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ラレンヌは、人との関わりを第一に考えている。その為、城を毎日開放している。
もちろん厳しいチェックを通らなければならないが、時には騎士団員の独断で入城できることもあるのだ。
故に騎士団員への個人的な依頼や用事を持ち込む人も多く、大抵は修行に付き合ってほしいとかそういうものだ。それ以外にも、例えばリアだと行きつけのアイス屋の新商品の情報なんかが伝えられる。
だから、彼女も不思議ではない。ミルへの用事となれば、銃器の扱い方の指導だろうか。
しかし彼女は、予想の斜め上を行く。
「私を騎士団に入れてくださいっ!」
――ルリ、21歳。少々幼さが残る顔つきで、薄く桃色がかった大きな白い瞳が強い印象を受ける。比較的大きいリボンで結われたお団子をアップにしており、乙女な雰囲気を纏っている。
生粋のフィオーレ人で、両親は既に他界。兄弟はおらず、独り暮らしをしていた。
「……とまあ、これが私の限界。しかし、入団要請とはね」
リオンは手にした資料を机の上に置くと、ハーブティーをすすっているルリを見つめる。
ミルからの要請でルリの素性を調べたリオンは、些か不信感を抱いていた。経歴を見ても、武術や護身術を習っていたという記述はどこにもない。なのに戦場に立つことになる騎士団に入りたいとは、一体どういうことなのだろう。
「何で君は騎士団に入ろうと思ったのかい?」
リオンが問いかける。――しかし、ルリの目線はリオンの方には向いていない。
では、一体誰を見ているのかというと――
「はうぅ……生のミルさんだぁ……」
「……」
リオンは深くため息をつく。そして、ルリが入団を要請した理由も察する。
恐らく彼女は、筋金入りのミルのファンだ。憧れの存在に少しでも近づく為、こうして入団を要請するに至ったのだろう。
しかし、そんな理由で入団を認めるわけにはいかない。ちゃんとした手続きを踏まなくてはならない。
「……ルリ?」
「……はっ、はい!」
やはりミルを見て気が緩んでいたのか、少し間抜けな声が返ってきた。
「入団を希望するという意志は素晴らしいよ。だけど、ちゃんとステップを踏まないとね」
「ステップ?」
「ああ」
首をかしげるルリ。リオンは怪しく笑った。
「リレイズのメニューについていけるかどうか――ってね」
ルリは首をかしげる。その可愛らしい仕草がどうなるのかと思うと、リオンは若干の身震いさえ感じたのだった。
「――はい、休憩」
リレイズの声が、疲労困憊しているルリにとっては天国に思えた。
彼女は今、騎士団員より少し軽めの(といっても地獄に変わりはない)メニューをこなしていた。一部抜き出してみると、腹筋100回をはじめ、ランニング30kmなど慣れていない者にとっては天国すら見えそうである。
「凄いですわ。騎士団の皆様はこんなメニューを毎日こなしているのですね!」
少し水を飲んで落ち着いたのか、ルリは胸の前で手を合わせて言った。
「まあ、君に課しているのは軽めだけど。……ところでルリ、君はどんな武器で戦うんだ?」
リレイズは、かねてから気になっていた質問をぶつける。ルリは一瞬きょとんとするが、すぐに質問の意図を理解したようで、
「ああ、それでしたら――マスケット銃を扱おうかと思いまして」
「――マスケット銃、って」
リレイズは思わず呟いた。
現代ではあまり使われない銃のひとつで、正直実戦向きとは思えない。その点はリオンも同意見のようだ。
「マスケットは命中率かなり低いし、連発も出来ないよ? どうしてそんな武器を選んだのかい?」
「連発が出来なくても、当てればいい話ですわ。――私のマスケットは特注品でして、通常より威力の高い弾丸を撃ち出せるのですよ」
それに少し魔力を込めまして、――私実は祖母が黒魔術師だったんです――命中率も良くなりまして……。
ペラペラと喋り続けるルリを見つめ、リレイズもリオンもため息をつく。
その時――
「ヌーヴァ遺跡付近にて爆発確認! 敵の疑いがある!」
ミルの緊迫した声が通信機から聞こえてくる。リレイズとリオンは顔を見合わせた。
「ルリ、ここにいな。危ないからね」
「……いえ、私も行かせてください」
「! ……ルリ、これは……!」
リレイズは思わず息をのむ。ルリの眼差しは、真剣そのものだった。
「……仕方ない。ルリ、初陣だ」
「はいっ!」
彼女が説得を試みないというのは、極めて珍しいことである。それほどルリが本気なのだと、リオンは思い知った。
ルリは駆け出していく。憧れの、騎士団での初陣へと向かう為に。
新キャラ・ルリ登場。