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 4

 太陽が天高く登り、地上の生命たちを絶大な権力でひれ伏させる。それがこの砂漠の昼であった。

 かつて、熱波に古代の草木(そうもく)は屈服し、大地は灼熱して砂漠と化した。

 いま、人間の男がまた、地に伏して天に敗北の許しを乞うていた。

 いや、魔人は天に屈服しない。眼を見開き、大地を拒絶せんと腕を張る。

 と、そんな格好のいいものではなかった。流れ出る汗も蒸発して焦げつく皮膚の痛みに眼を覚まし、砂をかぶった頭を振って、めまいを引き起こしてしまうと、もう一度地に転げて起き上がりなおす。腹部の痛みに顔をしかめ、口の砂を吐き出す。

 ぼんやりとした思考が明瞭になると、死の恐怖が唐突に襲った。

 無音――――

 周囲には、ひと気も、何もなかった。移民たちがいる方向もわからない。

 いや、落ちつくのだ。

 柔らかい砂地に眼を凝らす。馬の蹄が蹴ったかのような跡が、等間隔に続いているのを見つけることが出来た。カーテーギュウを捨て去った誰かの残した跡だ。これを辿れば、野営地に戻れるはず。だが、それは波打った砂地の表面のくぼみを、願望が馬の足跡のように見せているだけなのではないか。自信はないが、信じてその後を追うしかない。風が砂を流す前に。陽射しに射殺(いころ)される前に。



「お頭、肝が冷えましたぜ」

 天幕によって作られた影のしたで、手下は頭目と皇帝の剣との一幕のことを口にした。

 隊商の男たちは、四組ほどに分かれて、胸の高さほどの小さな天幕に潜んでいた。これから、陽射しが弱まるまでじっとしていなければならない。眠るにしても、時間はあまりある。

「なに、分のいい賭けさ。奴らは孤立無援で追い詰められている」

 頭目は、立ち並んだ移民たちの、いくつもの天幕をじっと見据えた。

「そんな心情で長いこといると、降って湧いたようなうまい話を信じたくなる。ちょっとくらい味方をするって言う人間がいても不思議じゃねえから、なおのこと信じるのさ」

「逆に、疑わしいものには過敏なくらい警戒心が強いってわけですか」

「ほんとうなら、俺たちのほうが警戒される。だから、先に共通の敵を作って矛先を逸らしてやったってわけだ」

「なるほど」

 手下は痛快そうに笑った。

「おい、しばらくしたら、移民どもに気づかれないように、周りを見て来い」

「なぜです?」

「移民の護衛が皇帝の剣を捨ててきたが、勘のいいヤツなら、近くまで戻ってくるはずだ」

 手下は神妙に頷くと、剣を掴んで天幕をでた。

 しばらくしたら、といわず即座に行動した手下に、頭目は満足して目を閉じた。狭い天幕が広くなるというものだ。



 足元にある馬蹄のあとと、それが続く見渡す先を交互に見ながら、方角を誤らないようにカーテーギュウは進んだ。ふと眼を逸らして周囲を見やり、視線を戻すと、馬の足跡がどれだか分からなくなってしまうことがある。それくらい、砂の上に残された彼の生命線は薄く細かった。

 足あとを見失った瞬間、恐怖に心臓は縮んだ。砂地に眼を凝らして、それらしきものを再発見する。果たして、それが本当に自分を救う道なのか絶対的な自信はない。その曖昧さは、時間が経つにつれ不安の影となり、濃さを増した。

 いつまでたっても野営地は見えない。

 迷う。方角を信じて進むか、方向を変えるか。しかし方向をかえるとて、あてもない。

 立ち止まればいずれ干からびるだけ。

 水も食料もない。

 熱い。日を遮る外套はなく、汗は掻いたそばから蒸発する。湿気のない暑さは痛かった。

 自分を捨てていった組合の男は、馬をどれだけ飛ばしたのか。

 組合の護衛も、さすがに方角を見失うのが恐かったはず。まっすぐいけば、たどり着くはずだ。

 そう言い聞かせてなお恐い。

 頭の中に熱がこもって思考が鈍ってきた。自分の頭でできた濃い影が恨めしい。

 小高い砂丘をさらに幾つか越え、自分の影から目線を上げると、待ち望んだものがようやく目に入った。

 安堵と、不安の大きさに比例した呆気なさが、胸の中にあった焦燥を一気に拭い去った。

 歩いた時間はそれほど長くない。やはり組合の護衛も迷子の恐怖には勝てなかったのだ。

『気持ちはわかる……』

 天幕に向かって歩き出そうとして、自分が追放されたことを思い出した。護衛は帰れるが、自分は帰れない。

 陽射しは強さを増す一方だ。

 カーテーギュウは体力を温存するために、まずは腰を下ろす。

 どうしたものか……。

 胡坐を掻いた足の間にできた自分の影の、砂をひと掻き。砂を二掻き……。

 カーテーギュウの手は、いつのまにか真剣に砂を掘っていた。

 深い縦穴があれば、日陰が出来る。だが、そう甘くはなかった。柔らかい砂は、掻いても掻いてもさらさらと流れる。縦に深い穴にはならず、漏斗(ろうと)のように、逆さの円錐形に広がった。日陰を作るには、縦穴の中に横穴といわずとも、せめて壁が必要だ。

 カーテーギュウは狂ったように掘った。少しでもかたい砂地がしたから出てくれば。

 分の悪い賭けだ。

 が、その指先が、砂とは違う硬いものを引っかいた。



 夜とは違う静寂が、天幕の群れに落ちていた。熱く明るい陽光をしのぐ天幕のなかで人々は眠る。どこかに眠らない天幕もあり、子供が泣いていたり、眠れない大人が静かに会話しているようである。

 そんな人の気配がまじりあって、奇妙な真昼を作り出していた。

 天幕から忍び出た少年は、はじめてその様子を俯瞰することができた。

 まるで、真昼の町に誰も出歩いていないかのような感覚。外套を羽織り、立ち並ぶ天幕の街路を、足を忍ばせて歩く。めざすは、青い幕垂れを使った天幕。

 ティオは、天幕に耳を寄せた。

 この天幕には、いつも人の気配が少なかった。もちろん、王女さましかいないのであれば当然。だが、それだけではない。まったく人がいないように思えるときもあった。

 でも、聞いたことがあるのだ。王女さまが、家族を呼ぶ声を。泣いてはいないようだった。だけど、とても切ない声だった。とても心の綺麗な声だった。

 だから、王女さまにお願いすれば、きっとカーテーギュウのことを助けてくれる。ぜったいに。

「王女さま、オレはティオマットって言います。お願いです。カーテーギュウを助けてください。カーテーギュウは、オレの友達の命の恩人です。他の人たちも、いっぱい助けてくれました。お願いします、カーテーギュウを助けてください、お願いします」

 真昼の静寂のなか、ティオは答えが返ってくるのを待った。

 無慈悲な太陽が、天幕の静寂を嘲り笑う。

 ティオの額から、汗がぽたぽたと落ちた。

 眼の端から流れ落ちるのは、汗がしみただけだ、ぜったいに。

「お願いです!」

 悔しくて、願いよ叶えとばかりに大きな声を出してしまった。仮にも王女の天幕である。組合の護衛たちが周囲の天幕で休んでいるはずだ。

「誰だ! そこにいるのは!」

 どこかの天幕から激しい誰何の声が聞こえた。大人の真剣な怒気は、今まで聞いたことのないものだった。

 ティオは慌てふためいた。どっちから人が来るか判らないから、どっちに逃げればいいかもわからない。

 その場でぐるりと一回転して、目の前の幕垂れを掻き分けて天幕に身を隠した。青い幕垂れの天幕へと。

 外界の静寂と隔絶された天幕の中は、静寂の純度を増して感じられた。

 移民たちがもっぱら家族ごとに使う天幕と違い、アリエル王女の天幕は少し大きかった。身の回りの品々を納めた荷箱がいくつか置かれ、組み立て式の寝台がしつらえてある。その寝台は(から)。同じく組み立て式の椅子が、真昼の砂漠から切り取った薄暗く涼やかな空間の真ん中に据えられている。

 後ろを向けたその椅子に、亜麻色の髪をほどいた背中があった。

 肩越しに振り返った横顔がティオを見つめると、慌てていた少年の心は一瞬で静まった。

 綺麗なひとだった。でも、その背中は細くはかなげで、助けを求めに来たはずなのに、ティオにはそれをなんとかしてあげたいと思った。

 彼女は椅子から立ち上がると、ゆっくりとティオのもとへ歩き、ひざまずいた。

「え?」

 ティオは、その女性の行為におどろき、そして姿に驚いた。

 彼女の腰には少し不似合いなものが提げられていたのである。それは、フィンデル王が宮廷騎士に授ける剣。ロニスたちとは違う立派なもので、アレスが持っている一振りしか目にした事がない。

 髪を下ろし、険のない表情は、優しい女のひとなのに、そういえば顔立ちは騎士アレスなのだ。

 よく見ると、その衣服はいつもアレスが身につけているものだ。肩と胸を守る革当ての上着を脱いだところは見たことがなかったが、その下に隠された身体の線は、たしかに女性のものだった。

 彼女は、手にした布で涙と汗に濡れたティオの顔を拭いてくれた。

「王女さま……アレス……?……王女さま?」

 泣き腫らした眼で、彼女は力なく微笑んだ。

「王女殿下、ご無事でしょうか」

 そのとき、天幕の外からためらいがちに男の声がした。

 ティオがびくっと表情をこわばらせるのを見たアリエルは、少し元気そうな笑みを見せ、ティオの頭を撫でた。物すごくくすぐったい感触がしてティオの肩からすっと力が抜ける。

「なにごとです」

 アリエルは、鋭さを交えた声音で返した。〝王女〟に接し慣れていない道先案内警護組合の男は、これで指一本天幕に触れようとはしないだろう。

「い、いえ、怪しい叫び声が聞こえたもので」

「こちらは大事ありません。民の守りをお願いします」

「はっ」

 王女の声色から鋭さが緩むと、王女自らの言葉で守護を任された男は張り切ったように砂を蹴って走っていった。

 王女という偶像のなせる業だ。アリエルは内心で自嘲した。

「ギリアム」

 王女が呼ぶと、布の仕切りの向こうで控えていた老人が、剣と外套、それからなにかをまとめた袋を手にして現われた。

 王女が頷くと、老人はティオにそれらを渡す。

「持ってゆきなさい。カーテーギュウ殿は、必ずこの近くまで戻ってきている。そうそう物事を投げ出すような御方ではないが、そろそろ途方に暮れている頃ではあるまいか」

 手渡されたのは、『皇帝の剣』と彼の外套、そして袋の中身は保存食と水の入った皮袋だった。

「カーテーギュウは、絶対にぼくらの味方だよ」

 無邪気な確信を持つ目が輝いていた。



 背にした石柱がひんやりとする。

 砂を掻き続けて現われたのはあの石柱だった。荒野の道標がわりに使われる岩石の島。そこに立つ数本の石の円柱と同じものが砂に埋もれていたのだ。

 ようやく胸ほどの深さまで砂を掻きだし、穴の底で砂に埋もれながらカーテーギュウは息をついた。それでも、壁にしている石柱はともかく、彼が身を隠している穴の半円は砂が崩れてしまうから、日中すっぽりと太陽から隠してくれる日陰はつくれない。影が動けば石柱の影にあわせて砂を掘らなければならないし、日が中天に昇れば、身を隠すには影も乏しくなるだろう。一時しのぎに過ぎない。

 アレスと……アリエルとあの島で過ごしたのがずいぶんと昔のようだ。

 アリエルは、石柱を古代の樹木の化石なのではないかと言った。だとしたら、この化石はどこまで根を張っているのか。地中深くの冷たさを伝える石の感触には、その説に真実味を覚えさせられる。

 ぼんやりと、そんなことを考えながら空を見上げる。石の持つわずかな冷気を、いくらありがたがっても、地獄の釜が浮かぶ空と熱気を伝う空気は打ち消しようもない。青く突き抜けた空ですら、黄色く見えてきそうだ。

 のどが渇いた……まず簡単な欲求がくる。こらえるのも簡単。その欲求は、どちらかというと快適さを求めた我がままとか贅沢に近い。けれど、身体の要求を無視し続けるといずれ切実な問題に直面するだろう。今は睡魔が勝った。満たすことのできる数少ない欲求である。

「う……」

 その安息も束の間。暑さに呻く。穴を掘り終えた時点で日はすでに中天に近く、影はどんどん動き、どんどん小さくなっていった。

 石柱にぴたりと身を寄せ、砂を掻き分け新しい日陰をつくる。最善を尽くしてのち、足の先から日に照らされはじめるのを、カーテーギュウはただ疲れた眼で見つめていた。

 もっと穴が深ければ日陰はもっと大きいのに……。

 いや、そんな穴を掘るにはちょっとした土木工事並みの労力が要る。崩れる砂はどうにもしがたい。深く掘れば掘るだけ、円錐状にとんでもない量の砂を動かさないといけない計算なのだから。

 先刻から思考が同じところでいったりきたり。

 このまま身体半分日に照らされて、何日もつだろうか? この砂漠の灼熱は、馬衣がなければ馬も一日で倒れるという。

 もっと穴が深ければ……。繰り返す思考は同じところに留めておく。でないと、恨み言や後悔で、自分を貶めてしまうに違いない。自分はそんなに綺麗で立派な人間じゃないから。

 そう、ならばいっそ、死ぬくらいなら無様に命乞いをしてみようか。いや、それはだめだ。そんなことをすれば、王女に付き従う人々の心を動かせはしまい。

「……はは、なんともつらい役どころだ」

 もはや、天から幸運が降ってくるのを待つしかないか、と思った瞬間、神の恵みが太陽を遮って、降ってきたなにかが顔を覆った。

「なにをぶつぶつ言ってんだい?」

 冗談のような天の御言葉。顔を覆ったのは、取り上げられたはずの自分の外套であった。

 石柱の上から、少年が鼻を指でこすって得意げに笑っている。

「ティオ!」

 大きな声を出したつもりが、かすれてろくな声量もない。思いのほか消耗は速そうだ。

「へへっ、助っ人はいいところで現われるもんだろ?」

 ティオが剣と荷物を下ろすと、さっそくカーテーギュウは中身をあらためて水から口にした。

「ぜんぶ飲むなよ? 毎日届けられないし、食い物もそれで三日分だからな」

「わかった、恩に着るよ………ところでティオ、来てくれて早々わるいんだが、早く帰れ」

 水を大事そうに袋に収めてわきに置くと、剣を肩にして座りなおす。

「な、なんだよ」

 さすがに少年もむっとする。

「お前がいなくなったら、母ちゃんが心配して騒ぎになるだろ。ここにいたら暑いしな」

 カーテーギュウはティオを手で追っ払った。

「なんだよもう、恩知らず」

 母ちゃんに拳骨もらうのなんて、とっくに覚悟済みなのに。

 カーテーギュウに向かって砂を蹴ると、ティオは野営地に戻っていく。時々振り返っては、悪口の代わりに身振り手振りで好き放題に怒りをぶつけていった。

 そんな姿を眺めていると、先ほどまでの精神的圧迫が嘘のようだ。

 さて、と、ぼやいてカーテーギュウは重い腰を上げた。

 剣を抜き、ゆらりと立つ。外套と先ほど飲んだ水が無かったら、そのまま倒れそうだ。

 石柱の裏から、隊商の男が姿を見せた。ティオが行った後、入れ替わりに潜んだのだろう。

「へ、気づいていたとはさすがだな」

「ティオをつけてきたのか。子供の勘に頼らないと俺を見つけられなかったってところかな? 情けない」

 折りよく少年を見つけ、砂丘に身を伏せながら追って来たに違いない。

「ガキってのはまったくたいしたもんだ」

 挑発に乗るまいと男は軽口でいなす。

「ティオに手を出さなかったことだけは褒めておくよ」

「子供をやるのは寝覚めが悪いからな。それに、いなくなったら騒ぎになって、こんどは俺たちが警戒される」

「それくらいの頭は回るのか」

 いつになく挑発的なのは、暑くて機嫌が悪いからなのか。

「お前は、殺しても警戒されないから安心だ!」

 いや、カーテーギュウは今の自分の体力に自信が無かったのだ。だから、相手を煽って直線的な動きを誘った。だがかえって勢いにそのまま押し切られそうだ。

 男は二本の短剣を手にして突っ込んできた。砂の上でなおしっかりとした足取りは、カーテーギュウよりよほど砂漠での戦いに慣れていると見える。

 相手の間合いに飛び込まれるより先に、カーテーギュウは剣を振り下ろした。彼は長剣、間合いは男より遠い。一旦足を止めて長剣をかわす、そう見越したが、男は砂漠だけでなく、戦いそのものに慣れていた。片方の短剣で長剣を受けると、そのまま刃を滑らせて突っ込んできたのだ。

 身を捩ってもう片方の刺突から逃れると、カーテーギュウは牽制しながら間合いをとった。

 たったそれだけのことなのに、もう息が上がっていた。砂漠では、暑さで常に体力を奪われている。いちど極端に渇いたせいで、カーテーギュウはふらふらだった。

 男はそれを知っているように舌を舐めずり、獲物を狙うがごとく、円を描くように間合いを狭めてくる。

 血が干上がっているのに、心臓だけがドクドクと動いているようだ。

 呼吸が苦しい。暑さで咽喉がひりつく。

 相手は集中力が揺らぐのを待っている。それこそ陽炎のように集中が立ち消えそうだ。

 男が砂を蹴って突進してくる。

 最初と同じ構図。カーテーギュウは待ち構えた。こんどは、上段から全力の一撃で叩き伏せるのだ。男の突進を押し留めるほどに。

 なけなしの気迫で、『皇帝の剣』を振り下ろす。

 男は最初と同じように短剣で受け、しかし今度は強烈な衝撃に抗し切れず短剣を取り落とした。目論見どおり、男の足が止まる。そこへ横薙ぎに一撃、それで倒せたはずが、カーテーギュウも足をふらつかせてしまった。

 男の顔が、殺意と勝機で歓喜に歪む。残した短剣一本で突き刺しにきた。次の瞬間、男の表情が呆気に取られた顔に変わった。敗北を認識したそばから、理由もわからず命を拾ったカーテーギュウこそ、強い驚愕の中で呆気とする。

 なにか長いものに、男自身が串刺しにされて砂に倒れたのだった。

 カーテーギュウは一瞬で自失から立ち直り、振り返りざま剣を構えた。

 男を貫いたのは、槍とも剣ともつかぬ長柄の武器。長い刃の中ほどに握りをこしらえた奇妙な武器は、あの砂賊たちの武器である。

 カーテーギュウの背後に、やや離れた馬上から彼を見下ろす姿があった。

 外套の下の赤い瞳。顔面に走る動脈のような管と赤黒い肌。砂賊である。

「ガ・ヴィフェレティ……カーテーギュウ……」

 ティオの祖父によると、亜人種である砂賊は人間には発声できない音を言語として使用しているらしい。だがこの砂賊は、咽喉を押さえて人間に近い言葉を発し、たしかにカーテーギュウと口にした。

「なんだ……?」


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