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とある王国のとある騎士団  作者: 柘榴石
深き森の幽霊館
11/22

 洋館の中は暗く、窓から注ぐ月明かりも何処か儚い。慎重に歩みを進めつつ、リアはそんな感想を抱いていた。

 懐中電灯が照らす先には、大きな扉がある。ここが大広間だとすると、応接室に続き二つ目のポイントに着いたことになる。

「アズサちゃん、大丈夫?」

 隣でぐったりとしているアズサに声をかける。しかし、彼女は言葉を返す気力も無いほど疲れきっていた。

 ぎい、と扉を開ける。やはり大広間のようで、中心にテーブルが置いてあり、近づいてみるとその上にお札があるのが分かった。ラレンヌが置いたのだろう。

 それに近づき、シャッターを押す。フラッシュは禁止されているので、カシャッという音だけが響いた。

「……撮れた?」

「うん。今確認してる。……あっ」

 写真を見たリアが、思わず声をあげる。何事かと覗いたアズサは、たちまち顔面蒼白になり、そして叫んだ。


「いやあぁぁあああぁぁあぁ!!」


 写真に映っていたのは、血がべっとりとこべりついたチェーンソーを持った、目の窪んだ男だった。



   * * *



「ん……今何か聞こえなかった?」

 悲鳴のような叫び声が聞こえた、とサクは立ち止まる。昔から動物達に囲まれた環境で暮らしてきたせいか、聴覚は優れているのである。

「そうか? 私は何も聞こえなったけどな」

 隣に立つリオンは、辺りを懐中電灯で照らしながら言う。彼女らはまだ一つ目のポイントに到達しておらず、洋館をさまよっている状態だ。

 気のせいか――そう呟くサクの肩に、冷たい何かが触れる。


『アソボウヨ』


「ぎゃあああああああああああ!!」

 サクは飛びのき、思わずリオンにしがみつく。しかしリオンはからからと笑い、「忙しいからまた後でな」と返した。

 まるで、幽霊ではなく普通の人間に接するかのように。後に確認したところ、リオン曰く幽霊も元は人間だったのだから態度は一緒にしなければ、とのことだった。

 サクの中で『リオン最強説』が浮上していたことは、彼女しか知りえないことである。



  * * *



 床が悲鳴をあげている。しかしその悲鳴が人によるものか時間によるものか、そこまで詳しいことがわかるわけもない。

 ともかくいつ抜けてもおかしくないような床なのだ。そしてその不安定な床の上を、カルマとスズネは歩いていた。

「よくこんな洋館見つけたよねえ……ラレンヌ暇なのかな」

「そう、ですね」

 スズネは比較的幽霊は平気なほうだが、カルマは苦手なほうである。時折響いてくる誰かの悲鳴にも、いちいち肩をあげて驚いていた。

 このペアは騎士団の中では二組目に出発しており、今は二つ目のポイントに向かって歩いているところだ。誰とも会わず、心細い気もするが、一人じゃないだけマシだったと言える。


 ――刹那、固く閉ざされた扉の向こうから音が聞こえた。


 みし、みしと不規則に鳴るそれ。カルマにはそれが何なのか想像はついたが、スズネはのんきにその扉を開けようとする。

「す、スズネちゃん! 駄目ですよ!」

「えー、何で?」

「この音、どう考えてもラップげんしょ……」

 カルマの声が途切れる。そして、急に力が抜けていき、最終的には床に倒れてしまった。

「え、ちょっ……カルマ!?」

 戸惑うスズネの背後で、何かがゆらめく。気配を感じたスズネは、ゆっくりと振り返っていく。

 そして彼女は声にならない悲鳴をあげ、カルマを抱えて走り出した。


『コロスコロスコロスコロス――ミンナコロシテヤル!!』


 血まみれの女がそう叫んでいたのだから、逃げ出すのも無理はない。



  * * *



 クレハは一人、ふっとため息をつく。召喚魔術は黒魔術系統だから難はないのだが、何十もの数を統制するのは並の集中力では無理だ。

 そしてその傍ら、彼女は自分以外の魔術師の存在を察知していた。その特定もしたいところだが、召喚した悪魔の統制をしながらそれをするのはいくらなんでも無理だ。賢者とも呼ばれる灰色魔術師なら可能かもしれないが、生憎クレハは普通の黒魔術師である。

 皆の様子を窺ってみる。かなり怖がっている人もいるが、リオンのように全く怖がっていない人もいる。いや、彼女は元から怖がるところなど期待していない。何せ、幽霊と対等に喋るような人だ。

「……はぁ」

 一息つき、また悪魔の数を増やす。

 悪魔は流石に詠唱しなければならない。そしてその詠唱文は長く、面倒だ。


 ――もっと力をつけて、詠唱なしで召喚できるものを増やしていかなければ。


 改めてそのことを思いつつ、クレハは魔法陣の中心に立ち、長い長い詠唱を繰り返すのだった。

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