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 そんな悲鳴が響きわたる中――

 中庭では、二人の剣士と一人の武道家、そして何かをいじっている女と銃を手のひらで弄ぶ女がいた。

「……今何か聞こえなかった?」

 爆弾をいじっていた手を止め、ストレッチをしている武道家・ノアに問う。誰よりも長い髪をツインテールにしている。その瞳はつぶらで可愛らしい。

「んーん、何も聞こえなかったよ。……それはそうとリア、何やってんの?」

「え? ちょっと時限爆弾の仕組みを解明しようと……」

「そんなことなら本で読める。図書室行って」

「えー、リレイズちゃん酷い」

「誰がリレイズ『ちゃん』だ!」

 憤慨するのは、剣士の一人であるリレイズだ。前髪の両端だけが長く、他の髪は肩辺りで揃えられている。

 ポニーテールのリアは剣士でも武道家でもなく、特殊兵として活動する。爆弾をいじっていたのは、それを戦場で使用する為だ。

「あっ」

「は?」

 小さな声がリアの口から漏れ、リレイズは聞き返す。ノアが爆弾を除きこむと、黒い粉が至るところを覆っていた。

 その正体はおのずと予想はつくが、一応聞いてみる。

「これ、何?」

「あ、カイロに入ってた鉄粉だよ」

「……」

 確か鉄は酸素と化合するとき熱を発する。それくらいは理系が苦手なノアでもわかる。というか火薬じゃないのか。

「……大丈夫なの?」

「知らない~」

 そんなリアの態度に若干の不安を覚えながらも、リレイズはその爆弾を剣で拾い上げると、近くの井戸に向かって放り投げる。

 リアはそんなリレイズの動作を気に留めることもしなかった。特に愛着は持っていなかったらしい。爆弾に愛着を持つというのもどうかと思うが。

「リレイズ、今日はどんなメニューだ?」

 そこへ、もう一人の剣士であるリオンがやってくる。今日の修行の内容を聞きにきたようだ。

 リレイズはリオンを見やると、ポケットから一枚のメモ用紙を取りだし読み上げる。

「外周5周、腹筋200回を5セット、背筋・腕立て伏せ同じく」

 それを聞きながら、リレイズにしては軽いなと思う。いつもなら腹筋だけでも1000回を3セットなど言うのに。

「その一連の動きを7回、休憩は間に5分ずつだ」

「……」

 やっぱり鬼だった。

 そのメニューを遠くから聞いていたミルの銃を弄ぶ手が止まった。

 そして瞬間移動かと思わせるような素早い動きでリレイズに掴みかかり、肩をぶんぶんと揺らした。揺らす、という表現が似合う程度の軽いものではないが。

「……リレイズ、それ本気で言ってる? 俺達殺す気?」

「大丈夫、皆丈夫だから」

「そういう問題じゃなああああああいっ!!」

 今日は悲鳴がよく響く日らしい。ミルの叫び声もまた、のどかな青空に響きわたっていった。

 その後ろではリアが小さな爆弾を暴発させ、ノアが井戸の水をぶちまけている。

 草に染み渡る水と騒がしい面々を交互に見ながら、リオンはため息をつく。

 そしてどこか諦めたような口ぶりで、


「……今日も平和だな……」


 彼女はそう呟くのであった。



 雲が風に乗って動いていく。あれから十分は経っただろうが、未だにリオンの目の前で起こる茶番は終わらない。

 そろそろ現実に目を向けさせてやろうかと、彼女はとある物を持ち出す。

 いつの間に出したのか、太陽の光を受けて黒く輝くそれは、並大抵の人間なら見るだけでおびえるだろう。おまけにかなり大きく、大柄なコクランの腕を思いきり伸ばしたくらいは悠にある。

 重さもかなりのものだろうが、リオンはそれをものともせずに軽々と持ち上げ、肩にかつぐ。そして空へと向けると、大地を踏みしめる足に力を入れ、


――放つ。


 轟音。花火が爆発したような、リアが持つどんな爆弾でも再現できないような音。

 その音はびりびりと鼓膜を震わせ、茶番はぴたりと止まった。

「やっぱり魔術ってのは便利なんだ。なあ、クレハ?」

 その瞬間、黒い霧が現れ、人の姿を構築していく。

 いつもと変わらぬ漆黒のローブに身を包んだクレハは、無言無表情でうなずく。

「……気づいた?」

「隠す気も無かっただろ?」

 返答する代わりに、口元が少し歪曲する。しかしそれはものの数秒で消えた。

「……どう?」

「だいぶ楽だ。ちょっと唱えるだけで出てきてくれるしな。それに火力増加も凄いし」

 火力増加はその通り威力を高めるもので、基礎的な魔術のひとつだ。特に火薬を扱う武器とは相性が良く、使用者によっては元の威力から数十倍にまではねあがるのだとか。

 一方、持ち運びの魔術はかなりの高等魔術である。異空間に対象物を送り、それをある呪文によって取り出すのだが、肝心の異空間を創り出せる者は少ない。

 そんな高等魔術を容易く扱うクレハは、賞賛の域を通り越して最早畏怖の対象である。

 ――そんな彼女と単語だけで真意を理解し、普通に会話できるリオンも中々の強者だと思うが。

 そんな二人の会話を見つめるミル達は、リオンの側に置かれたバズーカ、そして空へもくもくと立ち上る煙を見つめる。

「……修行、始めよっか……」

 ノアの一言により、ようやく今日のメニューをこなし始めた。



 それから数分も経たないうちに、青空に一点の黒い粒が現れた。

 それは中庭に降下し、軽く着地する。極東の国によく見られるという『忍』の姿をした女は、立ち上がってミルに一枚の紙を渡す。

「ミル、出動要請。――モニカ帝国だってさ」

 ミルの眉がひそめられる。腹筋をしていた他のメンバーも、何もないところから炎を生成していたクレハも反応する。


 モニカ帝国――

 それは忌々しい標的。


「あと、ラレンヌが……」

「わかってる。犠牲は最低限に、だろ? 俺達はそんな忘れっぽくないよ」

 それから――とミルは続ける。


「リレイズが鬼すぎたからお前を殴る!!」


「何で!? 何であたしなの!? というかリレイズが鬼なのはいつもの……ってその剣は何なのさー!?」

「いやあ、アズサに虫がついてるから殺してやろうかと」

 アズサと呼ばれたくのいちは、ミルの拳が降り下ろされる直前に逃げ出すことに成功する。そして持ち前の素早さで、あっという間にいなくなってしまった。

「あーもう、アズサ逃げやがったし……」

「仕方ないからやるか。……憂さ晴らしに」

 リレイズは剣を鞘におさめると、城の内部へ突き進む。

 ホールに来ると、既に他の騎士団員は揃っていた。医療チームからは、その順応性の高さを買われたスズネが代表で来ている。

「さ、準備オッケー?」

 ミルの声が、ホールに響きわたる。

 返答はなくとも、そこの空気から皆が準備万端であることは容易に予想できた。


「さて、と――借りを返しに行こうか」


 モニカ帝国には、少し恨みがある。それを晴らす為、そしてこの国を守る為、彼女らは戦うのである。

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