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満月が洋館を、そして疲労困憊の参加者達を照らす。発案者であるラレンヌ、そして仕掛け人だったクレハは不思議そうに彼らを見つめた。
「皆さん遅かったですね……そんなに仕掛けを用意したのですか?」
「……さあ?」
クレハは記憶を辿ってみるが、通常一時間のコースを、どれだけおびえても三十分のロスに抑えたつもりだ。それなのに、ラレンヌが言うには、皆二時間以上かけて出てきたという。
特に最後のほう、出口付近では尋常ではない叫び声が響いてきた。しかしクレハは、せめて出口は安全にしてやろうと行かせていないという。
彼女の最後の仕掛けは、一階に下りるための階段で数十体の骸骨が追いかけてくるものだ。しかし階段から出口までは200mはあり、手前100mくらいで元に戻らせていた。
「絶対違う! 骸骨がいなくなったと思ったらまた出てきたよ!」
サクは必死に抗議するも、クレハは「行かせてない」の一点張りだった。
アズサやミル、そしてルリは半分瀕死の状態である。テレサはそんなミルとルリを担いできたせいで、何度も肩を上下させていた。
「確かに……、あれはもうすぐ出口だーってところで出てきたな」
リオンが言うと、リレイズも肯いた。
その様子を見ていたラレンヌは、少し考える素振りを見せたあと、こう言い放った。
「調査してみましょうか!」
後に、抗議の声などなかった、とラレンヌは満面の笑みで話している。
月は一番高いところまで昇り、洋館の中もいっそう怪しげな雰囲気を漂わせている。しかし、ラレンヌは迷いのない足取りで歩いていた。
そんな彼女に付き添っているのは、アキハ、コクラン、テレサ、リオン、リレイズ、クレハの6人である。他のメンバーは疲れきっているか、疲れきった人々の話し相手になっているかのどちらかだった。
「ここだよ、ラレンヌ」
アキハが例の場所に着いたことを報告する。するとラレンヌは立ち止まり、周りを注意深く見渡した。
「何もありませんが……」
すると、リオンはクレハがおもむろに水晶玉を取り出していることに気づいた。どこから取り出したんだ、という突っ込みは飲み込み、何をするつもりなのか見守ることにする。
彼女は水晶玉に向かって何かを呟く。すると、水晶玉に紋章のようなものが浮かび上がり、やがて透明だったそれは白く染まった。
「……やっぱり」
クレハはそう呟くと、水晶玉を持ったままラレンヌの方へ歩いていった。
「ラレンヌ。正体、分かった」
「本当ですか? その場所は?」
分かる、といった風にクレハは頷く。
「そうですか。……では、案内してください」
もう一度、しっかりと頷くと、クレハは先頭に立って歩き出した。――が、突然立ち止まり、ただ一言「アルバ」と呟く。すると彼女の前方に赤い模様が浮かび上がり、そこから小さな妖精のようなものが飛び出した。
赤い光を纏ったそれは、くるくるとクレハの周りを回ったかと思うと、ラレンヌの前で止まった。
――刹那。妖精は再び光に包まれ、光が消えるとともにそこに姿を現したのは、一人の青年だった。
赤い髪と赤い瞳。どこの国の特徴とも一致しないその青年は、ラレンヌの前に跪くと、恭しく手を取る。
「ああ美しき女王様! 俺はなんて幸せ者なんでしょ――がふっ!?」
クレハからの制裁(綺麗なストレートだった)を喰らい、青年は口を尖らせた。
「酷いぜクレハさん! せっかく……」
「黙れアルバ。解説、頼んだから」
アルバと呼ばれた青年は、燃え盛る炎のような赤い髪をぽりぽりと掻きながら「ちぇー」と呟く。その間にも、クレハはさっさと歩き出していた。
「あっ、ちょっとクレハさん待ってくださいよー! あ、説明は俺がするんで歩きながらどうぞっ」
唖然とする一行を置いて、アルバも歩き出す。
頭いっぱいに?マークを浮かべながら、ラレンヌ達も後を追った。
「まず、俺の正体から。俺はアルバ、クレハさんの使い魔だ」
使い魔――魔術師が召喚できる妖精のようなもの。魔術師の魔力が高ければ高いほど使い魔の魔力も高くなる。使い魔は自由自在に姿を変えることが出来るが、獣の姿だけは個体によって変わるらしい。
その後アルバの説明によると、クレハにはあと四体の使い魔がいて、彼は炎の属性を持っていることがわかった。どれだけの使い魔を持つかは魔術師の意思次第であり、その数が少ない程魔力もその一体に集中するため、強力な使い魔が召喚されるらしい。
「――とまあ、こんな感じなんだけどよ……ここまで大丈夫か?」
「まあ……うん」
「んじゃ、次は魔術について。魔術ってのは白と黒に分類されることは知ってるよな。クレハさんは黒魔術師だから黒が強いわけで、あの人はその気になりゃあここらの森一帯燃やせる。召喚魔術も黒魔術に分類されてて、クレハさんのコントロールは完璧なんだぜ」
アルバは自慢げに胸を張る。彼女のことを尊敬しているらしい。
「まあその分白魔術はちょっと弱いんだけど。んで、その白魔術ってのは、人の治療は勿論壊れた物も直せる。――勿論、この洋館もな?」
付け足された言葉に、背筋がピンと張る。おそらく、ここからが本題だ。――長かった。
アルバの話に夢中で気づかなかったが、クレハが廊下の奥に立っている。恐らくあそこにいるのだろう、幽霊を造り出した者が。
「魔術は才能もあるけど、努力によって強化できる。この洋館、一度燃えただろ? 火の跡には敏感でな」
洋館は燃え尽きた。しかし、今ここに存在している。これはどういうことか、答えは容易に出る。
クレハがいる場所に近づく程、絨毯や床は綺麗になっていた。この近くで行われた、という証拠である。
「フィオーレには優れた白魔術師がたくさんいる。でも、一度燃え尽きた洋館を元に戻せる程の魔力を持つ者はたった一人だ」
アルバは扉の前に立つと、クレハと目配せをする。そしてドアノブに手をかけると、ゆっくりとそれを回す。
扉の向こうに見えたのは、ソファやテーブルといった家具だった。そして、そのソファで寝ている女が一人。
クレハは女に近づくと、人差し指を向け、そこから微弱な電流を流す。バチ、という静電気の音がそのまま大きくなったような音がしたかと思うと、女はゆっくりと起き上がった。
「いったぁっ!? 相変わらず乱暴な起こし方だね久しぶりーぃ!」
「近寄るな煩い」
「……彼女はサナ。洋館を修復した白魔術師であり、クレハさんの姉さ」
男キャラが足りない




