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 モニカが降伏した後、ラレンヌはアキハとコクランと共に、モニカ帝国の領土を訪れていた。――否、領土『だった所』を。

 アズサがあの戦いから三日後に入手した情報によると、モニカは既にソルティーナの植民地化していたらしい。あの軍隊は元々ソルティーナに反抗する為集められた兵士で構成されており、フィオーレを道連れにでもするつもりだったのだろう。

 それを知ったとき、誰もが心に抱く疑念があった。

 ――ソルティーナは、何をするつもりなのか?



 餓死した人々の屍が、あちこちの道路の脇で見られた。骨がわかる程に痩せこけ、虫がたかっていた。

 ラレンヌは少し目を背ける。しかし何処を見てもあるのは屍と廃墟ばかりで、とても栄えていた国とは思えなかった。

「酷いな……これは」

 コクランがうめくように呟く。確かにね、とアキハも同調した。

「数ヵ月前まで凄く栄えてたのにね」

 アキハもコクランも、そしてラレンヌも不思議で仕方ない。


 普通何処かの国が植民地になったりすれば、即座に世界中に知れわたるはずだ。なのに、フィオーレは勿論、世界の情報の全てが集まるという情報大国・アンヴィーですらその事を知らなかったという。

 有り得ない。ソルティーナは、何をしたのだろう。



 視察を終えると、ラレンヌはソルティーナに伝達を送る。モニカ帝国軍がフィオーレに攻めこみ、フィオーレはそれを撃退したという主旨のものだ。

 既に植民地となっている国が別の国に戦争を持ち込むなど、前代未聞である。慎重に物事を進めなければならないだろう。

「……ソルティーナがどう返してくるか……楽しみだね」

 ミルは呟くが、その表情も声のトーンも、決して楽しいという感情を表してはいない。


 それもそのはず、かつてフィオーレを攻め植民地としたのがソルティーナなのだから。


 フィオーレの誇りにかけ、ソルティーナに復讐を。敗戦を知るフィオーレ人は皆そう思っているに違いない。

 そして少なからず、騎士団員やラレンヌも心のどこかでそれを思っているだろう。

「わからないな」

 テレサは顎に右手を当て、考えにふける。

「何でフィオーレを選んだんだ……?」

 モニカが新たな行き場を探していたとすれば、弱小のフィオーレは候補地に上がってもおかしくない。だがモニカとの距離やフィオーレの土地などが起因して、優先順位は低くなるはずである。

 皆が難しい顔で考えこみ、広間の雰囲気は重くなる。

 そのときだった。


「難しいこと考えたってしょうがないよ。ソルティーナの返事が来るまで、気楽にしてればいいんじゃないかな?」


 立ち上がって発言したのは、リアだった。

 思わぬ楽観的思想に一同は戸惑うが、それもそうかと皆で笑う。

 ――そう、これがフィオーレの在るべき姿なのだ。


 戦争は極力控えめに。

 何よりも民のことを第一に。

 それが、ラレンヌが先代より引き継いできたモットーである。


「あーもう、考え事してたらお腹空いたー。リオン何かない?」

「ないよ。何なら今から作ろうか?」

「マジで? やったあー!」

 ミルが歓喜し、リオンは苦笑いを浮かべて厨房へ入っていく。いつも誰かがおやつをせがみ(大抵ミルかリアである)、料理の得意なリオンやテレサが腕を振るうのだ。

 テレサがリオンを手伝いに厨房へ向かう。しばらくすると美味しそうな匂いが漂ってきて、ミル逹はやれクッキーだのカップケーキだのと予想し始める。その(かたわ)ら、クレハは分厚い本に没頭し、ノアは今にも疲れて眠りそうになっている。


「……やっぱり、これが落ち着きますね。賑やかな方が落ち着くというのも妙な話ですけれど」

 ラレンヌはそばに立っているアキハとコクランに話しかける。すると、コクランは失笑を交えてこう返した。

「まあな。むしろ静かだと何があるのか気になるな」

「確かにねー。自由な集団だよね、あたし逹」


 そうこうしている内に、皿いっぱいに盛り付けられたクッキーを持ってきたリオンと、巨大なカップケーキを手にしたテレサが広間に姿を見せた。一気に皆のテンションが高くなり、大声を出さないと相手に伝わらないほど騒がしくなる。

「……これ、カップケーキっていうの?」

「材料は一応カップケーキだが。まあ食えんだろ」

 ノアの怪訝そうな表情をよそに、幸せそうにリアは食べている。

 これだけのクッキーがあると争奪戦が始まるのが通常で、更に騒がしくなっていく。

 後にラレンヌが使用人から聞いた話によると、このときの皆の声は広間がある西向きの一階のほとんどの部屋で聞こえていたという。

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