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隊商は、まるで無害を主張するかのように背中を晒して開拓移民たちの先を行った。
ロニスは周辺の警護をほかに任せてまで、厳しい目をその背中に貼りつけていたが、怪しい動きのひとつもない。
「ロニス、どうだ? あんたの眼から見て、あの連中は」
よりにもよってカーテーギュウが問い掛けたのはロニスだ。彼は隊商を見るより以上に険悪な目付きで、馬の横を歩むカーテーギュウを見下ろしてきた。
「忘れるな。俺はお前が一緒にいるのも許してはいないんだ」
しかし、カーテーギュウが肩を竦めて離れようとしたところへ、ロニスは付け加えた。
「アルター公国からヘイデルン王国まで、オアシスを経由して荒野を突っ切ったほうが速く着く」
隊商を率いる男がロニスにした説明を、まるで独り言のようにカーテーギュウに聞かせた。確かに、あの男の言うことはもっともだ。彼は頭の中で反芻していた。
髭の男は、商人らしい愛想でロニスに活き活きと語っていた。中背の引き締まった体躯に性根も堂々として、さすが人を統率するひとかどの人物ではあると納得もさせられた。
彼が言うには、上客の急ぎの荷があるときは、荒野を横断する道程を使うということだった。アルター公国からヘイデルン国まで、荒野を迂回すると日数がかさむのは事実だ。
「その分、帝都に寄って商売できるだろうに」
リスターテルクは帝国一の都市、いわば最大の市場だ。そこを避ける商人などいない。
「いやいや、それさえ待てぬと仰って下さるお客様もいらっしゃるのですよ。もちろん、その分の御代も頂きますがね。それに、他人と同じことをしていても儲からないというのが私の信条でしてね」
髭の男はそう言うとまるで冗談話でも済ませたみたいにあけっぴろげに笑った。
「信じるのか?」
ロニスの考えがまとまるのを待って、カーテーギュウは訊いた。
「おまえよりは筋の通った話だ」
ふん、と鼻で笑ってロニスは馬を走らせて行った。
「……言ってくれる」
話の筋といえば、開拓移民だというこちらの説明を彼らが鵜呑みにしたとも到底思えなかった。
開拓移民に隊商が加わった群れは、真昼のあいだ、下界を灼き尽くす陽射しを天幕の下でやり過ごし、夕刻から夜更けまでを移動して、また一日を終えた。
深い夜の帳が覆い、天幕が寄り添うように並んだ中で、焚き火がぽつぽつとあたりを照らして、人の存在とぬくもりを周囲に示す。
もはや見慣れた光景に見える。安心すら感じてしまう。それは、自分が帰ろうと思えば、簡単に帰れる気楽さのせいだろうか。だとしたら、それはアリエルの心理を絶対に理解し得ない溝だ。
「おうい、カーテーギュウ、こっちで飯くわねえか?」
移民の男がそう声を掛けたが、黙々と歩くカーテーギュウは隣の天幕の影に消えた。
「なんだ? ロニスが伝染っちまったかな」
落ち着かない―――カーテーギュウの勘は、根拠の無い疑念による危機感を明確にすべきだと彼自身に告げていた。