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 これは陽動作戦だったのだ。とはいえ、まさかルリまで来るとは思っていなかったが。

 ミルは一人で来た。それは間違いない。しかし、違うのは別ルートからのピオーネへの侵入、だ。

 メンバーはアズサ、リア。あまり大人数だと計画がばれる可能性が大きくなってしまう。そこで、潜入という面において優れている二人を選んだ。本当はリレイズも入れたかったのだが、彼女の武器たるレイピアは狭い空間での戦闘となった際に動きづらい。勿論リレイズならば何らかの対策はするだろうが、あまり目立つわけにもいかない。

 それに今回は、力でねじ伏せるのが目的ではないのだ。ミルとリアの役割は、できるだけアズサが動きやすい環境を整えること。それだけのはずだったのだが――

「後悔、だと? どう考えても後悔するのは貴様らだろう」

 カルカッレは嘲笑しながら、クレイモアを振り回してミルとリアに近づく。どうやら自ら前線に立って戦うタイプの司令官のようで、――非常に喜ばしいことだった。

 ミルは銃に弾を装填しながらカルカッレを見据える。目的は時間稼ぎ。だが、相手はそれができる程柔ではないだろう。ということは、全力で叩きのめすのみだ。

 まずは2発、様子見で撃ってみる。最初の一発は防弾ベストに阻まれ、もう一発は当たらなかった。

 とにかく速い。その巨体からは想像もできない程、素早い動きで二人をかく乱する。

「リア、ルリ、落ち着いていこう! 結構直線的な動きが多いからね!」

「わかった!!」

「わかりましたわ!」

 リアは口で手榴弾のピンを抜き、それを前方へと投げる。爆発が起こり、カルカッレを足止めする。時の声をあげて襲い掛かる兵士達には、ルリが迎え撃つ。命中率が心もとないマスケット銃であっても、こういう多数を相手にする場合には有効といえるのかもしれない。

 やがて、ミルはカルカッレを、ルリはその他の兵士を、リアは二人のサポートに回るという構図ができてきた。

「あーもう、数が多いですわ!」

 ルリは弾を連発しながら、思わず叫ぶ。確かに、途切れなく襲い掛かってくる兵士達と戦っていれば、そんなことを思うかもしれない。

(――くそ、さっさとしやがれアズサ……!!)

 ミルは遠くで動いているはずのアズサのことを思い、舌打ちする。さっさと終わらせなければ、数で圧倒的に劣るこちらがつらくなる。



  * * *



 空調ダクトから飛び降りると、灯りなどどこにもない、真っ暗な廊下に出た。

 常人ならば、その暗さに何も見えず戸惑うところ。しかし、忍たる彼女にとっては逆に落ち着く空間であると言える。

 空気は湿気ていて重たい。慎重に辺りを見渡せば、誰もいないことが確認できる。

 議事堂の地理は頭に叩き込んでいる。ここから北へ向かえば、ピオーネが頑なに開こうとしない扉がある。きっとその向こうにあるのは、上層部が必死に隠している裏事情。

 ピオーネはあのソルティーナも認めるほどの『砦』である。攻めこむことは困難とされていたが、一度中に入ってしまえば脆いものだ。

 アズサは扉に近づき、そっと押してみる。驚いたことに鍵はかかっておらず、重量はありながらもあっさりと開いた。

 大きな窓があるがカーテンが閉まっており、雲の隙間を抜けてくるわずかな太陽光をも遮った暗い部屋。降りしきる雨の音のせいか、いっそう重い雰囲気に感じられる。

 壁際にはおおきな本棚と、盾や写真などが飾られているショーケースがある。アズサは本棚に近づき、その種類を確認した。

 ピオーネの歴史、文化などに触れられた本が多いようだ。数冊紛れ込んでいるのは、世界的に認められたピオーネ出身の作家による小説のようだ。

「……特にめぼしいものはなし、か。まあ、こんなわかりやすい所にはおかないよね」

 アズサはひとりでそう呟くと、続いて部屋の奥の机に近づいた。引き出しには鍵がかかっているが、アズサはあるものを奪い取っている。

「マスターキー♪」

 廊下に転がしたままの大臣は、誰かに見つけられただろうか? そんなことを考えながら、アズサはマスターキーで鍵を開ける。

 ――どうやら、当たりを引いたらしい。引き出しの中にあった書類は、ある儀式について書かれたもののようだった。

 それに軽く目を通して――アズサは、絶句した。

「……え? 嘘、これって……」


 刹那。

 アズサがその気配に気づくのと同時に、激痛が頭に駆け巡る。

 意識を失う間際、アズサが見たのは黄色い目。


 左目の下には、雫を模したであろうデザインのマークがあった。

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