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 柔らかな光が窓からさしこんでいる。白い壁に飾られたいくつもの写真は、ほとんどがフィオーレ王国の景色を写したものだ。

 その部屋の中央にある玉座に、ラレンヌは座っていた。両隣には、アキハとコクランが佇んでいる。

 今日のラレンヌは髪を三つ編みにし、淡いピンク色のドレスを纏っている。ネックレスにあしらわれたルビーがきらりと輝く。

 一言で表すならば、まさに「美女」だ――レイラが最初に抱いた感想はそれだった。

「初めまして、レイラさん。歓迎します」

 思わず見とれてしまっていたレイラだったが、ラレンヌに声をかけられ、はっとしたようだった。

「レイラさんの滞在は勿論許可します。ゆっくりしていってくださいね」

「ありがとうございます、女王様。……ところで、ひとつお願いがあるのですが……」

 レイラは深々と会釈する。そしておずおずと切り出したのは、図書室への入室許可を求めるものだった。ラレンヌは勿論快諾する。

「何か調べ事? 手伝おうか?」

「サク、書類が溜まっていますよ」

「うっ……」

 言葉に詰まるサクを見、レイラは苦笑いを浮かべた。

「大丈夫です。……ピオーネ公国に、太陽を呼ぶ方法を調べているんです。だけどピオーネの国立図書館は、私の家からは遠くて……」

 ラレンヌはしばらく何も言わなかったが、やがてアキハにレイラを案内するように指示した。

 サクには書類を片付けることを優先しろ、と言うと、彼女はげんなりしつつも「わかりました」と返す。

 そして部屋には、ラレンヌとコクランしかいなくなった。

「……ピオーネ公国のため、か」

 コクランは呟く。

「国民が苦しんでも自分の暮らしを優先する……今の公爵はそんな感じだろ?」

「ええ。だけどあの子は、何とかしようとしている……」

「変な話だな」

 そう言って、コクランは悲しそうに笑った。

「コクランは……、儀式のことは知っているのですか?」

「まあな。レイラは知らないのか」

「……どうでしょう。知っている上で、足掻いているようにも見えます。誰だって、死ぬのは怖いですから」



  * * *



 レイラは圧倒されていた。

 天井まで伸びるかのような本棚。大きな窓から光をいっぱいに受け、テーブル等が並べられているスペースは明るく暖かい。

 中央の階段は二階・三階へと続いている。ホテルのロビーをそのまま図書室にしたような、そんな雰囲気がある。勿論ここは図書室であってホテルではないのだが。

「凄い、ですね」

「まあねえ。あたしもどこに何があるかは把握してないよ……把握してるのといったら、ここの室長かクレハくらいじゃない?」

「クレハ、さん?」

 あー、とアキハは頭をかきながら呟いた。そういえば、彼女は騎士団員のことはほとんど知らないままだ。別に他国に隠していることではないし、フィオーレに滞在する以上は知っておく方がいいだろう。

 そう考え、アキハが説明しようとした瞬間――影が揺らめき、漆黒のローブに身を包んだクレハの姿を形成した。正確にはこの表現は間違いなのだが、少なくとも周囲から見た移動の魔術を表現するならばこれしかない。

 もう何度も経験していること故アキハは慣れているのだが、レイラは勿論初めて見る。驚いて思わずアキハの背後に隠れてしまった。

「……呼んだ?」

「いや、別に呼んではないけど……でもちょうどいいや。この子、ピオーネ公国からきたレイラっていう子なんだけど」

「知ってる。……地学は2-R-6」

 それだけ言うと、クレハはまた影の中に姿を消した。

 レイラの情報は、既に騎士団員の間には広まっているのだろうか。だとすれば、手間が省けたことになる。

 クレハが呟いたのは2-R-6。つまり、2階のR列6段目ということだ。

「それじゃー、探そっか」

 アキハはそう言うと、階段に足をかける。――するとレイラはアキハの裾を引っ張り、彼女が驚いて振り返った瞬間、唇を頬に触れさせた。

 頬の皮膚から、感覚神経へと伝わる柔らかい感触。紛れもない、一般的にキスと呼ばれるものである。

「……な、な……!?」

 うろたえるアキハ。しかしレイラは平然としている。

「い、今のって……」

「? 挨拶です。ピオーネでは感謝を示すとき、頬にキスをするのが慣習になっているんですよ」

 にこり、微笑むレイラ。

 一方アキハは、思考を停止させていた。しかし、ひとつだけ――ピオーネには絶対住めない、ということだけは理解した。

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