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ヌーヴァ遺跡は、フィオーレ西部に位置する古代の遺跡である。城壁画や使っていたとされる土器も多数発見されており、国の重要文化財に指定されている。
そんなところを狙うとは、相手は馬鹿なのか賢いのか。重要文化財を傷つけるわけにはいかないから、いつものように派手に攻撃することは出来ないが、それは向こうも同じであるはずだ。
まずはいつもの通り、アズサが偵察に向かう。爆発が確認されたのは遺跡内でも特に広い場所である。ちなみに他のメンバー――ミル、ノア、リレイズ、リア、ルリ――はその広間から10メートル程離れた場所の壁の裏に隠れている。
巧みに柱や壁を利用しながら広間に近づくアズサ。手慣れたものだ。
「……?」
誰かの声が聞こえる。複数人。そっと覗いてみると、広間の中心に10人以上の団体がいた。防弾ベストを着ていたり、武器を持っていたりするところから推察するに、彼らは盗賊だろう。
となると、この遺跡に宝があるとふんだのか。そしてあの爆発は、床か何かを壊すためのもの。
――遺跡に傷をつけるなんてね。
アズサは少し嘲笑すると、瞬時にミル達の元へ向かう。
「どうだった? アズサ」
「盗賊みたい。数は15くらいかな……防弾ベスト着て武装してたよ」
そうか、とミルは呟く。
防弾ベストとなると、ノアやリレイズを先頭に切り込んでいくのが良策か。普通ならば間違ってもミルやルリは前線には出ないだろう――気の毒だが。
しかし、とミルは思った。何しろ個性的なフィオーレ騎士団を束ねる女である、そんな普通の指示を出すわけがない。
どうせなら面白く。それが彼女のモットーだ。
「ルリ! 最前線で戦ってみな」
憧れの、ミル直々の指令――ルリは心踊る。
「了解しましたわ!」
ルリは、満面の笑みでそう答えるのだった。
「こんにちは。いい天気ですね」
ルリは朗らかに笑いつつ、盗賊の元へ近づいていく。彼らはこういうことには慣れているのか、戸惑う様子など微塵も見せなかった。
「よう、お嬢さん。遺跡見学とは、考古学者でもしてるのかい?」
リーダーと思われる男が声をかける。
「ええ。そちらは大勢で何を?」
「ああ、俺達は研究グループでね。この辺の調査をしてるのさ。ま、何も無いみてえだけど」
かなり慣れている。研究グループならば、集団で移動していても何ら問題はない。
さりげなく下に目線を落とすと、武器はどこにもなく、代わりに金属探知機が幾つかあった。隠し持つルリのマスケット銃に僅かに反応している。――が、それよりも強い反応を示している物があった。
「……何も無いなんて、そんなことはないですよね」
「は?」
「武器を持つ研究グループなんて、聞いたことありませんもの」
ぴくり、と男が反応する。
「俺達は危険な場所も通るからな。山賊なんかに対抗するためさ」
「そうですか……」
ルリは笑った。この答えは予想通りだ。
盗賊達は荷物を片付け始めている。ここで逃がしてはならない、そう本能が伝えている。
「私も考古学者です。どんな装備なのか、見せていただけませんか?」
「!」
「実はまだ考古学者として活動を始めたばかりなのです。参考にしたいのですが……」
「……それは」
男が焦っているのがわかる。さらにルリは追い討ちをかけていく。
「どうしました? 何かやましいものでもありますの? 例えば――盗んだ宝、とか?」
その瞬間、男は素早い動きでナイフを突きだした。
しかし鋭い刃はルリを貫くことはなく、彼女がいつの間にか手に持ったマスケット銃により、男は頭を殴られて気を失う。
「……貴様、何者だ!」
盗賊達がルリは取り囲み、各々の武器を取り出した。
威嚇するように構える。が、ルリは怖がるどころか堂々とした佇まいで言った。
「フィオーレ騎士団団員、ルリですわ」
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ヌーヴァ遺跡が南東から西に変わりました。