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とある王国のとある騎士団  作者: 柘榴石
深き森の幽霊館
10/22

 モスワナの森は、いわば聖地である。清水が流れる川は森の全体に水を与え、命ある者全てにとって癒しとなる空間だ。

 色とりどりの花が生き物を迎える。涼しい風が吹き抜ける。戦争によって荒れたこともあったが、今はそれを感じさせないほどに美しくなっている。――いや、戻ったというべきか。

 そんなモスワナの森には、勿論廃れた洋館など見当たらない。

 見当たらない。


 目の前にある。


 肥えた満月を背後に、つたが絡み付いている館。レンガ造りは重々しさを演出させており、どの窓もカーテンが閉まっており中は見えない。

 洋館を目の前にした団員達、そして集まった40人程の国民達も戸惑っている。しかし、ラレンヌだけは布を草の上に敷き、そこに座って紅茶とクッキーを用意している。

「ねえ、ラレンヌ。これ本当に大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。19時頃に一度探索してみましたが、何もありませんでしたし」

 ラレンヌはそう言って微笑むと、紅茶を一口飲む。その優雅さに思わず肝試しに来たことを忘れかけるが、クレハが何の躊躇もなく洋館に入っていこうとしたことで現実に引き戻された。

「ちょっ、クレハ何してんの!?」

「……何って……何も出ないなら、私が出すだけ」

「やめてえええええ!? クレハ洒落にならないからさ! 冗談はよそう、な!?」

「? ……ああ、ミルは駄目か」

 ミルが必死にクレハの肩を揺らして説得する。しかしクレハは逆に「楽しみになってきた」と呟いて微笑む。

 こうなると、どれだけ説得しても無意味だ。ミルは諦め、肩から手を離す。

「私、中で待ってる」

 そう告げると、クレハは洋館の中に入っていった。直後、白い光が洋館の中を走り抜けていく。恐らく、クレハが異次元を用いた移動でもしたのだろう。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか。第一ペアはミジェルさんとナルタさんですね」

 呼ばれた女性二人組が、洋館の中へ入っていく。二人とも表情は柔らかく、心霊現象等には強いようだ。

 参加した国民は、そういうのに強い人が多かった。中には本気で嫌がる人もいたが、その場合はもう一人の方がノリノリだった。

 とはいえど、団員の場合そうはいかない。半数近くが反対していた為、怖がり同士が組むことになる可能性もある。ラレンヌはむしろそれに期待していた。勿論、理由は「面白そうだから」だ。

 そしてついに訪れる、団員の番。最初に入るのは、アズサとリアのペアだ。リアは目を輝かせているが、アズサはリアの腕にひっついて離れようとしない。

「行ってらっしゃーい」

 ラレンヌが笑いながら手を振っている。返す気力もないほど、すでにアズサは余裕が無かった。



 だんだんと残っている者が少なくなっていく。時折先に入っていった人々の悲鳴が聞こえる。その回数は異様に多く、クレハが本気で怖がらせていることが窺える。

 ――そう自分で解析しておきながら、ミルはかたかたと震えていた。


「きゃああああああああああ――!!」


「ひぎゃああっ!」

 入ってもないのに、ミルは思わず隣にいた誰かの腕にしがみつく。いてぇ!と悲鳴をあげたのは、テレサだった。

「お前、まだ入ってねえのに怖がってどうすんだよ!」

「だって! 悲鳴! 悲鳴!! 俺怖いの苦手なんだもん!!」

「わ、私がが、ミルお姉様を守りま、すわ……」

「無理すんなルリ」

 唯一の三人グループであるテレサ・ミル・ルリ。しかしミルとルリは幽霊が苦手で、すでに足がすくんでいる。

 テレサは別に平気だが、これは別の意味で苦労しそうだと思わざるを得なかった。

「あと……テレサさん!」

 キッと彼を睨みつけながらルリは振り返る。何だ、とテレサが答える前に、ルリはミルを引き剥がして抗議した。

「ミルお姉様は私のものですわ! 貴方には渡しません!」

「誰が好きこのんでこいつを貰うかよ!」

 第一俺には――そう続けようとして、テレサは口をつぐむ。そして耳まで赤くなってゆき、思わずうつむいた。

「何ですの? 俺には、何ですのー!?」

「君たちうるさい。とっとと行きなよ」

 背後から聞こえたリレイズの声に幽霊以上の恐怖を感じた三人は、逃げるようにして洋館の中へ入っていった。

 尚、洋館の中は決して避難場所とはならない。程なくして甲高い悲鳴が響き渡り、それを合図にノアとリレイズが入っていった。

「あー、とうとうラストだな」

「そうだね。何をそんなに驚くことがあるんだろうね?」

 ラストのペアであるコクランとアキハはホラーに強いほうである。スプラッタなものでも平気だし、この企画にも反対はしなかった。

「それにしても……最初のペアがまだ出てきていないようですね。1時間程で戻ってこられるはずなんですが」

 ラレンヌがあたりを見渡しながら呟く。確かに、出口は入り口と同じであり、戻ってくればわかるはずなのだ。

 それに彼女が言うには、洋館内は複雑ではなく、至って簡素な造りらしい。だから、迷うこともないはずである。

「まあ、その辺に転がってたら拾ってくるし」

 アキハが笑ってそう言うと、ラレンヌも笑った。

 ノアとリレイズが出発して5分が経過した。アキハとコクランは、堂々と洋館の中に入っていく。

 ラレンヌは一人、クレハの結界とサクの猛獣達に囲まれて紅茶を嗜んでいた。

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