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一、  皇帝とその友人

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 季節は春が別れを告げようとする頃。たおやかな乙女のごとき花にかわり、いずれ情熱的な夏の花が咲き乱れはじめる。

 王宮の噴水は、いよいよ風景に涼を与える役目を存分に果たすことだろう。

 だが、それにはまだ少し早い。情熱もほのかな恋も、自分には少し縁遠いものに感じられる。レカ=カーテーギュウは、どこからとなく流れ聞こえる宮廷楽士の楽の音と歌声に、その様な感想を持ちながら、友人が待つ部屋へ向かって歩いた。

 征服された王宮は、落ち着いた空気を取り戻したかに見えた。征服当時もそれほど荒らされたわけではないが、やはり場に流れる空気は殺伐とするものだ。それともそれは、見る者の心がそうなのか。

 やはり、夏にはまだ早い。噴水の水は冷たかった。午睡の寝呆け眼を覚ますにはちょうどよいが。

 洗った顔を無造作に拭い、さて、友人の待つ部屋は何処だったか。楽の音を頼りに中庭の柱廊から屋内へと適当な入り口をカーテーギュウは見繕った。

「待ちくたびれたよ、カーテーギュウ。どこをほっつき歩いていたんだ」

 声を追って見上げると、茶色とも金ともつかぬ色合の髪を持った青年が、二階の手摺りに両の手をついてこちらを見下ろしていた。

 当の友人はお待ちかねだったようだ。カーテーギュウがくぐった入り口は、三階までの吹き抜けにつながっていて、友人がいるのはその二階である。

 友人は人差し指一本で手招きして部屋に引っ込んだ。悪戯っぽい笑みには何やら悪巧みの薫りがする。カーテーギュウは片掛けのマントから手を抜き出して、焦げ茶色の髪の頭を掻いてみた。


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