はどのくらいの大きさなの?」

「そうですね……三階建てのマンションくらいあったと思います」

 それは簡単とは言えないだろう。心の中で兵士達は呟く。

「じゃあ、聞きますね。肝試し、賛成の人?」

 スズネ、リレイズ、リオン、クレハ、リア、アズサの手があがる。するとミルは立ち上がり、アズサの方へ歩いていくと、


 ――ドスッ


「あぎゃっ!」

「アズサちゃんは間違えたそうでーす。アズサってば本当ドジだね」

 とても爽やかな笑顔を見せるミル。しかしその下では、思いきり手をテーブルにぶつけられ、その上にピストルの銃口を向けられたアズサがいた。

「……あら」

 手を挙げた人を見渡していると、ラレンヌがあることに気づいた。椅子から立ち上がり、二人の元へ向かう。


「協力してくれるのではないんですか? アキハ、コクラン」


 その言葉に、一同は首をかしげ、そして気づいた。

 協力する――ということは、アキハとコクランは事前にこのことを聞かされていたのだと。

 にも関わらず手を挙げていない二人に、ラレンヌは笑みを向ける。目が笑ってないのは気のせいだろう。

「いや、えっと……その」

「だから……うん」

 あんなに戸惑う二人は初めて見た。新鮮な光景を目にし、ミルは思わず写真を撮っていた。


 その後、ラレンヌの脅迫もとい説得を小一時間続けられ、ようやく兵士達は解放された。もちろん、肝試しは開催決定だ。

 この日ルリは誓った。あの状態のラレンヌ(通称・ブラックラレンヌ)には逆らわない、と。

 食堂に残されたアキハとコクランがどうなっているのか、確かめられるような勇気のある者はいなかった。


* * *


 魔力を感じる。光のように明るい――ということは、白魔術師だろう。

 皆、元々魔力を持っている。程度の差こそあれど、低レベルの魔術であれば使えるわけだ。

 魔力は色を持つ。黒と白の二つだが、大抵片方が強いものだ。例外はいるがとても少なく、現在は四人だけだ(灰色魔術師と呼ばれる)。クレハは黒が強く、そして新たに感じた魔力は白がとても強い。

 魔力は波動やオーラのように人によって異なり、同じ波長を持つ者など存在しない。――クレハは、この波長を知っていた。


 面白いくらいに白魔術に特化した魔術師。思い付くのは一人だけ。


 まさかなあ、とは思いつつも、その魔力がモスワナの森で感知されていることに関しては目を瞑った。

「どうして手を挙げなかったんですか?」

「いや、ミルの視線がアレだったし……」

「ぶっちゃけるとめんd」

「アキハ駄目だ! それだけは言っちゃ駄目だ!!」

「……へえ?」

「「すみませんでした」」

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