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 3

 日が落ち、昼間の陽気が西の果てに立ち去ると、風が少し冷たく肌にあたるようになる。とはいえ厳冬に比べれば、いささかも帝都の人々をこたえさせはしない。働き手の男たちには、帰り道に一杯の酒があれば事足りた。

 そんな訳で、酒場は繁盛していた。

 帝都のそこかしこで、灯りとともに賑やかな喧騒が漏れだしている。

 市民たちがそうであるのに、宮廷が早々と寝静まるはずはなかった。

 皇帝の宮殿は、それこそ繁栄の象徴を担わんばかりに輝いていた。無人の庭園から宮殿の隅々にまで、絢爛と灯がともされた。

 そして、皇帝ヴィスターク五世の名で催される夜宴の時刻。宮廷の広大な庭園を突き抜ける石畳の道路を、豪奢な馬車が幾台も通り抜け、王侯貴族と着飾った貴婦人たちが続々と舞踏館の大玄関に乗り着ける。

 宮殿の一室で、窓辺の椅子に掛けたマリーシアは、胸の高鳴りを感じながら、その様を

眺めていた。

 身分の高そうな殿方や、美しい女性たちが次々と宮殿入りするのを見下ろしていると、自分がとても場違いな場所に居るように思える。そしてそれは、きっと間違いではない。彼女の動悸はそのせいであるのに、いま彼女が見ている貴人たちと同じように美しい衣装を着せられては、輪を掛けて胸は高鳴った。

 厚い扉を叩く小さな音が、マリーシアを反射的に振り返らせた。

 部屋の入り口には、宮殿の主人が立っていた。

「ヴィ、ヴィスターク兄さん、わたし……」

 兄と同等の信頼を寄せる青年までも、彼女には普段見慣れない皇帝の衣装を身に纏って、まるで別人の装いである。

 ヴィスタークはマリーシアの横に立つと、さも不安げな彼女の手をとって言った。

「大丈夫だよ。僕のそばに居れば心配ないから」


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